高齢者の住宅リスクのひとつに「年齢を理由に賃貸物件を借りにくくなってしまう」という問題が挙げられます。実際のところ、一定以上の年齢になると、特に単身者の場合は入居審査に通りにくくなってしまう面があります。

今回は高齢者が物件を借りにくいとされる理由を確認したうえで、スムーズに入居するための方法や注意点を見ていきましょう。

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高齢者が賃貸物件を借りにくいとされる理由

 

まずは高齢者が入居審査に通りにくいとされる理由について、ここでは3つの観点から見ていきましょう。

 

高齢者は若い世代と比べて、どうしても物件内での事故や孤独死のリスクが高いと判断されてしまいます。

 

万が一室内で亡くなれば、新たな入居者を見つけるまでに金銭や時間の面での大きな負担が発生するため、貸主としては慎重にならざるを得ません。

 

もうひとつの理由は金銭面での不安、つまり「家賃を安定して支払ってもらえるのか」というポイントです。

 

定年退職後は一般的に収入が低下してしまうため、安定して家賃を捻出するにはある程度の貯蓄や年金収入が必要となります。

 

健康状態が悪化すれば、医療費や介護費などの負担もかさんでしまうので、若い世代と比べて収入面に不安を感じる貸主も少なくありません。

 

多くの賃貸物件では、家賃滞納などのリスクに備えて、連帯保証人を立てる必要があります。

 

若い世代であれば、両親や配偶者の家族などに依頼することができる一方、高齢になると依頼できる親族が少なくなってしまう人も多いです。

 

配偶者や兄弟も同じく高齢者となると、家族や親せきで頼める相手はどうしても子どもなどに限られてしまうため、保証人の面で不利になる場合もあります。

高齢者が賃貸物件を借りにくくなるのは何歳から?

 

日本賃貸住宅管理協会の2016年「家賃債務保証会社へのアンケート調査」では、民間の家賃保証会社を対象にした年代別の審査状況が以下のように示されています。

 

〈年代別〉家賃債務保証会社の審査状況

出典:(公財)日本賃貸住宅管理協会(平成28年6月)「家賃債務保証会社へのアンケート調査」

 

60代に差し掛かると、少しずつ年齢を理由に審査で落ちてしまうケースが見られ、70代を超えると全体の約36%で審査落ちが多い、あるいは散見されるという結果が明らかにされています。

 

60代は一般的に定年退職を迎える年齢であり、安定した収入がなくなってしまうことが大きな原因と考えられます。

 

一方、同調査において、高齢(60歳以上)でも「350万円超の年収」があるケースでは、7割近くが問題なく審査に通過しているというデータも示されています。

 

結果を踏まえると、60代から徐々に借りにくくなっていってしまうのは確かですが、個人の収入状況によっても異なるということが読み取れます。

 

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賃貸物件をスムーズに借りるためのコツ

 

ここまでの内容から、高齢者が賃貸物件を借りるうえでは、やはり年齢面が不利に働いてしまうのは確かだといえます。審査に不安がある場合は、スムーズに借りるためのコツを意識しておくことが大切です。

 

近くに頼れる親族がいれば、保証人を頼んでおくと審査の不安材料を減らすことができます。また、孤独死などのリスクを軽減する意味では、近所に住んでいる子どもなどに緊急連絡先になってもらうのもいいでしょう。

 

家賃債務保証とは、一般財団法人の高齢者住宅財団が行っている居住支援サービスです。

 

高齢者が賃貸物件を借りるうえで、財団が連帯保証人になってくれるという制度なので、利用することで入居審査に通りやすくなります。

 

独立行政法人のUR都市機構では、高齢者向け優良賃貸住宅や高齢者向け特別設備改善住宅など、さまざまな形で高齢者の住まいに関するサポートが行われています。

 

もともと高齢者の利用を想定した賃貸物件なので、年齢を理由に審査で落ちてしまう心配は少ないでしょう。

 

一般の賃貸物件のなかにも、高齢者の居住に比較的前向きなところはあります。審査に不安がある人は、はじめからこうした物件に的を絞ってみるのもひとつの方法です。

 

