環境配慮型賃貸マンションによる奥村組のCRE戦略
企業の不動産を経営に最大限有効活用していこうという発想に基づいて生まれた「CRE戦略」。Corporate Real Estateの略であり、「不動産の有効活用で企業価値の最大化を図ることを目的に行う戦略」と定義される。
ストック不動産の再生事業を一つの柱としてCRE戦略を推進するのが、株式会社奥村組だ。社宅制度の廃止によって生まれた6棟の社宅を活用し賃貸マンションに再生した。
2025年3月、兵庫県西宮市で竣工した「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」(オーシーレジデンス アール 西宮大箇)は、旧社宅を活用した物件のひとつ。1棟丸ごと高品質なリノベーションを行うことで、不動産の価値を最大限に高めていくものだ。
「当社ではCRE戦略の大きな柱として、培われた技術力から高品質化に注力したリノベーション等の不動産再生に取り組んでおり、本物件を皮切りに『OC RESIDENCE R』のブランドとして展開していきます」と奥村組の佐藤さん。
同社では、今回のプロジェクトにあたり、多くの事業用不動産のリノベーション実績を持つリノベる株式会社を事業パートナーとして選定、手法としてZEH水準リノベーションの採用を決定した。そして、断熱特許工法を活用した省エネリノベーションに強みを持つ積水化学工業と協業し、3社でのプロジェクトとして実施した。
2025年3月25日、西宮市の現地でメディア向けの説明会・内覧会が開かれた。各社登壇者によって説明があった今回のプロジェクトの詳細を解説する。
登壇者
・株式会社奥村組 投資開発事業本部 不動産開発部長 佐藤孝正さん
・積水化学工業株式会社 住宅カンパニー 営業統括部 リフォーム営業部長 筏井 利孝さん
・リノベる株式会社 都市創造本部 都市創造1部 部長 宮﨑浩充さん
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「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」を実際に見てきた
「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」はJR西宮駅から南へ、国道2号線を渡って10分程度で着く。大阪や神戸にも交通利便性のいいロケーションだ。低層のマンションや戸建て住宅が並ぶ、閑静な住宅街の中に立地する。
各部屋から庭、共用スペースまで、見て回った。
住戸の専有部分は、1LDKから3LDKまでの5つのタイプが用意される。
まずは、Bタイプと呼ばれる506号室。そして次にCタイプの509号室。室内では、積水化学グループが展開する「マルリノ」の断熱特許工法の実物も見ることができた。続いて、ドッグランの付いた中庭、エントランスも見て回った。
広い平面駐車場を持つ広大な敷地に建つ7階建てのRC造の建物は、階層ごとに塗り分けられた外観塗装や、エントランス周りのファサードの意匠にも工夫を凝らしている。ベースとなった築48年の社宅というイメージからは大きくかけ離れた印象に仕上がっているのが、当日専有部分から共用部まで、すべてを見て回った感想。専有部はスケルトンからフルリノベーションならではの仕上がりだ。
はじめての1棟全戸ZEH水準リノベーションで、価値の向上へ
リノベる株式会社の宮﨑さんから「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」の戦略について説明があった。
リノベるは、個人・法人の既存ストックの流通・利活用を、提供者であるプレイヤーを支援しながらマッチングする統合リノベーションプラットフォームを構築している。
特にCREリノベーションプラットフォームでは、法人のCRE戦略の推進等、法人所有の不動産ストックの活用を、事業企画から、設計・施工・運営までワンストップでサポートするビジネスモデルだ。
「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」において、リノベるはどのような役割を担っているのか。まずは、不動産ストックの有効活用を目指すために、賃貸マーケット分析からはじめたという。
マーケット分析に関して宮﨑さんは、
・人気の西宮市にあって、利便性もよく子育てしやすいエリア
・バリューアップにより高い賃料設定が可能
・子育て世帯、共働き世帯、単身世帯までターゲットにできる
と3つの分析を示した。
そうした分析を踏まえ、全住戸ZEH水準リノベーションで行うという提案を行った。「建物は築古で断熱性能が低いので、いずれにしてもスケルトンにして工事をする必要がありました。マーケット分析から、環境に意識の高い顧客層により賃料のアップサイドを狙えると考え、全住戸ZEH水準で1棟リノベーションを行うことにしました」と語る。
加えて、リノベーションの方向性のテーマを「バイオフィリックデザイン&ウェルビーイング」とした。自然や生物と触れ合えるデザインを採用した共用部の中庭には、全住戸ペット可能という条件にふさわしく、ドッグランとペットシャワーも備えられた。お洒落な建物の銘板サイン、細部の意匠アクセントには間伐材を含めた木材を使用。また、集会室をキッズスペース、ワークスペースの機能を持った共用ラウンジにするなど、自然と人、人と人がつながる、ウェルビーイングな暮らしを実現するデザインが随所にされている。
1棟リノベーションにより「ZEH Oriented」を取得
そもそもZEH(ゼッチ)とは、Net Zero Energy Houseの略で、住宅の高断熱化、省エネ化で使う電力を減らし、電気を創ることで、正味のエネルギー収支をゼロ以下にすることを目指した住宅のこと。2025年には新築住宅には省エネ基準適合が義務化されるなど、国をあげて住宅の省エネ化の促進が加速している。
一方で、積水化学の筏井さんは「総計では、既存住宅において断熱性能の基準に満たないものが8割あります。国交省では、2030年までに住宅のエネルギー消費量の削減率を18%にするという目標を設定していますが、これを達成するには、既存住宅市場全体で省エネ性能向上、ZEH化の普及加速が必要です」と指摘する。
では、「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」におけるZEH水準リノベーションとはどのようなものか。プロジェクトに参加する3社にとっても1棟全住戸ZEH水準化は初めてのことになる。
断熱
・壁・天井・床の断熱施工
・壁面は、積水化学グループが展開する「マルリノ」の断熱特許⼯法採用
・樹脂製の内窓設置
・高断熱玄関ドア採用
省エネ
・高効率エアコン・高効率ガス給湯器(エコジョーズ)
・高断熱浴槽・節湯水栓・DCモーター搭載24時間換気扇
性能評価
・温熱計算で熱環境を数値化
・省エネ性能の評価・認定制度BELS(ベルス)において「ZEH Oriented」取得
積水化学グループが展開する「マルリノ」の断熱特許工法では、コンクリート躯体と断熱ボードの間にウレタン発泡材を充填するため、壁の凹凸に断熱ボードが密着し、湿気や熱を遮断。壁内のカビや結露も抑制できるという。従来の吹付断熱に比べ薄く施工できるため、室内空間が狭くなりにくい。
以上の手法を用いて実現した1棟全戸ZEH水準化による断熱・省エネ性能は、評価数値を省エネ性能ラベルとして、全戸に表示される。
「快適で経済的な居住空間に加えて、CO2削減という環境性能も備えました。入居者にも地球にもやさしい、かしこく快適な暮らしの実現です」(筏井さん)
ストック不動産の省エネ・長寿命化で、脱炭素・循環型社会へ
企業不動産は経営資源であるだけでなく、社会的資本としての一面も有している。地域社会の一員として企業のCSR(社会的責任)を果たすことも、CRE戦略の重要な目的の一つであるとされる。
企業不動産に係るCSRの例としては、耐震、アスベスト・土壌汚染等への対応、景観や環境問題への配慮、地域社会への貢献などが挙げられる。省エネ、長寿命化で脱炭素、循環型社会へ社会全体が取り組む中、CRE戦略においても同様に取り組んでいく必要がある。
CRE戦略において、不動産という公共財としての側面を考えても、省エネや脱炭素といった環境配慮のコンセプトは欠かせない。加えて、ストック不動産の活用は、国の住宅政策の中心でもある。この2つの側面を併せ持つ「OC RESIDENCE R NISHINOMIYA OGO」は、3社がそれぞれ得意分野において連携することで1棟全戸ZEH水準リノベーションを実現した。ストック不動産を活用した循環型住宅マーケットを拡大し、サスティナブルな社会実現へ向けて、今後のプロジェクトの進展に注目していきたい。
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