岐阜県美濃市で心豊かに「働く」×「暮らす」

もともと働き方改革の一環として政府が推進していたテレワークも、このコロナ禍で一気に広まった。在宅勤務の普及により「会社に行かなくても仕事ができる」ことがわかったが、「自宅では集中して仕事に打ち込めない」「何気ないコミュニケーションも必要だ」ということに気づいた人も多いだろう。

そんな中で今注目されているのが、自宅でも職場でもない「サードプレイスオフィス」や「サテライトオフィス」の存在だ。都心部ではコワーキングスペースが急増。社員のワークライフバランスを考え、郊外にサテライトオフィスを導入する企業も増えているという。

誰もが良い環境で働き豊かに暮らしたいと感じている今、働くことと暮らすことを両立させられる場所が求められている。

WASITA MINOを運営する「みのシェアリング株式会社」代表取締役・辻晃一さん(右)と企画経営・大谷一夫さん(左)WASITA MINOを運営する「みのシェアリング株式会社」代表取締役・辻晃一さん(右)と企画経営・大谷一夫さん(左)

今回取材したのは、岐阜県美濃市で先日始動したばかりの、日本初まちごとシェアオフィス「WASITA MINO(ワシタ ミノ)」。WASITAとは、Work And Stay in Traditional Areaの略、つまり直訳すると「伝統的な地域(=美濃市)で働き滞在する」という意味だ。

自然や伝統文化息づく美濃のまちを“まちごと”シェアオフィスとし「豊かな暮らしの中で人間らしく働く」という新しいカタチを提案している。

うだつの上がる町並みの美濃市は、名古屋や岐阜市からのアクセス良好

テレワークの普及で地方移住を検討している人も多い。ただ、例えば「都心部まで2~3時間かかる」となると、なかなか現実的ではない。その点、名古屋や岐阜市から車で1時間以内と適度な距離にある美濃市は、田舎暮らしに憧れる人からも注目されており、実際に東京などからの移住者も少なくない。

社長の辻さんは、2009年にUターンで美濃市に戻った後、「美濃から日本を変えよう」と、伝統文化や観光、エネルギー、古民家再生などさまざまなビジネスで、多角的に地域循環共生圏の構築に取り組んでいる。

美濃市の自然と歴史文化が織りなす「うだつの上がる町並み」。1300年もの歴史を持つユネスコ無形文化遺産登録の和紙・本美濃紙は、ここ美濃市でつくられてきた美濃市の自然と歴史文化が織りなす「うだつの上がる町並み」。1300年もの歴史を持つユネスコ無形文化遺産登録の和紙・本美濃紙は、ここ美濃市でつくられてきた

「うだつが上がらない」という慣用句を聞いたことがあるだろう。語源は諸説あるが、その昔、裕福な家ほど“うだつ”と呼ばれる防火壁を立派にしたことから「財力に余裕がある=うだつが上がる」、つまり「うだつが上がらない=ぱっとしない、甲斐性がない」などという意味で使われるようになったそうだ。

美濃市には、この“うだつが上がる”旧家が今もたくさん残っており、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。まちごとシェアオフィス「WASITA MINO」の舞台は、この美しい“うだつの上がる町並み”だ。

築約150年の長屋を再生しシェアオフィス拠点に

WASITA MINOのシェアオフィス拠点施設は、築約150年の古民家を改修した建物。7棟が連なる長屋だったのだが、老朽化が進み一部崩れ落ちている部分もあった。数年前から空き家となり、建て替えも検討されていたが、古民家再生事業に取り組んだ実績のある辻さんのもとに相談が寄せられた。

美濃市には、豊かな自然や伝統文化、そして人の温かさが溢れている。シェアオフィスを運営することにより、美濃市で新たなチャレンジをする人や入居する企業によって雇用が生まれ新しい産業創出につながる可能性がある。またそれによって美濃の価値を上げていくこともできるだろう。

こうしてまちごとシェアオフィスのプロジェクトが動き出し、古民家の改修が始まった。

老朽化により崩れ落ちてしまっている箇所も多かったそうだが、美濃市の設計士・建設会社により、当時の雰囲気も残しながらモダンな佇まいに蘇った老朽化により崩れ落ちてしまっている箇所も多かったそうだが、美濃市の設計士・建設会社により、当時の雰囲気も残しながらモダンな佇まいに蘇った
老朽化により崩れ落ちてしまっている箇所も多かったそうだが、美濃市の設計士・建設会社により、当時の雰囲気も残しながらモダンな佇まいに蘇った柱や梁などできるだけ以前の長屋の部材を残し改修された施設内は、懐かしくも新しくもある空間。吹き抜けが気持ちいい
老朽化により崩れ落ちてしまっている箇所も多かったそうだが、美濃市の設計士・建設会社により、当時の雰囲気も残しながらモダンな佇まいに蘇った昔使用していた井戸が残る芝生の中庭。いずれこの場所にテーブルやチェアを置き「ガーデンでも仕事ができるようにしたい」と辻さん。さらに施設内にはカフェや宿泊可能なゲストハウスも併設されている

働きやすさにこだわった居心地のいいワークスペース

コワーキングスペースは全席フリーアドレス。1人用デスクは集中したいときにオススメコワーキングスペースは全席フリーアドレス。1人用デスクは集中したいときにオススメ
コワーキングスペースは全席フリーアドレス。1人用デスクは集中したいときにオススメ格子戸から明るい光が差し込むテーブルスペース。利用者同士の交流も生まれそうだ
コワーキングスペースは全席フリーアドレス。1人用デスクは集中したいときにオススメリモート会議などに利用可能な個室も用意されている
コワーキングスペースは全席フリーアドレス。1人用デスクは集中したいときにオススメ2階にはプライベートオフィスは個室単位でレンタル可能。すでに数社が入居中だ

日本初「まちごとシェアオフィス」とは

WASITA MINOは古民家を改修した拠点施設だけでない。まち全体がシェアオフィスとなるのが面白い。

利用会員特典のオリジナルタンブラー。このタンブラーを持っていることで、まちの人たちと交流を深められることもあるかもしれない利用会員特典のオリジナルタンブラー。このタンブラーを持っていることで、まちの人たちと交流を深められることもあるかもしれない

そのひとつが「まちごとワークタンブラー」だ。「まちごとワークタンブラー」は「まちごとシェアオフィス」のいわば会員証。 まちの提携店舗でワークタンブラーを提示すると、店舗内で仕事ができるだけでなく、ドリンクの無料提供などのサービスを受けられる。気分転換に近くの喫茶店で仕事をする…ということも可能なのだ。

また徒歩圏内には清流長良川が流れている。川のほとりで仕事をする…そんな日があってもいいだろう。

まち全体がシェアオフィスだと捉えると、シェアオフィス内には3か所の保育園・幼稚園があるとも言える。子育て中のワーカーにとってこれほど安心感のある環境はなかなかない。

今回の取材にあたり町並みを散策したのだが、このまちに住む人たちから何度も「こんにちは」と声をかけてもらった。何気ないことだが、人の温かさや豊かさを感じた。

正直、もっと交通利便性が高い立地や利用料の安いシェアオフィスもあるだろう。しかし実際にWASITA MINOを利用している企業や利用者は、このまちや環境、そして人に魅力を感じているからこそ、ここで働きたいと強く思っているのだ。


リモートワークが定着し働く場所の選択肢が増えた今、“暮らすように働く”という新しいカタチは、これからの時代に求められる働き方だと感じた。今後、WASITA MINOを起点に、新しい産業や若い力が集まり活躍できる場所となり、まちが活気づくことにも期待したい。


■まちごとシェアオフィス WASHITA MINO(わしたみの)
 https://wasita.co.jp/

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