“アフターコロナ”に向けて、人気の鉄道路線に変化は?

LIFULL HOME'Sが、実際の物件への問合せ数に基づいて発表する「みんなが探した!住みたい街ランキング」では、緊急事態宣言が発出された2020年・2021年に賃貸需要の郊外化が進む結果となった。

この間、鉄道の利用状況にも大きな変化があった。国土交通省の調査では、10年以上にわたって横ばい傾向で推移していた三大都市圏の鉄道の輸送人員は、2020年・2021年に大きく下落。その後2022年は再び上昇に転じたものの、輸送量の回復状況は路線によって異なる。東京への通勤路線を例に挙げると、常磐線(※1)の2022年の輸送量は2021年比でわずか0.5%の上昇だが、総武線(※2)は17.3%上昇しているといった具合だ。
これはリモートワークの実施状況などが影響しているのは当然だが、コロナを経て居住地として人気の路線も変化している可能性がある。

そこでLIFULL HOME'Sでは、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)、近畿圏(大阪府・京都府・兵庫県)、中部圏(愛知県、岐阜県、三重県)の3エリアで、2023年上半期の賃貸物件問合せ数を路線ごとに集計し、前年と比較。「賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング」を作成した。5月に新型コロナの感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類」になり、“アフターコロナ”に向けて世の中が動きつつある今、賃貸需要が活況となっている路線はどこだろうか。


※1:常磐線(緩行)の最混雑区間(亀有→綾瀬)
※2:総武線(快速)の最混雑区間(新小岩→錦糸町)

コロナ禍では賃貸需要の郊外化が進んだ(画像はイメージ)コロナ禍では賃貸需要の郊外化が進んだ(画像はイメージ)

首都圏1位は「京急空港線」。航空需要回復による需要増加が要因か

1位「京急空港線」(前年比122.9%)

首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の鉄道路線のうち、沿線賃貸物件への問合せが前年から最も増加したのは「京急空港線」だった。駅別では、羽田空港寄りから「天空橋」で前年比191.7%、「穴守稲荷」で同121.1%、「大鳥居」で同130.1%、「糀谷」で同119.3%、「京急蒲田」で同117.3%とすべての駅で前年から上昇。路線単位では前年比122.9%と大幅に増加した。

京急空港線沿線には、航空会社の従業員や空港職員が多く居住するが、コロナ禍では採用の停止や居住地を問わない働き方の導入が行われた。しかし、直近の航空需要の復調(2023年1~6月の羽田空港の旅客数は約3,671万人で前年同期比192.8%)を受け、関係者の就業体制が戻りつつあり、この状況の変化が沿線物件の問合せ増加の一因であると推察される。

2位「東京メトロ銀座線」(前年比121.3%)

主に東京の都心部をつなぐ「東京メトロ銀座線」は、全19駅中16駅で問合せ数が前年を上回るなど、都心回帰の動きが見られた。昨今都心部では賃料相場が上昇するなか、特に「浅草(前年比138.3%)」「田原町(前年比133.8%)」「神田(前年比138.6%)」といった、比較的家賃が抑えられる城東エリアの駅の問合せ数が増加している。

首都圏1位は「京急空港線」。航空需要回復による需要増加が要因か
首都圏1位は「京急空港線」。航空需要回復による需要増加が要因か賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(首都圏)トップ10の路線図

首都圏まとめ

首都圏では、都心部を通る路線が多くランクインした。2023年4月以降、首都圏の問合せに占める23区のシングル向き物件への問合せの割合は上昇しており(※3)、コロナ禍で郊外化した賃貸需要は、単身者を中心に都心回帰の傾向が見て取れる。
これは、ファミリー向き物件と比べ、シングル向き物件の家賃相場は都心・郊外とも上昇が限定的であることや、リモートワーク実施率が前年より下落していることも要因だと考えられる。

都心部の路線以外で特筆すべきは、空港アクセスを担う路線だ。1位の「京急空港線」のほか、成田空港へアクセスする「JR成田線」が7位に。「成田(前年比128.9%)」などが問合せの上昇を牽引している。また路線単位ではランク外だが「京成本線」の「公津の杜(前年比156.2%)」や「宗吾参道(前年比147.4%)」といった空港付近の駅で問合せが大きく増加しており、航空需要回復による関係者の居住需要増加が背景にあると推察できる。

※3:2022年4~6月は31.0%、2023年4~6月は33.4%(LIFULL HOME'Sマーケットレポートより )

首都圏1位は「京急空港線」。航空需要回復による需要増加が要因か旅客数が回復しつつある羽田空港(画像はイメージ)

近畿圏1位は「JR奈良線」。ほかには大学付近を通る路線も上位に

1位「JR奈良線」(前年比121.0%)

