木質バイオマス発電とは
木質バイオマス発電は、森林の管理で発生する間伐材や、製材工程で発生する廃材などの有機物をエネルギー源として利用する発電方法のこと。
バイオマス発電には、木質系以外にも食品廃棄物を利用したものやサトウキビを利用したものなどがある。いずれも再生可能エネルギーとして、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)」に位置づけられている。
※再エネ特措法:再生可能エネルギー源を利用促進国際競争力の強化、国産業の振興、地域の活性化等を目的した特別措置法(2011年制定法)
木質バイオマスは、森林管理で発生する間伐材や伐採残材、製材所から出る木くずやおがくず、剪定枝、使用済み木材、廃材などを「直接燃焼」または「ガス化」して発電する方式の2種類が用いられる。
一見すると、「火力発電所と仕組みは同じでは?」と思いがちだが、木は成長過程で二酸化炭素を吸収するため、燃焼時に排出される二酸化炭素と相殺される。このため、近年では脱炭素社会の実現のための重要なエネルギー源の一つとして注目されつつある。
林野庁によれば、日本の国土面積の3分の2を占める森林のうち約4割が人工林とされる。さらにこの人工林の約半数が主伐期である50年を超えている現状がある。
理由は、戦後の住宅需要等に対応するために植林が盛んに行われたが、1964年の木材輸入自由化、住宅着工戸数の減少等の背景により、国産材の利用が低迷したことで主伐期を超えてもなお利用されずに残っているためだ。
自然林と異なり、人工林には人の手による適切な管理が必要であり、管理されなくなると森林がもたらす水源涵養機能(=森林ダム機能)が発揮されにくくなり土砂災害の危険性が増加する可能性が高くなる。また、現代病ともいえるスギ花粉症の原因となるスギは、人工林の約4割を占めている。
国では木材の利用促進策として、林業への支援強化、公共建築物での利用促進や、建築基準法の木造利用の促進に向けての規制緩和、補助金創設など、あらゆる取り組みを進めている。
そのなかでも木質バイオマス発電は、脱炭素に加えて、防災、地域経済への貢献など「まちづくり」の側面としての機能を持っており、発電に至る活動で得られる効果は電気だけにとどまらない。
那須での木質バイオマス発電の事例
今回取材した那須ハイランドパークを運営する「藤和那須リゾート株式会社」では、東京ドーム172個分の森林(約800万平方メートル)、別荘地区画5,000区画、宿泊施設200室、年間50万人が来訪する那須ハイランドパーク内での電力を再生エネ化する那須グリーンハイランド構想の実現を目指している。
また、別荘地である「那須ハイランド」では、21世紀型社会に求められるソリューションの共創・実証実験・社会実装を行う国内最大規模のリビングラボ(ナスコンバレー)が2021年10月から展開されている。リビングラボとは「Living(生活空間)」と「Lab(実験場所)」を組み合わせたものだ。人々の生活空間の近くで社会実証を行うことにより、生活者視点に立ったサービスや商品を生み出していくことを目指している。
ナスコンバレー詳細記事はこちら:那須の別荘地をフィールドとした国内最大級のリビングラボ 「ナスコンバレー」。自立・自走できる未来の暮らしの実験 ~ 自立できる街と住まい
那須ハイランドパークにて電気設備全般を担っている、飯泉 工務グループマネージャーに木質バイオマス発電について説明をいただいた。
設置された発電機は、フィランドに本社を置くVolter社製の「Volter40」で、発電出力は40kW、熱出力は100kW(85度の温水)となっており、これを2台設置している。
発電力という視点でみると発電効率は22%と、一般的なバイオマス発電の発電効率とされる20%前後となっている。
他の再生可能エネルギーである太陽光発電設備の15~20%と同程度ではあるが、バイオマス発電では、発電過程で生じる熱を利用して施設内の温浴施設の給湯・加温に利用している。これにより、ボイラーで利用する重油消費量の削減を図っているのが特徴だ。
飯泉マネージャーによると、森林約800万平方メートルの管理で生じた間伐材や、別荘地での住宅建築において伐採した木材などの端材など、100%自社所有の森林からの供給で賄っているとのことだ。
通常、木質バイオマス発電では、燃料となるチップを安定的に確保するために海外や遠隔地からの輸送コストが発生するが、那須リゾートでは供給源が自社内にあり、発電までのすべての過程を自社で完結しているため、地域内でエネルギーが循環している仕組みが整っているとのことだ。
また、木質バイオマス発電に伴うチップの燃焼工程により燃料の1~2%発生する灰の利活用方法について検討を進めているとのことだ。通常は廃棄されるそうだが、灰を利活用できるようになれば、発電において捨てるものが一切なくなるため、再エネとしてさらに地位を確立するに違いない。
那須では大規模太陽光発電設備も設置
飯泉マネージャーから那須ハイランドパーク内の遊戯施設の電力を賄うために設置した太陽光発電設備についても案内していただいた。
太陽光パネルは、那須ハイランドパーク駐車場の屋根部分に設置されており発電出力は合計460kW、2024年4月から稼働開始したばかりで、ハイランドパークの半分の電力を賄っているとのこと。
こちらも木質バイオマス発電と同じく100%自家消費となっている。
このように、那須ハイランドでは積極的な自然エネルギーへの投資を行い、「地産地消の循環型の持続可能な地域づくり」の実現を目指している。
那須は、東京から東北新幹線で最寄り駅の那須塩原駅まではわずか1時間ほど。レジャー施設や温泉など豊富な観光資源を有しているほか、別荘地としても有名で、週末になれば多くの観光客でにぎわう。
今回、取材にご協力いただいた藤和那須リゾート株式会社では、別荘用の販売や賃貸などを行っているので、那須での住まいに興味がある方はぜひ一度サイトを訪問していただきたい。
併せて、前項でも紹介したが、「那須ハイランド」ではナスコンバレーーが進行中だ。ナスコンバレーでは、21世紀型社会に求められるソリューション(エコシステム、サービス、製品)の共創・実証実験・社会実装を行う国内最大規模のリビングラボが展開されているので、こちらも興味がある方はサイトを訪れてみてほしい。
全国で木質バイオマス発電の普及が進む
全国的に見ても木質バイオマス発電設備の導入が進んでいる。
国の統計調査によると、2015年3月末には529.6MWであった木質バイオマス発電の導入容量は、2023年3月末時点で4,750.8MWと大きく上昇している。
その背景にあるのは、脱炭素社会、カーボンニュートラルな社会への実現に向けた国の積極的な取り組みにある。一方で、燃料となる木質チップ調達コストの低コスト化や、効率的な木質チップの流通システムの確保、林業への支援・技術開発、木材利用促進(木造建物の普及)、需要側のインフラ整備などの課題を抱えている。また、太陽光発電設備のように各家庭の設置というほどの超小型設備ではないことも要因の一つだ。
とはいえ、各企業では木質バイオマス発電へのが投資が活発だ。
例えば、大手住宅メーカーの一つである「住友林業」や、大手ゼネコンの「清水建設」でも木質バイオマス発電の普及に取り組んでいる。
一例として、住友林業によるとグループ全体の木質バイオマス発電の発電規模は約251.6MWとなっている。
これは、約55.5万世帯の電力の供給に相当している。住友林業は、社有林として約4.8万ヘクタールという超広大な土地を有していることで有名だが、そうした豊富な森林資源を活用して森林管理から利用・活用と環境経営に取り組んでいる事例と言っていい。
また同社以外にも、関西電力が出資する企業が、2022年4月に福島県いわき市にて国内最大規模となる11.2万kW(一般家庭25万世帯に相当)の木質バイオマス発電所を稼働している。愛知県でも2025年9月に同規模の木質バイオマス発電所が稼働する予定となっている。
木質バイオマス発電がもたらす「まちづくり」への貢献