LIFULL HOME’Sの「シニア・高齢者歓迎の物件」からは、シニア世代でも借りやすい物件に絞り込んで探すことができるので活用してみてください。

シニア世代が住みやすい賃貸物件の特徴

 

賃貸物件を探すときには、年齢的な側面を意識して条件設定を行うことも大切です。ここでは、特に目を向けたいポイント4つに分けて紹介します。

 

突然のケガや病気などのリスクを考慮すると、家族や親族との距離は近い方が安心です。また、家族が近くに住んでいれば、入居審査の面でも有利に働く可能性があります。

 

年齢を重ねてからも安心して住めるように、自家用車を使わなくても生活できる程度の利便性はほしいところです。スーパーやドラッグストアなどの商業施設、金融機関、病院などの公共機関までのアクセスを確かめておきましょう。

 

また、持病のための通院などで頻繁に足を運ぶ施設は、距離だけでなく実際のルートもチェックしておくと安心です。

 

一見近そうに思えても「歩道橋をわたらないといけない」「急な坂道がある」などの事情が隠れている可能性もあるので、細かく注意しておきましょう。

 

自動車を使わなくなる可能性を考えると、電車やバスなどの公共交通機関までの距離はとても重要な条件となります。

 

静かな住宅街にこだわりすぎると、交通アクセスに優れる物件が見つからないこともあるので、ある程度は人通りの多いエリアも視野に入れてみましょう。

 

住みやすい物件選びでは、バリアフリー性を意識することが大切です。今は健康であっても、健康状態の変化によって、ちょっとした階段や段差がつらいと感じられてしまう可能性も否定できません。

 

バリアフリー性について目を向けたいポイントとしては、次のようなものが挙げられます。参考にしてみてください。

ポイント

  • 平屋やマンションなどワンフロアの部屋
  • 共用部分にエレベーターがついている
  • 出入り口にスロープがある
  • 車いすでも通りやすい十分な廊下幅がある
  • 避難経路が利用しやすい
  • 滑りにくい床材が使用されている
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高齢者の賃貸事情

 

日本では高齢者の割合が増加を続けており、シニア世代の住環境の整備が重要な課題とされています。

 

たとえば、2019年4月に国土交通省が取りまとめた「不動産ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」(※1)では、重要な課題のひとつとして「すべての人が安心して暮らせる住まいの確保」が掲げられています。

 

国レベルでの取組みが行われるなかで、高齢者の賃貸事情には少しずつ変化の兆しも生まれているのです。

 

その具体的な例として挙げられるのが、2021年10月に国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(※2)です。

 

このガイドラインの主な内容は以下のとおりであり、簡単にいえば「孤独死を懸念して物件を貸し出せない」という貸主の心理的なハードルを下げる目的があります。

主な内容

  • 日常生活のなかでも不慮の死(転倒事故や誤嚥(ごえん)など)については原則として告げなくてもよい
  • 共用部分で発生した自然死、不慮の死以外の死についても、3年が経過した後は原則として告げなくてもよい
  • ただし、特段の事情があると認識した場合は告げる必要があるなど、例外もある

ガイドラインはあくまでも取組みの一例であり、今後もさまざまな形で高齢者の住宅問題の改善が期待されています。

 

※1 国土交通省 社会資本整備審議会産業分科会不動産部会「不動産ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~

※2 国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン

高齢者の賃貸事情

 

  • 高齢者が賃貸物件を借りにくい理由は、孤独死や家賃滞納のリスクが懸念されるため
  • 家族や親せきなどに連帯保証人や緊急連絡先を頼むことが大切
  • 家賃債務保証や高齢者向け賃貸物件などの高齢者向け制度を利用するのもひとつの方法
  • 物件選びで意識すべきポイントも押さえておこう

 

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基本的には60歳以上となります。UR賃貸では、「高齢者向け優良賃貸住宅」を展開しており、申込者の年齢条件は原則満60歳以上です。民間の高齢者向け賃貸でも60歳以上のところがあります。詳しくは高齢者が賃貸物件を借りるときのコツをご覧ください。

保証人不要としている賃貸物件は、入居者を早めに集めるためや家賃保証会社を義務付けているなどの可能性があります。詳しくは証人不要な物件のメリット・デメリットをご覧ください。

更新日: / 公開日:2017.12.06