地域福祉を支える「社会福祉協議会」の役割
「社協」とも呼ばれる「社会福祉協議会」を利用したことのある人はどれだけいるだろうか。
社会福祉協議会(以下、社協)とは、社会福祉法に基づいて、すべての市町村または指定都市の区と都道府県に、地域福祉の充実を目指して設置されている民間の非営利組織だ。
誰もが安心して暮らせるまちづくりのため、公的福祉とはまた違った福祉的活動を、地域住民が主体となって行う社協。身近なところでは、民生委員・児童委員の事務局や、ファミリーサポートの運営、ボランティアセンターなどがよく知られている。
社協の活動はそのほか、身体的な理由、経済的な理由、精神的な理由、あるいは環境的な理由から、暮らしが不自由な人たちの支援も行っており、その領域には“住まい”も含まれている。全国に1885ある社協の多くが、住宅確保要配慮者の相談や住宅支援も行っている。
多岐にわたる支援活動を行う社協。その就業職種に、コミュニティソーシャルワーカー(以下、CSW)という仕事がある。地域で困っている人を支援するため、社協でできる支援や福祉制度、住民ボランティアの援助などを組み合わせたり、支援に必要な仕組みを新たに創出したり、そのための調整やコーディネートを行ったりする“調整役”となる人材だ。
地域住民の抱える課題を拾い上げ、解決への道筋をつくるCSW。その第一人者ともいわれる豊中市社会福祉協議会の勝部麗子氏に、CSWから見た住宅支援について話を伺った。
制度の谷間にいる人々を支えるCSWの活躍
CSWとは、2004年に大阪府が全国に先駆けて導入した専門職だ。勝部氏はCSW設立一期生であり、策定委員として設立させた立役者でもある。
2000年代初頭、バブル崩壊後の格差拡大や多重債務、ひきこもり、自殺、少年犯罪など、豊中市社協でも高齢者福祉法や生活保護法といった公的制度だけでは対応しきれない“制度の谷間”の相談が増えていた。現制度では救えないケースに直面し、勝部氏らは新たな支援の仕組みが必要だと考え、大阪府の地域福祉支援計画にCSW設立を提案した。
「たとえばゴミ屋敷問題です。高齢者でもなく、生活保護でもないこの問題を、どの制度を使って誰が解決するのか、費用はどこが負担するのか…と解決できませんでした。ゴミ屋敷の問題には、心を病んでいたり、つらい経験をしていたりと、当人の背後にあるさまざまな事柄が要因となっています。所管課がなくて対応できず制度ができるのを待つのではなく、困りごとを断らずにまずは受け止める存在としてCSWをつくり、配置するに至りました」
CSWは当事者支援に加え、地域の人同士をつなぎ、問題をコミュニティで解決する“ハブ”の役割も担う。背景を共有し、必要な人を紹介するなど、横のつながりを生み出す存在だ。
「ときには地域の方から『ホームレスの人を見つけたから助けてあげて!』と社協に連絡が入ることもあります。その際も、私たちが支援の進捗や仕事が見つかったことを、個人情報に触れない範囲で連絡者に報告するようにしています。すると連絡した人も『意を決して声をかけてよかった』と喜び、また助けてあげようとほかの人の困りごとに目を向ける。コミュニティを良くしていくために住民との連携は大切です」
全国的に自治会の退会や消滅が進む昨今。豊中市でもその傾向があり、地域の連帯が薄らぐなかでも、豊中市社協では、民生委員や福祉委員と組んで自治会未入会の家を一軒一軒を回って声掛けを行う。 “ローラー作戦”と称されたこの活動によって、地域課題を拾い上げている。
地域と連携して得た豊中市の地域課題は、地域づくり・仕組みづくりという次のアクションに役立てられる。
認知症高齢者・障害者等行方不明捜索システム「オレンジセーフティネット」、市内の外国籍の人とつながる多文化ボランティア「タブボラ」、引きこもり当事者の家族が話し合える場など、市民の拠り所が次々と生まれている。
20年に及ぶCSWの活動はさまざまな制度の原型にもなっており、政府が現在進めている「重層的支援体制整備事業」にも多大に影響を与えているそうだ。
孤独死問題。阪神淡路大震災の経験が生んだ「つながり」の重要性
個人の困りごとを社協だけで解決に導くこともできないわけではない。だが、勝部氏は支え合いのネットワークづくりにも尽力する。特に、孤独死の増加という課題に関しても地域のつながりの必要性を訴える。その裏側には、阪神淡路大震災での経験があった。
