共生・多様性がキーワード。奈良の文化・自然に寄り添う施設

奈良では、“春日大社の神様のお使い”と呼ばれる鹿が多く集まる、奈良公園の南側にある荒池のほとり。荒池の東側には春日山原始林が、北西側には興福寺五重塔が望むことができる。この贅沢な景観をまるごと楽しめる「MIROKU 奈良 by THE SHARE HOTELS(以下、MIROKU 奈良)」が、2021年9月にオープンした。1909年から関西の迎賓館として親しまれる「奈良ホテル」や中川政七商店の複合施設「鹿猿狐ビルヂング」も近く、奈良の観光名所のひとつであるならまちエリアも徒歩圏内だ。

MIROKU 奈良のエントランス。吉野杉が出迎えてくれるMIROKU 奈良のエントランス。吉野杉が出迎えてくれる

「MIROKU 奈良」は、企画・運営は株式会社リビタ、プロデュースは株式会社ウェルウッド、事業主は合同会社奈良荒池ホテルという連携により、全国に展開するライフスタイルホテル「THE SHARE HOTELS」の9店舗目となる。「THE SHARE HOTELS」は、地域の資源を活用し、地域の魅力を新しい文化として提案するリノベーションホテルだ。

施設名の「MIROKU」には、奈良の美しい山麓や鹿を望む場所・美(ミ)+鹿(ロク)、麓(ロク)と、未来の世に人々を救済するとされる弥勒(ミロク)菩薩(ボサツ)が掛けられたネーミング。施設が今後取り組もうとする奈良の未来づくりへの姿勢や、サステイナブルな取り組みへの思いも込められている。

MIROKU 奈良のエントランス。吉野杉が出迎えてくれる1 階の CAFE & BAR MIROKU TERRACE。吉野杉のテーブル天板、吉野地方に伝わる手漉きの和紙「宇陀紙」を使った照明など、各所に奈良の伝統素材をあしらったインテリア。写真提供:MIROKU 奈良

「共生の奈良」をコンセプトに作り上げた空間デザイン

「全国それぞれに異なる魅力があります。私たちは、地方で活躍するメンバーとチームワークを築きながら『THE SHARE HOTELS』をつくりあげていく過程にも重きを置いています。『MIROKU 奈良』のコンセプトは、共生の奈良。1300年前に仏教をはじめとする多様な大陸文化を受け入れ日本の礎を築いた歴史や、春日山原始林にほど近く、鹿とも共生するおおらかな都市の姿にインスピレーションを受けました」と、建築設計の企画段階から関わっている、株式会社リビタ ホテル事業部の北島 優さんは話す。

共生・多様性をキーワードに、建築・設計・インテリアが施され、施設の細部に「奈良らしさ」を感じさせる施設が完成した。企画・ディレクションはリビタが担当。空間を彩るインテリアデザインには、特色の異なる2名の建築家や奈良を拠点に活動するクリエイターたちが関わった。

客室は全44室。ファミリーやグループ利用にも対応できる4名定員の部屋と、2名定員の部屋サイズを展開。ワーケーションの需要が増えている中、部屋でも仕事ができるように、カウンターデスクとチェアーは多くの部屋(20部屋)に用意されている。

観光と仕事を兼ねての旅行の需要も増えている。部屋でPCを広げて仕事ができる。写真提供:MIROKU 奈良観光と仕事を兼ねての旅行の需要も増えている。部屋でPCを広げて仕事ができる。写真提供:MIROKU 奈良
観光と仕事を兼ねての旅行の需要も増えている。部屋でPCを広げて仕事ができる。写真提供:MIROKU 奈良上下段にシングルベッドを4つ揃えた、ロフトタイプの客室。子ども連れにも人気だそう

THE SHARE HOTELS初のサステイナブルな取組みも

客室に用意されているアメニティグッズ。写真提供:MIROKU 奈良客室に用意されているアメニティグッズ。写真提供:MIROKU 奈良

「MIROKU 奈良」の大きな特徴のひとつは、未来の環境への配慮だ。既存建物のサッシ部分に断熱性の高い障子を設置し、省エネルギー化を実現。新たに再生可能エネルギーを電力として導入している。海外旅行客には、環境への関心度が高い人も多い。プラスチック削減に配慮し、藁を編み込んだアメニティ(歯ブラシやくしなど)やオーガニック認証を取得しているシャンプーやコンディショナーなどを採用するなど、環境をはじめサステイナブルな社会への継続的な取組みもスタートした。

対面不要のチェックイン機やQRコードでオーダーできるメニューなども新たに導入された。「『THE SHARE HOTELS』は、全店舗通してリノベーションを行っています。もともとリノベーションは、新築に比べてCO2の排出量や廃棄物を大幅に削減することができていると言われています。またコロナ禍を経て、サービス提供について改めて見直すことができ、付帯機能やアメニティについての改良が施されることになったのです」と北島さんは話す。

客室に用意されているアメニティグッズ。写真提供:MIROKU 奈良客室には、断熱性の高い特殊な障子を採用

芦沢啓治氏と佐野文彦氏によるコラボレーション

1階のCAFE & BAR MIROKU TERRACEと客室(2〜4階)は、芦沢啓治氏(芦沢啓治建築設計事務所)が担当。シンプルで美しい、普遍的な設計を得意とする芦沢氏による和のインテリアが魅力で、1階のCAFE & BAR MIROKU TERRACEは、テラスまで地続きの開放的な木調空間となっている。

ジュニアスイート部屋の様子。仕切りのない開放的な空間ジュニアスイート部屋の様子。仕切りのない開放的な空間
ジュニアスイート部屋の様子。仕切りのない開放的な空間スーペリアルーム。客室の窓からは興福寺五重塔が見える。春日山原始林が見える部屋もある

B1のLOUNGE / TEA TABLE、客室(B1階)とホテルエントランスのランドスケープは、佐野文彦氏(Fumihiko Sano Studio)が監修。吉野杉や飛鳥石など奈良の素材を大胆に配し、奈良にふさわしいプリミティブな魅力が感じられる空間デザインを設えた。B1フロアのラウンジ空間は、ストーンヘンジや石庭をイメージさせる、ほかの階とは雰囲気を逸する異空間。負のイメージをもたれがちな地下の階に、新しい魅力を提案している。

大胆に吉野杉が置かれた、ホテルエントランスのランドスケープには、苔やシダ類が各所に植えられている。季節の移り変わりとともに、変化する植生の様子を楽しめるようにという佐野氏ならではの試みだ。

ジュニアスイート部屋の様子。仕切りのない開放的な空間B1のLOUNGE / TEA TABLE。写真提供:MIROKU 奈良
ジュニアスイート部屋の様子。仕切りのない開放的な空間B1の客室。窓から自然光が入るため、半地下だが明るい。写真提供:MIROKU 奈良

テラス席に鹿が遊びに来る!

こだわりはまだある。施設内には奈良を拠点とする「NEW LIGHT POTTERY l ニューライトポタリー」の照明器具や、「sonihouse l ソニハウス」のスピーカーなども随所に採用。各階の共有空間に置かれている、コンテンポラリーアートは、神仏や輪廻転生、多様性や自然環境との共生を表現したもので、意匠のテーマと一貫させている。そしてもうひとつ、空間を作り上げる大切な要素である音楽。吉本 宏氏(resonance music)が担当する館内のBGMが、施設内に流れる空気を緩やかにつなぎ合わせている。

施設内の飲食店を、地域の店とコラボするのも「THE SHARE HOTELS」の特徴。CAFE & BAR MIROKU TERRACEのメニューを監修したのは、奈良市内の人気カフェ「くるみの木」。奈良の地域食材をふんだんに使った和洋2種類の朝食や、地域のクラフトビールや果実酒などが提供される。テラス席にいると、まちに住む鹿たちが草をはむ様子が近くで見られるのも、奈良ならではのエンターテインメントだ。

1階のCAFE & BAR MIROKU TERRACEのテラス席からの風景。夜になると鹿は家に帰る。写真提供:MIROKU 奈良1階のCAFE & BAR MIROKU TERRACEのテラス席からの風景。夜になると鹿は家に帰る。写真提供:MIROKU 奈良

「奈良市内の宿泊施設は、価格帯の高いホテルとビジネスホテルと大きく二極に分かれている印象。MIROKU 奈良は、その中間辺りの価格帯を狙っています。また、夜遅めにオープンしている飲食店やバーが少ないので、宿泊しなくても気軽に使える飲食店ができて嬉しい、と地元の方にもおっしゃっていただいています。奈良の魅力はそのおおらかな雰囲気。日帰りではなく、ぜひ泊まって土地の雰囲気を感じていただけたらと思います」と北島さんは話す。

部屋の窓から、春日山原始林が見える。ユネスコ世界遺産にも登録されているカシやスギなどの大木が生い茂る、深い自然と神秘性が保たれた原始林だ。ならまちを歩き、寺院を観光し、夕食を食べた後に、酔い覚ましに1階のバーでさらに1杯お酒を嗜む・・・。悠久の自然を身近に感じながら、土地で培われた文化を感じられる奈良の新しい拠点に足を運んでみたい。

▷「MIROKU 奈良 by THE SHARE HOTELS」公式サイト
https://www.thesharehotels.com/miroku/

1階のCAFE & BAR MIROKU TERRACEのテラス席からの風景。夜になると鹿は家に帰る。写真提供:MIROKU 奈良荒池からの景色。写真提供:MIROKU 奈良

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