これから自己破産を考えている人の中には、いつのタイミングで引越しをすべきなのか分からない、また部屋を出た後、新たに部屋を借りられるのかと不安に思うこともあるかと思います。
そこで今回は、アディーレ法律事務所の弁護士・谷崎翔先生に「家賃を滞納して自己破産した際の引越しのタイミングと、自己破産後に部屋を借りづらくなるのか」について解説してもらいました。
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家賃滞納して自己破産…引越しするタイミングは?

引越し自体は自由…基本的に制限はない
引越しのタイミングについてですが、自己破産をする場合でも引越し自体を禁止されることは基本的にありません。
破産手続が開始して“破産管財人”(裁判所により破産手続を監督する中立の立場として選任される弁護士)が選任された場合には、破産管財人と裁判所の許可が必要ですが、許可を出さないということは非常に稀です。
では引越し自体は制限されないとして、どのタイミングで引越しをするといいのでしょうか。
大家さんには弁護士から債務整理の連絡がいく
弁護士などの専門家に自己破産の申立てを依頼する前に、すでに家賃滞納がある場合、弁護士は受任後すぐに大家さんに対して“受任通知”(間に弁護士が入って債務整理をするから本人への連絡、取立てはストップしてくださいという通知)を送ります。
これにより大家さんは、部屋を借りている人がこれから債務整理することを初めて知ることになります。多くの大家さんは、この時点で部屋を貸している人に対して、部屋から出ていくように要請すると思われます。
部屋から出ていくよう大家さんから言われてすぐに退去できればいいのですが、引越し先の目途がついていなかったり、引越し費用や新居の初期費用が用意できなかったりする場合には、しばらく引越しできないこともあるかもしれません。

立ち退きの強制執行までは3~4ヶ月程度
このような場合に、大家さんが部屋を借りた人を強制的に追い出す場合には、“建物明渡請求訴訟(立ち退き訴訟)”を裁判所に提起することになります。
裁判というのは大体月に1回程度しか開かれないため、仮に訴訟を提起されてもすぐに敗訴判決が出ることはありません。どんなに急いでも3ヶ月以上はかかるでしょう。
敗訴判決が出ても、部屋を借りた人が出ていかない場合には、大家さんが強制執行をすることになりますが、強制執行をする場合には、そこからさらに1ヶ月程度はかかるため、3~4ヶ月程度の猶予はあることになります。
そのため、専門家に自己破産を依頼したらすぐに部屋を出ていかなければならないということはなく、引越しの準備をするくらいの猶予期間はあるということになります。
家賃を支払わずに居座ると損害金が発生…大家さんと交渉してみよう
しかし、いつまでも家賃を支払わずに部屋に住み続けていると、家賃と同額の損害金を支払う義務が課されますし、これに対する遅延損害金も発生します。そのため、いつまでも勝手に部屋に居座ることは得策ではありません。
そこで、まずは大家さんに現状を伝え、「準備が整えばすぐに引越すので、いついつまでは住まわせて欲しい」と交渉すべきです。大家さんとしては、滞納家賃は破産で免責されて回収できないのだから、せめて部屋は早く明け渡して欲しいと考えるのが通常です。
裁判をしても上記のとおり何ヶ月もかかるのだから、自発的にそれよりも早く退去してくれるのならば、と考えて住まわせてくれるかもしれません。
自己破産手続を進めていく中で、大家さんと揉めるような余計なトラブルは避けるべきです。
賃貸物件を探す 引越し料金の見積もりをする自己破産後、新たに部屋を借りづらくなる?

自己破産をしたことで、新たに部屋を借りにくくなるのではないかと不安に感じている人もいると思いますが、実際のところはどうなのでしょうか?
部屋を借りる際には、保証人(連帯保証人)をつけるように求められることがほとんどです。
保証人には、親や親戚といった個人がなる場合と、大家さんから指定されたクレジットカード会社などが保証人になる場合(家賃保証会社)の2種類があります。
このうち、個人が保証人になる場合には、特に問題は生じません。しかし、家賃保証会社を利用する場合には注意が必要です。
自己破産するとブラックリストに登録される
家賃保証をする会社は、クレジットカード会社が一般的です。このようなクレジットカード会社は、CICやJICCといった信用情報機関に登録しています。
「信用情報機関」というと難しそうに感じますが、“ブラックリスト”という言葉に聞き覚えはないでしょうか。よく「借りたお金を返さないとブラックリストに載って、お金が借りれらなくなるよ」と言われているものですが、ブラックリストとは信用情報機関の俗称です。
そもそも信用情報機関の主な業務は、「この人にお金を貸したらきちんと返してくれそうか、以前に滞納などのトラブルを起こしたことがないか」といった情報を収集して記録し、金融機関の求めに応じてその情報を提供することです。
自己破産をした場合には、破産者が借り入れをしていた金融機関が自己破産の事実を信用情報機関に登録し、登録された情報は一般に7年間~10年間程度保存されると言われています。

保証会社の審査は一定期間通らない
金融機関が誰かにお金を貸す場合、まずはこの信用情報機関に問合せます。そして開示された情報を見て、何も問題ない場合にはクレジットカードを発行したりお金を貸したりします。
反対に、滞納や自己破産の事実が発覚した場合には、お金が返ってこない可能性が高いと判断して、貸し付けやカードの発行を控えます。この審査を“与信審査”といいます。
そして、クレジットカード会社は家賃保証会社になろうとするときも、この与信審査を行います。そのため、直近10年以内に自己破産をした人は、その事実が家賃保証会社に知られ、結果として保証を断られる可能性が非常に高いでしょう。
結局、保証会社の審査が通らなかったという理由で、その部屋を借りられなくなります。
保証人不要の物件か、個人を保証人につけられる物件を中心に探す
このように、過去10年以内に自己破産をしたことがある人は、そもそも保証人不要の物件を検討するか、親や親戚のような個人を保証人につけられる物件を中心に探すといいでしょう。
まとめ
・自己破産をする場合でも、引越し自体を禁止されることは基本的にない
・家賃滞納があると弁護士から大家さんに債務整理の連絡がいく
・大家さんが立ち退きの強制執行をするまで3~4ヶ月程度かかる
・自己破産の依頼後、引越しの準備をするくらいの猶予期間はある
・家賃を支払わずに居座ると損害金が発生する
・大家さんに現状を伝え、トラブルにならないように明け渡し時期について交渉する
・新たに部屋を借りる際、個人が保証人になる場合や保証人不要の物件では問題ない
・家賃保証会社を利用する場合は、審査が一定期間通らない可能性が高い
・ブラックリストに登録されると一般に7年間~10年間程度保存される
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