京都の近代化を象徴する建物が見つかる2024年京都モダン建築祭

2024年11月1日から11月10日までの10日間、京都に現存する魅力的なモダン建築を一斉に公開する「2024年京都モダン建築祭」が開催された。2022年に文化庁京都移転記念事業として開催されて、今年で3回目のプロジェクトとなる。

見学方法は、建築祭パスポートを提示することで期間中対象施設に何度も入場できる「パスポート公開」と、事前申し込みが必要となる「ガイドツアー」の2種類がある。3度目の今回は、どのガイドツアーも予約で埋まり、抽選で参加者が決まることも少なくなかったようだ。

今回、この「2024年京都モダン建築祭」のうち筆者が参加した2つのガイドツアーを公開可能な範囲でレポートしていく。

京都モダン建築祭メインビジュアル
(2024年京都モダン建築祭トップページより引用)京都モダン建築祭メインビジュアル (2024年京都モダン建築祭トップページより引用)

明治時代に世界を舞台に活躍した古美術商の洋館「パビリオンコート」

八坂神社や円山公園の北、平安神宮にもほど近い東山エリアに、株式会社京都山中商会が運営する「パビリオンコート」が佇んでいる。パビリオンコートは、主に明治時代〜戦前に世界6箇所以上を拠点にして東洋美術品の販売を行っていた山中商会が、京都で美術品の展示場として使用していた建物である。

登録有形文化財として登録されている当建物は、京都でも最初期の鉄筋コンクリート造で、当時の建物をそのまま使用している。建物の正面に天然記念物であるクスノキの大木で有名な青蓮院門跡があるなど、景観に恵まれたこのパビリオンコートは、現在は結婚式場・コンサートなどの貸会場やカフェとして使用されている。

京都東山の素晴らしい景観に恵まれたパビリオンコート京都東山の素晴らしい景観に恵まれたパビリオンコート

1件目に訪れたのは、京都山中商会四代目当主である山中達郎氏によるパビリオンコートのガイドツアーだ。

「ここには元々、山中商会が取り扱っていたかなりの量の美術品が、実際に手に取って見てもらえるように並んでいました。かつ、当時はそれを英語で説明できるスタッフがいたので、各国のコレクターはもちろん、世界の要人が立ち寄られることが多かったようです」

リンドバーグ、ヘレンケラー、マッカーサー元帥夫人、スウェーデン皇太子グスタフ、英国皇太子エドワード8世など、その言葉のとおり、建物の中に数多く残る欧米の著名人によるサインが、その歴史を物語っていた。

京都東山の素晴らしい景観に恵まれたパビリオンコート美術品の展示場として使用されていた当時の様子

細部までこだわり抜かれたデザインがノスタルジックな空間を演出

パビリオンコートの洋館1階の天井クロスには、建築当初の龍村美術織物社製の絹織物が使用されている。また、存在感のある美しい柱の上部には「双天馬双鳳」文様が施されていて、細部までこだわりが詰まっていることがわかる。

さらに、窓枠には角・丸・ギザギザの3つの種類の渦巻き文様が刻まれていて、今ではあまり見ることができないレトロなデザインが特徴的であった。

披露宴会場やコンサート会場に使われる洋館の2階は、大きな天窓が開放感を与える空間となっている。

「ここにも多くの美術品が並んでいました。当時は今に比べて照明器具が発達していなかった時代でしたので、美術品をより良く見てもらうために、大きな天窓を作って光を取り込むように設計されたのです」と山中氏。

天窓は「二重折り上げ格天井」という珍しい造りとなっており、この天窓のおかげで多くの美術品を展示することが可能になったそうだ。

この日、洋館1階は結婚式のチャペルとして使用されていたこの日、洋館1階は結婚式のチャペルとして使用されていた
この日、洋館1階は結婚式のチャペルとして使用されていた天窓が開放的な洋館2階

洋館の地下には、元々倉庫として使われていたスペースがあり、今では結婚式の待合室などで使用されている。倉庫として使われていた当時はあまり人目につかない場所であったが、天井にある梁の角が面取りされているなど、ここでも細部までデザインにこだわる職人の心意気が感じられた。

このように、この日はガイドツアーということで特別に中まで見学することができた。当洋館の雰囲気を味わいたい方は、パビリオンコートのカフェ「KYOTO YAMANAKA CAFE」に足を運んでみてはいかがだろうか。ノスタルジックな雰囲気を味わえるスペースとなっているのでおすすめだ。

この日、洋館1階は結婚式のチャペルとして使用されていた窓枠の特徴的なデザイン
この日、洋館1階は結婚式のチャペルとして使用されていた当時倉庫として使用されていた洋館地下1階

京都中心部ならではの豊かな学校建築「元成徳中学校」

次にレポートするのは、京都有数のビジネス街である四条烏丸エリアにほど近い場所に位置する「元成徳中学校」のガイドツアーである。今回見学したのは、1931年に鉄筋コンクリート造3階建てとして建築された元成徳中学校の校舎だ。

2007年3月の学校統廃合により閉校され、現在は統合校の京都市立下京中学校の生徒が部活動や体育祭などでグラウンドや多目的ホール(体育館)を使用している。校舎は成徳学区の自治会館としての役割や、京都文化協会や祇園祭山鉾連合会など、京都の文化・歴史を担う団体が使用する重要な拠点としても活躍している。

味わい深い雰囲気の廊下味わい深い雰囲気の廊下

元成徳中学校のガイドツアーは、この建物を管理している京都市教育委員会の河合祥太氏によって行われた。

「この校舎が建てられた1930年頃、京都を襲った台風により多くの木造校舎が被害を受けました。そのため、子どもの安全を守りたいという願いを込めて非常に頑丈にできています。古い建物ではありますが、専門家の調査でも耐震工事は必要ないという調査結果が出ているほどです」

元成徳中学校が建てられた地域は元々呉服業で栄えたエリアで、「子どもたちに少しでも良い教育環境を提供したい」という思いから、地域住民の豊富な資金源をもとに建てられた校舎だという。

味わい深い雰囲気の廊下装飾が施された正面玄関の天井

当時の先端的な意匠が採り入れられたモダン建築

実際に建物を見学すると、頑丈さだけではなく、細かい部分まで巧みに作り込まれたデザインに感銘を受けた。

まず目についたのは、校舎正面玄関の入口にある天井装飾モールと装飾された柱だ。特注のコテを使ったと思われるデザインで、高い天井にある梁に美しい模様が刻まれている。

また、アーチ状のアルミサッシも特徴的だ。昭和51年、面している高辻通りの騒音対策としてアルミサッシが導入されたが、当時、この形状のサッシは既製品にはないため、すべて特注品を使用しているそうだ。

エントランスにある階段には、イタリア製の大理石やケヤキの一枚板が使用されている。

「この階段は今でも反りが少なく非常に頑丈に作られています。専門家の見解では、今はこの量の木材が集まりにくいので同じものはおそらく作れないだろうとのことでした。また、このように手すりに精巧なデザインの大理石が使われている学校も珍しいです」と河合氏。

ケヤキの1枚板と大理石を使用した正面玄関の階段ケヤキの1枚板と大理石を使用した正面玄関の階段
ケヤキの1枚板と大理石を使用した正面玄関の階段特注品を使用したアーチ状のアルミサッシ

2階には、一般の公立学校では珍しい「折り上げ格天井」を採用した旧作法室がある。折り上げ格天井は、寺院や書院などの格式高い部屋に用いられる天井であるため、高い技術と費用がかかる工法なのだ。こだわりの釘隠しや欄間も目を見張るものがあった。

閉校を機に設置された資料室には、元成徳中学校の歴史を感じさせられる資料や写真などが数多く展示されていた。その中でも目を引いたのは、アメリカのピアノメーカーであるスタインウェイ&サンズ製のグランドピアノだ。昭和初期から学校で使用され、戦後進駐軍に接収されていたが再び戻ってきたという、時代の重みを感じさせる貴重なピアノである。

春になると、校舎の前にある「春めき桜」が華やかに咲き誇る。桜の美しさとともに、伝統の深みを感じる元成徳中学校の校舎に訪れてみてはいかがだろうか。

ケヤキの1枚板と大理石を使用した正面玄関の階段格式高い旧作法室の折り上げ格天井
ケヤキの1枚板と大理石を使用した正面玄関の階段時代を渡り歩いてきたグランドピアノ

これまでにない大きな規模で開催された3度目の京都モダン建築祭

今回で3度目の京都モダン建築祭は、パスポート公開建築45件、建築ツアー83コース、参加建築数102件という、これまでにない大規模での開催となった。パビリオンコートは今回が初参加であったように、年々参加する施設が増えているようだ。

運営の方に聞くと、前回・前々回は予想を超える来場数に対する運営面の体制や、ガイドツアーの需要に対する供給不足などの課題があったそうだ。今年は前期・後期に分けてのエリア公開とし、ガイドツアーも増強するなど解決をはかった。工夫の甲斐もあってか、筆者が参加した2つのガイドツアーは大変快適に楽しむことができた。主催者の取り組みにより、多くの方が楽しめるように改善が進められているのは確かだろう。

来年以降も京都モダン建築祭が続き、少しでも多くの方にモダン建築を通して歴史の重厚さに触れる機会になることを期待したい。

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