「震災当時、私は災害ボランティアを担当していました。助かった人の様子を見ていて気付いたのが、生死を分けていたのは近所付き合いや地域内でのつながりがあるか否かだったのです。地域とのつながりのない人は声をかけにくい。いざとなったときに声をかけられる体制を作りたい、と思いました」
その後被災者は避難所から他地域の仮設住宅に分散されるが、コミュニティが途切れたことで孤独死が増加。
「つながりがなくなると人は死ぬ。豊中市から孤独死する人を出さない」と勝部氏は、市内小学校区単位でお弁当配布やサロン、子育てグループなどの見守り活動を開始した。
地道に活動を続け、2014年頃にはひとり暮らしの見守りが整ってきた。支援の仕組みも地域住民(課題を発見する人)と社協(解決する人)で役割を分担することで、支援の回り方が安定。
現在では大阪府全体に見守り活動の輪が広がり、「小地域ネットワーク活動」として全国でも推進されているが、小学校区単位で活動しているのは大阪府の特徴だ。
震災から20年。社会的孤立にも変化が起こっている。豊中は7割が集合住宅。「マンション暮らしの増加」がそのひとつだ。
「マンションに管理組合はあれど自治会加入は必須ではなく、マンション内のつながりが弱くなっているなと感じていた頃、2018年6月に大阪府北部地震が起きました。自治会がある場所では散水栓などで水不足を解消できましたが、ない場所では対応できません。マンション内はセキュリティ上、外部の人間が入れないため、社協の見守りもかなり難航しました。苦しかったですね…」
また直近では、「コロナ禍」が社会的孤立の現状をあぶりだしたとも語る。
「コロナ禍では、若者、外国籍の方が生活苦に陥った相談をたくさん受けました。社会保障が脆弱な方たちに支援が行っていないことを目の当たりにして、見守りを強化しました。ただ、もともと地域とのつながりが薄い若い人たちは、つながりに加わることが難しいのです。そのため、つながれる場づくりをこの5~6年、必死にやり続けています」
支援が行き届きにくい層に向けた場をつくることで、当事者がSOSを出しやすい環境にしていき、着実にサポート体制は広がっている。
支援の現場では、時に解決につなげることができず、つらい経験をすることもあるという。だが、それを教訓にして社協では課題解決の糸口にしている。
震災の経験を活かし、豊中市社協では市内のマンション管理組合の理事長を対象に「マンションサミット」を開催。マンション管理における防災や被災時対応などの情報共有や啓蒙にも努めている。
住宅問題はひとりで解決できない―支援の現場から
さまざまな困窮に直面するCSWの現場。住宅問題もひとりでは解決できないときには支援活動を行っている。
現在多く寄せられる相談では、物価高騰により生活が苦しく、家賃を抑えるために安い賃料の部屋に越したいが引越しにかかる一時金がない、という高齢者・外国籍の人からのものが多いそうだ。
しかし、ゼロゼロ物件(敷金・礼金が不要な物件)で高齢者・外国籍の人の入居に理解のある大家である、となるとほぼ選択肢がない。限られた物件に応募が集中する事態が多発している、と勝部氏は現状を語る。
「また昨今多くなってきているのは、8050問題で親の没後に一人暮らしを実家で続ける方です。生活がすさんだり、庭木が手つかずで根が排水管を破損し水漏れが起きたりしても、一人で解決できない、といった方がいます。本人の困り事を、まずは仲良くなるというところから始めて、発見してくださった近隣の方にも『追い出すための協力ではなく、住み続けるためのお手伝いをする』というスタンスで、当事者の生活支援と住宅の解決に入ります」
勝部氏は高齢者の身寄り問題にも注視している。
高齢者の約44%が身寄りのない単身世帯となる予測から、死後事務や保証人の不在で住居が確保できない問題が色濃くなる。一部自治体では2026年度から「身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題に対応するためのモデル事業」が実施されるが、支援の現場ではより切迫した状況だ。
「私たちもこれまで、死後事務にたくさん関わってきました。大家が敷金・礼金内でなんとか収めようと、がんばっている様子も見てきています。ですので、社会的に身寄り問題に着目するようになってよかったと思います。反面、制度化によって死後事務の外注化が進むと、より地域のつながりが薄れるのではと懸念しています」
制度だけではクリアできない課題を連携して解決へ
住まい探しに関しても、市内の不動産会社・大家と協力して、年間40件以上の入居支援をしている。
また、その実績から豊中市居住支援協議会にも参画。入居支援のほか、ゴミ屋敷の片づけと共に大家さんがどう対応するかのノウハウ、家主の高齢化問題への対応、引越しのサポートなど、居住支援法人と連携して、住まい全般の困りごとに対応している。
そうした活動の中で最も欠かせないと語るのが“伴走支援”だ。
「高齢者、特に80歳を超えた方は引越し自体が難しいですね。家探しだけでなく、家財をまとめる、ライフラインの開通など、まるごと支援をしなければなりません。単身化が進み、生活そのものを支えてくれる人がいないからです。しかもこれらは、介護保険ではまかなえない。住まいの問題は、外国籍の方や親族に頼れない若者も同様にあり、居住の世界の伴走支援が必要で、そのための仕組みと“本気で取り組む人”が増えたらと願っています」
暮らしに困る人を支えるためにできた制度だが、狭間にいる人たちに届かなければ、結局は誰も支えられないことになってしまう。
困っている人たちに手を差し伸べるため、従来の仕組みとは異なるやり方を模索する勝部氏。
大家を介したコミュニティづくりにも期待を寄せる。
「かつては、大家さんたちが入居者にまつわる住まいのトラブルをすべて被っていました。ですが、複雑な背景の方に部屋を貸すリスクを大家さんだけが負うのは大変です。住まいは人権の大切な場所でもあります。人権を守る資源を持っている大家さんと、入居者がつながっていれば、ゴミ問題や孤独化といった課題も、解決しやすくなると考えます。貸したら終わりではなく、その先も一緒に考えていければ、みんなが幸せになるのではないかと思っています」
大家が貸し損にならず、かつ、賃貸居住に課題のある人の困りごとを解決できる仕組みをどうつくっていくか。市内の志ある大家とともに、成功事例を増やしていきたいと、勝部氏は意欲的に語った。
人と人のつながりが地域を安心して住まえる場所にする
勝部氏は、つながりを生むの場づくりにますます精力的に取り組んでいる。
定年後男性向けの都市型共同農園「豊中あぐり」、発達障害者等の居場所や社会関係づくり「びーのびーの」のほか、直近では2025年6月に不登校児のための「夢パーク」を開所。
さらに認知症の高齢者が増えるなか、“小規模なつながりをつくる場”となる「オレンジカフェ」を市内各所に設ける構想もあるとのことだ。
勝部氏が示してくれたように、制度だけでは解決できない課題でも、人と人が手を取り合い、支え合うことで前に進める。自分の身近な地域でできること―隣人に声をかける、困っている人の存在に気づく、地域の活動に少し参加してみる―そんな一歩が、孤立を防ぎ、安心して暮らせるまちづくりにつながるはず。今日から始められる小さな行動が、地域のつながりを生み、誰かの暮らしを支える大きな力になるだろう。
今回お話を伺った方
勝部麗子(かつべ・れいこ)
大阪府豊中市出身。1987年に豊中市社会福祉協議会へ入職し、ボランティアセンターや地域福祉ネットワーク活動など、地域組織化に携わる。2004年大阪府のコミュニティソーシャルワーカーの立ち上げに携わり自身も一期生として資格を取得。制度の狭間にある人々の支援に奔走する。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員として生活困窮者自立支援法の策定にも参与する。NHKドラマ「サイレント・プア」のモデル・監修を務め、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演。著書に『ひとりぽっちをつくらない』(全国社会福祉協議会刊)。
■社会福祉法人 豊中市社会福祉協議会
https://www.toyonaka-shakyo.or.jp/
■「障害者」の表記について
FRIENDLY DOORでは、障害者の方からのヒアリングを行う中で、「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という要望をいただきました。当事者の方々の思いに寄り添うとともに、当事者の方の社会参加を阻むさまざまな障害に真摯に向き合い、解決していくことを目指して、「障害者」という表記を使用しています。
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