コロナ禍のダイヤ改正は異例の一斉終電繰り上げ
飲み会の席で終電時刻を気にしながら「もう一杯いける!」などと粘った経験がある人は多いだろう。終電時刻が早い人は“終電格差”を憎みながら一足先においとまするというのも、よくある光景だ。コロナ禍でのリモートワークの浸透や飲食店の時短営業によって、そういった終電間際のせめぎあいも減っているが、2021年春、この終電格差ががらりと変わりそうだ。2020年12月18日、JR東日本は翌年3月13日に実施するダイヤ改正の概要を発表した。コロナ禍で通勤風景が様変わりした中でのダイヤ改正は、東京から100km圏内の各路線で終電時刻を繰り上げるという内容だ。首都圏は多数の鉄道事業者による相互乗り入れが盛んに行われていることもあり私鉄各社の動向が注目されたが、2020年12月末までに関東の大手私鉄全社が終電繰り上げを発表するなど、前代未聞のダイヤ改正となる見通しだ。
一連の動きの背景にあるのは、コロナ禍での深夜時間帯の利用減少だけではない。鉄道では深夜の列車が動かない時間帯に線路保守作業を実施しているが、JR東日本ではその作業員数が過去10年で2割減少し、今後も人手不足が予想されている。一方でホームドア設置などで工事量は増加、機械化に伴う大型機械の搬出入時間の発生もあり、人員と作業時間の不足がかねてからの課題であった。コロナ禍での利用減少が、終電繰り上げによる働き方改革に踏み出すきっかけを与えたというわけだ。終電格差を痛感する機会が減ったとはいえ、終電時刻は住む町を決める一要素であることは確かだ。2021年春のダイヤ改正以降、終電格差はどう変わるのだろうか。各ターミナルからの終電発車時刻が遅い街をランキングにまとめた。
【ランキングの基準】
平日ダイヤで、各駅に到達する列車の発車時刻が遅い順。なお、山手線内の駅は除外。2021年春以降のダイヤについて発表のない横浜市交通局、ニューシャトル、千葉都市モノレールはランキングから除外し、参考として記載。
【留意事項】
2021年2月5日までの各社局からの発表に基づいて作成。記事は2021年春のダイヤ改正に関する内容であり、緊急事態宣言の発出および国・関係自治体からの要請を踏まえ、一部事業者で1月20日より実施される終電付近の一部列車の運転取りやめとは異なる。1月20日以降の終電付近の一部列車の運転取りやめについては記事下部のリンクを確認いただきたい。
・JR山手線
終電付近の深夜時間帯で利用が最も減っているのはJR山手線で、0時台は約40%減少している。3月13日のダイヤ改正以降は、外回りで各駅16~19分繰り上げ、内回りは上野、東京、品川こそほぼ現行どおりだが、池袋、新宿、渋谷では19分の繰り上げとなる。本項下部にJR山手線の改正予定時刻を掲載しているので、ランキングと併せて各終電に乗り換えが可能な列車を確認いただきたい。
新宿駅からは中央線の優位性低下が目立つ
・新宿駅
今回のダイヤ改正で最も影響を受ける沿線のひとつがJR 中央線だろう。同線は⾧年首都圏で最も遅くまで運転している路線の座に君臨してきたが、2020 年3 月の改正で武蔵小金井より先に達する最終電車の新宿発車時刻が11 分繰り上がり、その座をJR 高崎線に譲っていた。今改正でさらに26~30 分繰り上がり、1 年で計40 分以上早まることになる。買って住みたい街ランキング上位の三鷹や八王子など沿線に人気エリアを擁するJR 中央線だが、終電時刻という観点では優位性が大きく下がる。ランキングに目を移すと、JR 中央線各駅停車が現行の新宿1:01 発から0:52 発と9 分繰り上がるものの1 位の座を堅持。しかし元々三鷹行だったものが手前の中野止まりとなるため、高円寺、荻窪、吉祥寺などの沿線各駅は26 分の大幅繰り上げとなり1 位→5 位に、西武新宿駅から発車する西武新宿線も新所沢から都心寄りが28 分繰り上がり6 位→ランク外の13 位と大きく順位を落とす。西武新宿線沿線では、都営大江戸線も通る中井だけが都営大江戸線に救われ、実質1 分の繰り上げで済む。都営線は今改正では異例の「繰り上げない方針」を発表した。終電時刻が「元々早い」というのが理由だが、都営線沿線の各エリアは相対的に終電格差を縮めることになる。その他東京メトロ線は10 分前後、小田急線は10 分弱、京王線は15 分前後の繰り上げを予定する。京王線は先んじて2020 年10 月30 日にダイヤ改正を実施し、終電繰り上げは実施していないものの朝夕の座席指定列車「京王ライナー」を増発。密を避ける通勤ニーズに応える。
・池袋駅
新宿駅に次ぐ利用者数を誇る池袋駅はどうだろうか。西武池袋線が30分近く、東武東上線は10分台の繰り上げとなる。両線でそれぞれ池袋から約30kmの距離に位置する小手指と川越市に達する終電は元々池袋駅を同時刻に発車していたが、今回のダイヤ改正で東武東上線沿線が優位になる見込みだ。東武東上線は朝の座席指定制列車「TJライナー」も増発する予定で、新しい生活様式に対応した通勤を推進する。終電時刻の優位化と相まって、混雑を避けたい通勤ユーザーからの人気が高まるかもしれない。
・渋谷駅
渋谷駅では、東急線沿線の多くが20分以上繰り上がるのに対して京王線沿線は15分~20分程度の繰り上げにとどまる。ランキングでは東急線沿線と京王線沿線が逆転する結果になった。
東西格差が生じる東京駅 東海道線は遠近格差が縮小
・東京駅/大手町駅
東京駅・大手町駅からの終電時刻は、JR京浜東北線蒲田行が1位を維持。繰り上げ幅の小さい地下鉄沿線の都内各駅が上位を占める中で、JR線にしては繰り上げ幅の小さかったJR京葉線が4位と健闘。舞浜や新浦安を経て千葉県の新習志野まで達し異彩を放つ。JR線と比べて地下鉄各線は繰り上げ幅が小さいが、大手町から西に向かう東京メトロ半蔵門線と都営三田線は、直通先の東急線が大幅繰り上げ予定のため、両線の最終列車とも東急線との直通・接続を行わなくなり、東京・大手町エリアから城西方面へ到達する列車の発車時刻は大幅に早まる。城東方面の玄関口を担う東京・大手町エリアでは、これまで武蔵小金井や鷺沼、奥沢といった城西方面へも城東方面とほぼ同時刻まで終電が確保されていたが、今回の中央線と東急線の大幅繰り上げによって東西で終電格差が生じそうだ。
・品川駅
品川をターミナルとする京急線は元々終電時刻が比較的早かったが、今回さらに優等列車を中心に最大30分の繰り上げとなる。JR京浜東北・根岸線の蒲田以遠も最大33分繰り上がり、神奈川県に達する列車は0:09発のJR京浜東北・根岸線桜木町行が最後となる。JR東海道線は0:04発の平塚行が繰り上げなしで、元々38分差あったJR京浜東北線桜木町行との差が5分に縮まるのをはじめ、国府津行きも6分繰り上げにとどまるなど、都心と郊外の終電格差が一気に縮まる。京急線では上大岡~品川間の都心寄りの各駅を通過する朝の着席保証列車「モーニング・ウィング号」が、車両を新造した上で5月より一部列車で車両を増結、座席数を拡充する。神奈川方面はコロナ禍で高まる郊外志向を後押しするダイヤ改正となりそうだ。
・上野駅
上野駅はJR常磐線快速松戸行が1位を維持するものの、上野発車が20分以上繰り上がるのはJR常磐線沿線だけとなり、優位性が下がる。上野~東京~品川の各ターミナルを通るJR京浜東北線は南行・北行ともに遠距離ほど繰り上げ幅が大きく、南行の桜木町行は32分繰り上げ、北行の大宮行も23分繰り上げとなる。一方、北行の最終である上野行の1本前の列車(山手線外へ行く最後の列車)が、赤羽行から南浦和行に延長されることにより、両駅間の川口、西川口、蕨の3駅は実質1分の繰り上げにとどまり順位を上げた。コロナ禍での借りて住みたい街ランキングで順位を上げた西川口(20位→6位)と川口(32位→19位)にとっては終電時刻においても優位性を増すダイヤ改正となる。
「繰り上げない方針」の都営線沿線がランクアップ
・その他の山手線接続駅
その他JR山手線と接続する駅では、目黒からの東急目黒線が最終の1本前の日吉行が武蔵小杉行に短縮され、最大15分の繰り上げ。五反田からはもともと東急池上線の終電が都営浅草線最終より遅い発車だったが、東急池上線のみ繰り上げ、都営浅草線は繰り上げなしで、同時刻の発車に。秋葉原でも至近の岩本町から発車する都営新宿線のみ繰り上げなしで、住吉、大島、船堀、瑞江といった都営線沿線がランキングを上げてJR沿線と遜色がない発車時刻となる。つくばエクスプレスでは、途中守谷までの終電が11分繰り上がる一方、終点つくばに達する終電は繰り上がらず、遠近での終電格差が縮小する。JR中央・総武線は、新宿~八王子と秋葉原~千葉は、どちらも約37kmの距離だが、前者は30分短縮で新宿0:00発、後者は14分短縮で秋葉原0:08発となり、東西の各ターミナル発車順が逆転する。駒込から赤羽岩淵へ向かう東京メトロ南北線および直通先の埼玉高速鉄道線は、現行から最大3分の繰り上げ、その他ゆりかもめや日暮里舎人ライナーは都営地下鉄同様繰り上げを行わない方針。東京モノレールは繰り上げを実施するが詳細は未発表だ。東京モノレールも終電を14分繰り上げるとともに、減少する空港アクセス需要を受け、終日にわたり22%の減便に踏み切る。
近年利便性を高める相鉄線は?
