賃貸物件の契約形態には、期間ごとに契約が更新される普通借家契約と、期間の満了に伴って契約も終了する定期借家契約があります。両者の間にはさまざまな違いがあり、きちんと特徴を捉えておくと、物件選びの際に役立つ場面が多くなるのです。今回は、定期借家契約の仕組みや特徴、家賃交渉の可能性の有無について詳しく解説していきます。
定期借家物件
定期借家契約って何? 普通借家契約との違いについて知っておこう

国土交通省の住宅市場動向調査(2019年)によれば、定期借家制度を利用している賃貸物件は全体の2.0%と、それほど数は多くないことが分かります。しかし、リーズナブルで良質な物件が見つかりやすいという面もあります。
ここでは、定期借家契約の特徴と普通借家契約との違いを見ていきましょう。
定期借家契約の特徴
定期借家制度は、平成12(2000)年の3月に、法律の改正によって導入された契約形態です。その背景には、一般的に利用されていた普通借家契約の問題点が大きく関係しています。
普通借家契約では、正当な理由のない状態で、貸し手側からの更新拒否ができませんでした。多少マナーに問題のある入居者がいたとしても、簡単には解約ができず、借主が望む限りは基本的に更新も受け入れなければならなかったのです。
定期借家契約は、貸主がそうした事態を嫌って、良質な物件を貸し出さなくなることを防ぐ目的で生まれたものです。つまり、貸主の損失を防ぐ意味合いが強い契約形態だと考えられます。
普通借家契約との違い
定期借家契約の最大の特徴は、契約の更新がないという点にあります。原則として、契約が満了したタイミングで借主は退去しなければなりません。
契約期間が過ぎても引き続き入居を希望するのであれば、貸主との間で契約を結び直す必要があります。ただ、両者の合意が必要となるため、貸主の事情によって断られてしまう可能性も考えておくことが重要です。
借主にとって、生活の拠点を変えることには大きな影響があるため、契約の方法については貸主側に厳格な決まりが設けられます。たとえば、契約は公正証書等で行う必要があり、口頭のやり取りは認められません。
また、「定期」とされている以上、契約期間も事前に明確にしておく必要があります。定期借家契約で賃貸借契約を結ぶ際には、必ず借主に「契約の更新がないこと」を説明する義務があるのです。
さらに、契約期間が1年を超える場合には、契約期間が終わる6ヶ月~1年前までに契約終了の通知をする必要もあります。
家賃交渉はできる? 定期借家契約の基本的なルール

通常の賃貸物件は、入居をしてからも家賃の交渉をすることは不可能ではありません。しかし、定期借家は通常と異なるルールが採用されているため、注意が必要となります。
ここでは、定期借家の家賃交渉に関するルールを見ていきましょう。
家賃交渉は原則できない
借地借家法では、契約を結ぶ際に「借主の不利になるような特約は無効」と定められているため、通常は家賃の減額請求を禁止する特約をつけることはできません。しかし、定期借家契約においては、例外的に特約をつけることも認められています。
多くの定期借家ではこうした特約がついているため、基本的には貸主が減額交渉に応じる必要もありません。そのため、あらかじめ契約書に目を通し、細かな契約事項を確認しておく必要があります。
新規契約であれば交渉の余地がある
入居中の交渉は難しいものの、新規契約の時点であれば、交渉によって家賃を減額してもらえる可能性もあります。また、仮に再契約を結ぶことができれば、そのタイミングでの交渉自体は不可能ではありません。
ただ、無理な家賃交渉によって、再契約を断られるリスクが高まるのも事実です。そのため、あくまでもお願いをするといったスタンスを崩さず、ていねいに対応していくことが大切となります。
定期借家物件定期借家の3つのメリット

定期借家は貸主を損失から守る目的で生まれているため、一見すると借主には不利な契約形態だと感じられる面もあります。しかし、視点を変えれば、さまざまなメリットがあるのも確かなのです。
ここでは、定期借家の3つのメリットを見ていきましょう。
相場より家賃の安いところが多い
家賃の面から見ると、定期借家は家賃交渉をしなくてもすでに家賃が安いケースも多いといえます。特に、建替えや取り壊しが理由で定期借家にしているところも少なくはなく、そうした物件では相場より安く家賃が設定されている可能性が高いのです。
また、貸主がいずれ居住する目的で建てた物件が、一時的に定期借家として扱われている場合もあります。そのため、リーズナブルな家賃設定で良質な物件を見つけることも不可能ではありません。
短期間で契約できる
普通借家契約においては、1年以下の契約期間は「期限の定めのない契約」としてみなされてしまうため、最低でも1年以上の契約期間が設けられます。しかし、定期借家契約はそれよりも短い期間の契約が可能であり、短期間で引越す可能性がある入居者にとっては自由度が高いのです。
マナーの悪い入居者は住み続けられない
定期借家は貸主の判断によって、契約の更新を断ることができます。そのため、マナー違反をするような入居者がいつまでも住み続けることはできず、自然と近隣トラブルのリスクが低下する面もあるのです。
定期借家契約の2つの注意点

メリットを上手に生かすためには、定期借家契約の注意点も押さえておく必要があります。気をつけるべきポイントを2点に分けて見ていきましょう。
中途解約は難しい
定期として期間が決められている以上、基本的に途中解約はできません。転勤・療養・介護といったやむを得ない事情がない限りは、解約によって違約金が発生することもあるので注意しておきましょう。
再契約が認められないこともある
期間満了後にもう一度契約をするためには、貸主による合意が必要です。たとえマナーを守って入居していたとしても、取り壊しなどの事情がある場合には、退去をしなければなりません。
そのため、定期借家を借りるときには、期間が終了した後の住まいについて考えておくことが大切です。
定期借家物件こんな人におすすめ! 定期借家契約を上手に活用できる人とは

定期借家契約には、良くも悪くも普通借家契約と異なる点が多いといえます。しかし、メリットを活用できる人にとっては、とても利便性の高い契約形態でもあります。
定期借家契約に適した人
半年~1年程度の短期で住める物件を探している人にとっては、定期借家は打ってつけの物件となります。単身赴任などで一時的な拠点を必要としていたり、住居のリフォーム期間に住める家を探していたりする人からすれば、便利な契約形態といえるでしょう。
また、安く条件の良い物件を見つけられる可能性が高いため、荷物が少なく、引越しがそれほど苦にならない人には魅力的に映る場合もあります。定期借家契約の物件はそれほど数が多いわけではないため、インターネットなどで理想的な物件を見つけたら、詳細を調べてみるとよいでしょう。
まとめ:定期借家の家賃交渉は難しいが、そもそもリーズナブルなケースも多い

- 定期借家は期間満了とともに契約が終了し、更新がない
- 引き続き住みたい場合には、貸主の許可を得て再契約を結ぶ必要がある
- 入居中の家賃交渉は難しいものの、新規契約のタイミングであれば可能性はある
- 交渉をする前から、もともと家賃が相場より安い物件も多い
- 単身赴任やリフォーム中の生活拠点を探している人におすすめ
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