チャレンジする人を増やし応援する建設会社
三嶋大社の門前町として、また東海道の宿場町として古くから栄えたまち、静岡県三島市。人口10万人ほどの都市でありながら、東海道新幹線も停まり、飲食店数は県下5番目の多さを誇るにぎわいのあるまちだ。
美しい富士山を望むことができるこのまちで、「世界が注目する元気なまちをつくる」をビジョンとして掲げる企業がある。
三島市で長きにわたり建設業を営む、加和太建設株式会社だ。同社は建設業でありながらまちづくりにコミットし、まちににぎわいを生み出すさまざまな取り組みを行っている。
加和太建設が2023年に行ったプログラムが、三島まちなかチャレンジプログラム「みしますきー」。三島が好きな人・三島が好きな人を“増やしていく人”を増やしていく……というプログラムである。
同プログラムが立ち上がった経緯について、加和太建設株式会社 まちづくり事業部まちづくり課 勝岡裕貴さんはこう話す。
「弊社は以前より、三島のまちでチャレンジする人や、まちを好きな人を増やしていくことを目指し、チャレンジャーの応援をしていました。具体的には、弊社が三島の中心市街地に所有している25物件を、リノベーションしたりそこで事業をする人に貸し出したりしながら、まちの魅力向上を目指してきたのです。しかしそんななかで見えてきたのが、『新しく事業を始めたいけれど始め方がわからない』『事業計画を立てていない』など、やりたいことがあっても途中で断念している人が多いという現実です。“チャレンジする人を増やし応援する”ことを目標に掲げている私たちは、そこに対して解決するソリューションが必要だと思い、今回のプログラムを立ち上げることにしました」
こうして三島のまちでチャレンジする人を応援する公募型のプログラム・みしますきーがスタートすることになった。
「まちづくり×チャレンジ」知見の深い企業とコラボレーション
「みしますきー」の立ち上げにあたり、加和太建設がコラボレーション相手に選んだのが「株式会社エンジョイワークス」だ。神奈川県鎌倉市を拠点に、「共創」をテーマに全国のまちづくりに取り組んでいる企業である。
同社は以前、東京・日本橋の遊休不動産を活用し起業支援を行うプロジェクトに参画した実績がある。その知見を借りるためエンジョイワークスにコラボレーションを申し出たそうだ。
エンジョイワークス 事業企画部の福来崇さんは「日本橋のプロジェクトとみしますきーは似ているところもありますが、ニーズが異なっていましたので、これまで弊社が培ってきたノウハウをみしますきーに落とし込みカスタマイズしました」と話す。
どちらも、そのエリアで事業を興すことができる人材を育成する取り組みであるが、日本橋のプロジェクトは、目立ってきた遊休不動産の利活用促進が重点課題であったのに対し、みしますきーは三島を好きな人を増やす・このまちでチャレンジする人を増やすことがミッションのプロジェクトだ。
加和太建設の勝岡さんは、三島のまちの現状をこう話す。
「三島のまちなかエリアは、1階のテナントは人気が高く空き店舗は少ない状況です。一部路面店の空きもあるのですが、大家さんが高齢化などを理由に物件を貸す意思がないケースも少なくありません。一方で2階以上のいわゆる“空中店舗”と呼ばれる店舗には空き物件も見られます。今回のプロジェクト参加者がこうした空中店舗を含めた“まちなかエリア”で事業を行うことで、まちが元気になる。そうすれば、このまちでチャレンジしたい人が増える。ひいてはまちを好きな人が増え、さらなるまちの活性化と魅力向上につながるはずです。そういった循環を増やすことを目的にプロジェクトが始動しました」
チャレンジでまちを元気に!「みしますきー」とは
静岡県三島市の“まちなかエリア”の空き物件を使い、新たに事業や商いにチャレンジしたい人に向けて、伴走・支援・応援を行い、事業実現をサポートしていくプログラム「みしますきー」。
具体的には、三島のまちなかエリアで何かチャレンジしたいことがある人を募集。今回は初回にもかかわらず、問合せや相談が58件にも及び、そのうち16件がエントリーした。その後書類選考と面談を経て、1次選考を行い通過者を決定。通過者(今回は9件)は、約4ヶ月間にわたる伴走支援を受けながら、事業を具現化していき、最終選考(今回は7件が参加)でそれぞれがプレゼンテーション。最優秀賞が決められるという流れだ。
伴走支援は、1対1の面談をはじめ、講師による講座、先輩プレイヤーによるメンタリングなど、チャレンジする人が事業実現にあたり直面する壁や不安を取り払うことができる内容だ。さらに地域で開催されているイベントなどに出店する機会も与えられた。ゼロスタートではなく、ある程度お膳立てされた状況でトライアルでき、今後の事業課題を見つけたりマーケティングできたりするのは、参加者にとって大きなメリットであることは間違いない。
みしますきーメンターのひとり、ゲストハウスgiwa・ワーカーズリビング三島クロケットの山森達也さん。東京から三島市に移住し、三島市で起業した人物だ。「自分が起業したときのことを思い出し『こういうことに悩んでいたな』『こんなことが大変だったな』と振り返りながらお話ししました。ほかのメンターさんたちのお話は、私も非常に勉強になりましたし、いい刺激をもらいました」と山森さん「みしますきーは“共創”がテーマです。いかに地域の人たちの力を借りながら応援していけるかを重要視し、すでに三島エリアで起業している人がメンターとなり、いい面だけではなく、苦労した点やつまずいた点など、先輩プレイヤーの“生の声”を聞かせてもらいました」と加和太建設の勝岡さん。
地域で活動するメンターによるアドバイスは、このまちでチャレンジしたいと考える人たちにとって、よりリアルに未来を想像することができただろう。
そして当初は考えていなかった効果もあったそうだ。それは、参加者同士でのコミュニティが生まれたことである。「情報や思いなどを共有し相談できる仲間ができたことは、精神的な下支えになったと感じます」と勝岡さん。
そして福来さんはこう続けた。「参加された方々の熱量が非常に高くて驚きました。私たちがサポートしていかなくても自走していけるメンバーに成長してくれたし、これからも熱量の高い『みしますきー』が集まっていくんだろうと思います」。全国各地のまちづくりプロジェクトに携わった福来さんも、みしますきーにたくさんの可能性を見たと話した。
最優秀賞に選ばれたのはジェンダーフリーサロン
先述のとおり、問合せや相談が58件にも及んだ「みしますきー」。その事業内容は、飲食店やショップ、サロン、コミュニティスペースなど多岐にわたったそうだ。
最終選考に残った7件のなかから最優秀賞に選ばれたのは、性別に関係なく、まつげパーマやネイルケアを受けられる完全個室サロン。
男性の美意識が高まる一方で、女性専用サロンが多い現状に一石を投じたプレゼンテーションは、ビジネスモデルとしての面白味や実現の可能性、そして三島のまちの向上にどれくらいつながるかなど、総合的に完成度が高い内容だったという。現在まちなかエリアでの開業に向け、着々と準備が進められている。
取材のこの日、みしますきー参加中に「ginger books cafe(ジンジャーブックスカフェ)」を開店した岩村知子さんにも話を伺った。
岩村さんは以前から「三島で書店を出店したい」と考えていたそうだ。しかしなかなかいい物件が見つからず、加和太建設に相談。それがみしますきーを知るきっかけとなった。
実際、自分の中でやりたいことは固まりつつあったが、「何が足りないのかわからなかった」と話す岩村さん。エントリーしたことで、提出書類や必要事項など、わからなかったことを詳細にサポートしてもらうことができたそうだ。
「ひとりだと重い腰が上がらずグズグズしてしまいそうなことも、みしますきーに参加したことでお尻を叩いてもらうことができたと思います。また、同じ立場の人とつながりを持ち、お互いに応援し合える関係になれたことも参加してよかったことですね。これからもまちの中に溶け込んでいくようなお店を、細く長く続けていきたいです」と岩村さんはほほ笑みながら話してくれた。
「新しくチャレンジできる」が三島のカルチャーに
プログラムを終えて、エンジョイワークスの福来さんは「今回のプログラムは、事業実現に向けたチャレンジ精神というより、ひとりではなく、みんなで三島のまちの温度感に溶け込んでいくプログラムだったと思います。自然と人と人とがつながっていくのが見え、する側・される側ではなくみんなでやっていく姿が、とても三島らしいと感じました。思惑どおり『まちを好きになる人を増やす』というコンセプトに自然とコミットできたのは興味深かったですね」と話す。
そして加和太建設の勝岡さんは「三島のまちはもともとNPOが多く、地域活動が盛んな地域。誰かの活動を応援したりみんなで一緒に何かをつくったりする下地のあるまちです。今回も多くのまちの人たちから『応援するよ』と声をかけていただきました。加和太建設が走り続けるのではなく、まちに関わる人たちと共創して、一緒にチャレンジする人を応援するというシステムをつくっていきたいですね。その結果、三島のなかでチャレンジするカルチャーが根づき、『三島=チャレンジしやすいまち』となればいいなと思います」と話した。
参加者たちがぼんやりと描いていた夢の輪郭は、「みしますきー」に参加し、たくさんの人たちのサポートによって少しずつ鮮明なものとなり、事業開始に向けて大きな一歩を踏み出した。みしますきーによって「三島が好き」「三島でチャレンジしたい」という人や思いは、これからもどんどん波及していくだろう。
【取材協力】
加和太建設株式会社
株式会社エンジョイワークス
公開日:











