滞納リスクに備える仕組みと、JIDが目指す暮らしの支援
入居希望者が賃貸住宅を借りやすくするための制度「家賃債務保証」。入居者や保証人の高齢化や、バックグラウンドが複雑なため保証人を確保できないといった借りる側の利便性だけでなく、家賃の代理弁済による滞納リスク回避から大家の安心にもつながるシステムだ。
その債務を担う家賃保証会社の利用率は年々増加し、現在では一般賃貸の約80%で家賃保証会社が利用されているとの調査結果もある。
「住まいとお金」に関連するトラブルへの対応に長けた家賃債務保証会社だが、千葉県木更津市に本社を置く日本賃貸保証株式会社(以下、JID)は、賃貸保証だけにとどまらず、契約者の暮らしに寄り添った支援に取り組んでいる。
今回は代表取締役の梅田真理子氏に、現在の家賃債務保証の傾向とJIDが取り組むサポートの背景を訊ねた。
「契約が終了するまでが責任」。JIDが追求する“真の保証”
賃貸保証のパイオニアともいえるJIDは、1995年に不動産事業から生まれた、賃貸借契約の連帯保証人を担う賃貸保証サービスを提供する賃貸保証会社だ。北海道から九州まで全国に29の支店を展開し、今年で創業30年目を迎える。
高齢化や外国籍入居者の増加により賃貸保証のニーズが増えることを見越して事業を開始したものの、当初7年は赤字が続き、不動産事業で補填していた時期もあったそうだ。
「創業当時は個人の連帯保証人に身内か社会的ステータスのある方を立てることが一般的で、賃貸保証を利用するのは連帯保証人が立てられない人という誤解がありました。実際は、自立されている方であればあるほど、身内に頼るのではなく賃貸保証会社を使いたいというニーズがあることに気づき、賃貸オーナーや不動産会社への理解を広めて、今に至ります。家賃債務保証会社の利用率はここ10年でだいぶ大きく変化したように感じています」
賃借人と交わす保証契約実績は、累計およそ598万件。JIDの場合、連帯保証人を引き受ける責任の下、賃貸オーナーへの物件明け渡し完了の日まで保証することを定めている。もし契約者である賃貸借人が退去を余儀なくされた場合、室内に契約者の荷物がひとつでも残っていると賃貸借契約を終了することができない。JIDでは関連会社を通じて自社の倉庫に残置物を保管したうえで、物件の引き渡しまでを請け負う。
「金融出身の家賃債務保証会社の多くは、“家賃債務保証契約は金消契約”という考え方をされている印象です。創業者が不動産業をしていたこともあり、私どもは不動産の賃貸借契約を重要視しています。もし家賃滞納が発生すれば、われわれは債務者側になります。債務者として、賃借人と向き合い正常な契約にすること。しかし万が一の状況においては賃借人の荷物がなくなり賃貸人に部屋をお返しし、賃貸借契約終了することとしています。それが保証人としての責任の果たし方であると考えます」
引きこもり・認知症・生活困窮…JIDが支える賃貸のリアル
安定した暮らしに、安定した住まいの確保は欠かせない。家賃滞納という暮らしが揺らぐ事態を支えてきたJIDが、多種多様なトラブルに遭遇していることは想像にかたくない。保証事業の難しさを尋ねた。
「家賃滞納で困るのが、お客さまと連絡が取れなくなることです。お客さまが対人恐怖症のようになってしまい、引きこもりがちで連絡に出てくれない、居留守を使うなどの傾向が、老若問わずあります。孤独死というと高齢者のイメージがありますが、50代で孤独死に至っていたケースも増えています。孤独死を懸念した高齢者へのリスク意識は、賃貸オーナーのほうが強いように思いますね」
家賃債務保証業界でも入居者の高齢化が顕著だ。JIDでは契約者の約18%が高齢者とのこと。ただし、これは新規契約で高齢者が多いというのではなく、契約年数を重ねて高齢者になっていたという傾向が散見されるそうだ。高齢者にまつわるトラブルにはどういったものがあるのだろうか。
「申し込み時は問題なかったが認知症になってしまった、というケースです。JIDが動く時は滞納がわかったタイミングのため、滞納の連絡があって初めて、介護認定を受けていることを知ることが多いですね。ただ、身寄りがない高齢者の方は、対応が悩ましいです」
身寄りのない高齢者の認知症発症事案には、現場の社員が、債務整理と並行して役所や専門機関、場合によっては身内を探し出して連携し、施設入所につなげるのだそうだ。
生活保護利用者の場合はどうだろうか。生活保護利用は経済的困窮と関わりが深く、家賃を支払うための住宅扶助は扶助のなかでも多くを占める。
「基本的には対応は同じです。とはいえ、年齢の幅が広いことから、生活保護を利用しなければならない理由も多様で、家賃滞納が始まってしまった生活保護の方の対応は少し大変なイメージがあります。また役所から代理納付される場合は滞納の発生は少なく問題はないのですが、直接給付ですと、住宅扶助のお金を遊興費に使ってしまったりとやり取りが難しいですね」
しかし、家賃滞納に陥り暮らしが立ち行かなくなってしまったとしても、契約者の賃貸借契約を正常に戻すため、JIDではグループを通じてさまざまな取り組みを行っている。
住まいを守ることは人生を支えること。JIDの責任の形
JIDの特徴のひとつが、契約者の相談役となる“生活アドバイザー”の存在だ。賃貸保証の現場で研鑽(けんさん)を積んだ生活アドバイザーが、家賃滞納や生活再建が必要な契約者に対してコンサルティングを行う。ヒアリングを通して、家計簿チェックや生活改善などの解決策を共に考え、“生活環境を整える”ための仕組みだ。このコンサルティングも創業時から続いており、時の流れとともにノウハウも培われているという。
「家賃滞納にはいろいろと事情があり、借金やご病気といった生活環境のズレから起こってしまうこともあります。一日たりとも滞納はよくありませんが、事情を鑑みずに『払え』と督促するだけでは逆効果にしかなりません。本来は、住む権利を主張できない、ということを本人に伝えるのは簡単なことかもしれませんが、巡り巡って私たちの不利益にもなり得ます。なるべく前家賃に戻すことを目標に、お客さまとやり取りをしています」
コンサルティングを経てもなお債務が増えそうな事態には、いったん債務を止めて実家に戻る、生活保護を利用するといったことも勧める。それでも難しい状況でありながら「自立したい」と望む契約者には、全国にある自社所有の物件を活用したシェルターを提案し、環境を変えて心機一転する機会を与えることもあるそうだ。
「昔は、連帯保証人は親が担うことが主流でした。親でしたら迷惑をかけた家主に支払いをして、生活を正させたり実家に戻ってこさせたりしますよね。それに近しいことを会社としてお客さまに行っているだけです。シェルターに関しては、使用貸借にして半年間無料で部屋を貸し出し、半年の期間で自分の生活サイクルと債務をリセットして自立する。そのサポートを行っています」
シェルターの提供は現会長の発案で、3年ほど前からスタート。“家賃が払えない”という切迫した状況を脱し、落ち着いた環境で半年という期限を見据えながら、新しく仕事を探すなど“先につながる行動”を手助けするというものだ。シェルター利用者のなかには生活を立て直し、通常の賃貸に切り替えて自立している人も多いという。
「契約者を見捨てない企業努力です」と梅田氏は語る。
JIDの支援の手は、契約者だけにとどまらない。契約者が手放さざるを得なくなったペットを保護して動物保護団体につなぐ。残置物として居室内に残された遺骨を供養するために寺院に供養塔を建立し、毎年4月に執り行われる大法要では社員総出で手を合わせる。
「回収した骨壺は残置物として社の倉庫でお預かりしていましたが、倉庫に置きっぱなしという状況が気になっていたのです。2012年に本社を木更津市に移転した理由のひとつが、納骨堂を建てたかったからでもあります。木更津市と市内のお寺と相談のうえ、供養塔を建立して納めることができました」
身寄りがなく孤独死に至ってしまった契約者に関しては、警察が介入するため、居住地自治体で埋葬されることが主だという。
永代供養墓には2025年9月時点で既に298柱が眠っており、毎月全国から集まる遺骨を納めているそうだ。
シェルターや永代供養のほか、グループ企業の人材派遣会社ジョブスタイルを通して契約者の仕事を斡旋するなど、グループ会社全体で契約者の困り事や不安に寄り添い、支えている。
支援の実動を外部に委託せず自社一貫で行うこともまた、JIDの契約者や賃貸オーナーに対する“責任”に向き合う姿勢がうかがえる。
企業だからこそできる“人を大切にする仕組みづくり”
健全に住み続けられるよう、契約者をサポートするJID。梅田氏は「JIDでやっていることこそがセーフティーネットであると思う」と語る。
ただし、企業である以上、事業収益を生み出している必要がある。そのため、コンサルティングやシェルターなどは慈善事業ではなく、人を支える仕組みづくりの一環であり、賃貸保証会社として大切なことだと言う。
「契約行為は人と人で交わすものですし、経済も人と人とで動いています。家賃債務の対応はAIのような機械的な発想ではできないからこそ、私たちの事業が成り立っているのだと感じます。また、事業内ではさまざまな対応をしていますが、それらが運用できているのは現場の社員が真面目すぎるほどに実直に取り組んでいるからです。これからも気負わずに一緒にやっていきたいと思っています」
賃貸保証のほか、ひとり親家庭支援や学業支援を行う特定非営利活動法人「Standard Opinion Society」の運営や、家賃滞納などに陥る若年層の増加から高校生向けに消費者セミナーを開催するなど、社会貢献活動にも意欲的だ。
「私たちはまだ完璧ではないと思っています。今までの取り組みも未来を想定して進めてきました。現在の取り組みをさらに追求して、より多くのお客さま、賃貸オーナー、不動産会社の方々に、活動への理解を深めていきたいです」
今回お話を伺った方
梅田真理子(うめだ・まりこ)
静岡県出身。日本賃貸保証株式会社に入社後、保証サービスの営業や滞納処理、大阪支店の立ち上げなどを経験し、2016年12月に専務取締役、2018年1月30日に社⾧に就任。「真っ正直」の精神で仕事に取り組む。
■日本賃貸保証株式会社
https://jid-net.co.jp