近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県)の鉄道路線のうち、沿線賃貸物件への問合せが前年から最も増加したのは「JR奈良線」となった。JR奈良線は2023年3月に約14.0kmが複線化され、全線の所要時間が約6分短縮。朝のラッシュ時の増発も行われた。

そこで注目したいのが、JR奈良線と並行する「近鉄京都線(10位)」との比較だ。近鉄京都線では「大久保」「久津川」「寺田」といったJR奈良線と接近する駅で問合せ数が前年を下回ったほか、近鉄京都線の「小倉」が前年比140.0%だったのに対し、JR奈良線の「JR小倉」は前年比205.0%となるなど、前年と比べてJR奈良線沿線の物件にニーズが流れたエリアがある。これは、JR奈良線の利便性向上に加え、今年3月に近鉄が実施した運賃改定により、京都への運賃面でJRが優位になったことも影響しているかもしれない。

2位「叡山電鉄叡山本線」「神戸高速東西線」(前年比119.4%)

2位には2路線がランクインしたが、特に注目したいのが「叡山電鉄叡山本線」。京都市北部へ延びる路線で、起点の「出町柳(前年比131.5%)」のほか、京都大学の学生が多く住む「元田中(前年比131.5%)」や京都工芸繊維大学の学生が多く住む「一乗寺(前年比139.4%)」で問合せ数が大きく増加した。これらの大学では、コロナ禍で導入したリモート講義を2023年5月以降積極的に縮小しており、通学機会が増えた大学生が大学近辺に転居する動きが活発化している可能性がある。

賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(近畿圏)賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(近畿圏)
賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(近畿圏)賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(近畿圏)トップ10の路線図

近畿圏まとめ

近畿圏のランキングには「学生の街」を通る路線が多く並んだ。前述の「叡山電鉄叡山本線」のほか、沿線に同志社大学今出川キャンパスや京都府立大学、京都工芸繊維大学が立地する「京都市営地下鉄烏丸線(6位)」、立命館大学衣笠キャンパス付近を走る「京福電気鉄道北野線(7位)」、大阪府では、大阪大学豊中キャンパス最寄りの「阪大石橋前」を起点とする「阪急箕面線(9位)」などがランクイン。それぞれ、「今出川(前年比125.2%)」「松ヶ崎(前年比125.6%)」「阪大石橋前(前年比137.4%)」など、学生が多く住む駅で問合せが大きく増加している。

賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(近畿圏)2023年度前期は原則対面授業が実施されている京都大学(画像はイメージ)

中部圏1位の「養老鉄道」は、大垣市内の駅の人気が上昇

1位「養老鉄道」(125.8%)

中部圏(愛知県・岐阜県・三重県)の鉄道路線のうち、沿線賃貸物件への問合せが前年から最も増加したのは「養老鉄道」となった。養老鉄道は沿線への問合せのうち約52%を大垣市内の駅が占めており、大垣市での問合せ増加の影響が強く出た結果といえる(大垣市内の駅に限ると前年比158.5%)。同市の65歳未満の単身世帯数は増加傾向(※4)にあり、賃貸需要も増加していると考えられる。

※4:2015年が1万665世帯、2020年が1万2,032世帯(「国勢調査からみた岐阜県の人口」より算出)

2位「名鉄瀬戸線」(115.3%)

名鉄瀬戸線は、名古屋市中心部の「栄町」から郊外の瀬戸市へ延びる路線。沿線のうち「尼ケ坂(前年比172.0%)」「森下(前年比145.8%)」などで問合せが大きく増加した。また、130年以上の歴史がある女子大学・金城学院大学付近の「喜多山(前年比149.6%)」や「大森・金城学院前(前年比120.8%)」でも問合せ数が増加している。

賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(中京圏)賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(中京圏)
賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(中京圏)賃貸物件の問合せが増えている鉄道路線ランキング(中京圏)トップ10の路線図

中部圏まとめ

中部圏でも近畿圏同様に、「愛知高速東部丘陵線(6位)」では、愛知学院大学最寄りの「長久手古戦場(前年比154.9%)」、「名古屋市営名城線(9位)」では名古屋大学や南山大学付近の「八事日赤(前年比164.6%)」が、それぞれ路線内で高い上昇率となるなど、今年度からのリモート講義縮小の影響が見て取れる。また「名鉄常滑線(4位)」では、「常滑(前年比120.1%)」「多屋(前年比158.1%)」「榎戸(前年比226.7%)」など、2023年1~6月の旅客数が前年同期比208.2%となった中部国際空港付近の各駅が問合せ数の増加を牽引する結果となった。

調査概要

集計対象:2023年1~6月、2022年1~6月ともに一定以上の賃貸物件への問合せがあった路線
集計期間:2023年1~6月、2022年1~6月