東広島市高屋地区でeスポーツイベントを地域主体で開催

イベント当日は、多くの人出で通りがにぎわっていたイベント当日は、多くの人出で通りがにぎわっていた

高齢化や空き家問題が進行する東広島市高屋地区。
駅前の活性化を目指す動きが重要視されるなか、東広島市の「Town & Gown(タウン・アンド・ガウン)構想」に基づき、地元大学と連携して地域課題に取り組んでいる。

Town&Gown構想とは、東広島市の大学と自治体が連携して地域課題の解決を目指すものだ。広島大学に続き、近畿大学や広島国際大学とも連携した取り組みが段階的にスタートしている。

「特にeスポーツやAIは、地域との連携を前提としたまちづくりの方針のひとつに位置づけられています」と説明するのは、東広島市高屋出張所の村瀬直彦さん。まちづくりのなかでも、eスポーツの普及が、東広島市では新たな成長戦略の一端を担うと期待されている。

eスポーツへの注目が高まるなか、2024年8月に東広島市高屋地区の西高屋駅前でeスポーツのイベントが行われた。地元企業の協賛のもと、地域住民や学生が協力して開催され、イベントには3,000人以上が参加したという。

当日は、古民家の空き家をeスポーツのパブリックビューイング会場として利用し、普段から熱心に観戦しているファンに加え、初めてeスポーツに触れる高齢者や子どもたちも多く集まった。地元のeスポーツチームが戦うパブリックビューイングに多くの人が足を止め、手をたたいて応援する光景が広がり、予想以上の盛り上がりを見せた。eスポーツは地域のつながりを強め、幅広い世代に楽しんでもらえることを改めて実感する機会になったという。

「西高屋駅は通り過ぎるだけの場所ではなく、人々が立ち止まって一緒に盛り上がる場になりました」(村瀬さん)

イベント当日は、多くの人出で通りがにぎわっていたeスポーツのパブリックビューイングの様子。地元チームの応援に熱心だ
イベント当日は、多くの人出で通りがにぎわっていた古民家を活用してeスポーツのイベントが開催された

学生の多い地区でありながら駅前は衰退の危機に

東広島で盛り上がりを見せるeスポーツ。どのようにeスポーツ中心のまちづくりを進めてきたのだろうか。

近畿大学と東広島市によるTown & Gown(タウン・アンド・ガウン)構想の締結式近畿大学と東広島市によるTown & Gown(タウン・アンド・ガウン)構想の締結式

パブリックビューイングの会場にもなった西高屋駅では、多くの学生が毎日電車で通学し、夕方には帰宅する光景が見られる。学生の利用が多い一方で、高齢化や空き家問題なども進んでおり、地域住民はその人通りを活用した駅前の活性化に頭を悩ませていた。

地域住民からは「このまま町が衰退するのを黙って見ていていいのか」という声も上がり、自治協議会が主体となって駅前活性化協議会が設立された。この協議会では、近隣の大学や学生と連携した地域振興策が議論されている。高屋地区での「Town&Gown構想」に基づいたまちづくりのはじまりだ。

近畿大学と東広島市によるTown & Gown(タウン・アンド・ガウン)構想の締結式高屋地区は大学生や高校生の通学風景が見られる一方で、空き家が増えている

プロゲームチームの拠点が広島に— コロナ禍での変化と地方拠点の利便性 —

従来、広島のプロスポーツといえばカープやサンフレッチェが県全体に支持されてきたが、東広島ではどのようにeスポーツの盛り上がりをつくってきたのだろうか。プロゲームチームの広島TEAM iXA(イクサ)が活動拠点を2021年に東京から広島に移転したことが大きく影響しているという。

オフィスには、ゲームをできる一角があり、背景を和風にしているオフィスには、ゲームをできる一角があり、背景を和風にしている

もともと、チームの事務所は東京にあり、都内のゲーム会社の協力を得て活動していた。しかし、コロナウイルス感染症拡大により、多くの企業がリモートワークへと移行。チームは六本木ヒルズにある高額な家賃の事務所を維持する必要性が薄れたことで、事務所を手放す決断に至った。そして新たな拠点として広島県が浮上した。理由のひとつは、代表の板垣護さんが広島出身であること、そして広島県による企業誘致の取り組みがあることだ。また空港、駅、高速道路のインフラが整っている点も、移転を後押しした要因となったそうだ。

「ここから海外大会への移動もスムーズです。東京でなくとも、チーム運営に支障はないと感じました」と、板垣さんは話す。

また、広島県や東広島市からのサポートも充実しており、移転先の物件選定においても、企業誘致や補助金制度などの支援が提供された。

オフィスには、ゲームをできる一角があり、背景を和風にしている広島TEAM iXA(イクサ)の代表・板垣さんは、半分ロン毛で半分刈り上げという個性的な出で立ちだ

eスポーツのプロチームが地域に溶け込み、信頼関係を築く

2021年4月に東広島市へ移住した板垣さんは、3年間にわたり地域との関係構築を模索してきた。当初、地域住民からは「何者だ?」と不審がられ、スポンサー獲得も難航する状況だった。しかし、「このままではいけない」と感じた板垣さんは、地域の名産品を自ら購入し、eスポーツ大会の賞品として提供するなど、地道な活動を1年以上続けることで徐々に信頼を得てきたという。

大会に参加する選手たちは、公式リーグにも名を連ねるようになった。リーグは動画共有サイトなどで視聴され、次第に東広島市でも注目を集めるようになったという。地域住民からも「なんだか頑張っている人がいる」との認識が広がり始めた。

外観は個性的なデザインで、板垣さんの車は唐草模様になっている外観は個性的なデザインで、板垣さんの車は唐草模様になっている

「最初は地域に受け入れられず苦労しましたが、愚直に活動を続けることで、少しずつ理解が深まりました」と板垣さんは振り返る。今では地元企業やスポンサーとの関係も築かれ、広島空港でも広島TEAM iXAの巨大なポスターが掲出されるなど、地域の支持を得た活動が広がっている。

外観は個性的なデザインで、板垣さんの車は唐草模様になっている板垣さんは地域に溶け込み、イベントで東広島市の川口一成副市長(右)と協力し合う関係に

学園都市構想とeスポーツから広がる新たな拠点づくり

さらにeスポーツチームの活動は、地域振興に寄与するだけでなく、学生やクリエイターの成長を促す新しい形の学園都市づくりにも貢献している。

東広島市の高屋地区では、学生の多さを生かして「クリエイター学園都市構想」という新たなビジョンが生まれた。この構想は、eスポーツだけでなく、クリエイティブ産業を通じて地域を活性化するというもので、学生たちが最新のハイスペックパソコンやクリエイティブツールを自由に使える環境を整備することを目指している。

西高屋駅周辺には古民家が数多く残っており、これらを活用してクリエイティブな拠点を設ける計画も進行中だ。冒頭で紹介したeスポーツのイベントも学生たちが中心となって開催され、地域の飾り付けや企画運営に積極的に関わる姿が見られた。板垣さんは「町全体で新しい試みをしようという意識が強くなってきています」と話す。

2022年に西高屋駅前が大きく変わることになり、地域の活性化につなげたいと地域が動きだした2022年に西高屋駅前が大きく変わることになり、地域の活性化につなげたいと地域が動きだした

eスポーツを含む地域振興の取り組みは、単発のイベントにとどまらず、持続可能なまちづくりの一環として進行中である。2022年に始まった西高屋駅舎と駅前の整備をきっかけに、駅周辺の活力や魅力を高めようとする人たちが集まり、2024年6月には地元の産官学民による「まちづくり会社G11」が発足した。

さらに東京から移住したアニメーション監督やクリエイティブディレクターの協力を得て、西高屋駅前を拠点とするクリエイティブな活動の場を設ける計画が検討されている。eスポーツに限らず、プログラミングやアニメーション、デザインなど、さまざまなコンテンツを生かした施設を西高屋駅前に設置し、地域活性化を目指す大規模な構想が進行中だ。

これにより、大学、地域、クリエイティブ産業の結びつきがさらに強化されることが期待される。eスポーツから新しい分野へ広がっていく東広島市高屋地区の今後のまちづくりの展開に目が離せない。

2022年に西高屋駅前が大きく変わることになり、地域の活性化につなげたいと地域が動きだしたイベントでは黄色いTシャツのG11のメンバーたちが誘導等で大活躍

公開日: