13室をすべて異なるデザインでリノベーション
全室がすべて異なる職業の人たちによるデザインで再生されたロイヤルコート嵯峨。
この物件があるのは京都の一大観光地、嵐山と四条大宮を結ぶ京福電気鉄道嵐山線、通称嵐電の車折神社駅から歩いて5分の飲食店やコンビニエンスストアが並ぶ通り沿いにあり、こんな場所で建物が荒れた状態で放置されていたとは信じられない。
しかし、地元に居住するCONTEMPORARY COCOON ROOM702(以下CCR702)の上田隆文さんによるとこの建物は10年以上も前から地元ではその荒廃ぶりで知られていたという。
「1階には飲食店などが入っていたものの、上階の住居部分はいつも薄暗く、実際には数組の居住者はいたそうですが、夜間には近くを通るのも気味が悪い感じでした」
1973年築なので、2025年の取材時点で築53年。そこそこ古いが、まだまだ使えるはず。
同じことを思ったのだろう、首都圏の不動産会社が競売で落札、その企画・運営を任されたのが上田さんのいるCCR702である。同社は物件探しから改装、運用、管理などを一気通貫に手掛ける不動産会社で会社案内には「一生懸命ふざける会社」とある。一味変わった物件を真剣に生み出している会社ということだろう。
リノベーションでは建築家に依頼、設計してもらうことが多いが、同物件では建築家も含めて様々な職業の人に依頼。それぞれの人が部屋のコンセプトを決めたり、人によっては自分で施工したりして全室が異なる部屋になっている。十人十色という言葉があるが、例えれば十三室十三色ということである。
文筆家・土門蘭さんが手掛けた「文章を書くための部屋」
その結果、手掛けた人のバックボーンによって室内は全く異なり、近年見たことがないほど個性的。万人向きを狙いがちな賃貸住宅にあっては異色だが、そのあちこちに住み方、暮らし方のヒントもある。以下、どんな部屋があるかを写真と文章でご覧いただこう。ちなみに元々の間取りは住戸の位置によって異なるものもあるが、和室2室の2DKなど昔ながらのものが多かったそうだ。
まず、職業的に近しいこともあって個人的に住んでみたいと思った部屋は京都在住の文筆家・土門蘭さんが手掛けた302(専有面積51.78m2 賃料11万5,000円 共益費5,000円。家賃・共益費はいずれも月額。2025年9月時点。共益費は全室同額。以下同)。
「文章を書くための部屋」を意図して水回り以外を大きなワンルームにした部屋では住戸中央にある穴がなにより驚き。鉢植えやアートを置いて使うことを意図したそうで、覗くと土の上に水が溜まっているような作り。穴の底にはモルタルを土色に染めてひび割れのある左官仕上げにしたものが敷かれており、その上にレジンが流されているのだ。
住戸は穴を中央に玄関側、窓側で緩やかに仕切られている。玄関側は右手に風呂やトイレなどの水回りがまとめられており、左側には一段低くなったアール型の区画。ここには30㎝の間隔で二重になったカーテンが用意されている。内側に入ってカーテンを閉めると布1枚だけだというのにその空間が部屋になったように感じられるのが面白かった。
カーテンは和紙で作られた森をイメージさせたもの、裾に行くほど色が濃くなる湖をイメージしたものの2種類で、どちらの色合いも非常に美しい。布類を間仕切りの材として使うのはこれから流行りそう。
窓側はアールになった本棚、作りつけのある仕事スペースとキッチンにこちらも緩く分けられており、仕切らずに空間を使いたい人には良いヒントになる。私もそうだが、モノを書く仕事は家に籠って仕事をする時間が多くなりがち。そこに植物や緑など自然を想起させる色、モノが入るのは気分的にリフレッシュできるのではないかと思った。
布使いの上手い部屋、使い方に悩んでしまいそうな部屋も
文筆家の部屋にあった布類をデザインしたライフスタイルデザイン事務所jyu+が手掛けた401B(専有面積46.4m2。賃料12万8000円)も当然ながら布使いが印象的だった。
変形間取りの一角に作られた小上がり空間、タイルを敷いて窓辺に作られた縁側空間はいずれも透ける布で緩やかに仕切られ、独立しているようで繋がっているような融通のきく場。これが普通のカーテンだったらこうはいかない。布使いにはセンスが要りそうである。
この部屋は天井にも工夫があった。現しになった天井の下に木を組んだ格子、それを支える柱があり、モノを吊るすなどして使うことができるようになっているのである。美しく格子を組むには技術がいるそうで、アートのような部屋といえそう。収納部、スイッチなど細かいところまで部屋全体を統一して見せる繊細な色使いにも惹かれた。
この部屋、401Bはかつて所有者が住んでいた2層の住戸の下層部を2分割したもので、分割されたもう一部屋、401A(専有面積55m2 賃料12万8000円)もなかなかに個性的だった。こちらはyasuhiro sawa design officeの建築家・澤康博さんの手によるもので、玄関を入ったところにある謎の躯体階段、部屋の中央にある円形のキッチンが目を惹いた。
躯体の階段は途中で切られて階段としての機能は失っているが、ベンチとして、モノを飾るスペースなどを使い方を妄想できて面白い。一方、悩んでしまいそうなのは部屋の中央にキッチンがあることでどこにベッドを置いたら良いかが決めにくいこと。どこに置くかで楽しく悩めそうである。
また、この部屋は窓辺に水回りが作られており、室内にある風呂に窓があり、その外に室内空間があったりもする。使い勝手より発想優先、賃貸ならではの自由な空間だ。
面白さという意味ではムダヅクリコンテンツクリエイターの藤原麻里菜さんの藤原さんが不定期に送ってくるプログラムによってムダなものが出力できる3Dプリンターが設置された301(専有面積53.35m2 賃料12万円)も良かった。壁際に産出したムダな作品をディスプレイできるたくさんの棚が用意されているのに加え、和室収納の奥には儀式部屋と名付けられた謎の小部屋がある。写真が撮りにくいほどのサイズの極小空間で籠って座禅するもよし、懺悔するもよし、誰かを閉じ込めるもよし、いろいろに使えそうだ。
和紙職人、家具職人、履物職人はどんな部屋をつくったか
続いては職人さんが作った部屋を3室お見せしよう。
取材の時点ですでに申し込みが入っていたのが403(専有面積42.84m2)の和紙職人であり、各種アート作品、内装なども手がけるハタノワタルさんによる入ったところに広い土間のある2K。一段上がったところに緩くカーブをする壁で仕切られた水回り、寝室とキッチンがあり、その2つの空間の間にもうひとつ、何にでも使えそうな小部屋が配されている。
特徴は壁に貼られた顔料を混ぜ込んで作られた青い和紙。穏やかな青のアールの壁の向こうには白と茶、2色の障子が見える和紙三昧の部屋で、部屋の形状は斬新だが和を感じる。他の部屋よりも空間が明確に分けられているのも特徴で、SOHO使いが意識されている。
家具職人のSTUDIO-Aさんが手がけたメゾネットの208(専有面積25.05m2 賃料6万5000円)は居室の長手方向に沿って作られた造作の大型キッチンが目を惹く。壁面、キッチン天板は100㎜角の白いタイル貼りで、針葉樹合板で作られたテーブルに椅子を収納できる作り。キャビネット面材の木目がすべて揃っているところなど職人の技が見もの。同様に壁に設置された照明も使う時には方向を変えるように作られている。
スチール階段を上った先には高さのある、3畳ほどのロフトが作られており、自然素材であるサイザル麻を使った床が独特。また、この部屋の壁面の一部は元外壁。キッチンと反対側の壁面に部屋の中にいるのに外にいるかのような不思議な感覚を覚えるのはそのためだ。
202(専有面積47.13m2 賃料11万5000円)を手掛けたのは履物職人であり、ギャラリーオーナーであるAA関塚さん。玄関から伸びるベンチのある廊下はモルタル掻き落とし。調べてみるとこれは一般的には外壁、デザインウォールなどで使われる技法で、その技術を使ってここでは玄関と廊下、ベンチが一体的に作られている。向かいに風呂があるので風呂上りに裸足で歩くと気持ち良さそうだ。
室内の壁はコンクリート打ち放しと白い塗装の2種類から成っており、注目は白い塗装部分。3か所に取り外すと屏風、テーブルとコーヒーテーブルの天板になるサイズの違うアルミの板がはめ込まれているのだ。特に面白いのは3枚の板でできた屏風で、広げると寝室とリビングを仕切ることができる。使わない時には壁にはめ込んでおけば空間を広く使える。
見たことのない部屋、楽しめる部屋、どこか懐かしい部屋
続いても建築とちょっと距離がありそうなご商売の方々が手掛けた部屋を見ていこう。まずは205(専有面積40.07m2 賃料9万2000円)。映像クリエイターのスタヂオライオンさんが手掛けており、奥まで土足で入れる部屋の窓側半分が制作のためのスペースとなっている。
具体的には動画撮影時に使えるカウンターがあり、その上の天井部分には機材がセットできるようになっているというもの。スペース自体が動画撮影に使う画角を意識したサイズになってもいる。動画撮影を意識した部屋は見たことはあるものの、ここまで徹底しているのは珍しいのではなかろうか。玄関側には居室として使える壁面全体に収納を設けた部屋も作られている。
アパレル事業者であるサンカッケーさんは203(専有面積37.7m2 賃料9万2000円)を引き戸で部屋を2分割できるようにした。閉めたら2部屋、開けたらワンルームという部屋で、玄関から右側は居住スペース、左側は水回りとして意識されており水回り側の壁は建具も含めて全面鏡。ファッションショーが楽しめる部屋とでもいえば良いだろうか。ヨガやダンスをする人にも楽しいかもしれない。
この部屋では既存のレトロな雰囲気の洗面シンクなどがそのまま使われており、そのきれいさに驚いた。古いモノでも上手に活用できればインテリアのアクセントになるわけだ。
201(専有面積53.35m2 賃料9万8000円)を手がけた中舎慎太郎さんは淡路島の料理人で漁師。
