住民の高齢化が進む築50年超の団地
千葉県習志野市の臨海部に位置する袖ヶ浦団地(UR賃貸住宅)。入居開始は1967年。総戸数は2,990戸。団地内には商店街、銀行、郵便局など充実した施設も設けられ、その規模の大きさから千葉県を代表する団地として知られてきた。しかし、入居開始から50年以上が経つ建物の老朽化とともに、住民の約7割が65歳を超えているといい、高齢化に伴う地域の衰退も問題となっている。
2020年1月、団地内の銀行が退店。UR賃貸住宅の管理業務などを行う日本総合住生活株式会社は、退店によって生まれた空き施設を期間限定のコワーキングスペース「Join Spot 袖ヶ浦」としてオープンした。狙いはミクスト(多世代)コミュニティの創造による袖ヶ浦団地の魅力度アップだ。「Join Spot 袖ヶ浦」とはどのようなコワーキングスペースなのか。同社事業計画課の石垣曜子氏、菅谷和真氏に伺った。
コンセプトは団地の「庭」
元銀行の2階建ての建物は、日本総合住生活株式会社が所有する。したがって銀行が退店すれば次のテナントを見つけなければならない。ところがこれが銀行に特化した造りだったために、苦慮したそうだ。
「この建物は大通りに面しており立地はいいのですが、銀行だった故に金庫跡などが残り、正面もガラス張りで出入り口も少なく、レイアウトに制約が出るなどテナント募集が難しい造りといえます」(石垣氏)
そこで検討したのが自社で運営するコワーキングスペースだ。当時はすでにコロナ禍の真っただ中にあり、リモートワークも浸透しつつあった。また、外出できないことへのストレス増加も問題となりはじめていた。仕事だけでなく、読書や勉強など幅広いニーズに対応できるコワーキングスペースにすれば、高齢化が進む団地においても、若年層も呼び込めると考えた訳だ。
同社が掲げたコンセプトは「庭」。袖ヶ浦団地のような集合住宅は、基本的に専用庭がない。また、近くに公園などがあったとしても、公共の場なので何でも自由に使用することはできない。そこで、この施設を自分の家の庭のような気分転換の場として、自由に活用してほしいと考えたのだ。具体的には、利用者ニーズに柔軟に対応できるよう間仕切壁の無いワンフロアのスペースとし、椅子やテーブルも移動や分割がしやすいものを導入している。それは、オープン時点が完成形ではなく、これから利用者と一緒に理想のコワーキングスペースにしていこうというスタンスによるものだ。
その一環として、オープン前の2021年4月3日と10日に、周辺住民や学生から参加者を募ってDIYのワークショップを開催。利用者と一緒に足場古材を再利用したウッドデッキスペースを造り、床には人工芝を貼ることで、より「庭感」を演出することに成功している。
会話や飲食もOK。すでに20回以上のリピート客も
そして満を持して4月19日に、コワーキングスペース「Join Spot 袖ヶ浦」がオープンした。実はこの施設は1年間限定と、実験的な要素も大きい。利用料は6月末まで無料(その後の料金は検討中)。利用方法は受付で名前、電話番号、住所を記入するだけだ。これは施設利用者の中でコロナ感染者が出た場合の連絡先という意味もある。現在(5月下旬)までの利用状況を聞いたところ、次のような回答をいただいた。
「狙い通り、比較的若い方がテレワークの場として利用されるケースが一番多いです。そのほかにも、団地の高齢の方が読書をされたり、主婦の方が編み物や小学校の保護者会、学生がオンライン授業、個人事業主の方が資格取得の勉強などにも利用されています。資格取得を目指している方は、もう20回以上リピートされています」(菅谷氏)
コワーキングスペースで保護者会と聞くと意外に思えるかもしれないが、同施設内では基本的に会話をしてもいいことになっている。また、持ち込みによる飲食もOK。施設横の駐車スペースにはキッチンカーが出店しており、日替わりメニューを提供している。その料理を施設内で楽しむこともできるのだ。まさに「庭」というコンセプトがぴったりと言える。
「ただし、周りに迷惑をかけないようにオンライン会議や授業のときはイヤホンを利用してください。また、営業や勧誘活動は禁止とさせていただきます」(菅谷氏)
地域を盛り上げたい人と人をつなげるプラットフォームに
近年、開発から数十年経った団地や住宅地の多くは、住民の高齢化に直面している。高齢化は地域の衰退につながり、袖ヶ浦団地の商店街もシャッター通りとなりつつある。コワーキングスペース「Join Spot 袖ヶ浦」の最終目的は、若年層が袖ヶ浦団地に魅力を感じることで、移り住む先としての選択肢に入れてもらうことだ。それには周辺住民が積極的に行動を起こして、街そのものの文化を熟成させていく必要もあるだろう。同施設は、今後その場も提供する。
例えば、さまざまなイベントの開催である。これまでの利用者からは、施設を利用して絵本製作やフラワーアレンジメントといったワークショップを開催したいといった声が集まっているそうだ。「Join Spot 袖ヶ浦」は、コワーキングスペースという枠組みを超えて、地域を盛り上げたい人と人をつなげるプラットフォームになろうとしている。
同社では、これまでも団地内のシェアハウス「読む団地」など、ユニークな事業展開を通して、団地での暮らしに新たな豊かさを生みだしてきた。今回の実験的な挑戦も、成果が楽しみだ。
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