芸術が盛んな地域・岡山県にあるアーティストやクリエイターの拠点施設

岡山・香川両県の瀬戸内海に浮かぶ島々、および沿岸を舞台に開催される「瀬戸内国際芸術祭」。アートの祭典として全国的にも知られるようになり、「瀬戸内=アート」のイメージを持つ人も多い。また2016年から岡山中心市街地を舞台にした「岡山芸術交流」、2024年からは岡山県北部を舞台にした「森の芸術祭」などの芸術イベントも開催されている。

さらに倉敷市には、日本で初めて西洋美術・近代美術を展示する美術館としてオープンした大原美術館があるなど、岡山県は芸術活動が盛んな地域だ。そんな岡山県には、アーティストやクリエイターの拠点となる施設も多い。そこで、岡山県内にある特徴的なアーティストやクリエイターのための拠点施設を紹介したい。

注目のアーティストやクリエイターの拠点施設は、2ヶ所。一つは、県南東部に位置する笠岡市にある「シェアアトリエ 海の校舎」。もう一つは、岡山市中心部・出石町(いずしちょう)にある宿泊施設「C&C(シー・アンド・シー)」だ。

笠岡市大島中にある「シェアアトリエ 海の校舎」。旧・笠岡市立大島東小学校・同幼稚園を活用し、アーティスト・クリエイター・ものづくりの職人などの事業者専用シェアアトリエに。海が一望できる景観や、歴史を感じる趣ある校舎が特徴笠岡市大島中にある「シェアアトリエ 海の校舎」。旧・笠岡市立大島東小学校・同幼稚園を活用し、アーティスト・クリエイター・ものづくりの職人などの事業者専用シェアアトリエに。海が一望できる景観や、歴史を感じる趣ある校舎が特徴
笠岡市大島中にある「シェアアトリエ 海の校舎」。旧・笠岡市立大島東小学校・同幼稚園を活用し、アーティスト・クリエイター・ものづくりの職人などの事業者専用シェアアトリエに。海が一望できる景観や、歴史を感じる趣ある校舎が特徴海の校舎でもっとも高い3舎の旧音楽室前からの眺望。音楽室以外でも、教室の窓から海が見える。海の校舎がある大島東地区は、笠岡市南東部に位置し、北は山に、南は瀬戸内海に面する

シェアアトリエ 海の校舎は海沿いの廃校を活用したもの。クリエイターやアーティスト、ものづくりの職人など「作り手」限定の施設で、旧教室をそのまま工房や拠点として貸し出している。景観や趣ある校舎も魅力で、決して交通の便が良い立地ではないが、多くの作り手たちが入居しているという。

C&Cは、「クリエイターとつながるスモールホテル」をコンセプトとしている。客室は4室と小規模だが、1階ではクリエイターやアーティストが個展やポップアップイベントを開催したり、制作活動をしたりできるのが特徴だ。クリエイターやアーティストと宿泊客、住民、観光客などが空間を共にして交流できる施設になっている。

笠岡市大島中にある「シェアアトリエ 海の校舎」。旧・笠岡市立大島東小学校・同幼稚園を活用し、アーティスト・クリエイター・ものづくりの職人などの事業者専用シェアアトリエに。海が一望できる景観や、歴史を感じる趣ある校舎が特徴岡山市北区出石町にある「C&C」。築95年の建物を活用したスモールホテル。戦災を免れた歴史ある建物が多く、橋を渡れば後楽園があるという歴史・文化を感じるエリアに所在
笠岡市大島中にある「シェアアトリエ 海の校舎」。旧・笠岡市立大島東小学校・同幼稚園を活用し、アーティスト・クリエイター・ものづくりの職人などの事業者専用シェアアトリエに。海が一望できる景観や、歴史を感じる趣ある校舎が特徴C&Cがある出石町は旭川の西岸に位置する。鶴見橋を渡れば、岡山市を代表する観光地・後楽園がある。C&Cから後楽園までは300mほどの距離だ

145年の歴史がある海沿いの廃校をクリエイターの拠点に再生した「シェアアトリエ 海の校舎」

岡山県の最南西に位置する笠岡市。市内の南東端にあたる海沿いの地区にあるのが、「シェアアトリエ 海の校舎」(以下、海の校舎)だ。シェアアトリエの名前のとおり、クリエイターや作り手が集まり、活動拠点としている。

海の校舎はもともと、笠岡市立大島東小学校として使われていた。1873年(明治6年)に「本村小学」として設立された後、幾度かの変遷を経て大島東小学校となった歴史ある小学校だ。笠岡市立大島東幼稚園も併設されていた。しかし少子化による児童数の減少により、2018年3月に大島東小学校と大島東幼稚園は、北隣の学区だった大島小学校・大島幼稚園に統合され、廃校に。145年に及ぶ歴史に幕を閉じたのである。

海の校舎を運営する「NPO法人 海の校舎大島東小」の代表理事で、自身も木工職人として海の校舎に工房「SOUTHERN TREEサザン ツリー)」を構える南 智之(みなみ ともゆき)さんは、海の校舎の設立に尽力した中心人物だ。海の校舎が生まれた経緯について、次のように話す。

「もともと私は木工職人として、市内に工房を構えていました。しかし事業の拡大や、機材が大型であることから、新たに広い工房の必要性を感じていたのです。ちょうどその頃、大島東小学校の廃校の話を聞いて、跡地を工房として利用できないかと考えたのが、海の校舎誕生のきっかけでした」

すぐに南さんは、校舎を訪れた。「昔の趣を残した校舎の雰囲気に魅了されました。こんな場所を仕事場にできたら、なんて素敵だろうと感じたのです。ただ、1人で木工の工房として使用するには広すぎます。そのときに思ったのが『さまざまな業種の方々が校舎を共有する構想』でした。実は、以前にこのようなコミュニティをつくりたいと候補地を探したことがありましたが、マッチする物件が見つからず、諦めたことがあったのです。校舎を訪れ、この思いが再燃しました」

海の校舎の外観と校庭。校舎は南から北へ3棟が並び、幼稚園舎も併設。海沿いの傾斜地に立地しているため、3棟の校舎は南側の1舎から北側の3舎へ次第に高くなる構造になっている海の校舎の外観と校庭。校舎は南から北へ3棟が並び、幼稚園舎も併設。海沿いの傾斜地に立地しているため、3棟の校舎は南側の1舎から北側の3舎へ次第に高くなる構造になっている
海の校舎の外観と校庭。校舎は南から北へ3棟が並び、幼稚園舎も併設。海沿いの傾斜地に立地しているため、3棟の校舎は南側の1舎から北側の3舎へ次第に高くなる構造になっているシェアアトリエ 海の校舎を運営する、NPO法人 海の校舎大島東小の代表理事・南 智之さん。木工職人であり、海の校舎の幼稚園舎に木工工房「SOUTHERN TREE(サザン ツリー)」を構える。南さんは、廃校をシェアアトリエに生まれ変わらせることになったキーパーソンだ

廃校後、大島東小学校は取り壊される予定だったという。南さんが大島東学区の地元住民にシェアアトリエ構想を説明したところ、賛同を得られた。地元住民にとって思い入れのある小学校であるため、今後も活用してほしいという思いがあったからだ。

その後、南さんは市役所へ大島東小学校のシェアアトリエとしての活用の話をしにいく。しかし、前例がないため、担当する部署すら分からない状態だった。さまざまな部署の職員にシェアアトリエ構想を説明していき、ついに担当部署ができ、構想が動き出す。廃校から約1年が経った頃だった。

「動き始めたとはいえ、前例のないものですから、市役所の方も大変だったそうです。条例がネックになることもあって、職員の方も条例をクリアするために奔走してくださりました」

そして、南さんと共にシェアアトリエ設立に動いていたクリエイターたちに、地元のまちづくり協議会のメンバーを加えて、シェアアトリエの運営を行うNPO法人を設立。運営法人にまちづくり協議会のメンバーを入れたのは、もともと地元の小学校であったことから、跡地をシェアアトリエだけでなく地域活性化にもつなげたいとの思いがあったからだ。

こうして大島東小学校の廃校から約3年が経過した2021年7月、シェアアトリエ 海の校舎がオープンした。

海の校舎の外観と校庭。校舎は南から北へ3棟が並び、幼稚園舎も併設。海沿いの傾斜地に立地しているため、3棟の校舎は南側の1舎から北側の3舎へ次第に高くなる構造になっている1舎は1956年(昭和31年)に立てられた木造校舎。職員室や講堂などがあった
海の校舎の外観と校庭。校舎は南から北へ3棟が並び、幼稚園舎も併設。海沿いの傾斜地に立地しているため、3棟の校舎は南側の1舎から北側の3舎へ次第に高くなる構造になっている1舎の階段。今も当時のままの雰囲気が残り、過去の児童が制作した作品もそのまま飾られている

窓から海が見える環境はクリエイターの創作意欲を刺激

オープン後すぐに問い合わせが入り、少しずつ入居者が増えていき、オープンから3年後にはほぼ満室になったという。2025年8月現在、17事業者が入居している。

入居者の職種は木工職人の南さんをはじめ、アパレル製造、食品製造、カメラマン、グラフィックデザイナー、Webサイト制作、建築士、美容師、画家、陶芸作家など、多岐にわたる。なお、利用できるのは事業者として活動しているクリエイター、ものづくりの職人、芸術家など。趣味での活動は対象としていない。

アトリエは、教室をほぼそのままの状態で使用する。窓や黒板・床・壁などが小学校時代のものがそのまま残されており、ノスタルジックな雰囲気だ。1事業者で使用するには広い場合、教室を区分しての使用にも応じている。

「教室だけでなく、廊下などの共有部分も小学校時代のまま。1舎・2舎は木造校舎なので、木造ならではの温かみや趣、歩いたときの音の響きなどが味わい深いです。3舎はRC造りで、昭和の懐かしさを感じます。そして何といっても、教室の窓からの眺め。窓から海が見える最高の景色は、心が落ち着くとともに、クリエイターの創作意欲を刺激するのではないでしょうか」

2舎は海の校舎でもっとも古い1949年(昭和24年)の建物。もともと校庭の場所にあったが、1962年(昭和37年)に移築した。同じ木造校舎でも、1舎とは違った趣がある2舎は海の校舎でもっとも古い1949年(昭和24年)の建物。もともと校庭の場所にあったが、1962年(昭和37年)に移築した。同じ木造校舎でも、1舎とは違った趣がある
2舎は海の校舎でもっとも古い1949年(昭和24年)の建物。もともと校庭の場所にあったが、1962年(昭和37年)に移築した。同じ木造校舎でも、1舎とは違った趣がある海の校舎では、かつての教室をほぼそのまま活動場所として貸し出している。状況によって教室内の区分にも対応するという

フォトスタジオを運営する入居者は「初めて海の校舎に足を踏み入れたとき、懐かしい雰囲気の木造校舎に魅了され、入居を即決。出張撮影を事業にしようと考えていましたが、『ここを写真に撮りたい!』という思いから、海の校舎を生かしたフォトスタジオを始めました」と感想を語る。

また元小学校であることから、広いグラウンドがあるのも海の校舎の特徴だ。そこで海の校舎が主催し、クラフトマルシェ「うみの市」というイベントを年1、2回開催している。ものづくりをテーマにしたイベントで、多数の作り手らが出店し、買い物やものづくり体験ができる。2021年から開催しており、今では県内外から多数の出店希望があり、多数の来場者でにぎわう一大イベントに成長した。

さらに最近は視察に訪れる自治体や企業が増えていると、南さんは話す。また映画やドラマ、CM、ミュージックビデオ等のロケ地としての利用もある。有名なミュージシャンが、海の校舎の講堂でライブを行ったことも。さまざまな形で活用法が広がっている。このほか、月に一度「開放日」を設けて、来館者が中の様子を見学したり、一部の入居者の仕事風景を見たりできる。また、入居者がワークショップを開催したり小イベントをしたりもするという。

「今後の課題は、持続可能な運営形態を模索していくことです。敷地が広大で歴史ある校舎ですが、その分、維持管理に費用がかかります。また運営する理事の後継者育成を考えると、業務負担が大きいことも懸念点です。NPO法人ではありますが、ある程度の利益を生み出し、費用や業務の負担を軽減できる仕組みを構築することが次の目標と考えています」と南さんは今後の意気込みを語る。

※参考:
うみの市 オフィシャルWEBサイト

2舎は海の校舎でもっとも古い1949年(昭和24年)の建物。もともと校庭の場所にあったが、1962年(昭和37年)に移築した。同じ木造校舎でも、1舎とは違った趣がある3舎は1980年(昭和55年)に建てられたRC造りの校舎。3棟の校舎の中で、もっとも高い位置に立っているため、眺めが良いのが特徴
2舎は海の校舎でもっとも古い1949年(昭和24年)の建物。もともと校庭の場所にあったが、1962年(昭和37年)に移築した。同じ木造校舎でも、1舎とは違った趣がある1舎の旧職員室は、海の校舎の運営事務所になっている

歴史ある建物と文化施設が集まるエリアに生まれたクリエイターとつながるホテル「C&C」

岡山市中心部にある出石町。岡山三大河川の一つ・旭川の西岸に位置し、岡山城に近く、旭川に架かる鶴見橋を渡れば日本三名園である後楽園がある。そんな出石町は、太平洋戦争での岡山大空襲の被害を免れた岡山市街で数少ない場所。そのため現在でも歴史ある建造物が点在する。さらに近くには福岡醤油ギャラリー、岡山県立美術館、岡山市立オリエント美術館、夢二郷土美術館、岡山県立博物館などの文化施設も集まっている。

そんな歴史と文化・芸術の街である出石町に、2025年4月に誕生した宿泊施設が「C&C」だ。C&Cは「クリエイターとつながるスモールホテル」をコンセプトとしており、名称は「Creative & Culture(クリエイティブ・アンド・カルチャー)」を意味する。

建物は隣接する建物にある不動産企業・株式会社 HITPLUS(ヒットプラス)が所有し、運営は広島県尾道市瀬戸田町に本社を構える株式会社Staple(ステイプル)が担う。Stapleは国内の数都市での宿泊施設の運営実績があり、岡山でも同じ出石町や天神町にある「A&A」というホテルの運営も担っている。

C&Cの建物は、築年数95年の古い建物だ。先述のとおり、出石町周辺は戦災を免れたため残った建物の一つである。3階建てで、以前は1階は器などを扱う商店、2〜3階は法律事務所だった。しかし、老朽化により外壁のタイルが剥がれ落ちる事態が発生。商店は閉店し、法律事務所は郊外へ移転した。

C&Cのエントランス。築95年とは思えないスタイリッシュな印象だC&Cのエントランス。築95年とは思えないスタイリッシュな印象だ
C&Cのエントランス。築95年とは思えないスタイリッシュな印象だC&Cを運営するStapleの八重樫 一紗さん(左)、同 田中 颯さん(中)。建物を所有するHITPLUSの打谷 直樹 代表取締役(右)

Stapleのコミュニケーションデザイナー・田中 颯(たなか はやて)さんは、C&Cの設立経緯について、次のように話す。「この建物の隣のビルに事務所を構える不動産企業・HITPLUSの打谷 直樹(うちたに なおき)代表は、歴史ある建物を残していきたいと思いました。いろいろな方策を考えた結果、HITPLUSが買い取ることにしたのです。そして、出石町エリアを盛り上げるために活用しようと考えました。その後、打谷代表から、同じ出石町エリアでホテルを運営するStapleに施設活用のお話をいただいたのです」

先ほどのとおり、出石町は歴史ある建物が多く残り、近くに文化施設が多く、後楽園・岡山城が近いエリア。歴史・文化・芸術が交錯するという地域的特徴から、「Creative & Culture」というテーマが生まれる。

「出石町は、3年に一度開催する芸術イベント『岡山芸術交流』のメイン会場にもなった場所です。このエリアを歴史と文化・芸術の街として盛り上げて、街のポテンシャルを上げていけるような施設をつくりたいと思いました。そして出石町の街の特徴と親和性のある施設として生まれたのが、クリエイターと利用者と街の人々が、交わるように滞在できるホテルの構想です」(田中さん)

こうして2025年4月にC&Cが誕生した。

C&Cのエントランス。築95年とは思えないスタイリッシュな印象だC&Cを象徴する空間である、1階の「企画室」。アーティストやクリエイターが在廊し、訪れた宿泊客や街行く人との交流を生み出すことを目的とする
C&Cのエントランス。築95年とは思えないスタイリッシュな印象だ3階の客室からの眺望。出石町の趣ある景観が眺められる

宿泊者や街の人がクリエイター・アーティストと同じ空間を共有し交流

C&Cはスモールホテルをうたっているように、客室は4室で小規模だ。客室は2〜3階にあり、宿泊人数は2人まで。StapleのC&Cスタッフ・八重樫 一紗(やえがし かずさ)さんは「C&Cをもっとも象徴しているのが、1階にある『企画室』です」と話す。

「企画室ではクリエイターやアーティストが一定の期間滞在し、個展やポップアップイベント、ときには創作活動などを行い、街の人や観光客、そしてホテルの宿泊者との交流を生む空間です。シェフがポップアップで料理を提供することもできます。宿泊者や街の人が、クリエイター・アーティストと同じ空間を共有するという体験ができるのが、大きなポイントです」(八重樫さん)

「企画室」と名付けたのは、こまやかな利用方法をあえて決めず、利用するアーティストやクリエイターによってさまざまな可能性が広がることを期待してのことだという。

オープンから約半年のあいだ、これまで企画室ではイラストレーターによる展示、ペインターによる個展とオーダーイベント、吹きガラス作家による展示・販売、飲食イベント、ミニ音楽ライブなどが開催され、盛況だった。在廊のクリエイターと親和性の高い飲食店を県外から招き、カフェイベントや立ち飲みイベントも開いたこともあった。また開業前のプレイベントとして、東京のレストランのシェフが在廊しワインパーティーも開催した。

「出石町を盛り上げるために企画室をフル活用できるよう、おもしろそうなアーティストやクリエイターを常に探しています。滞在いただいたアーティスト・クリエイターからは、自宅のような居心地の良い空間で活動できるのが楽しいという感想をいただいています」(田中さん)

取材時に見学した客室。左上:ベッド。右上:藍染めのカーテン。ほどよい色落ち具合になっている。左下:テーブル・椅子は特注品。右下:岡山が誇る伝統工芸・備前焼でできた洗面ボウル取材時に見学した客室。左上:ベッド。右上:藍染めのカーテン。ほどよい色落ち具合になっている。左下:テーブル・椅子は特注品。右下:岡山が誇る伝統工芸・備前焼でできた洗面ボウル
取材時に見学した客室。左上:ベッド。右上:藍染めのカーテン。ほどよい色落ち具合になっている。左下:テーブル・椅子は特注品。右下:岡山が誇る伝統工芸・備前焼でできた洗面ボウル館内には、柱など昔のままの状態で残された箇所も多い

室内や廊下・階段など、随所に法律事務所時代の名残を感じられるのもC&Cの特徴だ。古い建物が残る出石町らしさが感じられる。たとえば、柱はほぼ昔のまま使われているほか、らせん状の階段からも昔の時代を思わせる。

さらに岡山らしさも取り入れている。取材した客室では、カーテンに藍染めの布を使用。ジーンズの一大産地である岡山県らしい素材だ。西日に当たり、ほどよく色落ちしているのもデニムらしさを感じる。さらに洗面ボウルは、備前焼製だ。また、各客室に手作業の三和土(たたき)を設けており、和の要素も取り入れている。

「もともと事務所だったので、客室に変えるのは苦労したと聞いています。いろいろな工夫を織り交ぜながら、4室の客室をゾーニングしました。各部屋およそ15m2ほどの広さですが、開放的な雰囲気が感じられるようにしています。宿泊したお客様からは、海外のアパートメントような雰囲気が良いというお声をいただいています」と八重樫さん。

今後の展望として、田中さんは「C&Cがモデルケースとなって、出石町周辺で同じような施設を増やしていき、街に活気をもたらしたいですね。そのために、利用した人や訪れた人に楽しんで喜んでもらえるよう、C&Cを運営に注力しています」と語った。

八重樫さんは「岡山の人は、イベントが好きな人が多いなと感じています。街の人が集まりやすいようなイベントを、今以上に開催していきたいです」とのこと。

また、HITPLUSの打谷さんは「C&Cが生まれたことによって、出石町に足を運ぶ若い世代の人たちが増えたと感じています。不動産会社としてこの流れを生かし、エリアの新しい動きや出店を積極的に創り、地域に新しい価値を生み出していきたいです」と話す。

取材時に見学した客室。左上:ベッド。右上:藍染めのカーテン。ほどよい色落ち具合になっている。左下:テーブル・椅子は特注品。右下:岡山が誇る伝統工芸・備前焼でできた洗面ボウルC&Cは岡山駅前から後楽園を結ぶ道「後楽園通り」に面している。周辺は戦災を免れたため、昔の趣を残した建物が多い
取材時に見学した客室。左上:ベッド。右上:藍染めのカーテン。ほどよい色落ち具合になっている。左下:テーブル・椅子は特注品。右下:岡山が誇る伝統工芸・備前焼でできた洗面ボウル出石町の旧・津山往来の景観。写真左の建物は、かつて福岡醤油という老舗の醤油醸造場だった建物を活用した「福岡醤油ギャラリー」。日本茶専門店「SABOE OKAYAMA」も併設する。歴史と文化と芸術の街である出石町を象徴する施設の一つ

ほかにもまだある、岡山県のアーティスト・クリエイターの拠点施設

笠岡市の海の校舎、岡山市のC&Cのほかにも、岡山県内には注目のアーティストやクリエイターの拠点施設は多い。

たとえば玉野市宇野地区。2007年にJR宇野駅から徒歩2分の場所に、大型倉庫を利用したシェアアトリエ・アートスタジオ「駅東創庫」がオープンした。十数名の作家が制作活動の拠点としている。シェアアトリエとしてはかなり早期の設立であり、新たな試みとして注目された。

これをきっかけに、玉野にアーティストやクリエイターが集まり始める。やがて、玉野市にアーティストやクリエイターを全国・世界から呼び込み、楽しく暮らせる街にする「うのずくり」というプロジェクトが動き始めた。交流拠点が生まれたり、長年放置されているビルの再生活動が始動したり、活気が出ている。移住者も増え、新規出店も増加した。

※参考:
岡山県玉野市宇野港界隈にクリエイティブな人々を呼び続けている「うのずくり」のシンプルなやり方

玉野市宇野「駅東創庫」の内部(撮影:中川寛子)玉野市宇野「駅東創庫」の内部(撮影:中川寛子)

また、岡山市中心市街地にある表町エリアには、2023年に文化芸術施設「岡山芸術創造劇場 ハレノワ」がオープンしている。ハレノワのコンセプトは「魅せる」「集う」「つくる」。ハレノワは、プロが公演するだけの場所ではなく、市民も使用できる。たとえば、市内で活動する劇団やバレエ団、音楽サークルなども利用しているという。

大劇場・中劇場・小劇場の3つの劇場を備え、これに加えてアートサロン、ギャラリー、制作工房、11の練習室も設置している。大中小の3劇場と練習室などを備えている規模は、中国・四国地方で随一だ。

※参考:
岡山市の中心部・表町に誕生した「岡山芸術創造劇場 ハレノワ」。文化・芸術の歴史ある商人町と娯楽の町に活気を

玉野市宇野「駅東創庫」の内部(撮影:中川寛子)岡山市北区表町にある「岡山芸術創造劇場 ハレノワ」の外観

アーティストやクリエイターの制作活動拠点であり、コミュニティや価値を生み出す場

瀬戸内海の景色と落ち着いた環境、趣のある建物で制作活動に没頭できる、笠岡市のシェアアトリエ 海の校舎。宿泊客や街の人々がアーティスト・クリエイターと出会い、交流するきっかけをつくる岡山市のC&C。どちらの施設も、単なる活動拠点ではなく、新たなコミュニティや価値を生み出す場になっている。

こうした場所から生まれる作品や文化が、今後ますます岡山の芸術シーンを盛り上げていくかもしれない。岡山で活動するアーティストやクリエイターの制作活動に注目したい。

2025年4月開催の6回目になったクラフトマルシェ「うみの市」の様子(提供:シェアアトリエ 海の校舎)2025年4月開催の6回目になったクラフトマルシェ「うみの市」の様子(提供:シェアアトリエ 海の校舎)
2025年4月開催の6回目になったクラフトマルシェ「うみの市」の様子(提供:シェアアトリエ 海の校舎)C&C 企画室で2025年5月に開催された、RIKA KIKUCHIが在廊し行われたオーダーイベントの様子。その場で話をしながら直接絵を描き、描いた絵を後日額装して発送した(提供:C&C)

※取材協力:
シェアアトリエ 海の校舎
https://uminokousha.com/
C&C
https://c-and-c-okayama.com/
株式会社 HITPLUS
https://hitplus.jp/

公開日: