コロナ禍の2021年5月にオープンし、1週間で満室に
コロナ禍で急速に浸透したリモートワークという働き方。住まい探しでも、リモートワークをしやすい室内環境なのかどうかが重要ポイントのひとつになっている。そんななか、2021年5月にオープンしたのが、リモートワークに特化したソーシャルアパートメント「ネイバーズ鷺沼」(神奈川県川崎市)。オープン1週間で全60室が満室になり、以後もほぼ満室をキープしているという。
そんな人気の理由を探るべく、「ネイバーズ鷺沼」を訪れた。
どのようなリモートワーク環境なのか、おおいに気になるところだが、まず、この物件の特徴として、「ソーシャルアパートメント」という住宅形態であることをお伝えしておきたい。ソーシャルアパートメントは、株式会社グローバルエージェンツが企画・運営を行う賃貸住宅。LIFULL HOME'S PRESSでもこれまでにいくつかのソーシャルアパートメントを紹介しているが、2022年8月現在、首都圏を中心に52棟3,093戸の規模になっている。物件にもよるが、1ルームタイプの居室と共用ラウンジを備え、プライベートを確保しつつ、入居者同士の交流を楽しめることに特色がある。
3つの共用ラウンジを設け、それぞれに「働く」要素を取り入れた
「ネイバーズ鷺沼」は、東急田園都市線鷺沼駅から徒歩8分の住宅街に位置する。建物は鉄筋コンクリート造りの3階建てで、元は企業の社員寮として使われていたもの。その建物をグローバルエージェンツがマスターリースの形で借り上げ、リノベーションを施してソーシャルアパートメントとした。
各戸の間取りは1BR(ベッドルーム)(専有面積は13.5m2の居室が中心)、浴室やシャワー、トイレ、ランドリーは男女別の共用。月々の家賃は水道光熱費(毎月固定)、管理費などを加えて9万円前後。
冒頭でもお伝えしているように、ソーシャルアパートメントは入居者同士の交流ができる共用ラウンジに特色があり、物件ごとにデザインが異なっている。「ネイバーズ鷺沼」では3つの共用ラウンジを用意。3つのそれぞれにテーマが設けられ、すべてのラウンジに「働く(リモートワークの場)」という要素を盛り込んだ空間設計がなされているのがポイントだ。
「弊社のソーシャルアパートメントでは、以前からリモートワークのニーズには対応しており、共用のワーキングラウンジを併設している物件は多数あります。それが2020年2月ごろにコロナ禍の状況になって、社会全体でリモートワーク化が進んだのを機に、ソーシャルアパートメントでもワーキングラウンジを利用する入居者が一気に増えていきました。そうしたなかで入居者から上がってきたのが『ワーキングラウンジが混雑していて利用できない』『周りの音が気になって、電話での打ち合わせやWeb会議がやりにくい』といった声です。これらの解決をはかるべく、『ネイバーズ鷺沼』の共用部づくりを行いました」と、グローバルエージェンツの広報・市川裕貴さんは話す。
市川さんの案内で3つの共用ラウンジを見学させていただいた。
最初に見せていただいたのは、「Dine & Communicate」と名付けられたラウンジ。120m2と広々としたスペースには、調理や食事ができるキッチンカウンター、大型テレビ、ソファやダイニングテーブルなどがゆったりと配置されている。食事をしたり、テレビを見てくつろぐ、あるいは入居者間でコミュニケーションを楽しむなど、さまざまな過ごし方ができるスペースだが、どの席でもパソコンを開いて仕事ができるよう、至る所にコンセントが配置されている。
「カフェで仕事をするような感覚で、リモートワークに利用する入居者が多いようです」と、市川さん。適度に人の気配がある環境のほうが仕事をしやすいという人に向きそうだ。
Web会議用のフォンスペースを備えたラウンジ
次に見学した共用ラウンジは、仕事に集中できる空間としてつくられている「Concentrate&Coffee break」。60m2の室内に20席を配している。
「弊社がこれまでに手がけた60人規模のソーシャルアパートメントのワーキングラウンジとの比較では、倍以上の広さになります」(市川さん)
1人利用席がほとんどで、背の高い仕切りを備えてプライバシーにも配慮したボックスシートも配置。さらにWeb会議や電話打ち合わせに利用できるフォンブースを2ヶ所に設置している。中央にコーヒーブレイクができるカウンターを設置しているのも、この物件ならではという。仕事に疲れたらコーヒーを飲んで息抜きをしたり、このラウンジを利用する人同士で雑談をしたりと、気分転換の場になっている。
筆者が取材に訪れたのは平日の正午近くだったが、黙々とパソコンに向かう入居者の姿が見られ、ボックスシートはすべて使用中だった。ここはリモートワーク特化の賃貸なのだからそう驚くことではないのかもしれないが、筆者が予想していた以上に平日の日中に共用ラウンジを利用する人が多い印象だ。
「この物件の入居者はIT関連など、リモートワーク比率が高い職種に就いている人が多く、フリーランスで働いている人も少なくありません」と、市川さんが教えてくれた。ちなみに「ネイバーズ鷺沼」の入居者の平均年齢は28.6歳、男女比率はほぼ半々。
仕事で疲れた心身をリフレッシュできる場も
仕事中心の空間「Concentrate&Coffee break」に対し、3つ目の共用ラウンジ「Chill&Relax」はくつろげる雰囲気。40m2の室内には座席がひな壇状に配置され、前面は鏡張りで、プロジェクターも備えられている。
「ご自分のクッションなどを持ち込んで、リラックスしながら仕事ができる空間です」(市川さん)
このラウンジにもコンセントが随所に配置されているので、パソコン作業ができる。集中が途切れたときなど、ストレッチやヨガなどで体をほぐしてリフレッシュできる。リモートワークの日々、オフィスに通勤することがない分、運動不足になりがちなので、こういった身体を動かすスペースがあると重宝しそうだ。
仕事からしばし離れて、プロジェクターで映画観賞を楽しむといった過ごし方もできる。
一人暮らしのリモートワークでも、ここでなら孤独感がない
このように趣の異なる3つの共用ラウンジを備える「ネイバーズ鷺沼」。3つのラウンジはいずれも24時間利用でき、その日の気分や取り組んでいる仕事の内容などに合わせて、リモートワークをする場所をフレキシブルに変えられると入居者に好評だ。もちろん、自分の居室にこもって仕事をするという選択肢もある。居住の場でありながら、多様な働き方ができるのが「ネイバーズ鷺沼」の魅力といえる。
この3つのラウンジをはじめ、キッチンや浴室、シャワー、トイレ、ランドリーといった共用部には最新の設備がそろっているうえ、週5日程度、専属のハウスキーパーが掃除をしてくれる。入居者は掃除に時間と労力を奪われることなくリモートワークに集中できるだろうし、なにより、いつも清潔に整っている環境で暮らすことができるのはメリットだろう。
もうひとつ、入居者から好評を博している要素として外せないのが、人との交流ができるソーシャルアパートメントであること。「賃貸の一人暮らしでのリモートワークでは、一日中、誰とも話さず孤独を感じていたのが、ここに引っ越してきたら他の入居者と会話の機会があるのでうれしい」「入居者同士のご近所付き合いがあって安心」という感想を持つ入居者が多いという。
ソーシャルアパートメントのコロナ対策と、交流が生む価値
ここでリモートワークの話題からソーシャルアパートメント全体に目を転じる。
ソーシャルアパートメントは、多様な背景を持つ人が集まり、交流できることに醍醐味がある。入居者同士でサークルを結成したり、一緒に事業を始めたりと、活発な交流が進められている。そんなあり方のソーシャルアパートメントに対し、コロナ禍で人と人との接触をできるだけ避けることを奨励されている状況が続いているのだが、どのように乗り越えてきているのか、気になるところだ。
運営するグローバルエージェンツがコロナ対策として行っているのは、オンラインによる物件内覧、ハウスキーパーによる日常清掃でドアノブなど直接手に触れる部分の清掃や消毒の徹底、共用部利用の際のマスク着用など。外部からの来館者に対しては、グローバルエージェンツ独自の追跡システムに登録してもらい、後日にゲストが感染してしまった場合や、感染してしまった入館者が出た場合に同じタイミングで来館していたゲストへ通知するなど、感染拡大を防ぐための対策を実施している(体調不良の人や自宅待機中の人などの来館は不可)。
共用ラウンジの利用に関しては、コロナ前と同じく、24時間利用可能としているが、緊急事態宣言の発出など感染状況によっては、4人以上での飲食やイベント(飲食を伴うもの)の開催などを禁止していた時期もあった。
「これまでクラスターが発生することなく今に至っていますが、新型コロナの影響でソーシャルアパートメントらしい交流活動が停滞してしまったことは否めません。最近になって少しずつイベントなどが復活していますが、共用ラウンジに大勢の入居者やゲストが集まって、ワイワイ盛り上がるといった風景を目にすることはまだまだ少ないです」と、市川さん。
そうした一方でソーシャルアパートメントはコロナ禍のような社会情勢になっても、暮らしやすい住宅形態であるという気づきも得られたという。
「ソーシャルアパートメントは、建物のエントランスから廊下を通って、直接、自室に向かう動線になっています。必ず共用ラウンジを通らなくてはならないという設計ではないので、コロナの状況が不安で人と接することを避けたいときは自室だけで過ごすことができるのです。逆に、誰かと話がしたくなったときは共用ラウンジに顔を出し、居合わせた入居者同士で調理をしたり、食事や会話をするといった過ごし方ができます。コロナ禍で人と会ってのコミュニケーションが減っているなか、暮らしの中にごく自然に人と交流できる環境がある……そうしたことにソーシャルアパートメントの価値があると思います」(市川さん)
「ネイバーズ鷺沼」はコロナ禍にオープンしたソーシャルアパートメントということもあり、サークル活動やイベント開催などの動きはまだ見られないが、入居者同士で仕事の情報交換をしたり、仕事のパートナーになるといった関係性が生まれたり、「働く」要素を重視している物件らしい交流が生まれているという。
ニーズに応じて進化するソーシャルアパートメント
「ネイバーズ鷺沼」のオープンから1年が過ぎ、リモートワークがしやすい環境へのニーズは、想定していた以上に高いことがわかったと市川さんは話す。
「弊社が運営するソーシャルアパートメントの入居者を対象に実施したアンケート調査では、『週に数日以上、リモートワークを行っている』と回答した人は72.9%、そのうちの43.9%を占めたのは『完全にリモートワーク』という回答でした。そうした結果を踏まえ、弊社では今後もリモートワーク環境の充実に注力した物件開発を進めていきたいと考えています」(市川さん)
そして、リモートワークという働き方の広がりとともに、新たなニーズへの取り組みも始まっている。
「リモートワークで在宅時間が増えたことで、『ソーシャルアパートメントを拠点にどんなことができるのか』がより一層、重要視されるようになっています。そうした入居者のニーズの変化に合わせ、新しいサービスを導入している物件も出てきています」(市川さん)
「ネイバーズ鷺沼」で2022年5月から導入されているのは、コンビニエンススタンド。建物の外に出ることなく、自動販売機で食料品や日用品を購入できる。専用アプリからスタンドに置いてほしい商品をリクエストすることも可能。この無人コンビニは、「在宅ワークで忙しいときに助かっている」と、入居者から喜ばれている。
このほか、ソーシャルアパートメントに取り入れている新しいサービスということでは、入居者の日常の移動をより便利にするべく、小型電動アシスト自転車のシェアサイクルサービスを導入している物件もあるという。
リモートワークの普及が進み、ソーシャルアパートメントがこれからどう進化していくのか楽しみだ。
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