品川区の西の玄関口であり荏原地区の中枢を担う「武蔵小山駅」周辺エリア
武蔵小山駅は品川区の荏原(えばら)地区にある、東急電鉄 目黒線の駅だ。同区の「西の玄関口」であり、同駅周辺は荏原地区の中枢的なエリアとなっている。そのため品川区では2001年に「品川区市街地整備基本方針」を策定し、それに基づいた武蔵小山駅周辺エリアの街づくりのビジョンを掲げた。
同ビジョンでは「軸を形成して地域の拠点となる核と核をつなぐ 」をコンセプトとし、「歩いてふれあう活力に満ちた街〜品川区の西の玄関口にふさわしいまちづくり」を将来像としている。そして武蔵小山の街の「軸」として、以下の2つを掲げる。
賑わい軸
武蔵小山駅前のパルム商店街を中心とした賑わい動線。賑わいの中心として、店舗の連なる多様な回遊動線を拡充する。
環境軸
武蔵小山駅前から「林試の森」への緑あふれる動線を形成する。
さらに以下の3つの「核」を掲げている。
武蔵小山駅前
武蔵小山駅前の商店街の活性化を先導し、賑わい軸の入口を象徴する街づくりを展開する。
旧平塚小学校跡地
閉校した平塚小学校の跡地を活用し、文化芸術・スポーツ活動を通じたコミュニティを育む街づくりを行う。
林試の森公園
荏原地区北部にある「林試(りんし)の森公園」を中心とした、安全・快適に住み続けられる街づくりをする。
これら3つの核を2つの軸で結ぶことで、地域全体の「密集市街地の整備」に取り組む。パルム商店街を中心とした賑わいづくりに力を入れ、店舗の連なる多様な回遊動線の拡充を目指す。
歩いて楽しい回遊動線を拡充する「パルム商店街」と「補助26号線」沿い
品川区が掲げる「核」のひとつが、武蔵小山駅前周辺エリアだ。駅前周辺の活性化を先導し、賑わいを生むのが狙いである。武蔵小山駅前には「武蔵小山商店街パルム」がある。さらに小規模な商店街「武蔵小山西口商店街」や武蔵小山の駅ビルに入る商業施設「etomo(エトモ)」があり、商業が集積している。また駅の近くを通る幹線道路「補助26号線」の通り沿いにも商店が並んでいる。
品川区のビジョンでは武蔵小山駅前周辺エリアの課題として、以下のものを挙げた。
● 商店の年間販売金額は減少傾向にあり、新たな顧客開拓が必要
● 商店街の回遊動線の充実が必要
● 老朽化した店舗が密集する地域があり危険性が懸念される
● 来訪者用の駐車場・駐輪場が不足
武蔵小山駅前は賑わい軸の活性化を先導するエリアである。そのため老朽店舗密集地域の安全性向上や、商店の機能強化、都市型住宅などの新たな都市機能の導入を図るなどの対策が考えられている。品川区の掲げる街づくりビジョンと、駅周辺での再開発計画との連携が重要になってくる。
また2008年に東急電鉄 目黒線の地下化工事が完成すると、それを契機に武蔵小山駅周辺で再開発の気運が高まった。2019年に駅前へ複合ビル「パークシティ武蔵小山」、2022年に「シティタワー武蔵小山」が完成した。さらに小山三丁目(第1・第2地区)で再開発が計画され、武蔵小山駅東地区などでは「準備組合」が設立されて活動している。
「小山三丁目第1地区」では武蔵小山駅南東・武蔵小山商店街パルム入口に面する約1.4haの区域に、タワーマンションを建設する計画がある。同マンションは高さ約145mで、約850戸の大規模な高層住宅となる予定だ。下層は商業施設になる予定で、2階部分にデッキを設け、商店街との回遊性向上を目指して周辺の活性化に繋げる。着工は2025年度、竣工は2030年度を予定している。
「小山三丁目第2地区」は第1地区の南東隣で、商店街を中心にしたエリアだ。こちらでも高層ビルの建設が計画されている。ビルは商店街を挟む形のツインタワーマンションとなり、地上41階・地下2階、高さ約145m。2棟を合わせた総戸数は約990戸・延べ床面積は約132,300m2となる予定だ。第1地区同様に下層部は商業施設となり、デッキを設けて商店街との回遊性向上を目指す。着工は2025年度、竣工は2030年度の予定だ。
平塚小学校跡地を活用した文化・スポーツ交流施設「スクエア荏原」
品川区が街づくりビジョンに掲げた2つめの核が、旧平塚小学校跡地だ。同小学校はもともと品川区立の小学校であったが、2010年に品川区立平塚中学校と統廃合されて新たに小中一貫校の品川区立荏原平塚学園となった。閉校した平塚小学校の跡地を活用して、文化・芸術・スポーツ活動を通じたコミュニティを育むことを目的に2013年にオープンしたのが「スクエア荏原」である。
スクエア荏原は多目的ホール「ひらつかホール」を有している。同ホールはワンスロープ型で、音楽・演劇・芸能・講演など多彩な利用が可能だ。ほかにもスクエア荏原にはイベントホールやアリーナ・スタジオ・展示室・大中小の会議室・和室などの施設があり、多目的交流施設となっている。
武蔵小山駅前とスクエア荏原を結ぶ「賑わい軸」
