電動キックボードとは
2023年7月1日より、道路法が改正されたことで一定の要件を満たす電動キックボードを「16歳以上なら無免許」で乗れるようになった。電動キックボードとは、2017年にシェアリング事業が登場し、2年間で世界中に広まった電動2輪モビリティのことである。自転車と比較して半分程度の体積であり、自転車5台駐輪するスペースに10台を駐輪できるコンパクト性を特徴としている。電動キックボードのシェアリングは各国で急速に普及しており、世界のシェアリングサービスにおいては自転車よりも電動キックボードのほうが普及している。
ボードの上にT字形のハンドルが設置されている2輪車であり、足を前後にやや開いた状態で直立に立ち、直立姿勢のままハンドルを握った状態で進むのが特徴だ。後ろから追い抜かす車のドライバーの立場からすると、ふらついてほしくないと願ってしまう印象がある。
電動キックボードは、道路法では特定小型原動機付自転車という名称になっている。
特定小型原動機付自転車の要件は以下の通りである。
【特定小型原動機付自転車の要件】
・最高速度:20km/h以下
・定格出力:0.6kW以下
・車体の大きさ:長さ1.9m以下、幅0.6m以下
・走行中に最高速度の設定を変更することができないこと
・オートマチック・トランスミッション(AT)であること
・最高速度表示灯(灯火が緑色で、点灯または点滅するもの)が備えられていること
電動キックボードは、徒歩10~15分程度の距離の移動に適した乗り物とされており、観光スポット巡りに適しているため、世界の主要な都市部で利用者が急増している。
規制緩和の内容
2023年7月1日より前の道路法では、電動キックボードは原動機付自転車に分類されていた。別名、立ち乗り電動スクーターとも呼ばれており、道路法の改正前は一般的なのスクーターと同様に乗るには運転免許証が必要であった。2023年7月1日以降に規制緩和された内容は、16歳以上であれば運転免許証がなくても乗ることができるようになったという点が最大のポイントである。また、ヘルメット着用に関しても義務から努力義務に緩和された。
電動キックボードは無免許でも乗ることができるが、車道を通行しなければならず、公道を走行するには車両が道路運送車両の保安基準に適合していることを要し、ナンバープレートを取り付け自賠責保険への加入も必要となる。ほとんどスクーターとルールは変わらないが、スクーターは免許が必要なのに対し、電動キックボードは免許が不要という点が大きな違いとなっている。電動キックボードの免許が不要な理由は、速度が20km/h以下で抑えられている点が背景にあると考えられている。
一般的にママチャリと呼ばれる普通の自転車であっても、20km/h程度の速度で走ることができるため、免許なしでも乗れる自転車と同じ扱いとしたようだ。ただし、免許なしでも乗れるのは、あくまでも最高速度が20km/h以下等の要件を満たす特定小型原動機付自転車であることが条件だ。特定小型原動機付自転車の要件を満たさない電動キックボードは、改正後の道路法でも原動機付自転車の扱いとなり、乗るには運転免許証が必要でヘルメットの着用義務も生じる。
主な交通ルール
電動キックボードの主な交通ルールについて解説する。
車道通行の原則
電動キックボードは、原則として車道を通行することとなっている。車道の中で通行できる部分は左側の端であり、右側を通行することはできない。自転車道がある場合には、自転車道も走れることになっている。その場合は、車道または自転車道の両方を走行することが可能ということだ。普通自転車専用通行帯がある道路では車道の通行は不可となり、普通自転車専用通行帯を通らなければならない。
ただし、例外的に「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識が設置されている歩道では通行できる場合もある。歩道を通過する場合、歩道の中央から車道寄りの部分または普通自転車通行指定部分を通行しなければならないことになっている。歩道を通行するときは、歩行者優先であり、歩行者の通行の妨げになるときは、一時停止することが必要だ。
右折の方法
電動キックボードでの右折は、2段階右折を行わなければならない。2段階右折とは、信号がある交差点では青信号で交差点の向こう側まで直進し、その地点で止まって右に向きを変え、前方の信号が青になってから進むことを指す。信号のない交差点では、できるだけ道路の左端に寄って交差点の向こう側まで直進し、十分に速度を落として曲がらなければならない。
信号・標識に従う義務
電動キックボードは車道を走ることから、当然、信号機や道路標識に従わなければならない。一時停止線がある場合には、停止線の直前で一時停止することも必要となる。また、歩行者が横断しているとき、もしくは横断しようとしているときは、横断歩道の手前で一時停止し歩行者に道を譲らなければならない。
その他のルール
その他のルールとしては、以下のようなものが挙げられる。
・16歳未満の者の運転禁止
・飲酒運転の禁止
・スマートフォン等での通話や画面を注視しながらの運転の禁止
・2人乗りの禁止
・自賠責保険の加入義務
導入された背景
電動キックボードは、2020年5月から開催された国土交通省が主催する「多様なニーズに応える道路空間」のあり方に関する検討会の中で議論されてきたモビリティの一つである。検討の背景には、人口減少・超高齢化社会の到来やシェアリング・エコノミーの出現といった社会・経済情勢の変化等が挙げられている。
また、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルとも連動しており、電動キックボードはCO2削減に寄与する乗り物であることも導入の背景となっている。
利用するうえでの注意点
電動キックボードを利用する上での注意点は、「交通ルールを遵守すること」と「ヘルメットを着用すること」の2点だ。交通ルールに関しては、運転免許証を持っている人であれば、当然に知っていることばかりの内容となっている。しかしながら、免許を持っていない人にとっては、なじみのないルールが多い。
右折のルールや横断歩道での歩行者優先のルールなどは、免許を持っていなければ知らなくても不思議ではない。もし免許を持っていない高校生が電動キックボードを乗る場合には、親が交通ルールを十分に教え、遵守させたいところである。なお、交通ルールに関しては、一定の違反行為を3年以内に2回以上行った者に対しては、都道府県公安委員会により「特定小型原動機付自転車運転者講習」の受講が命じられるようになっている。
また、ヘルメットに関しては、着用は努力義務となっている。しかしながら、警視庁ではヘルメットの着用を強く推奨しており、できればヘルメットは着用したほうが望ましい。警視庁では、自転車乗用中の交通事故において、乗車用ヘルメットを着用していなかった人の致死率は、着用していた人に比べて約2.1倍高くなるという統計情報(※)を公表している。
(※)出典:警視庁「特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)に関する交通ルール等について」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/tokuteikogata.html
ヘルメットに関しては、SGマーク(※)等の安全性を示すマークの付いたものを使い、あごひもを確実に締めるなど正しく着用することが推奨されている。
(※)SGマーク:安全基準に適合したとして認証されたことを示すマーク
また、警視庁では電動キックボードに関する交通事故件数も公表している。
2020年から2023年7月までの約4年半においては、事故件数は108件であり、死者数は1人、負傷者数は112人となっている。
四輪の車を相手とした交通事故が38%で最も高くなっており、車のドライバーも電動キックボードには十分に注意したいところである。
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