高齢化の進む団地に増えつつある外国籍入居者。自治会はどう対応する?

中野区鷺宮西住宅自治会会長・山本徳太郎氏(写真右)中野区鷺宮西住宅自治会会長・山本徳太郎氏(写真右)

コロナ禍を経て、訪日外国人の数が急増している、近年の日本。それはインバウンドに限らず、在留外国人数にも当てはまり、法務省の発表では2024年6月末時点で358万8,956人と、過去最高を更新している。
環境や法の整備に関しても、日本人と外国籍の人との共生に向けたロードマップが作られるなど施策が進められており、さらに増加が見込まれていることは明らかだ。

そうした共生の縮図となっているのが、市民の住居を支えるセーフティネットとして機能する“公営住宅”である。
東京都中野区にある鷺宮西住宅は、団地ブーム真っただ中に建設された集合住宅。かつては子育て世代が多く入居していたが、建設から60年が過ぎ、高齢化が顕著になっている。
そして今、外国籍の人たちの入居が増えているのだ。

年齢も国籍も異なる人たちが隣人となり暮らす鷺宮西住宅では、外国籍世帯の増加によってどんな変化が起こり、その対応策としてどういった取り組みを行っているのか。自治会会長の山本徳太郎氏に、住人として、また地域の長として、共生の道のりについて尋ねた。

2015年から外国籍入居者が増加。生まれた入居者間の年齢層と文化のギャップ

鷺宮西住宅は、西武新宿線鷺ノ宮駅から徒歩5分の閑静な住宅街の中にある鷺宮西住宅は、西武新宿線鷺ノ宮駅から徒歩5分の閑静な住宅街の中にある

東京都中野区の北西部に位置する鷺宮西住宅は、約3万4000平方メートルの敷地に19棟686戸を有する大規模な集合住宅団地だ。
駅近の好立地に広がる歴史ある団地に、外国籍の入居者が増えたのは10年ほど前からだったそうだ。10年前には10分の1程度だった外国籍入居者は、2024年11月時点で150戸、400~500人の外国籍の人が入居しており、団地に入居中の総世帯数の3分の1ほどを占めているという。

鷺宮西住宅の今の特徴を山本氏はこう語る。

「年齢のギャップが大きい点ですね。日本人の入居者は高齢者が多く、外国籍の入居者は働き盛りの子育て世帯が主で、飲食店にお勤めの方が多いそうです。国籍はネパールが最も多く、次いで中国となっています」

外国籍入居者の増加の背景には、東京都住宅供給公社(以下、JKK東京)の入居者募集がインターネットでされており、日本語が話せなくても契約できることに一因があるようで、年々増えているという。団地の近隣にもネパール料理店や食材店、香辛料店などが増えているほどだ。

「外国籍の入居者の様子を聞くと、男性は働きに出て、女性は子育てメインであまり外に出ないようです。共働きもいますが、このようなパターンが多いですね。学区の小学校に通う外国籍世帯の子もおり、校長先生のお話では年々外国籍の生徒数が増えてきているとのことです」

団地の特徴とともに近隣とのトラブルについて尋ねると、ひとつは“騒音問題”、もうひとつが“ゴミ捨てルール”を挙げた。

「就寝時間の早い高齢者と、飲食店の閉店後遅くに帰宅する外国籍の方とでは、生活サイクルが違うので、生活音が響いてしまうのだと思います。また、ゴミ捨てルールに関しても、そもそも母語の読み書きができない方がいたり、出身国によっては曜日という概念が異なっていたり、粗大ゴミ回収が有料と知らなかったり、といったことが原因のようです」

「隣に住んでいる人がわからない」。入居者を知るところから始めた草の根調査

敷地内には運動施設や公園があり、地域の憩いの場としての役割も。注意書きにも外国語が添えられている敷地内には運動施設や公園があり、地域の憩いの場としての役割も。注意書きにも外国語が添えられている

自治体側もJKK東京に要望を送り、入居時に注意事項を記したパンフレットを渡す、注意掲示、定期的なアナウンス等、対応が行われてきた。
しかし、先住者、特に長年住んできた日本人からすると、納得のいく解決にまでは至っていなかった。直接改善を図ろうにも、溝があり、コミュニケーションを取ることができなかったからだ。

「住人からすれば、どういう人が住んでいるのか、表札もないのでわからないのです。“引越しの挨拶”という文化が外国にはないせいか、先住の日本人と新しく入居する外国籍の人がお互いに知り合う機会もない。把握のためにJKK東京に問い合わせても、プライバシー保護のため教えてもらえず、困りました」

とはいえ、自治会として動かないわけにはいかない。多言語に対応した注意喚起やお知らせの紙をポスティングしていたというが、肝心の外国籍入居者に伝わっている手応えがなかった。

「紙でお知らせを入れても、チラシだと思われて捨てられてしまって…。ほかの方法を模索していたところ、皆さんスマホを使っており、ITに強い方も多かったため、ITを使ってみようと思い至りました」

敷地内には運動施設や公園があり、地域の憩いの場としての役割も。注意書きにも外国語が添えられている実際に配布されたお知らせ。調査理由を明確にするよう心がけた

2022年、鷺宮西住宅自治会の防災部長を務めていた山本氏が、実態把握のために各棟各室に誰が入居しているのかをまとめた「入居者マップ」の作成に着手。
情報収集のためのウェブアンケート調査を行った。防災活動において、安否確認や防火など、隣近所とのつながりや連絡先の確保が欠かせないからだ。
調査内容は日本語のほか、中国語とネパール語にも対応した。翻訳にはGoogle翻訳を使い、手軽に対応できたという。

“防災”がかすがいとなった多文化団地コミュニティの構築

ウェブアンケート内には、世帯の人数や出身国のほか、鷺宮西住宅の避難場所の認知度や災害時の対処法に関する設問を用意。その中のひとつ、「防災活動に関心がある」の回答率が高い結果に、山本氏は目をつけた。
「防災に関心があるのなら」と防災会議を実施。しかし、集まったのは5人だけだった。

「鷺宮西住宅は防災会というものがあり、定期的に開かれるその会議へ参加しないかと外国籍入居者に声をかけてみました。関心があるとあれだけ回答があったのですが…」

地域の安全を保つには、防災への備えをコンスタントに続けていくことが重要だ。しかし、高齢化する日本人住民だけで運営をするには限界があり、さらなるきっかけが必要だった。
そこで自治会では、多文化共生社会づくりや共助社会づくりを推進する公益財団法人 東京都つながり創生財団が行う「町会・自治会応援キャラバン」事業に相談。協議を経て、全住人に向けた「防災ミニトレーニング」を実施する運びとなった。

「お土産がついていたのもあってか、総参加者数208名のうち外国籍の入居者は137名と、参加率がグッと上がりました。防災ミニトレーニングの避難場所の説明の際に『ゴミのルールを守りましょう』と呼びかけも行うことができて、よかったです」

防災ミニトレーニングの様子。大人だけでなく子どもも交じって参加している様子が印象的だ防災ミニトレーニングの様子。大人だけでなく子どもも交じって参加している様子が印象的だ
防災ミニトレーニングの様子。大人だけでなく子どもも交じって参加している様子が印象的だ日本語・英語・ミャンマー語・中国語・韓国語で書かれた「ウェルカムカード」とともに住人カードの記入をお願いして入居情報を草の根的に集めている

併せて行っていた『ウェルカムカード(防災連絡先の共有を目的とした、居住者情報)』の回答も相まって、防災用の入居者マップでおおよその入居者状況を把握することができた。

防災ミニトレーニング実施後にも、参加した感想と今後につなげるためのウェブアンケートを実施。
「もっと自治会に参加したいと思いますか?」の問いに対し、85%が「思う」と回答した。
この結果から、団地のコミュニティスペースを使った地域のボランティア団体による日本語教室や交流イベントの開催など、外国籍の入居者が地域と関わりを持つ機会の創出へと発展していった。

共につくり、共に楽しむ“協働”で運営する鷺宮西住宅自治会

鷺宮西住宅の夏の風物詩の花火大会。「提灯を掛けるのも、花火を用意するのも準備って大変なんですよね」と運営側の苦労も語っていた鷺宮西住宅の夏の風物詩の花火大会。「提灯を掛けるのも、花火を用意するのも準備って大変なんですよね」と運営側の苦労も語っていた

鷺宮西住宅では、毎夏恒例となった花火大会が開催され、住民も楽しみにしているという。

「団地に住む子どものためのお祭りとしてずっと続けてきています。ですが、長らく子どもの数が減り外国籍の家庭が増えたことで『自治会に入っていない外国籍の住民のためになぜするのか?』『自治会費を使ってなぜやるのか?』といった声が自治会員から上がってきたこともありました」

そこで、2023年からは準備の段階から外国籍の入居者にも運営に入ってもらい、イベントの案内だけでなく、ネパール語での事前アナウンスも放送。当日も、手持ち花火に慣れていない外国籍の人たちのために、ネパール語で注意事項やルールを話してもらうなど、協力して安全に楽しめる会を進行した。
人選は、『一緒にやってくれそうな外国籍入居者がいないか?』と団地の管理員に尋ね、紹介してもらったそう。私的な交流を重ね、協力を仰ぐことができた。
会場となった公園は歓声であふれ、大人も子どもも、日本人も外国籍の人も入り交じって盛況に終わったという。

この交流を機に、外国籍入居者が登壇するゴミ出しのルール説明会や、棟の代表に外国籍入居者がなるなど、鷺宮西住宅では共に地域をつくり上げる活動を続けている。

「ここに住む外国籍の方たちは、皆、日本が大好きです。日本に長く住みたい、帰化したい、そのためにも地域に貢献したいと言う人もいます。大事なのは、私たちが外国籍入居者に“お客さま扱い”をやめることだと思います。イベントは設営から参加してもらったり、顔を合わせてコミュニケーションをしたり、ということの大切さを実感しています。お互いの文化の違いも、交流を深めるほど知ることができますからね」

山本氏の視線は、外国籍の子どもたちにも向けられている。

「学校へ通う子どものほうが、日本語が堪能で日本の慣習やルールを知っています。子どもたちから大人たちへ伝えたほうが、私たち日本人側が言うよりも、伝わるのかもしれません」

実際、防災ミニトレーニングも花火大会も、子ども参加型のイベントとして開催しており、親子での参加率も高いとも、山本氏は語る。
地域を全世代でつくっていこうという気持ちが感じられた。

「最近変わりつつありますが、日本には自治会や町会、互助会のような“助け合いを目的につくられた組織に加わる”考え方が根付いています。一方で、“地域のためにお金や労力を払う”という風習があまりない国もあります。ですがそれも文化の違いであって、その人が悪いわけではありませんから。外国籍の方たちになじむような呼び名や、彼らがメリットだと受け取れる仕組みや組織、そういったモデルをつくり出すとよいのかもしれません」

高齢者と外国籍住民の新たな交流が生むこれからの共生のあり方

自治会長を務め、団地が抱える問題に取り組む山本氏。「これも出会いと経験。いい勉強になっています」とも語った自治会長を務め、団地が抱える問題に取り組む山本氏。「これも出会いと経験。いい勉強になっています」とも語った

これからの鷺宮西団地や自治会運営について山本氏の見解を尋ねたところ、“任意団体の担い手不足”に話が及んだ。

「私たちのような課題の解決には、大学生などの若い人の入居を増やすとよいのでは、と考えています。実際に家賃を2割引きにして若い人を呼び込んでいる団地もあるそうです。2割引きとはいわず、半額にするといいですよね。団地自治会運営と若手入居者双方にメリットになると期待しています」

団地で暮らす外国籍の子どもが、将来的に勝手知った団地自治会の若い担い手となる日が来るかもしれない。
昨年の敬老の日には、高齢者と外国籍の子どもたちとの交流が始まったという。
外国籍の子も含めた団地在住の子どもたちが、老人会の会員へお祝いのメッセージカードを贈り、後日そのお礼に会員らは折り鶴をプレゼントしたそうだ。

文化が違えども、共に手を取り暮らす人を思う気持ちに差はない。参加を促すだけでなく、地域コミュニティの中心で“協力”をしながら“つくり上げる”関係構築の視点を入れてみてはいかがだろうか。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

山本 徳太郎(やまもと・とくたろう)
中野区鷺宮西住宅在住9年。2022年、同住宅自治会内防災部の部長の任が回ってきたことをきっかけに、自治会として入居状況と住人把握を発案。防災を活路に、減少する自治会員への対応や、団地内の高齢化・多文化化への取り組みを始める。2023年より同住宅の自治会長に選任され、団地での協働に努める。

今回お話を伺った方

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出合える世界の実現を目指して取り組んでいます。

公開日: