物価の上昇が続くなか、改めて「お金のことをきちんと考えたい」と感じていても、何から始めればよいのか迷う人も多いでしょう。
まず取り組みたいのは、投資などでお金を増やす「攻め」ではなく、日々の支出を見直す「守り」の対策です。
この記事では、お金のプロであるファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんにお話を伺い、無駄な支出の見つけ方や固定費の見直し、無理なく貯蓄を続けるためのコツについて、分かりやすく解説します。
「毎月の貯金のみ」でお金を貯めていくのは難しい

20代〜30代の若手社会人が「毎月の貯金のみ」でお金を貯めていくのは難しいとされています。
その大きな理由のひとつとして、昨今の食品や日用品、光熱費など、身近な物価が上昇している一方で、給料の上昇がそれに追いついていないことが挙げられます。
たとえば、以前は100円で買えたものが120円になれば、同じ100円で買えるものは減ります。つまり、物価が上がると、お金の実質的な価値が下がり、買えるものが少なくなるのです。
一般的に、こうした物価の上昇局面では、それを抑えるために金利も引き上げられる傾向にあり、預貯金につく利息も増える方向になります。
ただし、金利の上昇よりも物価の上昇ペースの方が早ければ、銀行に預けているだけでは、資産の実質的な価値が目減りしてしまう可能性があります。
とはいえ、貯金だけでなくNISA(少額投資非課税制度)などを活用した長期投資を取り入れたくても、そのためのお金がないという人も多いでしょう。
まず始めるべきなのは、日々の支出を見直して貯蓄や投資に回せるお金を増やすことです。そのための具体的な方法について解説していきます。
まずは「支出の見える化」から。今すぐできる現状把握とは?

貯蓄や投資をするには、そのためのお金を捻出する必要があります。
一番はじめに取り組みたいのが、現在の収支を把握することです。毎月何にどれくらい使っているのかを確認すると、見直せる支出が見えてきます。
そこで浮いたお金を貯蓄や投資に回せば、今の生活水準を大きく変えずに資産形成を始められます。
収入に対して支出や貯蓄がどのくらいの割合を占めているかを整理し、無理なく続けられる仕組みをつくっていきましょう。
お金の使い方には「習慣」が表れやすいため、細かな支出も見逃さないことが大切です。下記のポイントを参考にして、「見えない支出」を洗い出してみましょう。
日常的な習慣・行動に潜む支出
毎日のように立ち寄るカフェのコーヒー代や、時間に間に合わないときについ利用してしまうタクシー代などは、習慣になっていると意識しにくい支出になりがちです。
たとえば600円のカフェラテを仕事の前に毎日購入していると、単純計算で月に1万2,000円もの出費になるなど、1回ごとの金額はそれほど大きくなくても、頻度が高ければ、月単位や年単位で考えたときにまとまった金額になります。
「いつものこと」と流さず、利用回数や金額を一度確認してみましょう。
スマートフォンやデジタル関連の支出
スマートフォンには、少額のサービスが多くあります。たとえば、クラウドストレージの追加料金、ゲームなどのアプリ課金、LINEスタンプの購入などです。
一つひとつは数百円程度でも、複数のサービスを利用していると支出は増えます。スマートフォンの契約内容やアプリ内課金をまとめて確認し、「本当に必要か」を判断することが大切です。
衝動的な買い物
InstagramやXなどのSNSで見かけた商品を、その場の勢いで購入してしまうのは無駄遣いとなりやすい典型例です。
購入時には必要だと思っていても、あとから「実は使わなかった」「買わなくてもよかった」と感じることも多いでしょう。自分がどのくらい衝動買いをしているのかを自覚するために、あらためて確認しておきましょう。
衝動的な買い物が多いと感じる場合は、SNSを見てほしくなったものをすぐに購入せず、いったん時間を置いてから必要性を考えるなど、自分なりのルールを決めておくのがおすすめです。
専門家からのアドバイス

何に使ったか分からない「使途不明金」は月単位で洗い出してみると、かなりの金額になっていることも。そういった小さな無駄が積み重なると、将来大きなお金が必要になったときに足りなくなってしまうこともあるかもしれません。一生懸命働いて得たお金だからこそ、本当に必要なことに使うように意識しましょう。
支出を減らすなら固定費から! プロが教える「お金の防衛術」

支出を「見える化」して把握できても、実際に減らしていくのは難しいもの。支出を減らすなら、真っ先に見直したいのが通信費や保険料、サブスクリプションなどの固定費です。
食費や交際費などの変動費は、毎回意識する必要がありますが、固定費は一度見直せば、その後も効果が続きます。
さらに、家計全体の収支を把握し、貯蓄を自動化する仕組みをつくると、無理なく「お金を守る」習慣を続けやすくなります。
ここからは、そのための具体的な方法を見ていきましょう。
変動費ではなく「固定費」の見直しを優先する
食費や娯楽費などを毎月細かく切り詰めるのは、我慢が必要になるため、長続きしないことがあります。
その点、毎月一定額を支払う固定費は、一度契約内容を見直せば、特別な努力をしなくても支出を抑えられるメリットがあります。
特に確認したいのが、住居費、通信費、保険料、サブスクリプションです。下記の方法を参考にして、本当に必要なものか見直してみましょう。
住居費
住居費は毎月の支出のなかでも大きな割合を占める項目です。手取り収入に対して、家賃や住宅ローンがどのくらいを占めているのかを確認してみましょう。
通信費
毎月どの程度のデータ通信量を使っているのかをまず確認しましょう。
契約している容量を使い切っていなければ、より小容量のプランや格安プランなどへの変更を検討することで、通信費を抑えられる可能性があります。
さらに、使っていないオプションサービスも一度整理し、必要になったときに追加するのもおすすめです。
また、家族割などの割引サービスや、普段利用しているサービスとのポイント連携なども含めて、自分に合った契約になっているか改めて確認しましょう。
保険料
就職したときなどにすすめられるまま加入し、その後見直していない保険はないでしょうか。もしあれば、現在のライフステージに合っているか、保障が重複していないかを確認しましょう。
ただし、保険は、加入している数を減らすことが目的ではありません。
「どのようなことが起きたら経済的に困るのか」「自分に万が一のことがあったときに困る家族がいるのか」などを基準に、本当に必要な保険なのかを考えることが大切です。
必要な保険を残しながら整理することで、保険料を抑えられる可能性があります。
サブスクリプション
サブスクリプションは毎月自動的に料金が引き落とされるため、使っていなくても支払い続けてしまいがちです。
クレジットカードや口座の明細を確認し、利用していないサービスや、「何の支払いだったかすぐに思い出せない」契約がないかチェックしましょう。
動画や音楽など同じジャンルのサービスを複数利用している場合は、本当に使っているものに絞るのもひとつの方法です。
家族それぞれが契約している場合は、家族単位で見直すと重複契約にも気づきやすくなります。
また、食品や化粧品などの定期購入も、使い切れないまま次の商品が届いていないか、この機会に確認しておくことが大切です。
家計版損益計算書(PL表)をつくり、「先取り貯蓄」を仕組み化する
固定費の見直しが終わったら、個々の出費だけではなく、手取り収入に対して「何に何%使っているのか」、家計全体の収支を把握して現実的にどのくらい貯蓄できるのかを考えてみましょう。
その際におすすめなのが、企業が収入と支出を把握する損益計算書(PL)のように、家計についても収入・支出・貯蓄を整理する「家計版PL表」をつくってみる方法です。
下の表は手取り月35万円のシングル世帯の場合の一例です。実際の適切な割合は収入や住んでいる地域、ライフスタイルによって異なりますが、参考にしてみてください。
項目 | 手取りに占める割合 | 金額の目安 |
基本生活費 | 26% | 9.1万円 |
住居費 | 30% | 10.5万円 |
学びの費用 | 5% | 1.8万円 |
保険料 | 1% | 0.4万円 |
被服費・交際費 | 5% | 1.8万円 |
その他 | 8% | 2.8万円 |
貯蓄 | 25% | 8.8万円 |
合計 | 100% | 35万円 |
貯蓄は25%となっていますが、大切なのは無理にこの割合に合わせることではなく、自分の手取りのうち、住居費や生活費などにどれくらい使い、どれくらい貯蓄できているのかを見える化することです。
さらに、家計版PL表で家計の全体像を把握したら、継続してお金を貯められるように貯蓄も仕組み化してみましょう。
おすすめは、給与が入った時点で一定額を別の口座などへ移す「先取り貯蓄」です。
月末に残ったお金を貯めるのではなく、先に貯蓄分を差し引き、最初から手元になかったものとして残ったお金で生活してみましょう。
自動積み立てなどを利用すれば、毎月「今月はいくら貯めよう」と考える必要もありません。意志の力だけに頼らず、自動的にお金が残る仕組みをつくることが、長続きできるポイントです。
専門家からのアドバイス

家計版PL表で明らかに手取りに占める割合が多すぎる支出がある場合は、何かしらの無駄が隠れている可能性が高いので、支出の内訳を細かく見直すようにしてください。お金の流れを把握するために、毎月だけでなく、年末には1年間を総まとめした家計版PL表をつくることもおすすめです。
まとめ

お金の勉強というと難しく感じるかもしれませんが、まずは身近な給与明細を確認することから始めてみましょう。
税金や社会保険料がいくら差し引かれているのか、その負担によってどのような給付や保障を受けられるのかを知るだけでも、お金の仕組みへの理解は深まります。
さらに、ふるさと納税や医療費控除、iDeCo(個人型確定拠出年金)など、税負担を抑えるための制度について少しずつ知識を広げていくことも大切です。
働いて得たお金を、何に使い、どれだけ貯めるのか。自分のお金が自分の将来に役立つよう、まずは「知ること」「意識すること」から始めてみましょう。
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