災害時、被災地支援で、私たちにできること

大規模災害が発生すると、被災していない人の心理として「自分は、何の支援ができるのだろうか」と思い悩むことがある。
被災地への支援は、ボランティアからの物資の支援、寄付などさまざまだが、やはり最初の段階から継続して歓迎されるのは、寄付である。

一方で、寄付で悩ましいのは「どこへ」「どのような形で」寄付すると効率的かつ効果的に届けられるか、ということである。
令和6年能登半島地震では、タレントの川崎希さんがブログで「ふるさと納税で、被災地に速やかに支援する寄付ができると知って、石川県能登町に100万円を寄付いたしました」
「被災地に直接寄付ができるのと、手数料を取ってないとのことでこちらにしました!そして、被災地の業務に負担をかけないように代理寄付制度があるようで、私は茨城県つくばみらい市を通しての寄付にしています」と、発信したことが話題になった。

川崎さんは「返礼品なしの寄付のみのものを選択してます」とも発信している。
ふるさと納税による寄付の特徴や代理寄付の仕組みを調べたのでお伝えしたい。選択基準の助けとなれば幸いである。

ふるさと納税による税控除の仕組み(総務省「ふるさと納税ポータルサイト」より)ふるさと納税による税控除の仕組み(総務省「ふるさと納税ポータルサイト」より)

ふるさと納税による寄付は、実質的に住所のある自治体から寄付先への「税の移転」

ふるさと納税は、「納税」という名称ではあるが、実際には、都道府県、市区町村への寄附である。
都道府県、市区町村など自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除される。ふるさと納税の仕組みを使うと、原則として自己負担額の2,000円を除いた全額が控除の対象となる。

つまり、税控除を使う前提で考えると、ふるさと納税は2000円を自己負担することにより、住所のある自治体から、寄付先の自治体に、住民税を移転させることができる、という仕組みだということが分かる。
つまり、川崎さんが2000円自己負担したふるさと納税により、川崎さんの居住地から能登町に住民税が移転した、というのが実際のお金の動きなのである。

ふるさと納税によるお金の動き(世田谷区公式ウェブサイトより)ふるさと納税によるお金の動き(世田谷区公式ウェブサイトより)

ちなみに「返礼品あり」のふるさと納税であれば、能登町から寄付額の3割以下に相当する金額で調達された返礼品が本人には届くことになる。
そして、返礼品にはもう一つのルールがあり、返礼品の調達費用を含めた経費の総額は寄附額の5割以下にすること、そこにはふるさと納税ポータルサイトの利用手数料や寄附金受領書の発行費用、ワンストップ特例制度の事務費用なども含むことになっている(2023年10月から)。
つまり、ふるさと納税による被災地への寄付にともない、寄付するあなたの地元からは税が流出することは認識しておく必要がある。ようするに「ふるさと納税による寄付」は、地元自治体の税収を減らし、その分で被災地を応援することである、という本質は把握しておきたい。

代理寄付は、労力の提供による自治体間の支援活動

もう一つ、注目されたのは「代理寄付」である。
川崎さんは「被災地の自治体には手続きで手間を取らせないように被災地の事務作業を代理手続きをしてくれる都市(茨城県)を選択しています」としている。

「代理寄付」とは、被災していない自治体が被災自治体の代わりにふるさと納税の寄付を受け付け、被災自治体へ寄付金全額送付する仕組みだ。
「代理寄付」を受け付けた自治体が被災自治体に代わり事務作業を実施することにより、被災自治体は災害からの復旧対応に注力しつつ、寄付を受けることができる。
つまり、代理寄付は労力の提供による自治体間の支援活動の一環ということができる。

代理寄付の仕組み代理寄付の仕組み

基本的に、代理寄付を担う自治体はふるさと納税のポータルサイトと連携し、ポータルサイトのスキームを活用して寄付を受領する。また、ポータルサイトは通常のふるさと納税では自治体に課金している手数料を請求しない。この仕組みにより、寄付金全額が被災自治体に送金されることになる。
ちなみに、ふるさと納税を行った人は代理寄付を受け付ける自治体にふるさと納税を行った形になり、書類も代理した自治体のものが届く。

ふるさと納税に関する事務は、寄付控除に関する手続き、郵便物の送付など非常に煩雑である。ふるさと納税の事務に精通していない自治体が被災した場合、善意のふるさと納税があっても、担当部署が不慣れな事務でパンクする可能性すらある。
職員が多忙を極める被災自治体としては、代理寄付は強い味方になる。

代理寄付の仕組み返礼品なしの被災地応援寄付を受け付けている自治体の一覧(さとふるの例)

代理受付は、ふるさと納税の経験豊富な自治体の強みが生かせる支援方法

代理寄付は、ふるさと納税で実績が豊富な自治体が担うケースがしばしばある。
たとえば、茨城県境町は令和6年能登半島地震発災の翌日である1月2日にはいち早く石川県輪島市と珠洲市への代理寄付の受付を始め、同3日からは石川県への代理寄付の受け付けを始めた。
境町は2022年には約59.5億円のふるさと納税を集め、関東地区では堂々の1位となっている。境町は、熊本地震において、ふるさと納税を活用した支援金の代理受付を、本震発生の当日に行った実績があり、今回も素早い初動で注目を集めた。

同じく茨城県の行方市は石川県七尾市、輪島市、珠洲市の代理寄付を担っている。
鈴木周也行方市長によると「ふるさと納税の規模が大きく、民間委託等により強固なふるさと納税の事務体制を持っている自治体は、日常のふるさと納税事務の延長線上で代理受け付けが可能であり、まさに代理寄付は我々の持っているノウハウを生かして被災地支援ができるため積極的に取り組んでいる」とのことである。

逆に、日頃のふるさと納税の受け入れ額が少なく、市の職員が日常業務と兼務で事務処理を行っているケースでは、事務を代行することによる負担の増加には対応しづらいのだという。

全国青年市長会会長を務める鈴木周也行方市長。ふるさと納税のノウハウを被災地支援に活かす(鈴木周也Facebookより)全国青年市長会会長を務める鈴木周也行方市長。ふるさと納税のノウハウを被災地支援に活かす(鈴木周也Facebookより)

また、被災地の友好都市が支援するケースや首長同士の関係性が深い自治体が支援するケースもある。
たとえば、鹿児島県阿久根市は、石川県金沢市、小松市、富山県射水市、高岡市の4市に関するふるさと納税の代理寄付を行っている。阿久根の西平良将市長は全国青年市長会の同志である4市長との交流を踏まえて代理寄付に踏み切ったという。
ちなみに、全国青年市長会は災害時に相互応援を行う仕組みを持っており、代理寄付以外にも人や物資を送るなど多方面での支援が行われている。

「自己負担2,000円」で被災自治体を応援するために、余裕を持った見積もりを

代理寄付は基本的に、ポータルサイト経由で申し込むことになる。
また、ふるさと納税ならではの「自己負担2,000円」で被災自治体を応援するためには、自らの今年の納税予定額を把握しておく必要がある。自己負担が2,000円で収まる枠を知るための簡易的な計算は各ポータルサイトでもツールが用意されているが、もとより収入が去年通りに入る、という人はそうそう多くないだろう。
もちろん、2,000円を超えて自腹を切ってもよい、という方はいいとして、余裕を持った金額を設定したいものである。

より詳細にシミュレーションを行う場合には、源泉徴収票や確定申告書を使って行うサイトもあるが、実際には今年の収入や家族状況が基準になるので注意が必要だ。

さとふるの「かんたんシミュレーション」。「家族構成」と「年収」で簡易的に上限がわかる。(ふるさとチョイスより画面キャプチャ―)さとふるの「かんたんシミュレーション」。「家族構成」と「年収」で簡易的に上限がわかる。(ふるさとチョイスより画面キャプチャ―)
さとふるの「かんたんシミュレーション」。「家族構成」と「年収」で簡易的に上限がわかる。(ふるさとチョイスより画面キャプチャ―)控除上限額シミュレーションでは確定申告書か源泉徴収票を準備(ふるさとチョイスより画面キャプチャ―)

それでも返礼品は欲しい、という方は

普段、ふるさと納税で返礼品を楽しんでいる方にとっては、もしかしたら返礼品なしのふるさと納税は寂しく感じるかもしれない。
その場合、返礼品ありのふるさと納税を選択することができる。ただし、今回のような重大な災害の場合、被災自治体が返礼品の事務を担えるようになるまでには時間がかかることが予想される。さらに、事業者によってはこれまた返礼品の供給再開に時間を要するケースがあろうことは想像に難くない。

また、代理受付により、被災自治体の支援をしている自治体に返礼品ありのふるさと納税をすることもできる。被災自治体を応援する自治体を応援する、という考え方である。
ただし、返礼品ありのふるさと納税の場合は当然のことながら寄付額からサイト手数料や返礼品調達費用を寄付先自治体が負担することになること、さらに、被災自治体の場合は返礼品が届くまでに時間を要することには注意が必要だ。

「被災地の役に立ちたい」という気持ちをどのように方法で形にするのかは、あなた次第である。

総額、人数など代理受付の状況が分かるサイトも(「ふるナビ災害支援」より)総額、人数など代理受付の状況が分かるサイトも(「ふるナビ災害支援」より)

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このたびの石川県能登地方を震源とする令和6年能登半島地震により、被災された皆さま方に心からのお見舞い申し上げます。
被災者の救済と被災地の復興支援のために尽力されている方々に深く敬意を表すとともに一日も早い復興をお祈りしております。

LIFULL HOME'S PRESS編集部


■LIFULL HOME'S 【令和6年能登半島地震】住まいに関する支援情報は こちら
→ https://inquiry.homes.co.jp/r6-noto-peninsula-earthquake-support

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