潜在的な街の魅力を引き出し活性化する「エリアリノベーション」
Osaka Metroは、2018年に大阪市交通局から民営化された、大阪市民の足ともいえる地下鉄やバスを運行する公共交通事業を主とする企業だ。現在、Osaka Metroでは「エリアリノベーションプロジェクト」という大阪のまちづくりに関する取り組みを行っているという。本社の都市開発事業本部・浦田係長と平松さんに話を聞いた。
エリアリノベーションとは、エリアの丁寧な読み解きを基本としつつ、遊休不動産の活用、エリアの特徴ある魅力要素の発掘と発信、暮らし方の提案といった複合的な手段を用いてエリア全体の価値向上を目指すまちづくりのことだ。エリアリノベーションの最大の特徴は、地域で受け継がれてきた歴史や文化、伝統を最大限に生かすこと。家屋や店舗などの建築物に関しても、すべて解体し造り直すのではなく、それらを地域資源として活用し、潜在的な魅力を最大限に引き出すことで、エリアに新しい価値を創出する。
「大規模な再開発を行わずとも、遊休不動産の有効活用を行うことで、住みたくなる、訪れたくなる、活力あるまちづくりを目指します」と浦田さんは話す。
鉄道会社が取り組む持続可能なまちづくりとは?
大阪市の人口は、2024年の推計では微増とされているが、将来的には減少すると予測されている。市内人口の減少によって、地下鉄をはじめとする輸送事業が厳しい経営環境になっていくことは想像に難くない。空き家が増えている沿線駅周辺で、人を呼び込むまちづくりから手がけていきたいと考えるのは、公共交通機関である鉄道事業者の共通する認識だろう。
そこで、Osaka Metroは、鉄道会社のこれからのまちづくりを考える「エリアリノベーションシンポジウム」を開催した。エリアリノベーションによるまちづくりには、事業主体だけではなく、地域住民や行政など多様な立場による協働が不可欠とされるが、このシンポジウムでは、行政や在阪鉄道会社もパネルディスカッションに登壇したという。
「民間企業、地域住民、行政など、それぞれの強みを生かすことで、より効果的で持続可能なエリアリノベーションを実現することができます」と、浦田さん。
以下、Osaka Metroが手がけるエリアリノベーションの具体例について、紹介しよう。
「西田辺エリア」「長居エリア」「あびこエリア」での実例から
Osaka Metro御堂筋線「天王寺駅」より南の「西田辺」「長居」「あびこ」。この辺りは、戦後すぐ、都心へのアクセスに便利な御堂筋沿線の住宅地として開発された地域で、木造住宅や連棟式の住宅が並ぶ。
Osaka Metroのエリアリノベーションは、この3つのエリア、100戸の遊休不動産を活用するところから始まった。
「空き家や遊休不動産を、私たちが約10年間一括で借り受けてリノベーションします。再生した不動産は、住居や店舗として貸し出します。設計や施工ではなるべく地元の方の協力を得て再生し、入居者も地域交流につながる商売や趣味に生かしていただけそうな方を募集しています。着工よりも早期に入居者の募集をかけるので、設計やデザインに希望を反映できるのも特徴です」(浦田さん)
阿倍野区阪南町では、戦前の木造長屋を、人とのつながりや住む人の自己実現が街に還元されるような使われ方を想定してリノベーション。入り口に設けた大きな土間を自由に使える住宅として再生した。東田辺の事例では、木造5連長屋を事業用物件としてリノベーション。レストランやカフェ、アトリエなどの店舗や事務所が入居し、各区画で異なる風情のある物件となった。近くの商店街から人の流れも呼び込み、地域の新しい立ち寄りスポットになっている。
独自のローカルマガジンで街の魅力発信もサポート
エリアリノベーションプロジェクトによるまちづくりは、ハードとしての不動産の再生だけにとどまらない。地域の魅力を高め、地域住民の交流を活発にするために、発信力の強化にも力を入れている。
「くらしの風景」「NAGAI DAYS」「ABIKO ワンダーランド」とネーミングされた冊子は、前出の3つの地域の駅に置かれたローカルマガジンだ。オールカラーA5サイズのこれらには、再生され新しく生まれたお店の紹介だけではなく、お店のオーナーの声や、公園など地域の自然まで、ローカルな魅力が満載だ。これ以外にも、「BUY LOCAL FUN LOCAL」をキャッチフレーズに、3つの地域の魅力的なお店を紹介するマップも発行している。
地元にこだわり、その魅力を高め、発信するエリアリノベーションプロジェクト。地元住民から移住者、遊びに訪れる人まで、Osaka Metroはまさに多くの人々を巻き込み、街の再生を目指す。
ストック資産を生かすため、さらに地域を広げ、大阪市域の再生へ
3つの地域で始まったエリアリノベーションプロジェクト。大阪市域の南北軸である御堂筋沿線の次は、東西軸に視野を広げたいと浦田さんは話す。
「次は中央線沿線のまちづくりに取り組みたいですね。中央線沿線の東側では、キタ・ミナミに並ぶヒガシとして、大阪城東部地区のまちづくりが予定されています。森之宮は、大阪公立大学森之宮キャンパスなどが整備される大規模な都市再生エリアですが、その東西軸の西側、『弁天町』『朝潮橋』『大阪港』の3つの駅のエリアに注目しています」(浦田さん)
現在、大阪には再開発の計画が盛りだくさんだ。最後に残された一等地とされる「うめきたエリア」をはじめ、大規模な開発によって、数年後には中心部の街の景色は一変するだろう。緑の都市公園や、新しいショップ・飲食店などが入居する大規模ビルなどキタやミナミの求心力は大きく高まるかもしれない。
しかし、定住人口の減少が予測されている周辺住宅地はどうだろうか。そこでは、スクラップアンドビルドの都市開発は及ばない。空き家が全国的に社会問題になる今、ストック資産の活用は、国が進める施策でもある。暮らしの文化が色濃く根付く大阪下町の空き家を生かして、街全体に活力を戻そうとするOsaka Metroのプロジェクト「エリアリノベーション」は、持続的な都市再生のひとつの答えとなりうるのではないだろうか。
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