「シェアで持続可能な社会に」シェアサミット2024開催

2024年は、空き家活用を促進する法改正、日本版ライドシェアや二拠点・多拠点居住等推進に向けた法整備、デジタルノマドビザの施行などがあり、各分野でのシェアリングが加速した年と言えるかもしれない。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会では、2016年の発足以降、シェア(共有、共助、共創)で持続可能な共生社会を実現するために、全国の自治体や企業、NPOが連携して活動してきた。これらの団体や地域での最先端事例を共有するとともに、それぞれがつながる機会となるべく、2024年11月5日にシェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2024」が開催された。

3つのエリアにわかれ、約100人にのぼる登壇者によるテーマごとのトークセッションが同時進行で行われた。今回は、4つのトークセッションをピックアップし、地域の先進事例をレポートする。

日本最大のシェアリングエコノミーの祭典、シェアサミット(出典:SHARE SUMMIT 2024 | 一般社団法人シェアリングエコノミー協会  https://sharing-economy.jp/ja/sharesummit/ss2024)日本最大のシェアリングエコノミーの祭典、シェアサミット(出典:SHARE SUMMIT 2024 | 一般社団法人シェアリングエコノミー協会 https://sharing-economy.jp/ja/sharesummit/ss2024)

トークセッション① 「ACTIVE CITIZENS〜公民連携で作る持続可能な地域・社会〜」

モデレーターを務めたシェアリングエコノミー協会の石山アンジュさんモデレーターを務めたシェアリングエコノミー協会の石山アンジュさん

まず、「公民連携」をテーマとしたトークセッションについて取り上げる。

今回の主催団体である一般社団法人シェアリングエコノミー協会の代表理事である石山アンジュさんは、「なぜ公民連携が必要なのか。促すための課題、そして市民一人ひとりがどうやって主体的に関わっていけばいいのか」と、それぞれの登壇者に投げかけた。

今年1年間、能登の震災復興に取り組んできた株式会社雨風太陽の高橋 博之さんは「過疎は慢性的な災害」と語った。

「復興における一番の課題は人手不足です。人手不足は災害時に一気に顕在化することが能登の震災で明らかになりました。結局、平時でできないことは緊急時にできるわけがないんですよね」(高橋さん)

災害時の混乱の原因は、自らも被災している自治体が普段やらないことをやらなければいけないことだ。だからこそ、災害時にどのように対応するのか、あらかじめ自治体や地域の企業、NPOが連携しておく必要があると強調した。

また、高橋さんは「二重の住民登録制度」の必要性も訴える。「これが可能となれば、避難先からも地元に貢献でき、さらに今二拠点居住のような多様化する人々の生活スタイルにも対応できるのでは」と語った。

モデレーターを務めたシェアリングエコノミー協会の石山アンジュさんシェアサミット2024でディスカッションする様子

大阪府四條畷市と山形県西川町は、どちらも日本初となる公民連携の取り組みを行っている。

四條畷市長の東 修平さんは、市長後継者候補を求人サイトで公募することに挑戦。わずかな期間ながら、全国から幅広い年齢層で209人もの応募があり、そのうちの7割以上が民間企業の人だったという。選考の過程では、通常の面談だけではなく、市民による意見交換という新しい試みも行われ、先日、次の市長が決定したところだ。

東さんは「市長選挙の4分の1は無投票で決まっているという現実があることに疑問を感じ、候補者を公募することに踏み切った」と話す。

また、山形県西川町長の菅野 大志さんは、「NFTを使ったデジタル住民票の発行」という、これも日本初となる試みに挑戦した。

「西川町は人口5,000人の町で、急激な人口減少をしていたので、関係人口が必要だと思いました。『お金持ちと若者』にターゲットを絞って分析したところ、Web3分野が上がってきたんです。そこで、デジタル住民票を発行したところ、1万3,000件の申し込みがありました」(菅野町長)

四條畷市も西川町も、これまでになかった新しい試みで、地域の活性化をはかっている。まさに、最先端をいく成功事例だ。

トークセッション② 「【東海】日本で一番シェアから遠い!? 東海エリアのシェアリングエコノミーの可能性とは」

次に、東海エリアの事例についてのトークセッションをご紹介する。

株式会社R-proの代表でもあり、シェアリングエコノミー協会の東海支部長でもある岡本 ナオトさんは「愛知県はとても経済規模が大きいし、いいところなのに『なんか閉鎖的だよね』と言われるんです」と言う。そんな東海で、「シェアリングエコノミーは馴染むのだろうか?」という問いかけからトークセッションは始まった。

岡本さん以外の3名の登壇者も、東海エリアにゆかりのある人々だ。

まずは、シェアサイクル事業を展開するチャリチャリ株式会社の小柴 大河さん。アプリを活用すれば1分単位の料金体系で、アプリを活用して気軽に借りられるのが特徴であるチャリチャリの事業は福岡から始まり、2都市目として名古屋でスタートした。現在は9都市で展開しているが、名古屋のみが歩道上にシェアサイクルのポートを設置できた成功事例だという。

国土交通省の日下 雄介さんは、2022年から2年間名古屋市役所に出向し住宅都市局長を務め、まちづくりを担当し、名古屋のウォーカブル戦略にも携わってきた。また、現在は二拠点居住に取り組んでおり、2024年10月から開始した「全国二拠点居住等促進官民連携プラットフォーム」の立ち上げにも携わっている。

株式会社シェア180の伊藤 正樹さんは、「まだ名古屋でほとんどシェアハウスがなかった」という2010年に名古屋でシェアハウス事業を立ち上げた。伊藤さんは愛知県の特徴として「持ち家住宅率が全国平均より高い」ことを挙げる。一見、保有文化が強く、シェアリングエコノミーには向かないようにも見えるが、伊藤さんは次のように語る。

「東海は、関東や大阪と比べて家賃が安く、名古屋の端に行けば3万円でワンルームが借りられるような環境です。そのため、安いシェアハウスよりも、少しグレードの高いものの方がお客さんが埋まりやすいんです。『ちょっと高くてもいい物件に住みたい』ニーズがあります」(伊藤さん)

東海の持ち家住宅率は全国平均より高く、さらに車の保有率も高い東海の持ち家住宅率は全国平均より高く、さらに車の保有率も高い

また、チャリチャリの小柴さんは、東海エリアの特徴について「一度関係値を築くと、どんどんつながれる側面がある」と話す。一見、閉鎖的に見えるが、一旦入り込んでしまえば強くつながるという文化的側面があるようだ。

日下さんは、東海地区の二地域居住への可能性について言及した。

「東京と大阪の間にあり、リニアが開業すれば品川まで40分で行けるという立地のよさなので、今後二地域居住が進む可能性はますます高まると思います。二拠点居住の課題は、『家・仕事・コミュニティ』です。たとえば行政がハードを作り、そこで民間がイベントを行うなど、官民が連携して他地域の人に来ていただく取り組みがとても大事です。モビリティと住居のシェアは、二地域居住ともすごく親和性が高いと思います」(日下さん)

最後に、「名古屋はシェア文化へのポテンシャルは高い」と全員が口をそろえた。都市空間にゆとりがあり、懐に入るとスピードが早く、そして知られていないだけで実はプレイヤーも確実にいる名古屋。そんな東海でますますシェアリングを広めようと、前向きなムードでセッションは終了した。

トークセッション③ 「【東北×四国】Web3を活用した地方創生の現在地〜ブロックチェーンは人口減少地に関係人口を増やせるか?〜」

3つ目のセッションのモデレーターは、百十四銀行に勤める傍ら、映画監督もしている香西 志帆さん。銀行員として特産品づくりなどの地域ブランディングを行っている。

香西さんから「『関係人口』とは、特定の地域には住んでいないけれど、その地域と継続的に多様な形で関わる人のこと」という説明があった。では、どうやったらWebによって関係人口が増えるのだろうか。

日本DAO協会の本嶋 孔太郎さんからは「DAO(Decentralized Autonomous Organization/ダオ)」についての説明があった。DAOとは、中央集権的な管理者が存在せず、共通の想いを持った参加者の投票によって運営方針を決定していく自律分散型の組織のこと。新しい技術やテクノロジーを駆使することで、従来のピラミッド型の組織にはらんでいた問題の1つの解決策になるものとして注目されている。

「ポイントは代表がいないことで、それぞれに役割があり何かしらに関わっていることです。関係人口でいうと、そもそも関わりしろが存在する組織を作っていく必要があるので、ただお金を寄付するだけではなく、何かしらの貢献活動をすることが前提になっています」(本嶋さん)

本嶋さんは、DAOの特徴の1つに「コミュニティ革命」があると語る。今までのコミュニティは100~200人という単位が限界だったところ、テクノロジーによってこの数字を超えられる可能性があるという。

DAOには「コミュニティの革命」だけではなく、他に5つの革命があるDAOには「コミュニティの革命」だけではなく、他に5つの革命がある

株式会社巻組の渡邊 享子さんは、このDAOを使って、宮城県石巻市を拠点に「1日から入れるシェアハウス」を運営している。石巻市は東日本大震災の後、10年間で人口が約2万人減少し、1万戸以上の空き家を抱えている。この空き家問題を解決するためにWeb3を活用、NFTでトークンを発行し、トークンを持っている人で運営組織を作って空き家を貸し出すという仕組みだ。

セッション①でも登壇した山形県西川町の菅野町長は、NFTでデジタル住民票を発行し、1,000人くらいのデジタル住人がいる実績を持つ。「人口を増やすことはできなくもない」と管野町長は言う。

「人口を増やすために重要なのは、寛容性だと思っています。沖縄は寛容な地域の代表例で、実際に出生率も高く人が増えています。では、寛容性を高めるにはどうしたらいいかというと、やはり顔を見て対話することじゃないでしょうか。それも町内外や世代を超えた対話です。NFTでデジタル住民票を買ってくれた人に実際に西川町に来てもらって、住民と対話し、リアルなコミュニティを形成していくといったレイヤーがだんだん可視化されています」(管野町長)

これに対し、本嶋さんは最初に地域と関わるきっかけとして「お祭り」も重要だと言う。本嶋さんはWeb3も活用しながら、新しい形のお祭りを作っている最中だ。

最後に、香西さんは「デジタルの進化に伴って、関係人口の形態が進化している」と語った。

「関係人口を増やすために必要なのは、出番・交流・居場所を作ることです。それが、Web3やブロックチェーンでさらに加速できると、今日改めて思いました」(香西さん)

トークセッション④ 「二拠点居住推進法がつくる新たな地域経済圏〜関係人口がつくる地方の未来~」

最後に、2024年に二拠点居住推進法が施行されたことに対し、二拠点居住に取り組んでいる企業、自治体、国土交通省のメンバーによるディスカッションが行われた。

モデレーターは一般社団法人シェアリングエコノミー協会の立ち上げ人であり、多拠点生活のプラットフォーム「ADDress」を運営する佐別当 隆志さん。ADDressは月額定額制で、全国約300か所の物件を利用できるもので、デジタルノマドや多拠点生活をする人々に利用されている。

株式会社Unitoの近藤 佑太朗さんは、従来の固定賃料ではなく、日数単位の家賃を払う仕組み「リレント」を導入した物件マッチングプラットフォームを運営している。たとえば「1ヶ月のうち15日住んだらいくら」という料金体系で、ホテルと提携して部屋の貸し出しをしている場合もあるという。

長野県飯田市からは、民泊の拡大を進める飯田市長の佐藤 健さんが登壇。以前より修学旅行での農家民泊を行っていたが、Airbnbと協力し、さらに一般利用に拡大している。「毎年1,000人近くの人口が減っているまちで、1泊からの関係人口を増やしたい」と佐藤さんは語る。

そして、二拠点居住促進政策に携わっている国土交通省の酒井 達朗さんは、「なぜ今のタイミングでわざわざ法律を作ったのか?」という佐別当さんの質問に対し、「2つの価値がある」と答えた。

「人口減少社会で、どこの地域も人手不足です。移住・定住はもちろんいいのですが、1人1役にしかなりません。二拠点や多拠点であれば、1人の人間が3役、4役と担えます。もう一つ重要なのは、住居をシェアすることによって、分散型のリスク回避になることです。たとえば、震災で被害にあった場合、ずっと体育館で過ごすよりはどこかに2次避難した方がいいという話もあります。もし多拠点生活をしていれば、縁があるところにスッと移動できるのがメリットです」(酒井さん)

これに対し、「災害のときに関係人口が多ければ多いほど復興が早いというデータもある」と佐別当さん。普段から関係性のある地域で、見知った人がいることは、寄付やボランティアに駆けつけることにもつながりやすい。被災した側・支援する側どちらの面から見ても、地域とつながっておくことは心強いのだ。

ADDressを使って多拠点生活を実践する人は、「実践前より幸福度が高まった」というデータもADDressを使って多拠点生活を実践する人は、「実践前より幸福度が高まった」というデータも

しかし、二拠点居住をしようとなると、どうしても住まいや交通費にコストがかかるのが課題だ。佐別当さんは、介護や学校に通う離島の住民の飛行機や船が半額になる「準住民」の仕組みを例に挙げ、「同じようなことが二拠点居住でもできたら」と語った。

アクティブシティズン、東海の事例、Web3、二拠点居住などの多様なテーマを、企業や自治体などさまざまな角度から学べた今回のシェアサミット。人口減少や災害などの共通する日本の課題に対し、これほど多様な解決案と成功事例があることに驚いた。今はまだ一部地域に限られた事例かもしれないが、このムーブメントが日本全国に広がることを願っている。

取材協力:一般社団法人シェアリングエコノミー協会
https://sharing-economy.jp/ja/

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