かわてらすとは?
東京都では、水辺の更なる魅力向上と地域の活性化を図ることを目的とし、かわてらすという制度を実施している。
かわてらすとは、主に墨田川で設置が認められている川床の名称である。川床とは、納涼のため河原に張り出して設けた桟敷のことを指す。日本で有名な川床は、京都の鴨川沿いに設置されている料亭の納涼床がある。
かわてらすの名称には人々が集う川沿いの「テラス」席や、みんなの表情を楽しく「照らす」、水面に反射した光によってみんなの顔を明るく「照らす」といった意味が込められている。
東京都では、かわてらすの名称に商標登録も取得している。
かわてらすが設置できる可能性のある地域は、隅田川沿いの以下の地域となっている。
浅草エリア:桜橋付近~厩橋付近
両国エリア:蔵前橋付近~首都高速両国JCT付近
越中島エリア:永代橋付近~佃大橋又は相生橋付近
築地エリア:佃大橋付近~築地大橋付近
深川エリア:清洲橋~隅田川大橋・(左岸)
2023年12月時点において、かわてらすを利用した店舗は以下の6店舗である。
①Nabeno-Izumu(ナベノイズム):台東区駒形二丁目1番17号地先
②ボン花火:台東区駒形二丁目1番7号地先 隅田川
③ASAGE CAFE-カワドコCAFE & BAR-浅草蔵前:台東区駒形二丁目1番5号地先
④両国リバーセンター:墨田区横網一丁目2番13号地先
⑤たいめいけん:中央区日本橋室町一丁目地先
⑥LYURO(リュウロ)東京清澄:江東区清澄一丁目1番7号地先
上記、⑥に関しては、過去にLIFULL HOME'S PRESSにて取り上げられている。
詳細は以下の記事を参照いただきたい。
■関連記事:隅田川沿いに誕生した川床付きシェア型複合ホテル。清澄白河の"未来が宿る場"とは?
かわてらすでは、墨田川マルシェ実行委員会により、不定期にマーケットのイベントが開催されることもあるようだ。墨田川マルシェ実行委員会は、隅田川を盛り上げるボランティア団体である。
かわてらす実施の狙い
かわてらすの目的は、川と町をつなぐことで人々が集い、都市にうるおいを与え活気に満ちた水辺空間を創出するためである。水辺空間を活かした賑わいの創出や魅力あるまちづくりを目的とした河川敷地利用に対する要請は全国の自治体から上がっており、国土交通省では2004年あたりから実験的に規制緩和を始めてきている。
東京都でも2014年前後から墨田川の一部の地域で川床の実験実証を開始し、現在のかわてらすの制度に至っている。かわてらすのように川床を許可する動きは全国で広まっており、最近では金沢市や大阪市でも同様の動きが行われている。
特に東京都では、東京スカイツリー®効果でにぎわう浅草周辺をさらに盛り上げるという意図があり、墨田川が選定されたようだ。東京都は水辺の街でもあり、かわてらすは将来的に観光資源の一つになることも期待されている。
かわてらすの法律的位置づけ
かわてらすは、河川の堤防と建物の間にある管理用道路の上に建物の2階からテラス席が設けられる施設である。
管理用道路とは、堤防と建物の間にある空間のことである。一方で、川と堤防との間にある空間は遊歩道と呼ばれる。テラス席は管理用道路の上に設けられるため、テラス席のすぐ下に川が流れているわけではない。テラス席の下には遊歩道があり、川は遊歩道の先を流れているという位置関係となる。
かわてらすを実施できるのは、河川敷地と隣接した建物の所有者もしくは賃借権者(飲食テナント)に限定されている。かわてらすは公共の管理用道路を占用している状態にあり、テラス席を設けるには許可を要し、東京都へ占用料も支払うことが必要だ。
かわてらす設置のハードルは高く、管理用道路を占用するにはその場所が都市・地域再生等利用区域の指定を受けなければならない。区域指定を受けるには、地元町会や隣接建物所有者および隣接土地所有者の合意を得ることが必要だ。
地元の合意を得た後は、東京都と区、地元町会と協議し、区域指定へと至ることになる。かわてらすは2018年3月から適用開始となっているが、5年経過した2023年12月時点でも実績は6件しかない。
京都の鴨川のように川床が連坦するような光景は、簡単には見られなさそうだ。
かわてらすの安全性
かわてらすの安全性は、相応の配慮がなされているものといえる。かわてらすを前提としている隅田川周辺は東京都の低地部に属しており、ハザードマップ上は洪水や高潮のリスクが高いエリアとなっている。
そのため、かわてらすの設置条件として、以下のようなものが設けられている。
【かわてらすの洪水・高潮時の安全対策】
・洪水、高潮等の緊急時における情報伝達態勢を整備し、占用施設の利用者の避難が円滑に行われるための措置を講ずること。
・ 洪水、高潮等の緊急時及び河川工事の施工に支障となる場合、占用施設の除去・移転等を行うこと。
・ 特に緊急性を要する場合、河川管理者による利用や撤去を認めること。また、この場合の河川管理者による補償行為は行わない。
また、東京都は江戸時代初期の利根川東遷(※1)から始まり1930(昭和5)年に完成した荒川放水路に至るまで、約300年近くの時間をかけて洪水被害を激減させてきた歴史がある。
(※1)利根川の流れを東京湾から銚子沖へ変えた一大事業のこと
その結果、東京都は全国的に見ると洪水氾濫被害の少ないエリアとなっている。
国土交通省によると、2008~2017年における洪水氾濫と内水氾濫の被害額の割合は、全国と東京都では以下のような違いがある。
全国:洪水被害の割合59%、内水氾濫の割合41%
東京都:洪水被害の割合29%、内水氾濫の割合71%
内水氾濫とは、集中豪雨により下水道などの処理能力が追いつかなくなり、平常時に下水道や排水機場により排水処理している雨水が地表に溜まることを指す。
全国では洪水の被害が約6割近くあるのに対し、東京都は約3割近くしかない。東京都は、長年にわたる治水事業の結果、現在では洪水が起きにくい街となっているのだ、
絶対安全とまでは言わないが、隅田川は洪水対策がしっかり行われている河川であることから、かわてらすの安全性は相応に高いものと思料される。
設置までに必要な手続き
かわてらすの設置までには、「特例占用手続き開始」と「占用許可申請」、「占用開始」の3つの段階を経ることが必要である。
この流れの中で、最もハードルが高いのが最初の特例占用手続き開始だ。
最初に、東京都建設局河川部と事前協議を行い、詳細な内容を詰めなければならない。事前協議を終えた後は地域と調整を図り、地域の合意を得る必要がある。
合意は、少なくとも土地建物所有者と地元町会、隣接の土地建物所有者から取らなければならない。
次に近隣説明を行い、再び東京都建設局河川部と計画・設計協議を行う。計画・設計協議では、地域と合意した設置条件や、営業条件、周辺環境への配慮策、地域貢献策を提出しなければならない。
その後、利用計画書と地域合意状況の報告書を作成し、東京都の確認を経て地元区に提出することで、特例占用手続き開始の手順が終了する。特例占用手続き開始を終えたら、河川管理者に対して占用許可申請を行い、占用開始となるという流れだ。
今後の活用予想
かわてらすは、飲食スペースとして利用することが前提となっているため、墨田川を背後にして立っている建物の2階部分に飲食店が入っているような物件に活用の可能性がある。川沿いは必ずしも商業繁華性が高いわけではなく、飲食店としては1階部分のニーズの方が高いことから、元々かわてらすの条件に合うような飲食店は少ないといえる。
また、2階部分に入居している飲食店のテナント(借主)が、費用を投じてかわてらすを設置するケースも少ないといえる。そのため、今後、かわてらすが普及するとすれば、ビルオーナー側が他のビルとの差別化を目的にかわてらすを利用していくケースの方が多いのではないかと思われる。
2階部分に飲食店の入居可能性のあるビルでは、建て替え計画でかわてらすを導入し、2階部分に飲食店を誘致しやすくするという活用はあり得る。
かわてらすが都会の雰囲気を楽しめる快適な空間であることがビルオーナーにも認知されれば、さらに広まっていくことだろう。
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