主要街道沿いにマンション建設で台東区は人口が増加
台東区の人口が増えている。
日本人に限っても2012年の17万2252人から22年は19万1234人である。2万人近く、11%の増加である。
人口増加を支えたのはマンション建設である。日光街道、江戸通りなどに即して新しいマンションが次々とできた。2012年から22年にかけて人口が1000人以上増えた町は総武線沿線の台東1〜2丁目、三筋1丁目、柳橋2丁目、蔵前2丁目、そして日光街道沿いの下谷1〜2丁目、竜泉2丁目、根岸5丁目、言問通り沿いの北上野2丁目、西浅草3丁目、あとはタワーマンションが増えた池之端2丁目である。それらに隣接する町も500人以上、あるいは800人以上増えている。
浅草寺は浅草1丁目、花やしきは2丁目であるが、この辺は商業地なので人口増加はあまりない。その東の隅田川沿いの花川戸、今戸あたりも人口増加はない。
他方、浅草寺北側(浅草寺裏)の浅草3丁目、5丁目、6丁目は800人以上の増加をしている。歩いてみると確かに飲食店街の中にマンションとゲストハウスなどが増えている。
若い世代の人口が増えた台東区
台東区の人口を年齢別に見ると、過去10年で増えたのは2022年に23歳~35歳くらいの世代である。彼らが13歳~25歳だった2012年から23歳~35歳になった22年にかけて台東区に住む人が急増したのである。つまり大学を出た新入社員から結婚するまでの期間に住む人が多いのであろう。
40〜55歳くらいの世代も微増している。つまり2012年に30〜45歳くらいで居住していた世代が10年後も定住しており、さらに追加で転入者も増えたということである。
増加した人口に男女の差はない。男性も女性もこの30歳前後の年齢層が台東区に増えた。台東区内に職場がある人はもちろん、中央区、千代田区、文京区にも隣接しているし、都営浅草線なら新橋、品川方面もすぐ。東京メトロ銀座線なら虎ノ門、溜池山王、赤坂見附、青山一丁目などにも直結。きわめて便利である。なのに千代田区、中央区、文京区、港区よりは家賃は安い。
だが下町なので安くて美味い店がある。銭湯もある。最近はおしゃれな店も増えてきた。というのが台東区人気の理由だろう。
このように台東区はおそらく都心に勤めるビジネスマンにとってコスパの良い居住地として評価が定着したといえそうである。
上野入谷口を少し行くと、いきなりかっこいい路地があらわれる
浅草というと高齢者のイメージが強かったが、これだけ若い居住者が増えれば、若い人向けの店ができる。同じ食器でも今風のシンプルなデザインを売る店が増える。
また観光地でもあるので、仲見世のような古い観光資源だけでなく、若い人向けのカフェ、雑貨屋などが増えるのである。
そこで実態を把握すべく、上野駅、田原町、そこから南に下って、寿、蔵前、総武線の浅草橋駅方面までフィールドワークしてみた。
JR上野駅入谷口を出て数分のところには、ブックカフェ、パン屋などが集まった路地がある。路地に入った瞬間にかっこいいオーラが発散している。それもそのはず古材などを活用したリノベーションで有名なゆくい堂の本社があり、そこに隣接してブックカフェなどをつくったのだ。
そこから南東に向かうと銀座線稲荷町付近である。午前11時からやっている銭湯・寿湯がある。ここは2度ほど来たことがある。塩を体にまぶして入る塩湯があり、サウナ以上に気持ちが良い。寿湯の向こうのマンションは同潤会上野下アパートを取り壊して建設されたものだ。同潤会アパートは風呂がないので、住人は寿湯を利用したのである。
インスタ女子が集まるパリ風カフェ
そこから東の田原町駅方面に向かい、駅の南側界隈を歩くと、行列のできるカフェfromafarがある。パリ風の大きなカフェで、インスタ女子で満員。本棚が並んでいて、ホテルのラウンジのようでもあるが、なぜか北海道土産の熊の木彫り人形もたくさん置いてある。
次は蔵前方面に南下。食器、文房具、ブティック、バッグなど革製品の店がたくさんある。もともと浅草界隈は革製品の街である。だから靴、財布、バッグなどの店が多いのである。
鳥越・三筋は金具街と呼ばれており、バッグ、ベルト、袋物の問屋が多かったし、柳橋・浅草橋や蔵前通りは玩具、人形、雑貨、文具の問屋が多かった。そういう流れをくんでいるのだろう。
蔵前にあるセレクトショップWeekender Shopは、あえてそうしているのか、店構えはアルミサッシを開けるだけのシンプルなつくりだが、置いてある商品は、知る人ぞ知るブランドMITTANなど、かなりこだわりの日本製ブランドが中心のようである。
その向かいコーヒースタンドのSOL'S COFFEE STANDがあるが、店の前に椅子を出して、周辺のお店や会社に勤める人たちの溜まり場になっている雰囲気が心地よい。
そこから西に戻ると、江戸通り沿いに戦前築と思われるタイガービルがあり、1階はカジュアルな家具屋が入っている。ビルの裏手、都営大江戸線の南側の三筋通り方面に向かうと、角に立派な銭湯・三筋湯があり、3時から常連のお年寄りで一杯であるが、それに混じって若い男性が入っていった。若い人にも人気なのかもしれない。
三筋湯のはす向かいには角打ちのできる飲み屋NOMURA SHOTENがある。銭湯を眺めながらクラフトジンなどが楽しめる。3時半にはもう客がたくさん集まっていた。
その南には自家焙煎コーヒーと自家製チョコレートなどの店・蕪木(かぶらき)があるが、満員で中に入れなかった。古い木造商店のヴィンテージ感のある壁面をうまく利用したファサードは麻布十番の裏通りにでもありそうなセレクト感がある。
裏浅草は花街中心に大人の雰囲気
一方浅草の浅草寺の北側、裏浅草と言われる方面に行くと、ここは花街であり、今は少なくなったが芸者さんがいる。若者というより少し大人の街であり、雑貨、インテリアというよりは完全に夜の飲食街である。昭和喫茶も深夜まで営業している。
このへんまではインバウンド客もそれほど押し寄せてくることはないらしく、落ち着いた雰囲気で楽しめる。
さすがに一見さんで入るのは勇気がいるが、たまたま私の知り合いの知り合いの男性が裏浅草で建築事務所をしているというので訪ねたところ、とてもおいしい料理屋に連れて行ってくれた。さすが花街だなと思うのは、料理が非常に細部や素材が工夫されていて、味もやさしく、女性好みなのである。もちろんいろいろな料理屋があると思うが、こういう繊細な味の店があるなんて、神楽坂、人形町、荒木町の次は裏浅草で遊べるようになりたいものだと思った。
それから歩いていて思ったが、大通りにはクルマがひっきりなしに走っているが、裏通りにはあまりクルマは通らないということである。もちろん土地は平坦である。だから安心して楽に歩ける。そこに新しい魅力的な店ができ、下町らしい風情のある風景とミックスして、楽しく散歩ができる。台東区はウォーカブルな街なのだ。
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