人口減少の現在地

2008年から日本の人口は減少の一途をたどり、特に地方地域では急速な過疎化が課題となっている。今後人口が増えることは考えにくい状況下で、地方地域が存続していくには課題が多い。現に、町や集落の負担が少ない「地域の終わらせ方」について検討されている地域も存在する。

人口減少が全国的な課題となっている中で、地域の持続的な発展に関する国の制度や自治体の取り組みについて紹介する「人口減少地域フォーラム」が全国過疎地域連盟と地域活性化センターによって開催された。本フォーラムより、人口減少下においても持続可能な地域の在り方を考察する。

最初に、総務省過疎対策室長・沼澤弘平氏より解説された、過疎の現状について紹介する。日本の総人口は、2020年時点では約1億2,000万人であるのが、2070年には8,700万人ほどになると予測されている。高齢化率は同期間で約10%上昇し、38.7%になることが見込まれている。

全国的に人口が減少していく中でも、東京圏への転入超過数(=転入者数―転出者数)はコロナ禍以降拡大しており、2023年時点では約11万5,000人となっている。東京圏へ転入する人々は、進学や就職をきっかけに上京する若者が多くを占めている。地方の若者が東京圏に流出することで、地方の過疎化と高齢化が急速に進んでいるのだ。

一方で、東京圏在住者の地方移住への関心が高まっているとの調査もある。特に20代にその傾向が強く、内閣府の「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、地方移住について「強い関心がある」「関心がある」「やや関心がある」と回答した20代は44.8%と半数近くに上った。

この傾向について、フォーラムに登壇した法政大学名誉教授・岡﨑昌之氏は、新たな若者の志向・傾向に要因があると述べた。従来の若者の価値観では所有欲が大きかったが、現在の若者は存在欲や自己実現欲が強いという傾向が見られるという。都市部より個人の影響力や存在感を強く感じられる地方地域では、そうした欲求が満たされやすいといえる。また、若者の価値観の変化に加えて、地禍域おこし協力隊といった制度や、多業・起業といった働き方の選択肢の多様化、コロナ禍によるライフスタイルの変化などの社会的な要因も相まって、地方移住への興味関心が高まってきているとのことだ。

内閣府「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より内閣府「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より

長崎県五島市~地域づくり事業協同組合による就労・雇用の創出で持続可能な地域を目指す~

東京圏の若者の地方移住への関心が高まる中で、若者と地元企業をつなぎ雇用を創出することで持続可能な地域を目指すのが、長崎県五島市だ。

五島市からは、五島市地域づくり事業協同組合(有限会社イー・ウィンド)専務の田上秀人氏と、五島市産業振興部商工雇用政策課 雇用・起業促進班係長の馬場嵜初則氏が登壇し、地域づくり事業協同組合による人材確保策について説明した。

五島市では、高校生に向けたアンケートで約5割が「将来的には五島市に戻りたいと思う」と回答し、そのうちの3割弱が「五島市に良い仕事があれば、近い将来戻りたいと思う」と回答。戻りたいという意思のある地元の若者は一定数存在している。一方で、市内企業に向けたアンケートでは、8割以上が今後雇用を増やしたいと思っているものの、労働力の確保が困難だと感じているという。つまり、雇われる側・雇う側それぞれに就労・雇用の需要はありながらも、適切なマッチングが進められていないのが課題だった。

そうした就労・雇用の課題を解決するために設立されたのが「五島市地域づくり事業協同組合」である。地域づくり事業協同組合は、総務省の「特定地域づくり事業協同組合制度」の一環だ。特定地域づくり事業協同組合では、地域内組合事業者の仕事を組み合わせた通年の仕事をつくることで雇用を創出し、人口流出防止や移住促進の対策とする。

総務省自治行政局地域力創造グループ 地域振興室 「地域人口の急減に対処するための 特定地域づくり事業の推進に関する法律 ガイドライン」より 総務省自治行政局地域力創造グループ 地域振興室 「地域人口の急減に対処するための 特定地域づくり事業の推進に関する法律 ガイドライン」より

五島市における地域づくり事業協同組合は、五島市・福江商工会議所・イー・ウィンドの三位一体体制で行われる。具体的には、組合で正職員雇用をし、マルチワーク型・インターンシップ型で企業と労働者をマッチングしている。

「マルチワーク型は、就労希望者を組合で正職員雇用し、季節ごとに繁忙期が異なる農作業、加工業等の業務を組み合わせて、派遣職員として職務についてもらうことで組合員企業をサポートしていく働き方です。採用面接をすると、マルチワークという働き方自体に面白さを感じてもらえる方が多いですね。こういう働き方は、今の感覚に合っているのかなと思います。

もう一つ、インターンシップ型という働き方も設けています。組合で正職員雇用をするのは同じですが、1ヶ月や2ヶ月ごとに組合員企業でさまざまな仕事を経験してもらい、1年後に就職を目指す働き方です。移住したばかりの人にとって、地域にどのような企業があるのかわからないという課題や、せっかく就職しても3年くらいでやめてしまうという課題があるので、ゆっくりと自分にあった仕事を探していくような仕組みを設けています」

こうした取り組みによって、2021年から2024年6月までの間に20名の採用に至っている。

岡山県真庭市~地域内資源の活用による自給と循環で持続可能な地域へ~

長崎県五島市が雇用の促進により人口減少を食い止めるアプローチをしているのに対し、岡山県真庭市では、地域の産業発展により自立した地域を目指す。岡山県真庭市長・太田昇氏の講演では、林業を中心としたまちづくりについて説明された。

地方自治体の持続可能性を考えたとき、食料やエネルギーの自給率を上げていくことが重要だと述べた太田市長。特にエネルギーについて、日本のエネルギー自給率が11.8%と低水準であるのに対し、真庭市のエネルギー自給率は62%だという。真庭市のエネルギー供給を支えるのが、真庭市の豊富な森林資源を生かしたバイオマス発電だ。具体的には、用材を生産する過程で発生する端材をバイオマス発電所で活用している。エネルギーの自給に限らず、地域の資源を活用することで経済効果も生んでおり、バイオマス発電所での経済効果は2012年から2017年で約52億円増加したという。

真庭市蒜山の観光文化発信拠点「GREENable HIRUZEN」。真庭市のCLTを活用した隈研吾事務所デザインの施設だ真庭市蒜山の観光文化発信拠点「GREENable HIRUZEN」。真庭市のCLTを活用した隈研吾事務所デザインの施設だ

真庭市の森林資源は、バイオマス発電以外にも活用されている。

そのひとつに、木質の新たな構造材CLTを活用した木造建築の拡大が挙げられる。真庭市役所前のバス待合所にはじまり、こども園や図書館などが、CLTを活用して建設されている。2016年に建設された「落合総合センター」は、木材利用優良施設賞を受賞し、真庭市中央図書館は、2023年に公共建築賞・優秀賞を受賞するなど、実績も評価されている。

ほかにも「森の芸術祭」といった文化振興や「林業・木材・木造建築教育・研究ゾーン構想」といった産学官連携の研究施設の構想など、森林資源を活用して、さまざまな領域に展開している。

こうして地域の資源を活用し、地域内に循環させることで、必要なエネルギーやインフラを地域内で賄うだけでなく、経済も活性化させているのが真庭市の取り組みだ。そして文化や芸術といった、地域の魅力醸成にも影響を及ぼしている。地域内を活性化させることで、結果として住みたいと思える地域となり、人の流れを創出することにも期待ができる。

多極分散か、多極集中か~法政大学名誉教授・岡﨑昌之氏~

最後に、法政大学名誉教授・岡﨑昌之氏によって提示された人口計画についての議論を紹介する。

「2年前の『骨太の方針2022』で書かれた内容について、『東京一極集中の是正』は今までも述べれられていた内容ですが、この後の文言に変化がありました。それが『多極集中』です。同年の『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』の中でも。『一極集中から多極集中』へ、デジタル田園都市国家の推進により転換を図ると述べられています。これまで国土計画について考える時は、『一極集中から、多極分散へ』という言葉で表していたところ、最近では二度もこの『多極集中』という言葉が使われていることから、確固たる信念であろうと考えます。また、これを受けて、民間では「多極集住」という、山間部や離島部といった辺鄙な地域に住まず、集まって住みなさいという、さらに踏み込んだ考え方も出てきています」

このように、「多極分散」から「多極集中・多極集住」への方針の変化について紹介したうえで、この変化に対して警鐘を鳴らした。

例えば、多極集住を推奨する理由として、災害危険区域から移転すれば、安全度も高まるという意見が挙げられている。これについて岡﨑氏は、自然の管理・保全という人の営みによって、災害が抑えられてきたため、人が撤退することで適切な管理が行われなくなり、逆に災害が生じやすくなる可能性を指摘。また、多極集住にしていくために、過疎地の多面的機能を人手をかけずに守る必要があるという意見に対しては、いくつかの地域の取り組み事例を挙げながら、これまで地域の歴史や文化、暮らしを支えてきた現場の視点が足りていないと批判した。

多極集中・集住についての疑問を投げかける岡﨑氏は、長年地域の取り組みの現場を回っている視点から、中央集権的な「ツリー型」ではなく、小規模多立で支え合う「リゾーム型」の自立したまちづくりを目指すべきだと提案した。リゾームとは、根茎を表す言葉で、中心がなく、互いにネットワークのように結びつく状態を指す。それぞれの地域が自立しながらも、ネットワークを築くことで、持続的な多極分散型社会が実現されるとのことだ。

多極集中・集住を目指すべきか、多極分散を目指すべきかは、議論の余地のあるテーマである。

多極集中とは、例えばコンパクトシティのような施策を指すと考える。国土交通省によると、「コンパクトシティ化により、居住を公共交通沿線や日常生活の拠点に緩やかに誘導し、人口集積を維持・増加させ居住と生活サービス施設との距離を短縮することにより、生活サービス施設の立地と経営を支え、市民の生活利便性を維持」するとある。人口密度が著しく低下している地域では、確かに買い物や医療福祉や教育、行政機能を維持するのは難しくなっていくこともまた事実であり、地域の機能を集約せざるを得ない側面も否めない。

人口減少下において地域が持続していくために、集中すべきか、分散すべきか、はたまたどのような在り方がより良いのか。今後検討していかなければいけないテーマだ。

今回のフォーラムでは、長崎県五島市の雇用促進政策や、岡山県真庭市の森林資源を活用した産業活性化など、主に「生業・産業」に焦点を当てた事例が取り上げられた。インフラや、社会保障サービス、教育など、ほかにも地域の持続性に関して考えるべきテーマは多くある。今後もさまざまな切り口で、事例や取り組みを紹介しながら、過疎地域の在り方について模索していきたい。

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