奈良の旧市街地・ならまちで、毎年6月に開催される『にゃらまち猫祭り』
JR『奈良』駅から車で10分ほど。奈良の旧市街地に、いまも昔ながらの街並みが残る『ならまち』エリアがある。
ここ『ならまち』は、710年の平城京遷都の際に飛鳥から移された元興寺(がんごうじ)の旧境内に位置し、古くから街づくりがおこなわれてきた。当初、元興寺は約9万6,800m2という広大な敷地を誇る大寺院で、その保護の下で地域の工芸や商業が発展。時代の移り変わりと共に町民たちが自立するようになり、社寺のまちから商業のまちへ、そして、21世紀の今は観光のまちへ…とたびたびの盛衰をくり返してきた。
現在は、江戸時代末期から明治時代にかけて建てられた町家を保存しつつ、その建物を利用したカフェや雑貨店、アート工房などが続々とオープンしており、若い女性好みの観光地として旅のガイドブックにも登場している。
そんな古都の街で、12年ほど前から毎年6月に開催されている猫をテーマにしたアートイベントがあると聞いて、梅雨の晴れ間に『ならまち』を訪れた。
ならまち=にゃらまち?!地域の猫好き店主がはじめたイベント
「12年前にスタートしたときは、『ならまち』の中にある料理店の店主が一人ではじめた企画でした。『ならまち』に猫をかけて『にゃらまち』にしたらユニークではないかということで(笑)、お店で猫にまつわる作品展示をおこなったことがきっかけです」。
今年で12回目を迎えた『にゃらまち猫祭り』の実行委員のひとり、入江祐司さんは『ならまち』の裏路地にひっそりと佇む『カレー&カフェ香炉里(こるり)』のオーナー。もともと大阪で広告制作の仕事に携わっていたが仕事の都合で奈良に移り住むことになり、この街に魅せられてカフェオーナーとなった。
「奈良に移り住んで実感したことですが、奈良のひとは“商売がとても下手”(笑)。『大仏商売』と表現されるように、“奈良には大仏さんがあるから、観光客は待ってりゃ向こうから勝手に来てくれる”という感覚が今も根強く残っているので、同じ観光地である京都と比較すると“奈良はPRが下手だなぁ”とよく言われます。
良くも悪くも奈良は“手付かずの状態”が続いていて、京都の前の都の風景が今も残されているのですが、PR不足の影響を受けて“観光地なのに観光客がいない”という危機感を覚えることがたびたびありました。特に、6月は梅雨時ということもあって観光客が減ってしまうため、“閑散期に話題を集めるようなイベントを開催しよう”ということでスタートしたのが『にゃらまち猫祭り』だったのです」(入江さん談)。
『ならまち』と『にゃらまち』をかけた洒落たネーミングも功を奏したのか、開催を重ねるごとに協力店や観光客が増え続け、今年は9名の実行委員の牽引により43店舗が参加。開催期間である6月中は、各店舗で猫に関するアートを展示したり、猫グッズや猫にまつわるメニューを販売するなど、猫好きにはたまらない1ヶ月となっている。
空前の猫ブームにのって『にゃらまち』が拡散、その一方で新たな課題も
▲黒瓦の町屋が軒を連ねる『ならまち』は、観光地であると同時に地元の人々が暮らす住宅地でもある。「静かな佇まいが『ならまち』の魅力なので、賑やかになりすぎることは地元の方たちに好まれません。ただ、“ずっと閉ざされたまま”だと街が衰退し、魅力が半減してしまう可能性があります。そこで、地域の方たちの協力を仰ぎながら、全国の人たちに『ならまち』の存在を知っていただきたいという思いでこのイベントを開催しています」(入江さん談)「SNSをはじめとするクチコミ拡散力が増大したこと、そして、タイミング良く空前の猫ブームが重なったこともあって、『にゃらまち猫祭り』は全国の方に知っていただけるイベントになりました。
今年はリピーターの数も多かったですし、名古屋からのバスツアーも組まれるほどでした。行政が始めたわけでも、第三セクターが企画したわけでもなく、地元のひとつのお店がはじめたイベントがここまでクチコミで広がり、結果、町おこしにつながったということは、我々『ならまち』の関係者が誇りに感じているところでもあります」(入江さん談)。
ただ、イベントの知名度が上がるにつれて、もうひとつの課題が生まれた。
「“猫祭り”という響きから、まるで猫カフェのように“猫と触れ合うイベント”だと勘違いをして訪れる観光客が増えてしまったんです。実際に『ならまち』の中を歩いていただくとわかると思いますが、別にここ『ならまち』に町猫がいっぱいいるわけではありません。なのに、『ならまち』へ行けば猫に会えるというイメージが広がり、いつしか街の中に捨て猫が放置されることもありました。中には、野良猫に餌をあげてしまう観光客もあり、地元の方たちとトラブルになるケースが報告されるようになりました」(入江さん談)。
そこで、昨年の11回目から正式に実行委員会を立ち上げ、本来のイベント趣旨を正確に伝えるためのプレスリリースを発信。開催目的を『地域のにぎわいの創出』と『猫の終世飼育をめざすこと』の2つに定め、あくまでも“アートイベント”であることを強く訴え続けている。
イベント成功により店主同士のつながりが強化、“町おこし”の意識改革へ
この『にゃらまち猫祭り』の開催によって、これまで『ならまち』の中に点在していた商店同士のヨコのつながりも絆が強められた。12回目の今年は、各店主が猫の張り子面を作り、イベントのクライマックスとなる『しまい縁日』の会場で、一斉に展示される予定になっている。
「もともと、奈良独自の『大仏商売』の影響もあって、“町おこし”という概念を持っていない店主の方もいらっしゃったのですが、ここ12年間のイベント開催によって大きな反響や手ごたえを感じることで、少しずつですが店主の方たちの意識改革にもつながっているような気がします。
『にゃらまち猫祭り』を通じて『ならまち』のことを知っていただき、“奈良へ来て良かった”と多くの方たちに感じていただけるように、来年13回目に向けて実行委員会としても新たな企画を考えていきたいと思います」(入江さん談)。
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2016年の『にゃらまち猫祭り』は6月末日まで。6月24日(金)~26日(日)はイベントのフィナーレとなる『しまい縁日』が奈良町物語館で10:00~17:00まで開催される。古都・奈良の新しい街の魅力を、皆さんも体感してみてはいかがだろうか?
■取材協力/にゃらまち猫祭り実行委員会
http://www.nyaramachi.com/
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