民藝館通りにあるリノベーションビルが、地域創生の拠点に
鳥取駅から徒歩5分圏内に、民藝館通りと呼ばれる通りがある。鳥取の民藝の父と呼ばれる吉田璋也が創設し、鳥取の民藝運動の拠点であった鳥取民藝美術館や、民藝に縁のある工芸店・割烹店が並んでいる。しかし年々店舗の数も減ってきており、鳥取市の中心市街地でありながらも、人口減少と空洞化の波が押し寄せている。
そんな民藝館通りに、マーチングビル(Marching bldg.)はある。元陶器店で築60年を超える5階建ての店舗併用住宅が、ワークプレイス(1〜2階)とシェアハウス(2〜4階)空間にリノベーションされ、2021年に完成した。この場所では、まちなかの遊休不動産のリノベーションやワーケーション、会社員の副業などの新しいワークスタイルの提案、オンラインを活用した関係人口創出など、地域課題の解決に向けたさまざまなプロジェクトが生まれている。
「地域の課題を地元の人や企業だけでなく、県外の人や企業などを交えながら解決しています」と、マーチングビルの運営者である、株式会社まるにわの代表取締役・齋藤浩文氏は話す。
リノベーションスクールの元メンバーで発足。イベント企画やクラウドファンディングからのスタート
まるにわの特徴は、まずそのメンバー構成だ。銀行員や建築家、デザイナー、NPO法人代表、議員と、それぞれ別に本業を持つ5名で構成されている。代表取締役の齋藤氏も、鳥取銀行に務め、中小企業のコンサルティング業務を行っている。価値観を同じくするメンバーが集い、それぞれの得意分野や技術を生かして事業を進めるなかで、さまざまなストーリーを経て今に至るという。
「大学では都市計画を学んでいました。これからの時代、まちづくりには民間資金の活用が不可欠で、まちづくり事業や金融支援制度を仕事にしたいと考えていました。その思いから鳥取銀行に新卒入社。営業部に配属され、そのまま6年間銀行員として働く中で、個人としてもまちづくりに関わりたいという想いを忘れていました。そんな中、たまたま参加した鳥取市のシンポジウムで、リノベーションスクールの開催を知りました。そこでまちづくりをやりたかった自分を思い出したんです」と齋藤さん。
2014年、2015年とリノベーションスクールに参加し、2回目のスクールで今のまるにわメンバーに出会った。意気投合したメンバーと「鳥取大丸(現:丸由百貨店)の屋上プロジェクト」をスタートした。掃除ワークショップやBBQイベント、DIYワークショップなどを通してにぎわいを創出し、2016年にはクラウドファンディングも成功させた。
こうして屋上に誕生したまるにわガーデンでは、地元の人や小売店を巻き込んだマルシェやプロジェクトベースのイベントが立ち上がった。元からのメンバーに2名が加わり、これを期に2017年に一般社団法人まるにわが誕生。立ち上げに関わった山陰三ッ星マーケットは、現在も引き継がれて定期イベントとして根付いている。「屋上での活動が、まるにわが発足する大きなきっかけになりましたね」
オンラインとオフラインを両立させて、コミュニティを育む
まるにわの活動はいつしか屋上を飛び出し、まちへと広がりを見せていった。2020年に株式会社化し、まるにわは鳥取駅前の中心市街地をメインフィールドにまちづくりを行う団体となった。そんなあるとき、古いビルの処理について不動産オーナーから相談を受けた。鳥取市では「鳥取市リノベーションまちづくり構想」が提唱されており、「鳥取市まちづくり融資」などの制度が創設されていた。まるにわは、これらの制度による資金調達を達成し、民藝通りにあるマーチングビルが完成することとなる。
マーチングビルのオフィス空間では、地元企業と県外企業、個人事業主と会社員、社会人と学生など多様な交流や協業が促されている。特に力を入れているのが、オフラインとオンラインが複合したコミュニティの形成だ。
例えば、2020年4月から始まった「オンライン関係人口未来ラボ」は、ジャンルを横断してさまざまな分野の実践者をゲストに迎えるオンラインコミュニティだ。毎週土曜7時から9時に開催され、現在約70名が所属するコアなコミュニティで、時々オフラインで集まる機会もある。
「テーマは、地域課題×関係人口×地域人材。マーチングビルがハブとなって、さまざまな情報が行き交いやすいようにしています。僕たちの役割はきっかけをつなぐこと。コミュニティを維持することは大変でありながら価値が見えにくいけれど、土台として重要だと思っています」
点から面へ。エリアリノベーションのための遊休不動産のDX化
2021年からは「まちづくりワーケーションプログラム」を毎年実施している。これは中心市街地の空き家を題材にその利活用を考えようとする企画で、オンラインとオフラインで行っている。その目的は、関係人口の考えを取り込むことだ。自分たちの築いたコミュニティに加えて、複業者を抱える企業・ワークデザインラボとも協力体制を築いて、参加者を募る。都市部・地元でランダムなチームを組み、3ヶ月間みっちり事業計画を練りながら最終発表を行う。まるにわメンバーはこのプログラムに併走し、必要に応じて地元の企業やプレイヤー、専門家や金融機関をつないでいく。
「このプログラムを通して生まれているのが、県外の視点から生まれた事業が、そのまま地元の人員により引き継がれていくケースです。地域の問題は、どこまでいっても地域が抱える問題。プロジェクトを立ち上げるだけではなく、継続して運営できるシステムや資金調達、関係性をしっかりと構築していきたいと思っています」
一筋縄ではいかないまちづくりを丁寧に行っている、まるにわ。都市部の個人や企業、地元法人のそれぞれのニーズを結び合わせていくしなやかさの裏には、個々が持つネットワークと下支えとなるコミュニティがある。
今後の目標は、点と点をつなげるエリアリノベーションだ。現在まるにわでは、「空き家DX事業」としてこれらの遊休不動産のデジタルデータベース化を目指している。いわゆるマッチングシステムで、そのほとんどが、不動産事業者があまり扱わない面積の小さい古物件だ。これらを手数料を抑えて提供できれば、空き家の活用がより進みやすいのではと齋藤さんは話す。
「やりたい!という気概のあるプレイヤーや団体がどんどん増えてほしい。そしてその熱量を注ぎ込める不動産情報の提供が重要です。またこれから、回遊したくなるまちになるためには、点(小売店など)を増やしながらも面(エリア)的な視点がより必要になります。間をつなぐ公園や道路の再設計についても、行政などと連携をしながら提案していきたいですね」
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