鉄道混雑率から、コロナ禍前後の生活の変化がわかる

2020年1月に国内初の感染者が報告されたコロナウイルス感染症。以降、度重なる流行の波を経て2023年5月に感染症法上の位置づけが2類相当からインフルエンザと同様の5類に移行した。この時点では、まだまだ予断を許さない状態だったが、一旦は収束したとみる向きが多かっただろう。

それから約1年半。すべてとは言い難いがコロナ禍前の生活に戻ってきたといえるのではないだろうか。鉄道の混雑状況からも、コロナ禍前後の生活の変化が見て取れる。そこで、大阪圏の鉄道混雑率がコロナ禍と比べてどう変わったのかを確認してみよう。

混雑率とは、ピーク時1時間の平均混雑度の割合だ。測定方法は各鉄道会社によって異なり、自動改札機や車両の重量センサーを利用する、目視するといったやり方がある。

100%:定員乗車(座席に着くか、吊革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる)
150%:新聞を広げて楽に読める
180%:折りたたむなど無理をすれば新聞を読める
200%:体が触れ合い相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める
250%:電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きできず、手も動かせない

混雑率の目安(出典:国土交通省資料)混雑率の目安(出典:国土交通省資料)

区間ごとで差が激しい鉄道混雑率の変化

国土交通省では、通勤通学時間帯の鉄道の混雑状況を把握するため毎年「都市鉄道の混雑率調査」を行っている。東京圏においては主要31区間、大阪圏においては主要20区間、名古屋圏においては主要8区間の平均混雑率を公表している。大阪圏の場合、コロナ禍に入った2020年度から2021年度は、126%から103%とがくんと下がっているが、2023年度に入ると115%まで上昇していることがわかる。

コロナ禍前後(2019→2023)の大阪圏の鉄道混雑率の推移コロナ禍前後(2019→2023)の大阪圏の鉄道混雑率の推移

混雑率が高いトップ5区間

しかし、国土交通省の同調査からは、コロナ禍前に戻りつつある区間とそうでない区間の差が激しいことがわかった。それぞれの区間の混雑率について触れていこう。

ここから先は、混雑率だけでなく輸送力にも注目してほしい。輸送力とは一定の時間・区間内で何人の旅客を輸送できるかを示す能力のことだ。したがって、住んでいる人や働いている人が多いエリアが必ずしも混雑するというわけではなく、乗車人員と輸送力のバランスで混雑率は変化する。最新の2023年度実績で混雑率が高い上位5区間は以下の通り。

1.阪急神戸本線 神崎川駅→十三駅 混雑率143%(輸送力2万5,800人)
2.大阪市高速電気軌道御堂筋線 梅田駅→淀屋橋駅 混雑率132%(輸送力4万8,764人)
3.京阪本線 野江駅→京橋駅 混雑率122%(輸送力3万3,558人)
4.JR西日本片町線 鴨野駅→京橋駅 混雑率120%(輸送力1万6,335人)       
4. JR西日本阪和線快速 堺市駅→天王寺駅 混雑率120%(輸送力1万960人)

阪急神戸本線阪急神戸本線

混雑率が低いトップ5区間

混雑率が低い上位5区間は以下の通り。

1. 大阪市高速電気軌道四つ橋線 なんば駅→四ツ駅 混雑率92%(輸送力1万8,084人)
2. 大阪市高速電気軌堺筋線 日本橋駅→長堀駅 混雑率93%(輸送力2万2,080人)
3. 阪神本線 出屋敷駅→尼崎駅 混雑率101%(輸送力1万7,383人)
4. JR西日本東海道線快速 茨木駅→新大阪駅 混雑率102%(輸送力1万9,752人)
5. 南海高野線 百舌鳥八幡駅→三国ヶ丘駅 混雑率108%(輸送力2万2,590人)

上記のようになんば駅や新大阪駅といった大阪府の中心部でも、意外に混雑率は低い。

大阪市高速電気軌道四つ橋線大阪市高速電気軌道四つ橋線

コロナ禍と比べて混雑率が上がったのはどの区間?

次にどの区間がコロナ後に混雑率が上がったのか、上位5区間を見てみよう。
(2021年度→2023年度)
1. JR西日本阪和線快速 堺市駅→天王寺駅 
混雑率90→120%(30ポイント増) 輸送力1万2,056人→1万960人(-1,096人)
2.阪急神戸本線 神崎川駅→十三駅 
混雑率115%→143%(28ポイント増) 輸送力2万6,574人→2万5,800人(-774人)
3.JR西日本東海道線緩行 東淀川駅→新大阪駅
混雑率84%→111%(27ポイント増) 輸送力1万4,157人→1万3,068人(-1,089人)
4.阪神本線 出屋敷駅→尼崎駅 混雑率101%(輸送力)
  混雑率83%→101%(18ポイント増) 輸送力1万7,364人→1万7,242人(-122人)
5.阪急宝塚本線 三国駅→十三駅
混雑率111%→126%(15ポイント増) 輸送力2万4,768人→2万3,736人(-1,032人)

JR西日本阪和線快速JR西日本阪和線快速

コロナ禍と比べて混雑率が上がっていないのはどの区間?

続いて、コロナ禍と比べて混雑率が上がっていない区間を確認する。
1.近鉄大阪線 俊徳道駅→布施駅 
混雑率117%→113%(4ポイント減) 輸送力1万9,040人→1万9,040人(±0人)
2.近鉄奈良線 河内小阪駅→河内永和駅
混雑率119%→116%(3ポイント減) 輸送力2万2,700人→2万1,674人(-1,026人)
3.近鉄京都線 向島駅→桃山御陵前駅
混雑率112%→111%(1ポイント減) 輸送力1万3,622人→1万3,344人(-278人)
4.南海本線 粉浜駅→岸里玉出駅
混雑率109%→113%(4ポイント増) 輸送力1万6,410人→1万6,666人(+256人)
4.JR西日本片町線 鴨野駅→京橋駅 
混雑率131%→120%(9ポイント減) 輸送力1万7,424人→1万6,335人(-1,089人)

近鉄大阪線近鉄大阪線

輸送力の増減傾向の把握も重要

ここで、コロナ禍と比べて混雑率が上がった区間と上がっていない区間の輸送力の増減を見比べてほしい。前者はすべてマイナスで、上位5区間中3区間が千人以上減らしている。一方で後者は上位5区間中3区間がマイナスになっているものの、減少幅は前者と比べて小さい。南海本線の粉浜駅→岸里玉出駅についてはプラスにさえなっている。つまり混雑率が増加している理由は、コロナ禍が収束して乗車人員が増えていることはもちろん、輸送力を減らしていることも考えられるのだ。実際にもっとも混雑率が上がった堺市駅→天王寺駅があるJR西日本は、コロナ禍中の2022年春のダイヤ改正で本数を最大2割減らしている。また、南海電鉄は、2024年12月21日からダイヤ改正を行う。その際、訪日外国人の需要回復に加え、2025年に大阪・関西万博が開催されることから難波駅―関西空港間の輸送力を増強するとしている。より混雑率の低い区間への住み替えを考えているのなら、このような輸送力の増減傾向を把握することも重要だろう。

南海本線南海本線

公開日: