不動産を活用した「地域価値共創プラットフォーム」開始
2024年8月9日、国土交通省は空き家などの不動産を活用した地域価値共創に取り組む企業や団体の知見やノウハウの共有、ネットワーク作りの場として「地域価値共創プラットフォーム」を立ち上げることを発表した。
同省ではこれまで、新たな地域価値を共創する取り組みを「不動産業アワード」として表彰してきたが、「地域価値共創プラットフォーム」でさらにつながりを増やし、事業者の挑戦を後押ししていく。
2024年9月6日に行われた「地域価値共創シンポジウム」では、不動産業アワードの大賞受賞者による講演、また受賞者によるパネルディスカッションが行われた。
今回は、この「地域価値共創シンポジウム」のセミナーレポートをお届けする。
経済価値だけではなく社会的な価値まで考える不動産
シンポジウムは、不動産業アワードの選定委員長である明海大学不動産学部教授の中城康彦さんの基調講演からスタートした。
中城さんは社会と不動産において、経済価値だけではなく「社会的な価値」まで考えることが重要だという。「内なる価値=プライスレス」を社会で共有する価値に変えていくことが大切だ。
さらに、中城さんは日本の不動産における権利についても言及する。
「日本では、貸している人が強くて借りている人は弱いから保護すべきという観点で借地借家法があります。しかし、有効活用されずに空き家になっている建物の所有者が本当に強いのか。一方で、意欲的でアクティブな借家人がいて、そのパワーを上手に使えるような仕組みがあるとよいのではないでしょうか」
中城さんはイギリスの土地利用方法「リースホールド(※1)」を例に挙げ、日本も今の時代に適した形に調整していく必要があるのではないかと訴えた。
※1……イギリスで一般的な土地利用方法「リースホールド」とは、土地と建物の所有を分離する形態。土地は所有せず、地主から有期限(一般的に99年間)で借りて個人が住宅等を建てる仕組み。
地域活性ローカルファンドの取り組み/株式会社エンジョイワークス
次に、第1回不動産業アワード大賞を受賞した、株式会社エンジョイワークス取締役の松島孝夫さんによる講演があった。
鎌倉を拠点に活動するエンジョイワークスは、不動産業を軸に幅広い事業を展開している。中でも「不動産業にとって重要」なファイナンスについてのお話があった。松島さんは「地方に必要なものはお金ですが、お金以外に関係人口が非常に重要です」と語る。
現在、日本の空き家は846万戸、「タンス預金」といわれる家系金融資産と企業内部留保を合わせると約1,600兆円あるといわれている。これらの遊休資産を、共に助ける「共助」に活用できたらと、エンジョイワークスでは地域活性化エコシステムの「地域活性ローカルファンド」に取り組んでいる。
地域活性ローカルファンドの仕組みは次の通りだ。
①地域に関わる人を増やす
②地域に事業を増やす
③地域で循環するお金を増やす
「ファンドを活用し、地域で遊休不動産などを活用した住まいの提案をして、少しずつおもしろい人が集まり、ローカルなビジネスが増えていく。すると、そこにお金を出したいという投資家の方が現れることがわかってきました。地域に関わっているさまざまなステークホルダーの人と一緒に関わっていける仕組みとして、ファンドを活用していきたいと思っています」
ファンドを活用した事例として、葉山の蔵を改装して作った宿泊施設の紹介があった。600万円という小規模なファンドだったが、SNSやイベントを通じて多くの人に関わってもらい、アイデアを出し合いながらみんなで作り上げた。このファンドは4年で償還を迎え、予定通り4%の利回りが出せている。
そして、松島さんは「共感」がポイントだと語る。投資家の方々に、ただお金を提供してもらうのではなく、体験を提供し、事業に共感してもらう。共感を持って事業に参加してもらうことが地域活性ローカルファンド成功の鍵になる。
アワード大賞受賞時、地域活性ローカルファンドは13ファンドだったが、約2年で32ファンドまで増加した。現在はこの仕組みを横展開し、全国に広がっている。
古い建物が時間をかけて文化へ/NPO法人福岡ビルストック研究会
次に、第2回アワード大賞を受賞したNPO法人福岡ビルストック研究会の理事長 吉原勝己さんの講演があった。
福岡ビルストック研究会は、「自分の好きな暮らしは自分で創ろう 自分たちの好きなまちは自分たちで創ろう」をキーワードに、九州の地方都市を中心に老朽化したビル(ストック)の再生や調査、研究を行っている。まちの活性化のために、休眠不動産を資源とみなしてDIYで社会的価値を高めることが、時間をかけて経済的価値を上げていくことを証明してきた。
事例の一つとして、築66年のビル「冷泉荘」がある。老朽化してしまったビルを改装し、アート・文化系の人々に入居してもらったところ、今や年間2万人が訪れる文化施設として生まれ変わったのだ。
「古い建物に文化を感じる入居者たちの集団が一つのコミュニティとなり、皆さんが時間をかけて建物の価値を上げるという現象が起きました。入居した人々が共感を持って、ヴィンテージワインのように時間をかけて文化が熟成していくということが建物にもあると気づいたんです」
実際、全27室すべてをセルフリノベーションした結果、賃料も上がり、2006年には840万円だった収益が2015年には1,200万円になった。吉原さんは「経年劣化ではなく経年優価」だと語る。
さらに、この冷泉荘は日本ではじめて、民間RC集合住宅の国の登録有形文化財に登録される見込みに入ったという。
福岡ビルストック研究会の10年間の活動で、264棟の建物が再生され、52組が移住し、32組の組織が生まれている。
まちづくりや社会福祉に取り組む3団体によるパネルディスカッション
最後に、株式会社リクルートSUUMO編集長 池本洋一さんをモデレーターとしたパネルディスカッションが行われた。パネリストは、株式会社まちづクリエイティブ代表取締役 寺井元一さん、 一般社団法人熊本県賃貸住宅経営者協会 事務局長の大久保秀洋さん、ビーローカル・パートナーズの加藤寛之さんの3名だ。
まずは、それぞれの活動紹介から行われた。
まちづクリエイティブは、2010年から千葉県松戸市で「MAD City」というまちづくりプロジェクトに取り組んできた。松戸駅の半径500メートルを仮想のまちと見立てて「クリエイティブな自治区」をコンセプトとしている。取り組みの結果、建物の再生は52軒、入居契約数は417件という成果を上げている。
また、寺井さんは居住支援法人の指定を得た団体の活動もしており、困難を抱えた女性のシェルターとして民泊物件を活用する取り組みも行っている。
熊本県賃貸住宅経営者協会は、これまで熊本地震などの災害支援を行ってきた。不動産関係団体や居住支援団体と連携し、災害支援や住まいの確保に取り組んできた団体だ。
事務局長の大久保さんは「日々変化する震災の課題に対応するためには、『競争』ではなく『共創』が必要だということを実感しました」と語る。
大久保さんは震災支援だけではなく、コロナ失職者や高齢者のための住まい確保にも取り組んできた。これらの問題に対応していくためにも、今後ますます垣根を越えた共創が必要になると強調した。
ビーローカル・パートナーズは、天王寺の開発をきっかけに衰退していた阿倍野地区のまちづくりに取り組んできた。天王寺では、あべのハルカスなどの商業施設が次々とオープンし、リニューアルも合わせて約1,000店舗が誕生した。天王寺まで自転車で約10分という阿倍野地区は、開発を機に空き家・空き店舗が増加。地域の人々は天王寺へ出かけ、阿倍野は競争力も資産価値もどんどん減少していったという。
そこで、ビーローカル・パートナーズは、地域のお店を集め「ご近所のよき商いと住民が出会う日」として、年1回の青空市「バイローカル」をはじめ、地域でおすすめのお店を載せたマップも作って配布した。さらに、自分たちでも空き店舗を改装してレストランやシェアスペースが入った複合施設を運営している。
すると、地域にどんどん新しいお店が増えてきた。「よき商い」として選んだお店の数は、2013年には約30店舗だったのが、2024年には126店舗まで増えた。
加藤さん「不動産を一つずつやっても焼け石に水です。不動産単体ではなく、エリアに注目し、投資することが大切で、都市に暮らしている人が自らの手で起こせるムーブメントがバイローカルだと思っています」
まちづくりを成功させるポイント
後半のセッションでは、モデレーターの池本さんから「どうやって連携する人を見極めるのか?」という質問があった。
ビーローカル・パートナーズの加藤さんは「このまちに誰が必要なのかを考えて仲間を選ぶ」ことが大事だという。
まちづクリエイティブの寺井さんは「みんな、まちづくりなんて興味ないですよ」とズバリ。
寺井さん「全員がまちづくりに興味がなくてもいいんです。各自がやりたいことをやるだけでいい。ただ、まちの活性化や地域価値の共創などを仕掛ける人は必要で、それは少数でいいんです。いろんなプレーヤーがいる中で、ビジョンを語り一緒にやっていこうと座組を作っていくことが大切ですね」
最後に、モデレーターの池本さんは次のように締めくくった。
池本さん「やはり個人のやりたいことをまずは大事にしていく。まちづくりから入るのではなく、個人が活動し、全体は後から整えればいいというのが大きな学びでした」
国土交通省は「地域価値共創プラットフォーム」への参加を呼びかけている。プラットフォームではメールマガジンによる情報発信のほか、地域価値共創に取り組む関係者同士のリアルな交流の場としてのセミナーなどを予定している。プラットフォームへは、地域価値共創の取り組みに関心のある方は誰でも参加することができる。参加方法などの詳細はホームページをご確認いただきたい。
「地域価値共創プラットフォーム」
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