「古い」「汚い」「不安」といった理由で中古住宅を敬遠

消費者が中古住宅を選ばなかった理由でもっとも多かったのは「設備の老朽化が不安」。そのほかにも「古い」「汚い」といったイメージから購入を思いとどまるケースが多い(出所:国土交通省『既存住宅流通市場の活性化』)消費者が中古住宅を選ばなかった理由でもっとも多かったのは「設備の老朽化が不安」。そのほかにも「古い」「汚い」といったイメージから購入を思いとどまるケースが多い(出所:国土交通省『既存住宅流通市場の活性化』)

日本の空き家が増加している。最新のデータである『平成30年住宅・土地統計調査』(総務省統計局)を確認すると、空き家の数は848万9,000戸で過去最多となっている。放置された空き家は防災、衛生、景観などの面で周辺環境に悪影響を及ぼす。それゆえ、早急な有効活用が望まれる。

しかしながら空き家に限らず、日本の中古住宅は他の先進国に比べて人気が低い。『既存住宅流通市場の活性化』(国土交通省)によると、全住宅流通量に占める中古住宅の流通シェアは日本が14.7%(2013年)なのに対し、アメリカ83.1%(2014年)、イギリス88.1%(2013年)、フランス66.9%(2013年)だった。日本の流通シェアは圧倒的に低いのだ。同資料にはその理由も記されている。消費者に中古住宅を選ばなかった理由を聞いたところ、1位「設備の老朽化が不安」(33.8%)、2位「隠れたところに不具合がありそう」(29.5%)、3位「水回りが古い」(28.7%)、4位「新築住宅よりも仕様・スペックが低そう」(22.7%)、「耐震性に不安がある」(22.0%)という回答だった。要するに「古い」「汚い」「不安」といった理由で中古住宅を敬遠する人が多いようだ。

リノベーション業務の課題とは

逆にいえば「不安」「古い」「汚い」が解決できれば中古住宅でも問題ないはず。むしろ新築よりも安価ゆえに人気が出るかもしれない。実際に米英では売主への情報開示が義務付けられており、買主の不安解消に役立っている。また、「古い」「汚い」については、リノベーションで解決できる。リノベーションとは、中古住宅の機能を再生(リフォーム)するだけでなく、現代のライフスタイルに合わせて生まれ変わらせること。つまり新築時よりも快適な住まいに改修することだ。

だが、ここにも課題がある。リノベーション業務に必要な知識は、建築はもちろん、不動産売買、金融、保険、法律など多岐に渡る。最近は脱炭素社会に向けた省エネの知識も求められるようになった。しかしながら、実際にリノベーション工事の窓口となる事業者は、不動産仲介業や建築業など専門分野が特化されており、網羅的な知識を持つ者は少ない状況だ。偏った知識しか持たない事業者がリノベーション工事の窓口になると、物件購入前の説明が曖昧になってしまい、たとえば購入後に「希望していた工事ができない」「工事費用が予算内に収まらない」「補助金制度が利用できない」といった事態にもなり得る。

このような背景から一般社団法人リノベーション協議会は、中古住宅流通とリノベーションの提案に必要な知識を総合的に学ぶことができる新たな資格「リノベーションコーディネーター資格制度」を立ち上げ、2022年9月9日より受験希望者の受付を開始した。同協議会は、中古住宅流通の活性化を目的として2009年7月に発足した業界団体だ。現在、835社(2022年11月3日現在)が参画し、優良なリノベーションの統一規格を定め、普及を推進している。

リノベーション業務に必要な知識は多岐にわたるリノベーション業務に必要な知識は多岐にわたる

リノベーションに携わる人材の底上げ、平準化のための制度

リノベーションコーディネーター資格制度が創設されたおもな目的は、リノベーションに携わる人材の底上げ、平準化だ。それゆえ、受験申込者は事前に無料で動画講習(テキスト代と共に受験料に込み)を受講することができ、所属企業等では習得しきれない建築、設計、不動産売買、金融、税制や循環型社会の在り方などを横断的に学ぶことができる。

リノベーションコーディネーター資格の受験から資格発行までの流れは以下のようになる。

1.リノベーション協議会のサイトから申し込み
https://plus.renovation.or.jp/r_coordinator/
2.動画講習を受講
3.受験申込時に選択した日時・会場で受験(受験料5,500円)
4.合格発表(メール)
5.資格者登録(登録料5,500円、会員企業は無料)
6.資格更新(3年ごと、更新料5,500円(予定))

リノベーションコーディネーター資格の受験から資格発行までの流れ。CBT方式とは全国に300以上あるテストセンターのパソコンにて試験を実施する仕組み(出所:リノベーション協議会ホームページ)リノベーションコーディネーター資格の受験から資格発行までの流れ。CBT方式とは全国に300以上あるテストセンターのパソコンにて試験を実施する仕組み(出所:リノベーション協議会ホームページ)

動画講習に関しては、テキストを作成した各専門事業者(同協議会理事および関係者)が講師を務め、各ポイントを丁寧に解説する。たとえば「契約不適合責任」や「建物状況調査」、「改正石綿則」など直近で事業者に求められている制度や関連法規についても触れている。

リノベーションコーディネーター資格の受験から資格発行までの流れ。CBT方式とは全国に300以上あるテストセンターのパソコンにて試験を実施する仕組み(出所:リノベーション協議会ホームページ)テキストの目次を一部抜粋。全6章(「1章 リノベーション概論」「2章 不動産売買の知識」「3章 営業・契約の知識」「4章 契約から引き渡しまで」「5章 エネルギーと環境対応」「6章 関連法規・制度」)・53項目という構成だ

来年度からは年齢・学歴・資格を問わず誰でも受験可能

なお、初回は2022年11月に実施され、12月には合格発表がされている。2023年度も実施される予定だ。

リノベーションコーディネーター資格のおもな受験者は、不動産・建築事業者の新入社員やリノベーション業界に新規参入する事業者になるだろう。しかし、今後は年齢・学歴・資格を問わず誰でも受験することができるようになる。そうなればリノベーション業界への就職を目指す学生や転職を希望する人たちの入門プログラムにもなるはずだ。そういった意味では、受験料が5,500円と比較的安価なところもうれしい。また、この資格が普及すれば、消費者としてはリノベーション工事の依頼先を選択する際の目安にもなるだろう。

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