品川区の街づくりビジョンでは、武蔵小山駅前周辺とスクエア荏原(旧平塚小学校)の2つの核を結ぶあいだを「賑わい軸」と設定している。両者のあいだは約800m。2つの核を結ぶように幹線道路の「補助26号線」が走る。そしてスクエア荏原は26号線沿いある。
さらに26号線と並行するように「武蔵小山商店街パルム」が立ち並ぶ。同商店街は全長約800mで、約250店舗が軒を連ねる。かつて「東洋一」と称されたアーケード街であり、現在も東京都内屈指の規模を誇るアーケード街だ。いまも下町情緒を残す商店街として親しまれている。
品川区ではこれら26号線・武蔵小山商店街パルム周辺を「賑わい軸ゾーン」と称し、「まちづくり推進地域」とした。さらにこの区域のうち、武蔵小山駅寄りの部分を「賑わい先導地区」、スクエア荏原よりの部分を「賑わい創生地区」として分けている。
賑わい先導地区は賑わい軸の起点として拠点形成を図り、歩行者ネットワーク・駐車場ネットワークの整備など、利便性の向上を目指す。たとえば商店街全体で利用できる駐車場・駐輪場の整備、建物間や2階部分の歩行者通路を繋ぐデッキの整備による回遊性の向上などである。
一方、賑わい創生地区は、賑わい先導地区に続く地区として、先導地区と連続したネットワークや街並み形成を図る。同時に公共施設の再編などにより、住環境の維持・改善も目指している。
西小山商店街や戸越銀座商店街の連続性向上も
武蔵小山商店街パルムは、武蔵小山駅前を起点に南西方面と南東方面の2方面に商店街の通りが延びている。武蔵小山商店街パルムの南西側の入口から約500m西には「西小山商店街」がある。また武蔵小山商店街パルムの南東側の入口から約250m東へ進むと「戸越銀座商店街」の西側の入口だ。
東西に2つの商店街が近接しながら、武蔵小山商店街パルムとの連続性は感じられないのが現状。小山商店街パルムと西小山商店街・戸越銀座商店街との連続性の向上は、賑わいの創出や回遊性の向上のためにも必要だろう。
都心に広がる自然豊かな憩いの場「林試の森公園」
品川区の街づくりビジョンで、3つめの核としているのが「林試の森公園」である。林試の森公園は武蔵小山駅の北およそ450mの場所、荏原地区の北部にある自然公園だ。1900年に当時の農商務省林野整理局の「目黒試験苗圃」として開発され、「林業試験場」への改称や「目黒公園」を経て、1989年に「都立林試の森公園」となった、歴史ある公園である。
園内は広大で、東西700m・南北250mと細長い形をしている。園内にはクス・アカガシ・ケヤキ・プラタナス・ラクウショウ・アベマキ・ホウチャクソウ・カントウタンポポといった多彩な植物が生えており、都心としては貴重な自然豊かな公園である。そのため子どもの遊び場やジョギング・ウォーキング、休憩場所などとして利用され、地域の憩いの場として親しまれている。
品川区のビジョンでは、林試の森公園と周辺エリアを「林試の森ゾーン」として設定。公園周辺は一戸建て住宅が多く、緑豊かで静かな住環境の保全と創出を目指している。たとえば林試の森公園と住宅地の一体感のある街づくりや、災害時の避難路の安全性の向上などである。また街並み整備の際は、景観や緑空間と調和する素材や色を選択するといった指針も掲げる。
武蔵小山駅前と林試の森公園を結ぶ「環境軸」
品川区の街づくりビジョンでは、武蔵小山駅前周辺と林試の森公園の2つの核を結ぶあいだは「環境軸」としている。武蔵小山駅北側から林試の森公園のあいだのエリアは約450m。両者のあいだは閑静な住宅街である。
ビジョンでは武蔵小山駅から林試の森公園へ至るアクセスの向上を目指しており、そのために歩行者空間の形成を行う。同時に災害避難経路安全性向上や、沿道の修景を図る。公園へのアクセス導線は「歩いて楽しい散策路」をコンセプトに掲げ、両地点間の誘導と同時に休憩できる滞留空間も確保。さらに沿道に生け垣や花壇を設け、緑空間の演出も手がける計画だ。
品川区ではこれまで紹介した3つの核とそれらを結ぶ2つの軸のほかに、この周辺エリアは「密集市街地ゾーン」としている。住宅や店舗などが密集する地区で、共同化・不燃化を促進して災害時の避難経路の安全性向上を図り、防災性能の高い街づくりを目指す。
品川区の西の玄関口として「歩いてふれあう活力に満ちた街」を目指す荏原地区・武蔵小山駅前。地域資源を生かした街づくりに期待したい。
※参考
武蔵小山駅周辺地域まちづくりビジョン|品川区 公式サイト
https://www.city.shinagawa.tokyo.jp/PC/kankyo/kankyo-toshiseibi/kankyo-toshiseibi-project/hpg000016586.html
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