隣り合う空き家2棟を屋外階段でつなげて活用
岐阜市西部の郊外。閑静な住宅街のなかに、スタイリッシュでありながら、どこか懐かしさを感じる建物が現れる。築40年超の鉄骨造3階建てビルをリノベーションし、2022年2月に誕生したライフシェアスペース「noma(ノマ)」だ。
一見1棟に見える同物件だが、よく見ると真ん中に隙間がある。nomaは隣り合う2棟のビルを1棟のように見立て、リノベーションされているのだ。
つながっているのは2階の屋外階段のみで、建物内での往来はできない。つまり、左右それぞれが独立した建物なのだ。別々の建物だと知ったうえで外観を見てみると、異なる様相が多いことに気づくから面白い。
今回はnomaを手掛けた株式会社ネクスト名和・マルホデザイン一級建築士事務所 代表取締役の名和豪敏さんと、nomaスタッフの名和香里さんに話を聞いた。
コロナ禍で方向転換。新たな価値に出会える場所に
株式会社ネクスト名和は、半世紀以上前にプロパンガス会社として創業。その後さまざまな形で暮らしをサポートする事業を展開し、2014年よりリノベーション事業を専門とするマルホデザイン一級建築士事務所を設立したそうだ。
リノベーション前の同物件。みなさんの住むまちにも、類似物件があるのではないだろうか。昭和の時代、まちに賑わいを与えていたこのような物件は、時代の流れとともに衰微。現在は空き家となっているケースも少なくない「リノベーションは、建物のポテンシャルをはじめ、お客様の家族構成や趣味、好みなどによって様相が変わってきます。弊社はあえて得意分野をつくらず、お客様に合ったテイストに柔軟に対応しているため、これまで自分たちの世界観を表現するものを持ちませんでした。しかし『表現方法としてモデルハウスのようなものをつくってみよう』と、自社で空き家を購入しリノベーションすることにしたのです」と豪敏さん。
もともと1階がスナック、2・3階は住居という同物件を、当初は1階を駐車場に、2・3階を住居にリノベーションし、買取再販するつもりだった。
しかし世界はコロナ禍に突入。
営業縮小や営業形態の見直しを模索する飲食店や、コミュニケーションの場がなくなってしまった地域のためにも、購入した物件でまちづくりに貢献できないかと考え、さまざまな使い方ができる「ライフシェアスペース」としてリノベーションすることを決意したそうだ。
用途変更条件緩和を最大限に生かすため「減築」を選択
シェアスペースとしてリノベーションするにあたり、同社が選んだ手法が「減築」だ。その理由は、特殊建築物への用途変更は200m2以下であれば確認申請が不要であること。用途変更の確認申請はハードルが高く、時間と手間のかかる作業。また高額な費用も必要だ。
同物件は法律に適合させながら建築の自由度を高めるために、2棟を合算した総面積をギリギリ200m2以下に抑え、用途変更条件の緩和を最大限に生かした。
シェアキッチン・デイリーショップ・ゲストルームなどの複合施設に
検討を重ね誕生したnomaは“ライフシェアスペース”であり、場所を貸すレンタルスペースとは一線を画す。デイリーショップ、製造許可付シェアキッチン、プライベートダイニング、ゲストルームなどが備わり、「ここに来れば楽しい」「ここでならチャレンジできる」「なんだか落ち着く」そんな場所となった。
なかでも特徴的なのは、設備の充実した「製造許可付きのシェアキッチン」だ。小規模店舗や個人で、大量調理をしたり長期保存が可能な業務用の調理器具を揃えたりすることは現実的ではないが、たとえばスチームコンベクションや急速冷凍機、真空包装機などを利用できる環境があれば、新たな販路を模索する飲食店にとって強い味方となってくれるはずだ。nomaではプロ仕様の設備を導入し、新しいことにチャレンジしたい飲食店をサポートしている。
そして「ゲストルーム」を有しているのもユニークだ。「リノベーション事業をしていると、昔の大きな家に出会うことが多いです。一方で今の住宅事情はシンプルでコンパクト。客間などはなく、必要な部屋数だけという家がほとんどです。親戚や友人が遊びに来ても泊めることができない。また近年はサードプレイスを求める人も増えています。旅行ほど大掛かりなことではなく、でも自宅とは別のほっとできる場所がほしい。そんなときにnomaのゲストルームを“離れ”のように使ってもらえたら嬉しいですね」と豪敏さん。
ゲストルームに限らず、プライベートダイニングやデイリーショップ、レンタルスペースなど、nomaの使い方はその人次第。アイデアを形にしたり、何かにチャレンジしたり、逆にのんびり過ごしたり。新たな価値が生まれ、出会える。そんな場所だ。
多彩な「~の間」が織りなすnomaという場所
nomaという名前の由来は「~の間」。“何か”と“何か”の融合であり、中間であり、狭間であり、境目である「~の間」=nomaが、人と人、人とまちをつなぐ。
「nomaを運営するようになり、ここを目指して訪れてくれる人も増え、ここをきっかけにさまざまなコラボが生まれています。たとえば作家さんと飲食店、養蜂をされる方とお菓子屋さんなど、これまで交わることのなかった人と人がつながっている……と感じるようになりました。nomaが人と人をつなげる場所となり、nomaの存在が新しい価値を生み出す。ここに来ればいいものや素敵な人に出会える。そして地域が元気になる……そんな場所にしたいですね」と語るのは香里さん。
豪敏さんはこう続ける。「郊外に住んでみて感じることは、空き家のリノベーション情報は都会と田舎の両極端だということ。その間がなかなかない。郊外こそ消費のボリュームも多く見つめ直さなければならないのではないでしょうか。人・モノ・お金が集まる場所になるよう、空き家を価値ある物件にリノベーションすることが、われわれ提案側のミッションです。nomaは大阪の9(ナイン)株式会社さんに設計協⼒をいただきました。両社だから生まれた対比と融和、遊び心あるリノベーションが実現したと思います。おかげさまで遠方の工務店さんや学生さんが視察や見学に来てくださっています。これからは地方のいいものをフェアトレードできるような関係性をつくっていきたいですね」
都会と田舎の間、住宅と店舗の間、日常と仕事の間……2棟をつなげ、人と人とがつながる「noma」だからこそ、発信できることが多そうだ。
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