木質バイオマス発電で注目したいのは「災害に強い都市」の形成という、まちづくりと密接な関係にある。
森林資源が豊富な地域では、地域内で育成される木材を利用することで、地域内に対して持続可能なエネルギー供給が可能となる。これにより、新たな雇用や交流など、地域経済の活性化にも寄与することが期待されている。また、木質バイオマス発電所は大規模な電力供給インフラに依存せずにエネルギーを供給できるため、災害に強い都市構造を形成することにつながる。
昨今、注目されつつあるスマートシティの取り組みの一環として、VPP(仮想発電所)の検討が進められているが、例えば、住宅や事業所に設置されている再生可能エネルギーや蓄電池を連結し、需給調整の仕組みを導入することで、一定のエリアを仮想空間の発電所とすることができる。その際、木質バイオマス発電所は、基幹的な拠点として役割が期待される。
VPPというあまり聞きなれない言葉を使ったが、あまり知られていないがVPPは今後のまちづくり・都市計画において欠かせないものだ。
VPPは、今回の那須に設置されたような小規模な再生可能エネルギー発電や、太陽光、蓄電池等の分散された発電設備やシステムをIot技術を活用して1つにまとめることをいい、専門の会社が電力需給のバランスを図る。Iot技術が進歩した現代だからこそ検討・実証が進められている分野の一つとなっている。
災害時のリスクを軽減できる点がVPPの特徴の一つだ。
例えば、大手の電力会社が電力供給を一手に担う場合、災害時に大規模発電施設が被害を受けてしまうと、大規模な停電が発生する可能性が高くなる。また東日本大震災のときのように、大規模施設が被害を受けると、復旧までに多大な時間を要することが考えられる。
しかしながら、VPPのエリア内であれば、ごく小規模発電施設の集合体のため災害時の復旧が早く災害時でも電力供給がストップしにくいメリットがある。
また、災害時においても被害が小さく電力の余剰があれば、他の被災地域への融通も可能となるため、災害に強い都市構造を形成することに役立つ。まだまだ世間的にはVPPという言葉は聞き慣れない言葉かもしれないが、木質バイオマス発電を含めて、今後の成長産業の一つだ。
今後の展望
木質バイオマス発電は、再生可能エネルギーの一環として、日本のエネルギー政策において重要な位置を占めるようになるのは確かだ。
なぜなら、同様の再生可能エネルギーである太陽光よりも災害に強い都市をつくるうえで優れているからだ。
例えば、田畑や森林を太陽光発電設備とする場合、林地開発許可基準では一定規模を除いて洪水調節池の設置義務がない。宅地開発でも同様だが、一定規模以上の開発行為を行う場合には、調節池の設置等により河川への流入水量を抑える措置が取られる。
保水力のある森林が貯留機能が皆無の土地に変わると、降雨時には一気に河川へ流入するため、ピーク流量が増大することで洪水や内水浸水が発生しやすくなる。建物の屋根に設置される太陽光発電設備は別として、保水機能が損なわれる開発行為は、短時間強雨が増大している現代では避けるべきとする見方をする専門家もいる。
一方で、木質バイオマス発電は、森林の適切な管理(間伐)によって水源涵養機能を維持することにつながる。それが結果的に、下流に位置する市街地の洪水被害軽減に貢献する。加えて、主機能は、地域内への電力や熱源を供給することにある。
これだけ聞くと、国民がそのコストを払っても必要な取り組みになるのではと考えられる。一方で、間伐材や端材等の確保のために木材利用促進も同時に進めていかなければならないというバランスの取れた取り組みが求められる。
今後、技術の進歩や開発コスト、輸送コスト等の削減、電力の需給調整市場の導入・展開が進むことで、さらに多くの地域や企業が木質バイオマス発電に参入することが期待される。豊富な人工林を抱えている地域が注目を集める日は近いかもしれない。
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