子どもが増えている自治体、7年連続トップは埼玉県さいたま市
2022年1月頃に「東京23区が初の転出超過」のニュースがさかんに報じられたように、人口移動統計は全体の大きな流れとして語られることが多い。しかし市町村別・年齢別にみると、異なる傾向が見えてくる。2021年の住民基本台帳人口移動報告(※1)では、市町村別15~64歳の転入超過数は、東京都23区、大阪府大阪市などの大都市が上位を占めるのに対し、0~14歳層では、埼玉県さいたま市、茨城県つくば市などの地方都市が上位に名を連ねている。さいたま市は0~14歳の転入超過数が多い自治体ランキングで、実に7年連続トップである。
移住定住者を増やしたい自治体は、地域のニーズを反映した保育サービスや各種手当などさまざまな子育て支援に力を入れている。そのような自治体が子育て世帯に選ばれていると仮定し、この記事では「実際にその自治体に住むとしたら、どのような駅が子育て世帯にとって魅力的といえるのか?」という観点で、1都3県で住まいを探すファミリー層に向け、LIFULL HOME`Sの独自データをもとにランキング調査を行った。
ファミリーに人気の10自治体のうち「住みやすさの割に家賃が安い駅」はどこ?
まず、2021年の住民基本台帳人口移動報告による0~14歳の転入超過数の多い上位10自治体は以下の通りである。東京都から2市、埼玉県から1市、千葉県から4市、神奈川県から3市の名前が挙がっている(※今回のランキング対象自治体は1都3県に絞るものとする)。
ファミリー層が住まいを探すとき、自治体の子育て支援制度だけでなく、交通利便性、住環境、部屋の広さなど、さまざまな要素が検討要素になる。求めるものは家族ごとに千差万別であるが、この記事では子育て世帯が重視するであろうポイントを「駅周辺環境」と「家賃」とし、(表1)に示した10自治体の中で「住みやすさの割に家賃が安い駅」について、以下の算出方法で調査を行った(図1参照)。
【算出方法】
本ランキングでは、「駅周辺の施設充実度が高い」ことを「住みやすい」と定義し、対象駅周辺の充実度から算出した「理論家賃」に対し、実際の平均賃料がどのくらいかを割合で示したもの(理論家賃比率)を集計、理論家賃に比べ実際の平均賃料がより安い駅のランキング化を行った。
駅周辺の施設充実度は、LIFULL HOME`S住まいインデックス(※2)で用いられるWalkability Indexの「総合スコア」をもとにしている。
※Walkability Index(ウォーカビリティインデックス)とは:駅から徒歩15分以内でアクセス可能な施設(スーパー、コンビニ、公園、飲食店、カフェ、文化施設、子育て・教育施設、医療施設など)を、分類ごとの周辺立地数をもとに、その充実度を100点満点でスコア化したもの。東京大学・株式会社日建設計総合研究所が共同で研究・開発を進めている、不動産の立地環境を暮らしやすさの観点から指標化した日本初のデータ。
どのような駅がランキング上位となったのか、結果を見ていこう。
1位は「八王子」駅、2位は「町田」駅、多摩地域の中心駅が上位に
集計対象となる駅は10自治体に所在する、計238駅。ランキングトップ10には1都3県それぞれからランクインがあり、神奈川県横浜市の駅が最も多い4駅を占める結果となった(表2)。ランキング結果30位までを地図上にプロットすると(図2)のようになる。東京都心からほぼ同心円状に、準郊外のターミナル駅にランキング上位駅が点在し、その周辺駅が準じる形でランクインしていることが分かる。
全体1位となったのは、「八王子」駅(東京都八王子市)。多摩エリア最大の人口約58万人を擁する八王子市の中心駅である。
「八王子」駅の「駅周辺充実度」は100点満点のうち87.9ポイント。上述した通り、駅から徒歩圏内のスーパー、コンビニ、公園、飲食店、カフェ、文化施設、子育て・教育施設、医療施設など、さまざまな生活に必要な施設が駅周辺に充実していることを示している。「八王子」駅周辺は百貨店の撤退が目立った時期もあったものの、駅前の再開発が進み新たな商業施設が誕生したり、「西放射線通り商店街」をはじめ昔ながらの商店街も多く残っていたりと、子育て世帯にうれしい生活利便施設が駅前に密集している。また、カテゴリー別に見た医療施設数スコアは上位30駅の中で「関内」駅に次ぐ2位となっている。
「八王子」駅は今回の対象駅の中で「理論家賃比率」が41.8%と最も低く、1位となった。理論家賃比率は【平均賃料÷理論家賃】から求められ、「駅周辺充実度」から算出した”これだけ住環境が整っていれば、このくらいの家賃が妥当であろう”という理論家賃に比べ、実際の平均賃料は41.8%、つまり半額以下(58.2%OFF)の家賃相場で借りられることを意味している。
また、駅周辺の住環境だけでなく、高尾山に代表されるように豊かな自然に恵まれていること、21の大学が所在する学園都市であることも子育て世帯にとって大きな魅力といえるだろう。3位に入った「京王八王子」駅は、「八王子」駅から徒歩4分余り。「八王子」駅周辺の住環境に対する家賃のコストパフォーマンスの高さが際立つ結果となった。
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関連リンク:八王子駅周辺の徒歩圏の施設充実度を見る【LIFULL HOME`S住まいインデックス】
2位は「町田」駅(東京都町田市)。理論家賃比率は42.8%と、「八王子」駅に一歩及ばなかったが、多摩エリアを代表する2市の中心駅が上位に名を連ねる結果となった。多摩地域の鉄道路線全駅の中で最も1日の平均乗降者数が多い「町田」駅は、「駅周辺充実度」が89.4ポイントと、上位30位の中で「関内」「藤沢」に次ぐ3位となっている。また「町田」駅の平均物件数は上位30位の駅の中で1位と、ファミリー向け物件の選択肢が豊富なことも魅力といえるだろう。
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4位は横浜の副都心「上大岡」駅、5位は「茅ケ崎」駅
ランキングトップ10には、6位に「千葉」駅(千葉県千葉市中央区)、7位に「大宮」駅(埼玉県さいたま市大宮区)など、東京都心部から電車で概ね30~50分程度で到着するターミナル駅がランクインしている。さらにトップ10の駅に共通する点として「八王子」駅、「上大岡」駅(神奈川県横浜市港南区)、「千葉」駅、「大宮」駅など、近年駅前再開発が進められてきた、もしくは開発が進行中の駅が多くランクインしていることが挙げられる。
4位の「上大岡」駅は"横浜市の副都心"とされ、京浜急行の停車駅の中で横浜・品川に次いで3番目に駅別乗降客数が多い駅である。1980年代から2010年代にかけ、駅周辺をA地区からC地区まで区分けし大規模な再開発計画が進められてきた。横浜市都市計画マスタープランにおいて「上大岡」駅は、"主要な生活拠点"と位置づけられており、住みやすさを重視した街づくりが行われている。子育て施設充実度も87.0ポイントと、上位30位の中で6位となっているほか、飲食店、スーパー、公園など、カテゴリーごとのバランスがいいことも特徴だ。生活利便性を高める施設が過不足なく密集していることを表している。さらなる地区整備のため、地元町内会・商店街の住民を中心に街づくり組織「上大岡副都心マスタープランの会」が組織され、新たな再開発計画も検討が進んでいるという。
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5位となったのは「茅ヶ崎」駅(神奈川県茅ヶ崎市)。茅ヶ崎駅南地区が整備されたのは1970年代だが、その後も開発が進み、2015年には茅ヶ崎駅直結の駅ビル「ラスカ茅ヶ崎」が店舗面積を約1.8倍に増床リニューアルするなど、利便性も向上している。都心の主要駅へ乗り換えなしでアクセスできる利便性がありながら、江の島や藤沢にもほど近く、海を身近にのびのびと子育てをしたいと考える人にとって選択肢に挙がりやすい駅といえるだろう。
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今後さらに家賃がお得に?大規模再開発が進行中の「大宮」駅、「千葉」駅に注目
「住みやすさの割に家賃が安い」という視点で注目したいのは、上位30駅の中でも今まさに再開発が進んでいる駅、またはこれから計画されている駅だ。「町田」駅、「大宮」駅、「千葉」駅、22位の「関内」駅(神奈川県横浜市中区)などが該当する。
「大宮」駅は、2019年の大宮区役所・大宮図書館の移転オープンをはじめ、駅周辺の大規模再開発が続々と進んでいる。 今回のランキングに用いた「駅周辺充実度」は2022年1月時点の施設数を反映したものだが、今後数年にわたり大宮駅西口一帯の大規模開発が予定されており、「駅周辺充実度」はさらなる上昇が想定される。再開発によって賃貸の需要がアップすれば、公示地価や周辺物件価格の上昇に応じて家賃相場も上がる傾向にあるが、家賃の改定は入居者が入れ替わるタイミングで初めて行われることが多い。賃貸相場は不動産市場の中でやや遅れて変化が起こることを考えれば、これから再開発が進む街に早い段階で住むことは、支払う家賃の割に便利で快適な暮らしを享受しやすい、ということになるであろう。
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「大宮」駅と同様、「千葉」駅も千葉市の主要な玄関口として機能するよう、東口、西口ともに2023年完成を目指して再開発が進められている。また、今回のランキングでは再開発が進む「千葉」駅から徒歩約10分の「東千葉」駅が13位、徒歩約9分の「千葉中央」駅が19位、「千葉」駅に近接する「新千葉」駅が26位に入った点にも注目したい(いずれも千葉県千葉市中央区)。
全対象駅のうち「駅周辺充実度」が93.2ポイントと最も高かった「関内」駅も、2020年の横浜市庁舎移転を契機として新たな商業施設やスポーツ施設など、新たな街づくりが着々と進んでいるが、今回のランキングでは「千葉」駅周辺と同様の傾向が見られた。トップ10にランクインした「阪東橋」駅、「黄金町」駅(いずれも神奈川県横浜市南区)は、「関内」駅に徒歩でアクセス可能な駅だ。「阪東橋」駅は、3路線が利用できる上に観光地機能も高い「関内」駅から徒歩約15分の立地でありながらも家賃が安く、「伊勢佐木モール商店街」と「横浜橋商店街」に挟まれ生活利便施設が集積している。夜間の治安への懸念はややあるものの、横浜エリアで働くファミリー世帯にとって選択肢に挙がりやすい駅だろう。
上記に挙げたように、再開発が進む「千葉」駅や「関内」駅から徒歩圏内で住まいを探せば、新しい街の利便性を享受しながらも家賃はやや抑えて暮らすことができる、といえるだろう。
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街の移り変わりを可視化し、子育て世帯の住まい選びの軸に
子育て世帯が集まる自治体は、やはりそれなりの理由がある。例えば、上位30駅の中で最も多くランクインした自治体は横浜市であるが、「駅周辺充実度」の「子育て施設充実度(保育所・小学校)」のカテゴリーでみた場合も、最もスコアが高い駅は「京急鶴見」駅、続いて「鶴見」駅、「戸塚」駅であった。横浜市の待機児童は2022年4月1日時点の待機児童数は11 人(※3)と減少傾向であることからも、子育て支援に力を注いでいることが窺える。
多くの自治体では掲げるビジョンをもとに、中核となる駅に注力し人が集まる街づくりを進めている。街が変わることで人が集まり、人が増えることで、またそのニーズを満たせるよう新しいものが生まれていく。今回上位にランクインした駅や周辺駅は、そのような新陳代謝が自然と生まれやすく、ライフスタイルの変化が早い子育て世帯にとって住みやすい街といえるのではないだろうか。LIFULL HOME`S PRESSでは、今後も最新の街データをもとにさまざまな駅ランキングを発信していきたい。
【ランキングデータ概要】
・対象自治体:埼玉県さいたま市、千葉県千葉市、東京都町田市、千葉県流山市、千葉駅柏市、神奈川県藤沢市、千葉県印西市、神奈川県横浜市、神奈川県茅ヶ崎市、東京都八王子市
・対象駅:上記10自治体に所在する、対象物件が月初時30件以上掲載された月が6ヶ月以上ある計238駅
※平均賃料30万円以上の3駅(新高島・みなとみらい・元町中華街)は集計対象から除外
・対象物件:築40年以内、駅徒歩15分以内、1R・1Kは除く賃貸マンション
・対象期間:(物件)2021年3月~2022年3月、(駅周辺充実度)2022年1月時点 ※駅周辺充実度は定期的に更新されます
・分析:株式会社LIFULL LIFULL HOME’S事業本部 リサーチグループ
※データ使用や詳細データのお問合せは、LIFULL HOME`S PRESS編集部(homes-press@LIFULL.com)までご連絡ください。
【参考】
・「住みやすさの割に家賃が安い駅ランキング」上位駅の詳細情報をチェックする:LIFE LIST
https://www.homes.co.jp/life/cl-kurashi/cm-family/28235/
(※1)住民基本台帳人口移動報告2021年(令和3年)結果の概要
https://www.stat.go.jp/data/idou/2021np/jissu/pdf/gaiyou.pdf
(※2)各駅の「駅周辺充実度」を見る:LIFULL HOME`S住まいインデックス
https://lifullhomes-index.jp/
(※3)横浜市記者発表資料 こども青少年局保育対策課資料より
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kosodate-kyoiku/hoiku-yoji/taiki/taikijidoutaisaku.files/0023_20220510.pdf
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