・横浜駅
神奈川県各地への路線を有する横浜駅は、トップ3の顔ぶれはJR根岸線沿線と東急東横線沿線のまま変化はないが、その時刻は30分程度の大幅繰り上げとなる。次いで、繰り上げ幅が少ない相鉄線沿線が順位を上げ、30分前後の繰り上げとなる日吉や武蔵小杉などの東急東横線沿線を逆転する見込みだ。相鉄線は2019年に新宿への直通運転を開始、2022年度には東急線との直通運転開始も予定されており、他社沿線に引けを取らない利便性になりつつある。なお、横浜市営地下鉄は2 月4 日発表の「令和3年度 交通局予算概要」にて、「地下鉄ブルーライン・グリーンラインの終電時間の繰り上げなどのダイヤ改正を実施」と明記しているものの、具体的な時刻は未発表のため、ランキングに含んでいない。現在はあざみ野行が0:32 発、上永谷行が0:20 発である。
大宮からは遠近で明暗が分かれる
・大宮駅
大宮から分岐するJR宇都宮線とJR高崎線は、遠近で明暗が分かれそうだ。宇都宮と高崎へはどちらも営業キロで70km弱。両駅へ達する終電はそれぞれ26分、23分の繰り上げとなる一方、中間の主要駅である小金井と籠原までの各駅は繰り上げなしとなる。両線とも大宮を最後に発つ列車の時刻に変更はないものの、行先が短縮されるためだ。なおランク外だが新前橋は今回のダイヤ改正で最も繰り上がる駅となり、終電の大宮発車時刻は現在より38分も早くなる。大宮を起点として東へ延びる東武アーバンパークラインは繰り上げを実施しない予定で、沿線の各駅はランクアップする。
・千葉駅
千葉では、東京寄りのJR総武線が繰り上げを実施する一方、JR外房線・内房線・総武本線は繰り上げを実施しない。JR総武線は他線が運転を終了した後も50分程遅くまで運行を続けていたが、28分の繰り上げとなることで房総方面との終電格差は縮まる。
このように、一斉終電繰り上げの実施で終電格差は大きく変わる。終電格差の変化や密を避ける施策が、各沿線のイメージや人気にどれ程の影響を与えるだろうか。なお、ほとんどのエリアで利便性は下がることになるが、コロナ禍が収束しても元に戻ることはないと思われる。先述の通り、コロナ禍はあくまできっかけであり、今回のダイヤ改正の本質は働き方改革であるためだ。事業者によっては、時間帯別運賃の導入など、さらなる改革を見据えている。歴史的には、鉄道網の広がりや新幹線による高速化など、鉄道の形が日本経済の形をつくってきた。来るダイヤ改正が、日本経済の次なる形をつくる第一歩となるかもしれない。
【1月20日実施の終電付近の一部列車の運転取りやめについて】
JR東日本 / 小田急電鉄 / 西武鉄道 / 東武鉄道 / 東急電鉄 / 京浜急行電鉄 / 京成電鉄 / 相模鉄道 / 東京メトロ / 東京都交通局
【参考サイト】
JR東日本
https://www.jreast.co.jp/press/2020/20201218_ho01.pdf
小田急電鉄
https://www.odakyu.jp/news/o5oaa1000001v1lj-att/o5oaa1000001v1lq.pdf
京王電鉄
https://www.keio.co.jp/news/update/news_release/news_release2020/nr20210205_daiyakaisei.pdf
西武鉄道
https://www.seiburailway.jp/news/news-release/2021/20210126_daiyakaisei.pdf
東武鉄道
https://www.tobu.co.jp/cms-pdf/releases/20210126140455jW-dd1SriaYe3dhM3z0pXw.pdf
東急電鉄
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20210126-1.pdf
京浜急行電鉄
https://www.keikyu.co.jp/company/news/2020/20210127HP_20136EW.html
京成電鉄
https://www.keisei.co.jp/information/files/info/20210127_153216809636.pdf
相模鉄道
https://cdn.sotetsu.co.jp/media/2021/pressrelease/pdf/r21-07-b9h.pdf
東京メトロ
https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews210126_1.pdf
公開日:











