シニアの「安心・ワクワク」を支える「まごころアパート」プロジェクト
シニア層が安心してワクワク過ごせる住まいや支援を提供する「まごころアパート」プロジェクトが、国土交通省の「人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」に採択された。
高齢者の見守りサービス「まごころサポート」を展開するMIKAWAYA21株式会社、空き家再生やまちづくりなどを行う株式会社エンジョイワークス、シニア世代が食事を提供する「ジーバーFOOD」を展開する株式会社ジーバーの3社が連携して進めている。
シニアの困りごとを解決する「まごころサポート」を展開してきたMIKAWAYA21が、ソフト面のサポートだけではなく、住居を用意するハード面まで幅を広げていく形となる。
「まごころアパート」プロジェクトの背景にあるのは、少子高齢化社会における「高齢者の住居問題」だ。高齢者は年齢を理由に賃貸住宅の入居を断られることが少なくない。こうした問題に対応するため、政府は2024年5月末に「住宅セーフティネット法」の改正案を可決、成立した。まごころアパートは、この法改正も活用しながら、高齢者の問題を解決すべく進めていくプロジェクトだ。
2024年7月11日、まごころアパートプロジェクトのキックオフイベントが東京・銀座で執り行われた。今回は、このイベントのレポートをお届けする。
高齢者も事業者も安心できるよう「住宅セーフティネット制度」の法改正
国土交通省は2024年5月に「住宅セーフティネット法」を改正した。
日本では少子高齢化が進んでいるが、なかでも単身の高齢者世帯の増加が問題になっており、2030年までに約800万世帯になる見込みだ。このような単身世帯は、孤独死や残置物(入居人が残した持ち物)の処理などへの不安から、入居を断る大家も多い。一方、民間の賃貸住宅の空きストックは全国に443万戸近くある。住まいを求める人がいる一方で、部屋が余っている状態だ。「貸し渋り」と揶揄されることもあるが、実際は大家への負担が大きくなっていることも問題だった。
入居人が孤独死したら事故物件になり特殊清掃が必要になる場合もある、部屋の価値も下がるかもしれない、死亡後の家財の処理はどうするかなど、大家さんも対処できないなどの懸念もある。
そこで「住宅セーフティネット制度」で、相続に関わる仕組みの簡素化や残置物処理を事前に契約する仕組みなどをつくり、対応していく。
さらに居住サポートを行う「居住支援法人」がシニア層の支援をする「居住サポート住宅」も拡大させていく。大家と連携しながら見守り訪問を行ったり、必要になったら福祉サービスにつないだりといったサポートをパッケージ化。これらの支援を拡大させることで大家の負担を軽くし、シニア層が安心して暮らせる環境を目指している。
シニアの支援も雇用創出もする「まごころアパート」の内容
では「まごころアパート」とは具体的にどんなものか。MIKAWAYA21の社外取締役・平川さんによる解説があった。
まごころアパートは、シニアの「安心とワクワク」を感じる住まい環境を整備したものだ。サポートが必要なシニア層が住むだけではなく、まごころサポート・コンシェルジュの居住スペースも確保する。
平川さん「まごころサポートは、シニアを訪問するソフト面の支援でした。でも、ハードなくして地域で何かをやるのは難しい。まごころアパートは、建物の『拠点』とまごころサポートを組み合わせることができる場なんです」
まごころアパートにはコミュニティキッチンも併設するが、そこには「人と人がいちばん早く仲良くなるのは食」という想いがあるからだ。そこでジーバーFOODと連携して、コミュニティキッチンでシニアの仕事も創出する。ジーバーFOODは、商店街の空き店舗を活用できないか?という声を受け、仙台で始まった事業だ。どのような事業を展開しようか調査していたときに感じたのは「思っていたより元気なシニアが多い」ことだったと、代表の永野さんは言う。
永野さん「もっと自分たちの元気なパワーを生かしたい、という意見が多かったんです。シニア層をサポートするのも大事だけれど、シニアの元気な力を地域の力に変えていくっていう仕組みが、これから高齢化する日本に必要だと感じました」
そこで地域のおじいちゃん、おばあちゃんに食事を作って提供してもらうジーバーFOODが誕生。働いているシニア層は、顔つきが見るからに明るくなっていくという。まごころアパートのコミュニティキッチンでも、このジーバーFOODを活用する予定だ。
まごころサポートでは最先端のIoT技術も活用している。家庭内での活動や睡眠の時間といったデータが一目見てわかる「Wi-Fiセンシング」技術を使って、効率的なサポートを実現している。
例えば、認知症になると眠る時間がズレやすくなるが、データを見て「うまく寝られていないのかな?」と感じたら、すぐに訪問して様子を確認できるようになる。今までの感覚的な訪問から、適切なタイミングでの支援が可能となるのだ。
周辺地域の拠点となる「まごころアパート」
現在、まごころアパートの建設は横浜市神奈川区で進んでいる。まごころアパートの建設を手がける株式会社オンデザインパートナーズ代表取締役の西田さんから説明があった。
神奈川で建設が進んでいるまごころアパートは、もともとあった建物をリノベーションして利用する1棟と、中庭を隔てて新築する2棟で成り立つ。この場所を選んだのは、日本によくある住宅地なので、ほかの地域でも汎用性がありそうだからという理由だ。
まごころアパートの役割は敷地内で完結するものではなく、地域の「拠点(コア)」になるようなものを目指している。
西田さん「まごころアパートだけではなく、周辺にもシニア層がたくさん住んでいます。まごころアパートが拠点となり、周辺住民が歩いて来られる、ご飯を食べに来る、世間話をしに来る、働きに来るなど、建物内だけではなく周辺地域も含めて関係性を構築することを目指しています」
地域の拠点となるために重要な役割を果たすのが、2棟の間にある空間「ミチニワ」だと西田さんは言う。道のように通り抜けできる庭に、農園をつくり、ベンチを置き、住民も訪れた人も交ざって交流できるようにする。風通しよく、どんな人でも心地よく滞在できる場所を目指す。まごころアパートは、地域の中でバラバラに見守りをしていた人たちをつなぐ役割、拠点となるのだ。
まごころアパートは10月に新築棟が完成、2025年3月にリノベーション棟が完成する予定だ。ここをまごころアパートの第1号として運用し、ほかの地域や物件にも生かしていくことを目指している。
また、エンジョイワークスは全国各地の不動産事業者や建設事業者などと一般投資家が「住宅分譲事業」に出資をして、リスクを分散し、キャピタルゲインをシェアする、不動産投資・不動産事業の新しいトレンドをつくっている。
今回、MIKAWAYA21、ジーバーとともに、「ほどよいみまもりあい」と「安心感」のある暮らしを地域で創り上げていく「まごころ地域住宅FUNDプロジェクト(仮称)」の立ち上げも計画している。この日のイベントはそのキックオフとして、不動産やまちづくりに関心のある事業者や人々に、当事業への参画機運を醸成するものでもあったようだ。
まごころアパートにかける想い
最後に、MIKAWAYA21の代表取締役・青木さんから「まごころアパートはこんな人に使ってほしい」という話があった。
青木さん「今まで70万件くらいまごころサポートをしてきたなかで、庭付きの大きな持ち家だけど、1部屋しか使っていなくて持て余しているようなシニア層の方たちをたくさん見てきました。経済的には困っていないけれど、今の生活に合わせて家をダウンサイジングしたいという方たちにこのサービスを提供したいと思っています」
そのためにも、まごころアパートではきちんと利益を出すことが重要だと語る。不動産事業者にとっても、まごころアパートにリノベーションすることで、家賃が下げ止められた、少しでも上がったなどの効果を感じてほしいという。
青木さん「実は日本の金融資産のほとんどはシニア層に固まっています。そういったシニア層がちゃんと価値のある住環境整備にお金を使って、日本経済を回してほしい思いもあります。だからこそ、これは大家さんにとってもちゃんとビジネスになると思ってもらいたいんです」
まごころアパートは単なる高齢者支援に留まらず、大家にとっても、日本社会全体にとっても有益な取り組みだろう。シニア層が周辺地域の人と関わりながら、元気に生き生きと暮らせることは地域の活力にもなる。少子高齢化問題を抱える日本にとって、まごころアパートは一筋の光になるかもしれない。
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