明治神宮外苑に再開発の計画が進行中

明治神宮外苑(以下、神宮外苑)。都内に住む人でなくても、その名前を知る人は多いはずだ。東京都新宿区から港区にまたがる神宮外苑には、明治神宮野球場、明治神宮外苑テニスクラブ、秩父宮ラグビー場などのスポーツ施設のほか、聖徳記念絵画館などの文化施設や豊かな自然もある。特にイチョウ並木は、東京都のシンボルといっても過言ではないだろう。

そんな東京都を代表するエリアに、再開発の計画が進行中だ。開発計画を紹介するとともに、なぜ再開発をする必要があるのか、計画に対する住民の反応などを考えてみたい。

プロ野球や大学野球が開催される明治神宮野球場は1926(大正15)年の開場。右奥は秩父宮ラグビー場プロ野球や大学野球が開催される明治神宮野球場は1926(大正15)年の開場。右奥は秩父宮ラグビー場

神宮外苑の歴史を振り返る

神宮外苑のイチョウ並木と聖徳記念絵画館神宮外苑のイチョウ並木と聖徳記念絵画館

まずは、そもそも神宮外苑がどのようなエリアなのかを確認しておこう。神宮外苑は、1912(明治45)年の明治天皇崩御後、天皇と皇后、皇太后の人徳を後世に伝えるために全国の国民からの寄付金などによって旧青山練兵場跡地に造成された。聖徳記念絵画館を中心にスポーツ普及の拠点として陸上競技場(現国立競技場)、野球場、相撲場などが建設され、1926(大正15)年10月に明治神宮に奉献されている。

第二次世界大戦後は、国の手を離れて宗教法人明治神宮が管理を行い(国立競技場は除く)、その時々のニーズに合わせて軟式野球場、テニスコート、ゴルフ練習場などの施設を建設、改良を重ねて現在に至っている。また、日本文化の普及のために茶道や華道、書道などの教室も一般向けに開講している。

老朽化したスポーツ施設などを建て替え

このように都民にとってなくてはならないエリアとなった神宮外苑だが、開発からすでに100年以上経っていることもあり、さまざまな課題が目立つようになってきた。スポーツ施設の老朽化や気軽にスポーツを楽しんだり、人々が自由に立ち入って自然を楽しめたりするオープンな空間が少ないこと、バリアフリー経路の不足などが指摘されるようになったのだ。

そこで現在進行しているのが再開発計画だ。事業主体は、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事株式会社、三井不動産株式会社。約28.4ヘクタール(東京ドーム6個分)という広大な敷地において、老朽化したスポーツ施設をホテルを併設した野球場などに建て替えるほか、高層ビルの建設、防災機能を備えた公園の整備などが計画されている。計画の着工は2024年を予定。2036年の完成を目指している。

開発後のイメージ。従来のスポーツ施設や文化施設のほか、オフィスやホテルなどが入る高層ビルも新設される計画だ(出所:東京都都市整備局HP)開発後のイメージ。従来のスポーツ施設や文化施設のほか、オフィスやホテルなどが入る高層ビルも新設される計画だ(出所:東京都都市整備局HP)

4つの課題とそれらに対する整備内容

この再開発計画では、主な現状の課題とそれらに対する整備内容を以下のように設定している。

①オープンスペースの不足
現状のオープンスペースの割合は約21%と少なく、さらに空間がフェンスや塀で隔てられていて閉鎖的になっている。そこで約2.5ヘクタールの絵画館前広場、野球場とラグビー場の間に約1.5ヘクタールの中央広場などを新設し、全体の約44%をオープンスペースにする。

②大規模スポーツ施設の老朽化
秩父宮ラグビー場は1947年竣工、明治神宮外苑テニスクラブは1957年竣工、明治神宮第二球場は1961年竣工といったように各スポーツ施設は、完成からかなりの月日が経っており、それだけ老朽化も進んでいる。そのため、既存の施設で現在行われている競技の継続に配慮しつつ、建て替えを推進するとしている。たとえばラグビー場は、全天候型の施設として他の競技やイベントの開催などにも利用できるようにする。

オープンスペースの割合は、約21%から約44%に増加する(出所:東京都都市整備局HP)オープンスペースの割合は、約21%から約44%に増加する(出所:東京都都市整備局HP)
オープンスペースの割合は、約21%から約44%に増加する(出所:東京都都市整備局HP)スポーツ施設は、今の施設を使いながら新施設を場所を入れ替えて、順次建て替えるとしている(出所:東京都都市整備局HP)

③回遊性の乏しさ
エリア内にはフェンスや塀などにより立ち入れない場所が多く、公園としては閉鎖的になっている。そこで東西と南北へ渡るバリアフリーの歩行者ネットワークを拡充する予定だ。

④広域避難場所としての防災機能
スポーツ施設や民間施設は、帰宅困難者の一時滞在施設としての活用や防災備蓄倉庫の整備、備蓄品の提供などにより、地域の防災性の向上を図る。また、広場やオープンスペースは、ヘリコプター緊急離着陸場や災害時臨時離着陸場、救助活動スペース等としての活用を検討する。

豊かな緑への対応策

神宮外苑と聞くと、イチョウ並木をはじめとする豊かな自然をイメージする人も多いだろう。毎年11月下旬に見頃を迎えるイチョウ並木の黄葉は、東京の秋を代表する景観となっている。それゆえ、この再開発による自然への影響を懸念する声も少なくない。

そこで、神宮外苑の象徴といえる4列のいちょう並木は、保全することが決まっている。また、前述のとおり聖徳記念絵画館前や野球場とラグビー場の間に広場を整備し、芝生や高木等による新たな緑を創出する。新たな植樹については、カシ、ケヤキ、サクラ、アオダモ、モミジなどに加え、神宮外苑の特徴ある樹種であるヒトツバタゴなども取り入れる予定だ。これらによって現在1,904本の樹木は1,998本、つまり94本増加する計画となっている。そのことで敷地内の緑の割合(面積比)は、約25%から約30%になる。

広場などを新たに設置することなどで、緑の割合は約25%から約30%に増えるとしている(出所:東京都都市整備局HP)広場などを新たに設置することなどで、緑の割合は約25%から約30%に増えるとしている(出所:東京都都市整備局HP)

再開発反対の声も上がっている

このようにメリットの多そうな神宮外苑の再開発計画だが、疑念の声が上がっていることも事実だ。2023年2月28日、再開発に関する東京都の施行認可手続きは違法だとして、周辺住民ら約60人が東京地裁に提訴した。事業者側が提出した環境影響評価では、高い樹木743本を伐採するとしているが、伐採樹木には低木3,000本が含まれておらず、都の審査は不十分だったというものだ。

また、いったん計画を止めて公共資産である神宮外苑をどうするべきか市民と専門家で考えるべきだ、と周辺住民らが反対運動を始め、11万7,000人を超えるオンライン署名が集まった。

首都東京のど真ん中に位置する広大な敷地の神宮外苑は、まさに公共資産だ。誰もが納得できる再開発となってほしい。

神宮外苑のイチョウ並木。青山通りから聖徳記念絵画館につながる道に146本並ぶ。毎年11月下旬ごろに黄葉のピークを迎え、黄金色に輝く神宮外苑のイチョウ並木。青山通りから聖徳記念絵画館につながる道に146本並ぶ。毎年11月下旬ごろに黄葉のピークを迎え、黄金色に輝く

公開日:

ホームズ君

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