祖父母が暮らしていた古民家を1年がかりで自らリノベーションした店では1日1組を地元の海鮮を中心にしたお任せ料理でもてなすそうで、201も料理が楽しくなることをテーマに改装されている。間取りは和室2室の既存の2Kをほぼそのまま使っており、寝室として想定されている和室は壁その他の内装も既存そのまま。
和室以外の壁も既存のプリントべニア板を上から塗装したもので、水回りの設備などは新設されているものの、全体としては古さを活かした内装。そこにデッドストックの床材、古びた照明などを配することで最終的には以前からこうだったかのような世界観のある部屋になっており、そのセンスはお見事としか言いようがない。
どこか落ち着く、ほっとした感じのある部屋になっており、この部屋は家具付で借りることができる。賃料自体は広さで決まっているため、家具の有無は賃料とは関係ないそうだ。
建築を専門とする人達が手掛がけた部屋
最後は建築を専門とする人達が手掛けた部屋をお見せしよう。
まずは京都を拠点に建築の実験を行っているM.A.E(Mad Architect Experiments)さんのもうひとつ存在したかもしれない日本建築の姿を表現した305(専有面積39.11m2 賃料9万2000円)。個人的には冒頭の「文章を書くための部屋」同様に住んでみたいと思った部屋で、使われている素材に興味を持った。
具体的には玄関から続く廊下と居室の壁部分に使われている古材の杉柱、ガラスの壁、スチール製の造作棚など。特に表と裏で古材と製材面を見せた杉柱でできた壁は自然と歴史を感させるものだった。照明は滑車で容易に移動できるものとなっており、これは持ち歩きできる蠟燭台をイメージしたものとか。それらに比べると地味だが、あちこちに設置された奥行きのない薄い収納も使い方を考えるのが楽しそうだ。
建物全体の監修にも携わった赤熊宏紀建築設計事務所の赤熊さんが手掛けた402(専有面積42.84m2 賃料9万8000円)はオフィスやアトリエ使いを想定したSOHOタイプの部屋。入ったところにワークスペースとして使いやすそうな土間があり、左手に水回りが集められている。その奥、一段高くなったところがキッチン、居室なのだが、玄関のある壁に向かって左手の壁は10度傾いて設置されており、右手の壁に対してもキッチンは10度傾いている。
さらに窓際に設置された障子、キッチンとなりの居室の壁も10度傾いており、部屋に入ると一瞬空間が歪んで見える。また、室内に躯体現し部分、障子、板金、ラワン合板とさまざまな素材が使われているのでコンパクトな空間が豊かに感じられるのも特徴。エアコンや冷蔵庫、レンジフードが見えないように配されているのは使い方を考慮した結果である。
もう一部屋、最上階に位置する501(専有面積39.6m2)は部屋以上の広さのルーフバルコニーに囲まれており、手掛けたのはCCR702のスタッフ。広いワンルームになっており、なんといっても外に広がる明るい空間が特徴。住むのも良いが、ここでサロンなどを開くのも良さそうである。
面白い賃貸住宅が地域を面白くする
各室以外にもエントランスにオートロックを入れ、玄関回りを塗装、植栽を入れるなどの手を入れ、最終的にリノベーションが終わったのは2025年9月。それを披露すべく、内覧会を開催。1日で90組ほどが参加したそうで、「これまで行った内覧会ではもっとも多くの人が集まりました」と上田さん。2025年11月頭の取材時にはすでに5室の入居が決まっていた。申し込んでいるのは大阪、滋賀や地元京都の人達など。
「車折神社は芸能の神様として知られており、観光客も集まっていますが、市内ではそれほどメジャーな場所ではありません。ただ、どれも同じようなモノが多く、なかなか差別化ができていません。古いからと壊したがるオーナーさんも多く、こうして全室異なるデザインでリノベーションした物件は希少です」
今回は東京の不動産会社が物件を購入したことからリノベーションが可能になったが、個人の所有者が改修を行うのは資金的にも、改修のノウハウという面から難しい。だが、建物自体はしっかりしているものも多く、ただ放置されてしまうのはもったいない話。
「こうした個性的な物件が少ないためか、これまでも同種の物件では最初は満室になるまで時間がかかりましたが、一度満室になり、人気が定着すると自然に空き待ちする人が出てきます。加えて周囲に面白い人が集まるようになり、地域が変わってきます。
それを考えると地元の人達だけではなく、広い範囲から関心を集められる住宅を作ることは地域の将来のためにも大事。住戸数は全23戸で改修済は13戸。今後は1階の店舗についても空いた区画には地域に魅力を加えてくれるような入居者を選びたいと考えています」
ちなみに家賃は改修前よりアップしており、周囲の相場から考えると高め。それでもこうしたオンリーワンの部屋に住みたい人は必ずいる。ロイヤルコート嵯峨のこれからと周辺の変化を楽しみにしたい。
■取材協力
ロイヤルコート嵯峨
https://www.ccr702.com/royal-court-saga




























