当時の外観そのまま。無骨な20棟の倉庫群が立ち並ぶ

カフェや古着・雑貨のセレクトショップ、シェアオフィス兼ショップなど、さまざまなテナントが14店舗ほど並ぶ倉庫街「万代中央ふ頭」(※)。徳島市内を流れる新町川沿いにあり、休日になると、車で訪れたお客がテナントを回遊して過ごしている姿が見られる。夕暮れから夜にかけては、対岸から眺めるライトアップされた倉庫群の佇まいも印象的だ。

徳島県庁から歩いて5分程のこの場所は、かつて徳島を代表する海上交通の拠点として栄えていた。現在残る物流倉庫は20棟。江戸時代から明治にかけては藍を輸出する文化もあり、1960〜89年にかけては物流事業者が倉庫を構え、この港から輸出入を行っていたという。時代の流れを経て次第に物流拠点が沖合に移っていき、いつしか水運事業自体が衰退。大型倉庫だけが当時のまま残された。

そんな歴史を持つ倉庫街は、当時の雰囲気を残したまま。そのロケーションを生かした水辺の複合エリアとして、季節ごとに花火やイベントなどさまざまな催しが行われるようになり、にぎわいを見せている。倉庫街がどうして現在のようなまちに変化したのか。その歴史は18年前に遡る。

※ 店舗数は2024年2月現在

川沿いに倉庫群が並ぶ「万代中央ふ頭」川沿いに倉庫群が並ぶ「万代中央ふ頭」
川沿いに倉庫群が並ぶ「万代中央ふ頭」当時、このエリアが海上交通の拠点だったことが伺える倉庫群

「ここを初めて訪れたのは2000年頃。僕たちは会社のオフィスにできる物件を探しているところでした。資材のゴミやパレットが散乱していたり、倉庫の屋根が崩れかけているところもあったりと、まさに荒れた倉庫街そのものでした。しかし、それを引き算しても、川沿いのロケーションや古びた倉庫の存在感に惹かれました」とNPO法人アクア・チッタ 理事 事務局長の岡部斗夢氏は当時を振り返る。

アクア・チッタは、万代中央ふ頭に大きな変化を生み出した、「万代中央ふ頭にぎわいづくり構想」に、策定から現在まで関わっている事業者だ。

川沿いに倉庫群が並ぶ「万代中央ふ頭」NPO法人アクア・チッタ 理事 事務局長の岡部斗夢氏
川沿いに倉庫群が並ぶ「万代中央ふ頭」対岸からの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)

手つかずだからこそやりがいがある。ゴミ掃除から大規模イベント企画まで

東西500mに広がる倉庫群。裏通り感が否めないその倉庫群に可能性を感じた、現在のアクア・チッタ理事長でもある黒田恭子氏が、仲間の中小企業のオーナーたちに話を持ちかけた。

「市内の拠点を探しているカーディーラーさんやカフェのオーナーさん、広い場所を求めている花屋さんなど、僕たちだけでなく、他にもこの場所に興味を持っている人がいたんです。僕たちとしても、独自で進めるより意志を同じくする仲間とともに、このまちの可能性を広げていきたいという思いがありました」と岡部氏。

2005年に徳島市内の経営者11人でアクア・チッタを設立。まず、アクア・チッタメンバーで始めたのは、ゴミだらけだった新町川沿いの月1回の定期清掃活動だった。

対岸からの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)対岸からの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)
対岸からの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)Run'nin sports前の風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)

「当時、一般の人からは認知度が低い場所でした。歴史を紐解けば、人が大勢出入りしていた流通の拠点。改めて、多くの人にこの地域の魅力に触れてほしいという一心でした」と、岡部氏は当時を振り返る。
この時期に始めた企画に、「アクア・チッタフェスタ」がある。これは打ち上げ花火と映像がリンクする「音楽花火」が特徴で、飲食屋台やワークショップ、ハンドメイドショップなどが沿岸に立ち並ぶものだった。初回の2005年は参加者1,000人からのスタートだったが、15年目には2日間で1万7,000人を動員するイベントに育った。2019年をもって一旦終了したが、年1回開催されるイベントとして人気を博し、この地域の魅力を多くの人が体験できる機会となった。

対岸からの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)粗野な雰囲気を残した倉庫の佇まい
対岸からの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)第一倉庫の中のシェアテナント

実証実験から用途規制緩和へ。倉庫リノベーションの始まり

「1999年に貨物の取り扱いがなくなってから倉庫だけが残されたエリアで、県の条例で倉庫以外の用途には使えないという状況でした。しかし、倉庫以外の使い方をすることでにぎわいの拠点にできないかとの声があった。行政としても何とかしたいと頭を悩ませていました」と徳島県県土整備部 運輸政策課 港にぎわい振興室 室長 村上宗用氏は話す。

急に用途規制を変更することは難しかったが、アクア・チッタらの積極的な活動が功を奏する。2010年から、実証実験という形で、公募で事業者を集めて倉庫以外の目的での倉庫利用が始まった。

同時に行政とNPO法人、地元の人、倉庫群のオーナーを交えて倉庫群の利活用を協議する「万代中央ふ頭にぎわいづくり協議会」が立ちあがる。そして2011年から「万代中央ふ頭にぎわいづくり構想」の策定に着手。アイデアを出し合いながら議論が進められた。

左から、徳島県県土整備部 運輸政策課 港にぎわい振興室 室長 村上宗用氏、室長補佐 益田裕行氏、主任主事 畠中恵氏左から、徳島県県土整備部 運輸政策課 港にぎわい振興室 室長 村上宗用氏、室長補佐 益田裕行氏、主任主事 畠中恵氏
左から、徳島県県土整備部 運輸政策課 港にぎわい振興室 室長 村上宗用氏、室長補佐 益田裕行氏、主任主事 畠中恵氏実証実験時の対象倉庫(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)

「『万代中央ふ頭にぎわいづくり構想』は、徳島市内の中心部からも近く、四国で最大規模の倉庫群というポテンシャルを生かし、にぎわい空間の創出を図ることで地域活性化や観光振興をめざすものでした。主体は行政ではなくNPO法人や団体などで、民間と協働・連携を図るプロジェクトとして10年計画でスタートを切りました」と、村上氏は話す。

こうして、2年間の実証実験を経て、2013年ついに用途規制が緩和されることとなる。

左から、徳島県県土整備部 運輸政策課 港にぎわい振興室 室長 村上宗用氏、室長補佐 益田裕行氏、主任主事 畠中恵氏2023年12月現在のテナント

行政、民間、NPO法人で協議して作りあげた「景観ルール」

「万代中央ふ頭にぎわいづくり協議会」では、現在につながる景観を守るためのルールも作られた。キャッチコピーは、「倉庫からSOCOへ -Space Of COmmunity-」。コンセプトは、倉庫や岸壁などを活用した機能の転換、水際空間を生かしたコミュニケーションの場としての空間利用、県外や海外からの観光客の誘致の3つだ。

倉庫に入所を希望する事業者も増え続けている。携わる企業も今では35社ほどに。「審査基準を設けたことで、新規参入の方も温度感のずれが少ないです。このエリアのまちづくりに関して情報を得てから入ってきてくれるので、同じ温度感でエリア作りが進められています」と岡部氏。

万代中央ふ頭、中通りの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)万代中央ふ頭、中通りの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)
万代中央ふ頭、中通りの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)万代中央ふ頭、倉庫扉前の風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)

岡部氏が長年携わってきた音楽業界でのノウハウも生かされ、一般公募のボーカルによる新バンド「POLU」が結成され、2016年には万代中ふ頭エリアのイメージソングも誕生。近年では、倉庫街独特の雰囲気を感じられるフォトスポットを紹介する「バンダイフォトスポット」というサイトも立ち上げられ、エリアを訪れるお客が何度でも足を運びたくなるようなきっかけも提供している。

岡部氏が数年前から取り組んでいるのが、参加者も運営者も皆が楽しめるまちづくりだ。エリア内で多発的に生まれているさまざまな企画について、こう語る。

「公益性を重視しすぎないこと。お客さまや運営事業者はもちろんのこと、僕たち自身も最大限に楽しめるかどうかを大切にしています。ボランティアも含めて、それぞれの立場で主体性をもてるかということが、人が集まる地域の環境づくりにおいて必要なことだと思っています」

万代中央ふ頭、中通りの風景(写真提供:NPO法人アクア・チッタ)「万代中央ふ頭にぎわいづくり協議会」で作られた万代中央ふ頭のイメージ図

これからの10年を見越して。公共空間の利活用と水上交通の強化を

順風満帆に見える万代中央ふ頭だが、課題もまだ残っている。そのひとつが、駐車場化している岸壁沿いの500mの道路を、オープンスペース(緑地)に変えることだ。

「水辺の景観を生かせるオープンスペースがあれば、屋台やキッチンカーなど新しい使い方が可能になります。エリア内の公園などとつながりを持たせて、より回遊したくなる流れを作ってもいい。まちの上手な使い方は、今後も検討していきたい部分ですね」と岡部氏。

現在は、岸壁に沿って駐車場になっている道路。緑地にできれば、別の空間活用が期待できそうだ現在は、岸壁に沿って駐車場になっている道路。緑地にできれば、別の空間活用が期待できそうだ

徳島県では、水上アクセスの強化も視野に入れている。今後に関して村上氏は、「旅行客にとっては、徳島市内の中心地からここまで足を伸ばす交通網が足りていない現状なので、『ひょうたん島クルーズ』と呼ばれる、徳島市内を流れる新町川と助任川を航行する周遊船の便を増やせたらいいですね。万代中央ふ頭エリアをブランド化して、新しい観光の拠点に育てていきたい」と締めくくった。

一時は廃れたまちが、一つのきっかけで息を吹き返す過程をのぞき見た。時代の変化に沿って形を変えてきた倉庫群は、これからどのような風景を見せてくれるのだろう。

現在は、岸壁に沿って駐車場になっている道路。緑地にできれば、別の空間活用が期待できそうだ徳島県庁から見える、ひょうたん島(新町川と助任川に囲まれた中州)

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