住宅弱者増加の時代。LIFULLらが共同研究プロジェクト始動

会見は麹町のLIFULL本社で実施された会見は麹町のLIFULL本社で実施された

日本社会では高齢化が急速に進んでおり、その結果、高齢者や障害者など、住まいに関して特別な配慮を必要とする「住宅弱者」の数も増加している。

しかし現状では、自らの心身の変化に対応しながら安心して住み続けることができる住宅を、住まい手自身が選択・判断するための“客観的な情報”や“指標”が十分に整備されているとは言い難い。
不動産検索や不動産会社で物件情報を見たとしても、ハンディキャップがある人の場合、その物件に住み続けられるかがわかりづらい現状がある。
たとえ“バリアフリー対応物件”と紹介されていても、建物がどれくらい老朽化しているか、建物から居室に至るまでの段差の有無や段差があれば自力でクリアできる高さか、住み替えや転居がしやすい物件なのか…。バリアフリー対応の文言はあれど、結局のところ現地へ行かねばわからないのだ。
バックグラウンドによって住める場所が限られてしまう不公平が、課題として指摘されている。

住宅弱者も含め、誰にでもわかりやすく、誰にとってもよりよい暮らしとまちづくりの社会実装を目指し、産学連携となる「住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する共同プロジェクト」が発足。
株式会社LIFULL(以下、LIFULL)、株式会社日建設計(以下、日建設計)、株式会社日建設計総合研究所(以下、NSRI)、インクルーシブデザインスタジオ CULUMU(以下、CULUMU)が参画し、東京大学との共同研究が始まった。

2025年10月29日、プロジェクト発足の発表会見と、共同研究の第一弾となる「住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する実態調査」の発表会が行われた。
本記事では、参加企業・団体の代表者を招いた会の様子をレポートする。

産学連携でインクルーシブデザインを実践する社会へ導く

住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する共同プロジェクトwebサイト住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する共同プロジェクトwebサイト

インクルーシブデザインとは、当事者を交えたデザインプロセスを指す。考案・設計において、障害のある人や高齢者、外国人など、従来のプロセスでは取り残されがちな多様な人々を、企画などの初期段階から巻き込んで、共に創り上げていくデザイン手法だ。

住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する共同プロジェクトは、不動産ポータル事業を手掛ける「LIFULL」、建築設計や都市デザインを手掛ける「日建設計」、建築やまちづくりに関する調査・企画・コンサルティングを行う「NSRI」、インクルーシブデザインのアプローチで社会課題の解決と事業開発・支援を行う「CULUMU」の4社に加え、障害者の居住・建築環境について調査研究を行う東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 松田研究室が参加。
5つの社・機関共同による調査研究から得た課題やニーズを明確化させ、都市開発、大規模な宅地造成、マンションやビルの開発などにおいて、インクルーシブな着想を推進していく取組みだ。

イベントは前後半の2部構成になっており、前半では研究に先駆けて行われた「住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する実態調査」の結果発表が行われた。

後半では、産学連携の意義、今後の展望についてパネルディスカッション形式で意見が交わされた。

バリアフリー対応 調査でわかった当事者層と一般層の意識と現実の大きなギャップ

LIFULL 龔氏(画像左)とCULUMU 桑原氏(画像右)LIFULL 龔氏(画像左)とCULUMU 桑原氏(画像右)

プロジェクトの取組み第一弾となる「住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する実態調査」は、LIFULLとCULUMUの共同で行われた。
発表の進行と解説はLIFULLの龔 軼群(キョウ・イグン)とCULUMUの桑原寿記氏の2名が担当した。

今回の調査の目的は、高齢者や障害者など、従来のデザインプロセスから取り残されがちな「住宅弱者」のニーズと一般層の意識を比較し、既存のバリアフリーや住宅供給の構造から抜け落ちている課題を見つけ出すことにある。

背景には、日本の住宅と身体障害者との間に生じている課題がある。
身体に不自由を抱えている人の場合、住宅の中に物理的な障壁が生じがちであること、その障壁から物件探しが困難になる現状があるのだ。
人の手によって造られた“家”の物理的な問題であるならば、造る段階のデザインのあり方を見直す必要がある。
障害のある当事者層に対し、本人もしくは家族に障害のない一般層は“バリアフリー”をどう捉えているか、本調査では身体的なハードルにフォーカスし、実態を調査するに至った。


実態調査概要
本調査では、一般層向け調査(①)と当事者向け調査(②)の2種類を実施。
調査期間:①2025年8月26日(火)〜2025年8月27日(水)
     ②2025年9月4日(木)〜2025年9月16日(火)
調査方法:①インターネット調査
     ②アンケート調査
調査対象:①全国20歳以上の630名(うち、本人もしくは家族に障害のある方99名)
     ②全国20歳以上の本人もしくは家族に障害のある方61名
調査主体:①株式会社LIFULL
     ②Inclusive Design Studio CULUMU


自由回答も含めた16の設問に及ぶ調査の結果が発表される。調査結果の概要はLIFULL公式サイト でも公開されているので参照いただきたい。

解説の中でも注目すべき結果は、「バリアフリー住宅の検討経験」と「バリアフリーの必要性について」だ。

LIFULL 龔氏(画像左)とCULUMU 桑原氏(画像右)「バリアフリー住宅への住み替え・購入、または改修を検討したことがあるか」

「バリアフリー住宅への住み替え・購入、または改修を検討したことがあるか」の設問にて、一般層の約90.1%が「検討したことがない」と回答。
当事者層は4割弱が検討経験があるが、約6割(58.2%)は検討したことがない、という結果が明らかとなった。

検討しない理由は、一般層の場合「本人・家族ともに元気で必要性を感じない」「現在の住まいに不便を感じていない」など、寄せられた自由回答からは危機感が低い印象を受けるものが多かったという。

一方の当事者層では、「費用が高そう」「賃貸住宅のため自由に改修できない」など、自身では解決できない社会的な構造上の問題が背景にあることがわかった。

ただし、両層ともに年齢が上がるにつれて検討割合が少しずつ増加する傾向が見られたうえ、検討の背景には「家族または自身の高齢化に備えるため」「障害のある家族がいる/将来的に生じる可能性がある」の回答が高いポイントを占めている。
このことから、将来的な備えから現実的に必要なものへと意識の変化が生じている様子がうかがえる。


また、「現在の住まいにおいて、あなたまたはご家族にとってバリアフリーの必要性を感じるか」の問いへの回答でも、大きな傾向の違いが見受けられた。

一般層は「非常に必要」「ある程度必要」と感じているのは約3割弱(28.3%)。
当事者層は「非常に必要」「ある程度必要」と感じているのは6割弱(57.1%)との結果になった。当事者は強い課題感を抱いているが、先のバリアフリー住宅の検討経験の設問で「検討したことがない」が約6割だったことから、やはり社会的構造や費用面から解決できていない現状が浮き彫りになった。

調査を通じ、バリアフリーに対する日本人の意識について龔氏は触れる。
バリアフリーは自分の身に危険が及んだあとになって考える“後付け”の認識が高いと分析。インクルーシブデザインによって建てられた物件であれば、事前の対応が備わった家として付加価値が付くのではと、プロジェクトの意義をにじませた。

また、桑原氏は自由回答に寄せられた当事者層の声から、障害の種類や程度の違いによって、バリアフリー化のために具体的に何が必要かが変わってくることを指摘。
今後のヒアリングによって明確にすることに加え、インクルーシブデザインの正しい知識を各分野に広めていきたい、と抱負を語った。

LIFULL 龔氏(画像左)とCULUMU 桑原氏(画像右)「現在の住まいにおいて、あなたまたはご家族にとってバリアフリーの必要性を感じるか」

産学それぞれの立場から インクルーシブな住まい実現への課題共有

左から、LIFULL 龔氏、日建設計 西氏、東京大学 松田氏、NSRI 今枝氏、CULUMU 川合氏、桑原氏左から、LIFULL 龔氏、日建設計 西氏、東京大学 松田氏、NSRI 今枝氏、CULUMU 川合氏、桑原氏

後半のパネルディスカッションでは、「調査結果を踏まえて、良かった点と見えてきた課題感」と「これまでの調査研究や官民の取組みにおける課題とは」をトピックに登壇者の活発な意見交換がなされた。
日建設計からは西勇氏、NSRIからは今枝秀二郞氏、CULUMUからは前半に引き続き桑原氏とCDOの川合俊輔氏、東京大学准教授松田雄二氏を迎え、ファシリテーターをLIFULLの龔が務めた。

最初のトピック「調査結果を踏まえて、良かった点と見えてきた課題感」に関して、CULUMU川合氏は以下のように語る。

「今回はまだ基礎的な調査で、これから本格的に『どう解決していくか』というアクションに入ろうという段階です。今後も当事者の方々から勉強させていただいたり、様々な知見を積み重ねていったりする必要があります。これからプロジェクトとして、この取組みを社会実装していくというところにリアリティを感じています」

左から、LIFULL 龔氏、日建設計 西氏、東京大学 松田氏、NSRI 今枝氏、CULUMU 川合氏、桑原氏CULUMU 川合氏
NSRI 今枝氏NSRI 今枝氏

次に、なぜ今、住宅やまちづくりにインクルーシブデザインを取り入れる必要があるのか、日本の現状について、建築計画の調査研究を専門とする二者、NSRIの今枝氏・東京大学の松田氏がそれぞれの見解を説明した。

今枝氏「移動だけでなく、住まい領域、街中の安全性を考えるうえで、インクルーシブデザインを採用することは非常に大切です。それに加え、国との連携も重要だと考えます。私たちシンクタンクと松田教授と共同研究を行い、結果や知見を国とも共有し、官民連携でガイドライン等の施策や制度化に貢献できたらと思っています」

松田氏「国が主導する施策は主に施設が対象のため、比較的大規模な施設のバリアフリー等のガイドラインは整備されつつあります。ですが、住宅は民間ベースで進んできたため、制度化が十分に進んでいない状態にあると思います。そのため、声の小さな人、少数の人々のニーズはどうしても排除されてしまう状況が残されています。だからこそ、民間での共創によって、住宅を供給する側にインセンティブを与えるような社会の動きをつくることができると期待を寄せています」

東京大学 松田氏東京大学 松田氏

日本の現状に即した手法を模索 指標づくりでインクルーシブデザインの社会実装を目指す

日建設計 西氏日建設計 西氏

続いて、一級建築士でもある日建設計の西氏が、インクルーシブデザインについてどういったプロセスで行われているのか、インクルーシブデザインを通じて建築された海外の事例を、写真を交えて解説した。

日建設計 西氏当事者参画アクセシビリティへのアプローチの違い

なかでも興味深いのは、日本と他国との「当事者参画アクセシビリティへのアプローチの違い」だ。
建築のプロセスは大まかに各国大差はないのだが、当事者参画のタイミングが異なるのは、建築プロセスにおいて当事者に求める情報が異なるためと、国ごとの政策が異なるためと説明。
日本の場合、基本設計(建物の土台となる基礎を安全に構築するために、地盤の状況や建物の重さなどを考慮して、基礎の構造やサイズ、配置などを決定する設計段階)と実施設計(基本設計で決まった内容を、実際に工事ができるようにするための詳細な設計段階)の部分で当事者参画が色濃くなるのは、公的基準ガイドラインが優勢であるためだと解説した。

西氏「日本では街中で障害のある方を目にすることが少ないのですが、海外に行くとよく見かけます。都市の構造の違いで社会進出のしにくさにも違いがあるのではないかと思います」

日本の様式にフィットするデザインプロセスを模索することが、住宅や街だけでなく社会的構造をもユニバーサルなものへと変えていく可能性を彷彿とさせる。

会は総括へ向かい、今後の活動と取組みに関しての話題へと移る。
今回の実態調査から見えてきた課題を精査し、次のフェーズではその解決のためインクルーシブデザインの指標を検討・開発していくという。
その先で、インクルーシブデザインのプロセスが市場に導入されることが標準化される世界線を目指す。

桑原氏「私たちの実践は、ステークホルダーや設計事務所、不動産ディベロッパーの方々と一緒に取り組まないとなかなか前に進めていくことができません。一緒に取り組んでいく“仲間”を増やしていきたいと思っています」

龔氏「プロジェクト名に『住まい』だけでなく『まちづくり』を含めているのは、住まいは周辺環境も含めた暮らしであり、まちづくりのあり方によって移動の選択肢も広がるため、その範囲も含めて取り組みたいと考えています。不動産ポータルサイトとして、ユーザーに伝える物件情報に、環境配慮では省エネ基準が導入されたように人の多様性の包摂では“インクルーシブ指標”を導入したいです」

フォトセッションを経て、来場者との質疑応答が行われ、会は終了した。

市場と社会を動かす力に 民間主導のインクルーシブデザインの可能性

国とは役割が違う民間が取組み、国と連携を取ることでより良い生活環境を作り出すことが期待される国とは役割が違う民間が取組み、国と連携を取ることでより良い生活環境を作り出すことが期待される

質疑応答の場面では、「民間主導で住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに取り組むメリットとして、ガイドラインの数値優先ではなく、定性的な形で構築できる点がある」と、民間だからこその協働の良さを今枝氏は語っていた。

また、インクルーシブ指標やインクルーシブデザインの市場への導入によって、住まいを探すユーザーだけでなく、オーナー側にも対応へのインセンティブが生まれると松田氏は補足。
“生涯住み続けられる住宅”という価値観を創出し、市場の広がりにもつながるのではと、川合氏は予測している。

人や社会の幸福度には多様性に寛容であることが大いに関係している、という研究がある。
人の暮らしの受け皿である“住まい”と“街”が造られる段階からインクルーシブであることは、完成された住まいと街に暮らす人の幸福度にも直結してくるはずだ。
共に考え、創り出すインクルーシブデザインが、社会的構造のモデルをも変えていき、物心ともに安心で豊かな暮らしにつながる未来に期待したい。

■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。

■住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する共同プロジェクト
https://lili.culumu.com/

■調査レポート「住まい・まちづくりのインクルーシブデザインに関する実態調査」
https://lifull.com/news/45117/

■過去記事:建築や都市設計の「インクルーシブデザイン」とは ”20%のニーズ”に向き合う新たなアプローチ
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01234/