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重視するポイントは?

マンション内の「理不尽なルール」を変えるには?ー桃尾弁護士に聞くマンション管理

「UberEats禁止」「購入時には管理組合との面接」ー。

マンションに存在する不合理な謎ルール。理事会が定めたこれらのルールを疑問に感じた住民が、総会で過半数の支持を集め、新たな理事長を選任するまでを描いた書籍「ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス」が話題となっています。

この書籍に新理事会側の代表者の代理人弁護士として登場するのが桃尾俊明氏です。マンション管理について様々な相談を受けているという桃尾氏に、マンションの管理をめぐるトラブルへの対応方法などについて話を聞きました。

ルポ秀和幡ヶ谷レジデンス書影” class= ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス
発売日:2025/3/5
著者:栗田シメイ
「東京渋谷区の一等地に、とんでもないマンションがある―」すべては、一本の電話から始まった!マンション自治を取り戻すべく立ち上がった住民たちの闘争1200日。  

「危ない管理組合」を事前に見抜く方法

ーそもそもマンション管理をめぐるトラブルというのは、それなりにあるものなのでしょうか?

具体的な数は分かりませんが、私に相談に来ている方はすでにトラブルを抱えている方がほとんどなので、あちこちで起きていることだとは思っています。

戸数が多いマンションでは組合、居住者それぞれに様々な方がいますし、建物や設備も大規模なものとなるので、トラブルが発生する可能性も高まります。一方で小規模なマンションでも人間関係が濃くなることや、一部の組合員に生ずる事象の影響が相対的に大きいことによるトラブルがあります。

また、多くの場合、「マンション内の厳しすぎるルール」もしくは「マンションに関連して支払うお金」をきっかけとして、管理組合と住人(組合員)の間でトラブルに発展します。

例えば、「共用部で子どもが騒いでうるさいから静かにさせろ」「敷地内でのスケボーは危険だから禁止にしろ」「事務所として利用している住人の来客が多すぎる」といったものですね。これらの「うるさい」とか「危険だ」とか「多すぎる」という感覚は人それぞれですから、温度差が生まれトラブルにつながりやすいわけです。

「荷物を廊下に放置している」とか「勝手に民泊を運営している」といったケースでは、そのような行為に及ぶ動機の有無によって立場が変わります。もちろん、ルールを作ることもでき、それを守る義務はあるのですが、ルールは多数決で作られますから、少数派には当然不満が生じることになります。

ー マンションの購入検討者が事前に「この管理組合おかしいな」と見抜く方法はありますか?

マンション内で「理事会からのお知らせ」といった掲示物をチェックすると良いでしょう。言い回しがやたらと過激であれば、「個性的な理事長がいるのだな」と事前に知ることができます。

例えば、「⚪︎⚪︎号室の◾️◾️は犯罪者だ。断固措置を講ずる」とか、「他の組合員の利益を害する輩である」といった表現が多く使われているなどが考えられます。

ここまでではなくとも、一般的な社会人として違和感を覚えるような文章や言い回しが用いられていたら要注意だと思います。例えば「深夜の出入りはお静かにお願いします」「廊下への荷物の放置はご遠慮ください」などの穏当な表現が一般的かと思いますが、そこから逸脱するようなものについては気をつけた方が良いでしょう。

激しい言回しからは、「個性的な理事長」であるか、逆に「理事長がそうならざるを得ないほどの住民のマナーの悪さ」のどちらかがありそうだとうかがえます。

また、可能な場合には総会や理事会の議事録をチェックすれば関係者のキャラクターを事前に知ることができます。

ー管理組合の「厳しすぎるルール」などに悩んでいる方の相談というのは多いのでしょうか?

そうした相談も一定数ありますし、逆に管理組合の方から「こういうルールを定めたいのですが、大丈夫ですか?」という相談もあります。「ルール違反をする人がいるので警告を出したい」といった相談ですね。

こうしたケースでは、感情的になってしまい激しい表現を使おうとする方も多いのですが、それでは却って相手に反撃のカードを与えることになってしまいますから、「もっと穏当にしましょう」といった助言をすることがしばしばあります。

ー例えば、マンション内で勝手に民泊の運営などをしている組合員に対して、管理組合の立場として、どこまで権限を行使できるのでしょうか?

もちろん最終的には法的措置を講じますが、その前段階においてはまず警告文書を送ることが多く、適切な文言を使っていれば全く問題ありません。

しかし、例えば宿泊者らしき人に目をつけて一緒にその部屋に踏み込むなどしてしまうと、問題になるリスクが高くなります。また、「防犯カメラを設置したらどうか?」といった別の手段を検討することもありますが、個別の事象によって講じ得る措置の程度や態様は変わるので一概に判断するのは難しいですね。

ーSNSで、タワーマンションの共有部で勝手に婚活パーティーなどが開催されていることを告発する投稿を見かけることがあります。こうしたルール違反には、どう対応すべきなのでしょうか?

開催後ではなく、開催される前の対応こそ重要です。まず規約や細則などをもってパーティールームの参加人数・使用可能時間・対外的広報の可否などの具体的条件を定めておき、実際の使用許可の段階で、これらを申請させます。

その際、禁止対象として「婚活・就活パーティ」とか「公序良俗に反する」とか「営利目的」を挙げること自体は構わないのですが、それだけでは誤魔化されやすく「解釈」の問題になってしまいますので、前述のとおり「人数・時間・広報」といった「客観的に違反の有無を判断しやすい要素」を具体化することが有効であると思います。

また、違反する態様で開催されてしまった後でもできることはあります。そういう使い方をする人の多くは事業として繰り返し使いたいと考えているので、ブラックリストを作成して、当該人物からの申込は受け付けないといったやり方も考えられます。

マンションのルールを変えるには「民主的な手続き」が必要

ー トラブルを防ぐためにマンション内でのルールを決めなければならないわけですが、組合員として「理不尽」「厳しすぎる」と感じるルールを変えるためには、総会で過半数の支持を得るしかないのでしょうか。

マンションの管理組合の総会において適切な決議で定められたルールであっても、それが住人の人権を侵害するとか、管理組合の守備範囲を超えるようなものであればルール自体が無効となることもあります。しかし、裁判で争えば無効と判断されるようなルールであっても、現場では有効であるかのように扱われてしまうケースがありうるというのが現実です。

例えば、「ルポ秀和幡ヶ谷レジデンス」の中で描かれているような「夜間は介護事業者やベビーシッターも出入りできない」というルールは人の健康や生死に関わる可能性もあるため、法的に考えれば無効であると評価される可能性が高いと言えます。

しかし、「管理人が鍵を渡さない」という物理的な措置を講じてしまえば、そこで暮らしている人たちには現実に適用されてしまう。結果として、「法的には無効かもしれないルールでも現実にはまかり通ってしまう」ということが起こり得るわけです。

強行突破するという選択肢もありますし、管理組合からその責任を追及されたとしても問題ないと考えられますが、「夜間は出入りできない」と刷り込まれてしまっている住民の方々が実行するのは難しいでしょう。

また、強行突破によって「その日」は無事に済んだ、あるいは「そのルール」自体を法的手続により解消したとしても、そのような考え方・方針をもつ理事が「政権」を担っている限り同種の問題は繰り返されますから、根本的な解決にはなりません。

だからこそ、そうした「理不尽なルール」を課す理事会を変えるためには、総会で過半数の賛成を得るという民主的な手続きを踏むしかないわけです。

「管理者(理事長)の解任請求訴訟」という手法もありますが、理事長が不正な行為に及んでいることを証明する必要があるところ、「多くの人が理不尽に感じる内容であっても総会の決議により多数決で可決しているルール」や「そのルールに基づく理事長の行為」が不正であると判断されるためのハードルは、多くの方が想像するものより高いと思います。

そして、理事長一人を排除したとしても、その理事長と「同じ派閥の理事」が残っていれば、結局その理事たちが理事会を主導することになりますから、事態は改善しません。根本的な解決のためには、やはり総会で過半数を取る必要があると言えます。

ー実際に、総会で過半数の支持を得ることはかなりハードルが高いのでしょうか?

マンション管理は突き詰めれば委任状の奪い合いです。そのため賛同者が極めて少ない状態で弁護士としてできることは限られると思います。また、弁護士の介入が他の組合員に拒否反応を起こさせてしまうこともあります。実際、秀和幡ヶ谷レジデンスのように賛同者を増やすことができないという相談者の方が多いです。

どれだけ理念的に正しい主張をしていたとしても、他の住人が賛成してくれなければ、相談者の希望を叶えることができないので、「貴方の考えを理解しない人たちのマンションのために、貴方の貴重な時間やお金を使うよりは、売ってしまった方が早いですよ」とアドバイスすることも多くなります。

乱暴な助言のように思われるかも知れませんが、「それを聞いて吹っ切れた。相談してよかった。」と喜ぶ相談者の方が多く、今までこれを聞いて怒った方は一人もいませんでした。

賛同者を集めて総会で過半数を取るというのは、非常にハードルが高いですし、熱量もリソースも必要です。もし、それでも「戦う」という選択肢を取る場合には、「戦い方」を考えなければなりません。

ーどのような「戦い方」が良いのでしょうか?

多くの人がやってしまいがちな「味方がいないのに一人で戦いの狼煙をあげる」、つまり現在の管理組合に不満があることを公にするという方法はあまり有効だとは思えません。現体制から敵視されて警戒されてしまうと、その後動きにくくなってしまうからです。

私のおすすめは「黙って次の期に理事として立候補すること」です。一般的に、マンションの管理組合の理事を積極的にやりたいという人は多くありません。そのため、ほとんどの場合、立候補すれば歓迎してもらえるはずです。そして、理事になった後に自分が理事長になってしまえば良いのです。

逆に、「現政権側」の理事会としては、「反政権側」の理事が数名存在するとしても運営を主導できるような勢力を維持することが肝要です。

また、最近は、大規模修繕工事の受注を狙って、関連業者が組合員を使って理事会に潜り込んで議論を誘導する、というケースが発生していると聞いています。このような事態を回避するためにも、理事会は日ごろから多くの組合員と交流し、相互の理解を深めるという地道な努力を続けるべきでしょう。

秀和幡ヶ谷レジデンスにおける旧理事長の解任と新体制の発足を成し遂げた総会の得票数は、非常に僅差でした。ところが、その新体制のもとで招集された総会において、全ての決議が圧倒的な賛成多数により可決されました。

つまり、ほとんどの人は管理に無関心であったに過ぎず、積極的に旧理事会側を支持していた人たちはわずかだったわけです。

そのため、一般的な理事会であれば今お話ししたようなやり方で穏便かつ民主的に変えることもできる可能性が高いと思います。

ー区分所有法が改正され、より自治を重視する傾向にあると言われています。

実際の影響が早期に生じる部分として、決議要件の緩和があります。これまでは一定の決議については「組合全員の何分の一の賛成が必要」という要件になっていました。これが、「総会に出席(委任状を含む)した組合員の何分の一」というように分母が変わるのです。

つまり、これまでよりも決議が通りやすくなるのですが、逆にいうと決議されようとしているルールに反対の意見を持っている人たちは、きちんと反対しないと決議されてしまうということになります。これまで「どうせ決議されないだろう」と思っていた規約の変更などが決議されてしまう可能性もあるわけです。

とはいえ、本質的な部分に違いはないと考えています。時折、私のところに「おかしなルールがいつの間にか決まっていた」と相談にくる方がおられるのですが、ほとんどの場合、事前にきちんと通知がされています。

継続的に管理組合に関心をもち、その情報をチェックしなければいけないことに変わりはないのですが、今後はよりその必要性が高まるといったところでしょうか。

管理組合側は「正しい手続き」を経ていれば慌てる必要はない

ー管理組合側の立場から、マンションの管理を円滑にしていく上で注意すべきポイントなどはありますか?

私がよく相談者の方に申し上げるのは、「戦線を前にしすぎない」ということです。

例えば組合員から何らかの質問や批判が来たとします。すると、過敏に反応して「そもそも回答をしない」「資料の開示請求に対し開示を拒否する」といったことをしてしまう方も多いのです。そうすると、「そもそも回答や資料の開示を拒否することが違法ではないか」と相手に追及の材料を与えてしまいます。

そのため、何らかの質問や批判が来たとしても、慌てずに必要に応じて回答や資料の開示を行う方が安全です。そのようにアドバイスすると「回答や資料を材料に批判される」と懸念される方もおられます。

しかし、総会で多数決に基づいて決まっていることは簡単には覆りませんから、堂々と批判や意見を聞いた上で、最後は「ご意見は承知しましたが、正しい手続を経て決まったことですのでご理解ください」と伝えれば良いのです。

ー正しい手続きを踏んでいれば慌てる必要はないということですね。

例えば、ある工事を発注する業者を、相見積もりを取らずに決めたとします。そこに組合員から「なぜ相見積もりを取らなかったんだ」という批判が来たとしましょう。

一般論としては、「相見積もりを取らないこと」により金額が高くなることがありますから、そのような批判が妥当することもあるでしょう。ただ、「相見積もりを取っていないこと」を事前に開示して、総会で決議をとっていれば「組合員の多くがそれで良いと判断した」ということなので、とがめられる理由はないとも考えられます。

なので、こうした場合は、「相見積もりはとっていません。金額や業者の実績といった諸事情に鑑み取る必要がない(または取ることの手間や時間が無駄)と理事会で判断しました。そのことも含めて総会で諮った上で、多数の賛成を得て可決されています」と堂々と説明すれば良いわけです。「相見積もりをとっていないこと」を隠蔽しようとすると逆にややこしくなってしまいます。

もちろん情報を過剰に開示したことが原因でトラブルに発展するケースもないわけではないですが、私は原則として情報は開示してしまった方が話が早いことが多いと思っています。端的にいえば「全ての情報を開示した上でとられた決議こそが最強」というわけです。

ー当然のことですが人によって考え方は異なるので、誰にとっても「正しいルール」を決めるのは難しいですね。

「正しさ」は明確に定義できるものではないですよね。

マンション内で運用されているルールは「理事会・総会における多数の意見」にすぎないので、それが「正しいか否か」を決める必要はありません。

秀和幡ヶ谷レジデンスにおいても「UberEats禁止」といった、最近の感覚からすれば一見理不尽に思えるルールを歓迎していた組合員がいました。部外者が入ってこない方が安心だと感じる方もいるのです。

ある人にとって理不尽なルールでも、別の人にとっては良いルールということはあり得ます。なので、「理不尽」「不合理」「正義に反する」ではなく、「我々はこれがいいと思った。それを総会で皆さんにお聞きしたら賛成していただいたにすぎない」と考えた方が良いと思います。

実は、秀和幡ヶ谷レジデンスの裁判においても、裁判所は「旧理事会がやってきたことがおかしい」という認定は一つも行っていません。もちろん、我々は裁判の中で旧理事会の過去の様々な問題を指摘していますが、それは「裁判所が迅速に判断すべき必要性の有無」という論点においてなされたものです。

本件の決着となった判決で認定されたのは、「総会で票が一定数以上入って議事が可決された」ということだけです。「裁判所が旧理事会の過去の悪行を断罪した」といった誤解をしている方も多いように思いますが、そんなことはないのです。

「マンションのルールが理不尽だ」と感じ、変えようとするのであれば、同じように考える人を集めて多数派を形成しなければなりません。仲間を集めるために「このルールが如何に理不尽であるか」を主張する必要はありますが、勝負を決めるのは「総会で挙手し、委任状や議決権行使書を提出した人の数である」ということも理解しておくべきということです。

プロフィール

桃尾弁護士prof” class=桃尾 俊明(ももお としあき)
慶應義塾大学法学部を卒業後、2004年に弁護士登録。中国語学留学、上海の法律事務所勤務、総合商社法務部アジア担当室勤務等を経て、2008年に現在の堀法律事務所に移籍。 マンション管理士、宅地建物取引士、FP技能検定2級などの有資格者。主な取扱分野は企業法務やマンション管理、不動産など。
X:@momoo_t
ブログ:弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログ