今年で3回目をむかえた「みんなの建築大賞2026」
今年で3回目をむかえた「みんなの建築大賞」。
この建築大賞の大きな特徴は、これまでの建築家や審査員による評価とは異なり、建物を「利用する人」「訪れる人」の視点を大切にし、一般の人々の投票によって選ばれる建築賞という点である。
賞の決定プロセスは、まず推薦委員たちがもちよったお勧めの建築から、「この建築がすごいベスト10」を推薦委員会で選出する。選ばれた10作品を「X」「Instagram」「Googleフォーム」の3つのメディアで発表し、一般の投票を募るというもの。
大賞は3つのメディアの一般投票で最も多くの合計票を獲得した建築に授与され、推薦委員会ベスト1は推薦委員会の場で最も推薦の数が多かった建築に与えられる。
今回、みんなの建築大賞推薦委員会によって選ばれた10作品は、以下
【2026 この建築がすごいベスト10】(※掲載は50音順、施設名の後は主たる設計者)
1)大屋根リング/ 藤本壮介、忽那裕樹、東海林弘靖、東畑・梓設計JV、大林組、清水建設、竹中工務店
2)霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ/髙橋一平建築事務所
3)Ginza Sony Park/Ginza Sony Park Project、荒木信雄、石本建築事務所、竹中工務店
4)東海国立大学機構Common Nexus/小堀哲夫建築設計事務所
5)ド・ロさまと歩くミュージアム 大平作業場跡/文化財保存計画協会、D4H
6)ニシイケバレイ/須藤剛建築設計事務所
7)null²/落合陽一、ノイズ(NOIZ)、フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体、乃村工藝社、ワウ(WOW)、アスラテック ほか
8)広島駅南口ビル/西日本旅客鉄道、ジェイアール西日本コンサルタンツ、東畑建築事務所、SUPPOSE DESIGN OFFICE、大林組、広成建設
9)横浜美術館 空間構築/乾久美子建築設計事務所、菊地敦己事務所
10)ラビットホール/青木淳@AS
今回は、大阪・関西万博の「大屋根リング」や「null²」、「Ginza Sony Park」など注目の集まるプロジェクトの建築も名を連ねたため、過去最高の投票数を集めた。
「みんなの建築大賞2026」の結果発表および授与式は、2026年2月16日近現代建築資料館において、文化庁およびジンズ(JINS)協力のもと実施された。
最も多くの票を集めた大賞は、落合陽一氏の「null²」!
「みんなの建築大賞2026」大賞に選ばれたのは、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「null²(ヌルヌル)」。
一般投票によって決まるこの賞において、「null²」は総投票数約2万8000票のうち1万3000票以上を獲得し、大屋根リングなどの話題性の高い建築を抑えてトップとなった。
延べ面積約655m2という小規模な建築でありながら多くの支持を集めた背景には、建築そのものの規模ではなく、未来の建築体験を提示する新しいコンセプトの強さがあったと思われる。
メディアアーティスト落合陽一氏がプロデュースしたこのパビリオンは、建築、デジタル技術、メディアアートを融合させた実験的な空間として計画され、来場者に新しい感覚の建築体験を提示。1970年大阪万博の岡本太郎の「太陽の塔」の思想を再び思い起こさせる、万博が持つ「未来を示す場」という意味を21世紀の技術と表現で再解釈したものといえる。
SNSを通じて多くの人々の関心が広がったことや藤本壮介氏の「大屋根リング」との一般投票競争も追い風となり、建築ファンだけでなくアートやテクノロジーに関心を持つ層からも支持を集める結果となった。
「null²」の受賞は、建築の評価が規模や技術だけでなく、新しいメッセージ性も含むという象徴となったように思う。
大賞を受賞した落合陽一氏のインタビュー
大賞受賞に際して、「null²」の有機的で不思議な感覚を与える建築は、どのようにして生まれたのか、落合陽一氏にインタビューができたのでお伝えしたい。
-大賞おめでとうございます。 万博のパビリオン「null²」は非常に不思議な感覚になる建築ですが、設計時やつくりながらの工夫などを教えてください
落合氏: 岡本太郎がかつて万博で「太陽の塔」を作った際、鉄筋コンクリート製で自身の手で直接彫刻(スカルプチャー)できないため、周囲から「これは発注芸術だと思ってください」といわれたという面白い話があります。今回の私たちのパビリオンは、膜の構造や金属、デジタルという制御系でできているため、後から「ここの金属の角度を変えよう」「アクチュエーターを入れてひねりを出そう」といった具合に、建築的な印象を自由に変えられるのが面白かったですね。波打つ動きも後から制御で入れられますし、太陽光の焦点ができ始めたらアクチュエーターを大きく動かして散らすこともできます。それがまた面白い動きとなった。
-今回の建築は、景色を映し変化する外部だけでなく、内部空間も同じく画期的でした
落合氏:内部空間も基本的にはLEDと鏡とロボットで構成されているため、プログラムを変更すれば一気に内装の展示空間を変えることができます。例えば入場者がさばききれない時に新しいモードを作ってガラッと変えるなど、実にソフトウェア的なものだといえます。
ー設計から制作にかけて、苦労された点や工夫された点はありますか?
落合氏:資金面での課題や予算の改変が何度かありました。様々に試行錯誤をする中、「ボクセル構造」を採用したのが、「null²」の建築チームであるノイズ(NOIZ)のすごいところでした。ボクセル構造にしたおかげで、アーティストとしての私の「このモチーフを上に持ってきたい」という要望や、ロボット担当者の「このファサードから見えた時に動かないからこうしたい」といった要求を柔軟に組み換えることができたんです。間引いてスカスカに見えちゃうならフロント側にもっと寄せよう、といった調整をしながらつくっていったのが特徴ですね。
ー外の風景を取り込んでうねる、生き物のような外観は印象的ですね
落合氏: あれは、私がよくつくっている「風景が映り込んでうにゃうにゃ動く映像作品」(※インスタレーション作品《借景,波の物象化》など)がメインファサードの元ネタなんです。それを建築サイズでつくるにはどうしたらいいか、という発想からスタートしました。(万博の建築は)恒久建築物ではなく仮設建築物だからこそ、そうした彫刻的意匠を作って動かすことができたのは非常に大きかったですね。ただ、内部の構成はかなり割り切っていて、警備棟や事務棟はプレハブが建っていて、あとはシアターが1つあるだけなんですよ。
ー 建築大賞のインターネット投票でも多くの票を集めましたね
落合氏:あれは一昨年の大賞受賞者である建築家の秋吉さん(※「みんなの建築大賞2024」の大賞「学ぶ、学び舎」のVUILD代表取締役CEO 秋吉浩気氏)が一般投票への活動をしているのを見て、影響を受けたんです(笑)。あと、私と藤本壮介さんでインターネットで票を集め合うのというのが、「万博最終決戦」感があって面白かったですね。一般の人の投票で選ばれる「みんなの建築大賞」という評価が面白いと思いましたし、良い取組みだと思います。
ー今回、建物サイズの作品を作られて、建築とアートの融合など今後の可能性についてはどうお考えですか?
落合氏:建物サイズの作品を作るのは面白い試みだと感じたので、次は園芸博(2027年横浜国際園芸博覧会)に向けて建物をつくっています。直線的な建築はあまり好きではなくて、もっと有機的な形をつくりたいなあとおもうんです。今回はボクセル構造という制約の中でうまくやりましたが、次はより映像作品の元ネタに近い、有機的な形になると思います。岡本太郎のように「なんだこれは!」とみんなにいわせるような作品をつくろうと思っています。
ーたしかに「null²」 のような建築は、公園のような場所との相性も良さそうですね。園芸博の建物も楽しみです。
落合氏:そうですね、公園的な場所との相性はとてもいいと思っています。園芸博の建物は、より新しい「null²」の、また別の形になると思います。ぜひ楽しみにしていてください。
推薦委員会ベスト1は「大屋根リング」、JINS賞に「ラビットホール」
「みんなの建築大賞2025」では、一般投票による大賞とは別に、推薦委員会の構成メンバーからよりたくさんの推薦を集めた推薦委員会ベスト1や、パートナー企業の視点から注目すべき建築を選ぶ賞も設けられた。その中で、推薦委員会ベスト1に選ばれたのが大阪・関西万博の象徴的建築である藤本壮介氏の「大屋根リング」、そして企業賞であるJINS賞に選ばれたのが実験的な建築作品「ラビットホール」である。
まず推薦委員会ベスト1となった「大屋根リング」は、万博の会場を取り囲む巨大な木造リング状の構造物、世界最大級の木造建築として大きな注目を集めた。日本の伝統的な木造建築技術を現代の大規模建築に応用し、来場者の動線や滞留空間を包み込む都市スケールの建築として計画された点が高く評価された。また、万博という世界的イベントにおいて、日本の木造文化やサステナブルな建築思想を象徴的に示す存在であることも選出理由として多くの選考委員の推薦を集めた。会場全体を一つの空間体験として結びつける「都市の屋根」としての役割を持つことから、万博建築の中心的存在として推薦委員会から高い評価を受けた。
JINS賞に選ばれた「ラビットホール」は、日常の中に新しい視点や発見を生み出す建築として評価された作品である。JINSは「視点」や「見ること」をテーマにしたブランドであることから、建築を通して人の感覚や認識を拡張するような空間体験を持つ作品に注目した。
ジンズホールディングス代表取締役会長CEOの田中 仁氏からは「ラビットホールは、完成を目指さず、使われ、壊され、更新され続けることを前提にした建築と聞いて納得しました。用途や意味を固定せず、行為の積み重ねによって空間が変化していく姿勢は、変化を恐れず挑戦を重ねる我々JINSの思想と深く重なると感じます。過剰な装飾を剥ぎ、最低限の条件だけを残すことで、人と活動に主導権を委ねる。その余白こそが、次の創造を生み続ける力になると考え、JINS賞を贈りたいと思います」と評価された。
「ラビットホール」はその名の通り、童話『不思議の国のアリス』に登場する“ウサギ穴”のように、日常から別の世界へと入り込むような感覚を生み出す空間構成が特徴。訪れる人に新しい発見や視点の転換をもたらす建築として、建築のスケールとしては大きくないものの、体験の質やコンセプトの独創性が際立っており“見ることの可能性”を広げる建築だった。
特別賞は建築家・丹下健三の「旧香川県立体育館再生計画」
そしてもうひとつ、特別賞として選ばれたのが「旧香川県立体育館再生計画」である。建築物というよりも、この計画が評価された理由は、日本の近代建築をどのように未来へ継承していくのか、という重いテーマを示した点にある。
旧香川県立体育館は、建築家・丹下健三によって設計された戦後日本を代表する公共建築の一つ。そのダイナミックな構造と造形は日本のモダニズム建築を象徴する存在として高く評価されてきた。
しかし老朽化などの理由から存続が危ぶまれ、解体が議論されている。そうした中で提案された再生計画は、歴史的価値の高い建築を単に保存するのではなく、新たな用途や機能を与えながら現代社会の中で再活用していくという視点を示した点が評価となった。
近年、日本では高度経済成長期に建てられた公共建築の老朽化が進み、保存や再生のあり方が大きな課題となっている。その中で「旧香川県立体育館再生計画」は、歴史的建築の文化的価値と現代の社会的ニーズを両立させる議論が行われているひとつのモデルケースである。建築文化の継承やストック活用という社会的テーマを広く考えさせる取り組みとして「みんなの建築大賞2026」の特別賞に選ばれた。
みんなの建築大賞推薦委員会の委員長、五十嵐太郎氏の総評
最後に「みんなの建築大賞」推薦委員会の委員長を務める建築史家であり東北大学大学院教授の五十嵐太郎氏の総評をお伝えしたい。
「みんなの建築大賞は、3年目を迎え、投票数が飛躍的に増えたことが、大きな成果でした。その牽引力となったのが、大阪・関西万博から選ばれ、2トップの競り合いがあった「null2」と「大屋根リング」です。万博という国民的なイベントにおいて建築の存在が広く意識されたことが示されました。いずれもSNS上で多くの投票を集めるとともに、万博を楽しんだ人たちからありがとうというコメントが多く寄せられました。
X(旧twitter)、InstagramとGoogleフォームの3つのプラットフォームにおいて、「null2」がいずれも最多の得票を集め、みんなの建築大賞に決まりました。また大屋根リングは、候補となる10作品に絞る際、推薦委員からもっとも多く挙げられていたことから、推薦委員会ベスト1となりました」と大賞と推薦委員会ベスト1についてコメントした。
また、それ以外の建築にもコメント。
「3位と4位となった広島駅南口ビルと東海国立大学機構Common Nexusは、誰もが空間を体験できる公共的な性格をもつ施設であり、地元からも愛され、票を集めました。今回、みんなの建築大賞の候補となった10件のプロジェクトは、昨年と同様、リノベーション系の作品が多くなっています。ニシイケバレイ、霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ、ド・ロさまと歩くミュージアム 大平作業場跡、横浜美術館 空間構築、ラビットホールがそれで、半数を占めました。Ginza Sony Parkは新築ですが、どこかリノベーション的な感覚をもつ挑戦的なプロジェクトです。かつてこうしたアワードは、新築ばかりが当たり前でしたが、これからは定常化するかもしれません。
知的かつ遊び心のある操作を探求したラビットホールは、今回新設されたJINS賞に選ばれました。今回の特別賞である旧香川県立体育館再生計画ですが、本来、みんなの建築大賞は、竣工したプロジェクトに与えられるものであり、対象外ともいえます。しかしながら、建築の専門外に広く推したいものを応援する賞という性格をもつことから、投票の対象とはしない代わりに、例外的に特別賞の枠で、その試みを選ぶことにしました」と総評した。
今回は万博という大きなイベントでの2つの建築に注目が多く集まった。
リノベーションされる建物も含め、多様な視点から建築の魅力をみんなで考えることで、これからの建築や都市のあり方を考えるきっかけとして「みんなの建築大賞」の今後の展開に期待したい。
■取材協力
「みんなの建築大賞 2026」
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