容積率150%という贅沢な空間

前回レポートした「立川グリーンスプリングス。第四の消費的な“時代の方向性を示す”郊外再開発 ~ 立川 GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)①」
このGREEN SPRINGSを開発したデベロッパーの株式会社立飛ホールディングスが国から入札で購入した旧軍用地は、南北約400m、東西約100mの3.9万m2であり、開発与件として地区計画で住宅の開発が禁止され、航空法の高さ制限もあった。

だが、実際にできたGREEN SPRINGSには11階建てのホテル「ソラノホテル」が一番高いが、あとの建物はほとんど3階建てになっている。容積率が500%の敷地なのに150%台しか使っていないという。また駐車場棟はつくらず、1階を駐車場にした(本記事の写真はほぼ2階の様子である)。駐車場棟が見えることでせっかくの空と光と風と緑の場所が阻害されて殺風景になる。それを避けるために駐車場は1階に設けたのだという。

そういう意味でもGREEN SPRINGSは再開発ビルというよりは新しい街であるといえる。

ビオトープには魚もいるので子どもたちに人気ビオトープには魚もいるので子どもたちに人気

プレイスメイキング的な発想でつくられている「街の縁側」

建物で囲まれた中庭のような、ストリートのような空間は、緑がふんだんに植え込まれている。植物の種類が350種類もあり、それもテーマパークのように花が咲いているときだけ植えるというものではなく、芽が出て花が咲いて枯れるまでずっと植えてあるという。
街路沿いには無数の椅子が置かれている。可動式の椅子もあるが、長い木材をベンチとしてしつらえたものもある。だから客も通行人も少し疲れたらどこにでも座れる。

GREEN SPRINGSでは建物のコンセプトを「街の縁側」とし、こうしたたくさんの居場所を提供している。たしかに各建物から伸びた軒は昔の伝統的日本家屋の縁側のようである。

約2,500席の新ホール「立川ステージガーデン」は多摩地区最大規模のものであり、その屋上に登れる階段に沿ってカスケードと呼ばれる階段状の水流がある。
水流の先にはビオトープがあり、たくさんの生物が生息している。子どもたちが生物を捕るイベントもするそうだ(ただしカスケードの水は循環しておりビオトープの水とはつながっていない)。
ステージガーデンとビオトープの間には芝生広場があり、ステージガーデンの扉をすべて開けばホールと広場が一体化してステージを見られるという。

ステージガーデンの屋上に向かう階段に沿って水が流れるカスケード。その隣は芝生広場ステージガーデンの屋上に向かう階段に沿って水が流れるカスケード。その隣は芝生広場
ステージガーデンの屋上に向かう階段に沿って水が流れるカスケード。その隣は芝生広場ステージガーデンにはまた階段があり、ガラス扉が開けばここに座ってステージを見ることができる
ステージガーデンの屋上に向かう階段に沿って水が流れるカスケード。その隣は芝生広場木製の長いベンチがあり、向かい合わせでたくさんの椅子とテーブルが置かれている

都市と自然の中間地帯

広場の脇にはキッチンカーが出ている。街路では、屋台が出て多摩地区の野菜を売ったり、さまざまなイベントが開かれる。また先ほどのベンチや建物の軒裏には多摩の木材が使われている。その面積はなんと5,200m2もあるという。多摩の林業を支援し、森林の保全に協力することが目的とのことだ。GREEN SPRINGSが多摩の拠点であることやSDGs的な価値観が表明されているといえる。

このようにGREEN SPRINGSの中庭は、街路であると同時に広場であり、いってみれば緑と池と川と広場とベンチとフリマと大道芸のある井の頭公園を圧縮し新しくしたような場所になっている。これは実に魅力的だ。

ホテルの最上階から見える風景。手前はインフィニティプールであるホテルの最上階から見える風景。手前はインフィニティプールである

また、カスケード横の階段を昇りきり、西側に向かうと昭和記念公園を見渡すことができる。さらにその遙か彼方には富士山が望める。バーに入ればカクテルを飲みながらその風景を満喫できる。ホテル最上階のバーも同様。バーのすぐ横には幅60mのインフィニティプールがあり、その向こうに昭和記念公園の入口までつづくプロムナードが軸線のように見える。

このようにGREEN SPRINGSは、立川駅周辺の、まだ猥雑さも含めた都市性と、郊外らしい昭和記念公園の広々とした自然との中間にあって、都市と自然を結びつける位置にある。

立川のシビックプライドを醸成する100年続く街

ショッピングモールでも人々は歩くが、基本は細長い通路を行ったり来たりするだけである。窓はほとんどなく外が見えないから、客は店と商品だけを見て歩くことになる。毎日うきうきするような商品が陳列されることはないから、いつか飽きる。ショッピングモールでは人は消費者としてのみ存在する。

GREEN SPRINGSでは人は消費者とはかぎらない。
子ども連れで来たファミリー、犬の散歩に来た人、ママ友同士や80代のおじいさん三人組でのランチ、パソコンで仕事をする人、富士山を見に23区内から来たシニア女性の二人組、学校帰りの高校生、TikTokの撮影に来た女の子などなど多様な人々が集まる。GREEN SPRINGSには年齢や性別などのターゲット設定をせず、ウェルビーイングの考え方やGREEN SPRINGSの世界観に共感する人を「ウェルビーイングシーカー」と呼び、ターゲットとして設定しているのだという。だから彼らは必ずしも消費をせずにそこに集まるのである。
これはかなり画期的なことだ。利益最優先ではこんな場所はつくれない。

頻繁にマルシェなどが開かれ多摩野菜の販売もする頻繁にマルシェなどが開かれ多摩野菜の販売もする

立飛ホールディングスの主事業は貸倉庫などであり、所有する土地の総面積は98万m2に及ぶ。そして98万m2のうちGREEN SPRINGSはわずか3.9万m2。
だからGREEN SPRINGSは立飛の収益の柱ではなく、立川全体の「都市格」を向上し、立川市民のシビックプライドを醸成する装置として位置づけられる。だから損をしないかぎりで余裕のある空間をつくり、人々がウェルビーイングを増すためにさまざまな居場所を提供できるのである。

GREEN SPRINGSは立飛の事業の1つだが、100年続く街をつくることがGREEN SPRINGSの最初のパーパスだったという。
そして100年続く街を考え抜いた結果が「ウェルビーイング」というコンセプトだった。

頻繁にマルシェなどが開かれ多摩野菜の販売もする立川全体の「都市格」を向上しシビックプライドを醸成することが目的

100年続く街

やや手前味噌だが私はそこでかつて私が働いていたパルコを思い出した。
1969年の池袋パルコに次いで73年に渋谷パルコができ、75年に隣接してパルコパート2ができたあたりから、道路沿いの壁にアートを描くウォールペイント、パルコ本館横のスペイン坂などと、点が線になり面になって、公園通りがファッショナブルな若者が集まる通りになっていった。

だが、そのことが広く浸透するにはあと数年かかった。これは私が実際に経験したことだが、1986年にまだ有楽町にあった東京都庁の都市計画関係の部署に資料をもらいに行くと、最近は渋谷も賑わっているそうですねと職員に言われたのである。渋谷パルコ開店から13年後である。パート2からでも10年。街の人気が広く伝わるにはそれくらい時間がかかる。

そして2023年は渋谷パルコ50周年。まだパルコはあるし、ファッションビルとしては最高水準の店づくりをしているし、公園通りを愛する人々は無数にいる。あと50年先まではわからないが、50年の間、現役である。

東屋、屋台、キッチンカー、ベンチなど、多面的な装置がこの場所に立体的な魅力を与えている東屋、屋台、キッチンカー、ベンチなど、多面的な装置がこの場所に立体的な魅力を与えている
東屋、屋台、キッチンカー、ベンチなど、多面的な装置がこの場所に立体的な魅力を与えている350種類もの植物があり、芽が出て花が咲いて枯れるまでずっと植えてある

公園通りに面してパルコ本館の1階につくられたカフェは、天井まで何メートルもあるガラス張りのカフェとしては日本最初のものだったはずだ。
そしてカフェでくつろぐ客は、ガラス越しに公園通りを歩く人々を見て、時にはただ人の流れを川の流れのように眺め、時には新しい流行を感知し、時には次の時代を予見したのだ。
その意味で、GREEN SPRINGSが100年先を見据えたのは、最低でも50年後の立川、多摩、東京を考えたときに、正しい判断であっただろう。

東屋、屋台、キッチンカー、ベンチなど、多面的な装置がこの場所に立体的な魅力を与えているWi-Fiや電源が用意されたフリースペース「リビングルーム」

空へのこだわり

GREEN SPRINGSが空にこだわったのは、開発した株式会社立飛ホールディングスの前身が立川飛行機株式会社という、戦前は飛行機を製造する会社だったからである。

タワーマンションの高層階から空を見渡し、遠くの風景を見渡すのもよいが、それはあくまで個人が自分の家から眺めるだけである。そこにはプライベートはあるがパブリックがない。

だがGREEN SPRINGSのような「街」をつくれば、空はそこで働く人だけでなく、そこを訪れた人々すべてのものである。そこには消費をする空間やプライベートな空間をつくることよりも、パブリックな場所をつくる(プレイスメイキングする)という視点が濃厚に感じられる。

また、街路は直線の道が直角に交わるのではなく、X字型に交わっている。これも飛行機会社だったことにちなんでおり、航空法の高さ制限の範囲がベースになっているという。
緑で「見えがくれ」しながら街路がX字に交わることで、直線ですれ違う道路とはまたひと味違う視線の交錯、あるいは「見る見られる関係」が生じるのが面白い。

さらに南北に延びる広場は東西に建物があるために、朝日や西日が直射することがなく、緑も豊富なために日差しがやわらげられているように感じる。

空が広いGREEN SPRINGS空が広いGREEN SPRINGS

パタン・ランゲージ

モールではなくオープンエアなつくりなので、雨の日には雨の日の風景がある。上階のバルコニーからは街路を見下ろせる。バルコニーで会議をする会社もあるという。モールではなくオープンエアなつくりなので、雨の日には雨の日の風景がある。上階のバルコニーからは街路を見下ろせる。バルコニーで会議をする会社もあるという。

せっかくの空の広がりを生かすために、店舗はすべて街路に向けて全面的にガラス窓を向けており、店舗からは通行人や椅子に座って仕事をする人を眺めることができる。逆に外にいる人は店内にいる客や店員を見通せる。再開発でありながら、商店街的なところがあるのが面白い。
そして晴れた日には光と緑の輝きを見ることができ、雨の日は傘をさして歩く人を眺める。天候、時間、季節感を感じられる場所になっているのだ。

よく「時間消費」というが、それは、物を消費するのではなくテーマパークのように楽しい時間を消費する(=お金を使う)ことという意味で使われる。しかし天候や時間の変化や季節感を感じられるということこそが本当の時間消費かもしれないと私は思った。

また、これは建築家クリストファー・アレグザンダーの主著『パタン・ランゲージ』で提案された「街路への開口」という方法でもある。ある飲食店ではオープンカフェに置かれた椅子のデザインが複数あり、統一されていない。これも同書の提案である。

他にも『パタン・ランゲージ』には「屋台」「日のあたる場所」「玄関先のベンチ」「木のある場所」「どこにもいる老人」「半分プライベートなオフィス」「さわれる花」「やわらげられた光」「小さな人だまり」「座れる階段」「街路を見下ろすバルコニー」といった提案がされているが、これらはまさにGREEN SPRINGSで実践されている。

モールではなくオープンエアなつくりなので、雨の日には雨の日の風景がある。上階のバルコニーからは街路を見下ろせる。バルコニーで会議をする会社もあるという。さまざまな椅子が置かれたオープンカフェ

GREEN SPRINGSに入っているテナント店舗にはチェーン店はほとんどない。
立川には伊勢丹、高島屋、駅ビルルミネ、グランデュオ、さらにイケア、ららぽーとなどの大型店があり、飲食を中心に全国チェーン、ナショナルブランド、いやグローバルブランドもはすでに十分に揃っている(ちなみにららぽーとは立飛ホールディングスの土地にある)。

そのためGREEN SPRINGSでは、GREEN SPRINGSのウェルビーイングというコンセプトに共鳴してもらえる店を選んでリーシングした。
実は私の住む杉並区西荻窪駅の近くに美味しい素敵なビストロがあったのだが、昨年突如閉店し、立川に移転した。一体立川のどこに移転したのだろうと思っていたらGREEN SPRINGSであった。このように各地の名店、話題の店を集めているのである。ナショナルチェーン、グローバルチェーンよりもリージョナルな店を選んだのだ。

日本中どこの街にもあるブランドが入ることは消費者にとって便利だが、市民のシビックプライドにはつながらない。GREEN SPRINGSは都市格とシビックプライドを重視したのである。

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参考文献
クリストファー・アレグザンダー『パタン・ランゲージ』鹿島出版会
三浦展・渡和由『吉祥寺スタイル』文藝春秋

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