「サバス」をつくったバス会社若手社員の挑戦

姫路市に本社を置き、兵庫県を中心に路線バスや観光バス事業を行う神姫バス株式会社。ここに新卒で入社した一人の若手社員が、廃バスを活用した新しい事業を起こし、話題となった。

株式会社リバースの松原 安理佐さんは、神姫バスの社員と、リバースの経営者の二つの顔を持つ。松原さんが立ち上げたリバースでは、役割を終えたバスをサウナにした移動型サウナを運営する。その名も「サバス」だ。2022年3月のお披露目以降、全国の商業施設やイベント会場に引っ張りだこのサバスは、ローカル路線を飛び出し、いまや全国に出向く。登場から一年以上が経ち、ますます注目を集める事業と、今後の展望を紹介したい。

外観はいかにも路線バス。役割を終えた神姫バスの車体は、移動サウナとして生まれ変わった外観はいかにも路線バス。役割を終えた神姫バスの車体は、移動サウナとして生まれ変わった

コロナ禍で業績悪化。逆境からのスタート

神姫バス株式会社は、バス事業のほかに不動産事業なども手掛ける上場企業だ。松原さんは新卒で神姫バスに入社後、最初の3年は不動産課に配属され、同社の管理物件を管理する業務に就いていたという。

その後に新規事業を立ち上げる部署への異動が決まるも、そのタイミングは少々厳しいものだった。折しもコロナ禍と重なったのだ。かねてからの人口減少に加え、コロナ禍で進んだ社会の変化により、神姫バスも一時は赤字となるなど、強い危機感を持つ状況となっていた。

それでも松原さんは、入社以前より持っていたという新規事業を起こすことへの興味と希望を捨てなかった。当時を「コロナで会社の業績が悪化したタイミングだったこともあり、まったく新しいことをするとお金がかかってしまうので、バス会社ならではということに着目して事業を考えました」と振り返る。
そこで廃バスの利用を思いついたというわけだ。危機的状況から「バス会社らしさ」を強く意識することになった松原さんの発想力、企画力が、サバスを誕生させた。

バスのイメージを活かしながらも、サウナへと変貌したインテリアバスのイメージを活かしながらも、サウナへと変貌したインテリア

バスをサウナに。前例のない事業が直面した困難

松原さんは、企画や資金集めなど、多くの人に相談しながら事業化を進めていった。「バスをサウナにするという事例がこれまでになかったので、まず車検を通すところからでした」と松原さん。
さらに、サウナの営業許可は公衆浴場法のもと、市町村単位で受けなければならない。バスは移動できることがメリットだが、一方で移動した地でサウナを営業するというスタイルになるサバスにとっては、行く先々での許可が必要になる。なかなか大変なことと想像するが、これについては、サバスを迎える事業者に対応してもらっているとのことであった。

また、技術的な面での苦労もあった。
サウナ室を作るのは大工の仕事であるが、車両をさわるのは板金などもできる車両の整備工場となる。松原さんは「明確な作業分担ができず、その点は難しかったですね」と振り返る。「みんなで作るという意志がないとできませんでした」(松原さん)

車内には、薪でサウナストーンを温める本格的なサウナストーブ車内には、薪でサウナストーンを温める本格的なサウナストーブ

スタートして実感。サバスが広げた楽しみ方

こうしてできたサバスは、最初の一年で約80以上のメディアに取り上げられた。反響は大きく「サバスとして宣伝広告費をかけることなく、この一年、毎月イベントに出させていただきました」と松原さん。

サバスはレンタルの希望も受け付けている。ユニークな例をいくつかお聞きすると、スーパー銭湯からの需要があるという。スーパー銭湯にもサウナはあるのでは? と意外に思ったが、話を聞いて納得した。サバスがやって来ることが話題になり、サウナ好きの人が集まってくるという。サバスがスーパー銭湯へのさらなる集客効果をもたらすというわけだ。これは松原さんも想定していなかったようである。

愛知県新城市のイベントでは、サバスは自然豊かな場所に出向いた。景色を眺めながらサバスのサウナを楽しんだあと、近くの川を水風呂代わりにしたそうだ。サウナで汗を流し自然も満喫できる体験は、サバスというモバイル性に富んだサウナならではで、なんとも気持ちの良さそうだと感じた。

ほかにも、行政や自治体のイベント、あるいはさまざまな施設の開業周年イベントなどへのレンタル希望も多いそうだ。
こうして多くの支持を得ているサバス。松原さんは、「おかげさまで、最初にバス製作にかかった費用は初年度で回収することができました」と明かす。

サバスで起業を成し遂げた株式会社リバースの松原安理佐さん
サバスで起業を成し遂げた株式会社リバースの松原安理佐さん

託児所にレストラン…まだまだ広がる廃バスの活用

リバースは、サウナ以外にも廃バスの活用を進めている。2022年10月には、移動型託児所バス「cam+bus(キャンバス)」が完成した。託児所はリバースが直接運営するわけではないが、専用に改装したバスに保育士を数名乗せて商業施設などへ行き、親が買い物中や子どもと一緒に行動できないときに預かるのだという。車内はプレイルームとして、子どもたちが飽きずに時間を過ごせる空間に設えている。松原さんは、今後この移動型託児所バスを広く展開したいと語る。また、今は検討段階にあるが、広いバス空間を利用したレストランバスも展開したいと夢は広がる。

廃バスを利用した事業とは、まさにバス会社の人らしい発想であり、それでいてオリジナリティのある事業だ。特に地方では、人口減少で、輸送業としてのバス事業は先行きが不透明な時代である。移動ツールとしてのバスから、目的地となるバスへと発想を転換させた松原さん。サウナやレストランだけでなく、バスならではのキャパシティの大きさや、自走でどこでも行けるモビリティ性を活かせば、これからもいろいろなアイデアが出てきそうだと松原さんは語る。

廃バスから生まれるわくわくに、これからも期待できそうである。

姫路駅前を走行する神姫バスの路線バス姫路駅前を走行する神姫バスの路線バス

公開日:

ホームズ君

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