⼥性ターゲットの⼟蔵の宿が、エンジョイワークスによる「共創」で誕生
神奈川県葉⼭町に古い⼟蔵をリノベーションした宿が、この夏、誕⽣した。名称は「The Bath & Bed Hayama」という。
「⽇常にあったはずの⼩さな”⾮⽇常” を取り戻す場所」をコンセプトに、ジェットバスのあるバスリビングと屋根裏のような落ち着いたベッドルームが、その古い⼟蔵の中にある。⼥性を中⼼ターゲットとした1⽇1組限定の特別な空間で、最⼤4名まで宿泊可能だ。場所は、元町エリアと呼ばれる葉⼭の中⼼地だ。
このリノベーションプロジェクトを進めた株式会社エンジョイワークスは、2007年に創業し2011年に鎌倉に移転。不動産会社、⼀級建築⼠事務所、さらにはカフェやゲストハウスの経営も手掛けるなど、多彩な顔を持っている。なかでも現在、⼒を⼊れているのが、「独⾃のアプローチによる空き家や遊休不動産の利活⽤」だ。みんなに、それは地主や建築会社等の当事者だけではなく、地域の住民、さらには将来住むかもしれない遠方の人、子どももお年寄りも、あらゆる人たちに、機会が開かれ、「ジブンゴト」として関わり、みんなでアイデアを出し、みんなでプロジェクトを推進するユニークな⽅法をとっている。具体的な機会は、後述しよう。
さて代表の福⽥和則さんが⼤切にしている考え⽅は、「共創(きょうそう)」というもの。
これまでの建築やまちづくりが、資本⼒のあるトップダウンの画⼀的なスキームになっていて、多様化するニーズには応えられていないと同⽒は感じていた。そこで、家づくり、まちづくりをジブンゴトとしてボトムアップ型でできないか、さらにコミュニティを巻き込んでブラッシュアップできないかと試⾏錯誤していた。
そしてカフェというリアルな場所での「対話」が前進のきっかけになった。
例えば、手掛けた逗子の「桜山シェアアトリエ」は、廃工場をリノベーションした建物だが、福田さんたちはこの工場のプロジェクトに先立ち、借り手の予備軍であるクリエイターたちと意見を交わすミーティングを自社で運営するカフェ「HOUSE YUIGAHAMA」で行った。加えて、そこに投資家も招待。結果、借り手のニーズを感じた投資家がこの廃工場を購入し、工事に踏み切ることに。クリエイターのアイデアを取り入れ、彼等も施工に参加し、創作意欲の湧くシェアアトリエが完成した。他にも葉⼭で開催した「⼩屋ヴィレッジ」や、この「蔵の宿プロジェクト」も、共創という概念がベースにある。
土蔵の中は、大きなジェットバスが印象的な癒やし空間
この蔵のコンセプトは「⽇常にあったはずの⼩さな"⾮⽇常"を取り戻す場所」。このアイデアは、⼀⽅的にエンジョイワークスが考案したのではなく、地元クリエイターやイベント参加者からの意⾒も加えて⽣まれたという。これが共創というプロセスだ。
さて、蔵の中に⼊ると、静寂の別世界が広がっている。屋内は各フロアに⼩さな窓があるだけで、優しい外光で⽊陰にたたずむようにリラックスできる空間になっている。
「バスとベッドだけなので、⾮⽇常の特別な時間を過ごしていただくのにおすすめです」とプロジェクト統括のエンジョイワークス濱⼝⽒。
1階は、浴室と⼀体化したようなリビングルームになっていて、そのおさまりの塩梅が設計担当者の頭を悩ませたそうだ。浴室内はジェットバスが半分近くを占め、⼤きなガラス窓で区切られている。
リビングには、バスローブのまま寝転がれるベンチソファーがある。お⾵呂に⼊りながら、読書したり、映画を⾒たり、ベンチソファーで友⼈との会話を楽しんだりもできる空間だ。階段をあがると、そこは屋根裏部屋のような寝室。クィーンサイズのベッドが2つ置かれ、しっかりと眠ることはもちろん、眠る前の時間をゆっくりと過ごせる空間になっている。さらに蔵の外には、プライベートなアウトドアリビングがあり、デザインされた⽊材のフェンスでプライバシーを守り、開放的ながらゆったりと過ごせるスペースになっている。
リノベーションには、地元のクリエイターが関わっているのも特徴だ。全体のデザイン統括は、インテリアの著書もあるインテリアスタイリストの⽯井佳苗⽒、施⼯はリノベーションの経験豊富なCALLAC、外構・植栽はhonda GREEN、アート制作には雑誌や広告へのイラストレーションの実績のあるアーティストの⽥中健太郎⽒、フラワー装飾はDEFI CREATION、施設内の選書はBOOKSHOP Kasperが担当している。
葉⼭芸術祭への参加がきっかけで、蔵を宿にすることが動き出す
ここの蔵は、江⼾時代から続く地元のお店がオーナーで、かつては、家財をしまう普通の蔵として使っていた。元町という中⼼街に、通り側に店、奥に蔵があるという建てつけだった。
蔵はいつ建てられたのか正確な年代は不明だが、その家の⽅によると築80年は経っているという。以前は別のテナントが蔵を活⽤していたが、2年半ほど前に撤退して空いていた。不動産賃貸として貸主を探して欲しいとエンジョイワークスに依頼があったのが、同社が関わるきっかけだった。
その建物を任された際に、単純に貸すだけではもったいないとエンジョイワークスは考え、2018年で26回⽬となる「葉⼭芸術祭」に参加することをオーナーに打診して了承された。「葉⼭芸術祭」とは、地域のイベントで、家をギャラリーや演奏会場として開放する等、個⼈も参加するユニークなアートフェスだ。
葉⼭には、キュレーターやアーティストが暮らしているので、単純に美術館で完結する芸術祭ではなく、彼らがまちのために主体的に動く、クオリティの⾼いイベントになっている。
エンジョイワークスは、葉山芸術祭への参加に快諾したオーナーに、次に参加目的として蔵を宿として活⽤することを前提にしたワークショップの提案をした。同時に宿とする場合のコンセプトやスキームについてもプレゼンし、オーナーがそれを了承。そして、葉⼭芸術祭の期間に10回を超える宿づくりワークショップをすることとなった。前述したこのプロジェクトに関わっている地元のクリエイターが中⼼になって、例えばインテリアの回、アートの回、フラワーの回などが開催され、参加者からのアイデアも⼀部計画内容に反映された。
宿づくりに、幅広い参加方法と投資型クラウドファンディングを実現
ワークショップを含め、エンジョイワークスの共創という考え⽅が、この蔵の宿プロジェクトには活かされている。プロジェクト統括の同社濱⼝⽒によると、多様なニーズを拾うべく、参加の仕組みを3段階つくり、参加しやすいものになっているという。以下、紹介していこう。
1つ⽬は、Facebook、InstagramでのSNSによる参加だ。宿づくりのプロセスは、随時、専⽤ページへアップしていて、「いいね」をクリックしたり、コメント欄やメッセージにて、意⾒を送れる。2つ⽬は、前述のイベント等への参加だ。オープニングレセプションも合わせ、全19回の関連イベントが開催され計300名弱が参加した。そして3つ⽬は、クラウドファンディングへの参加だ。参加⽅法の中でも、より深くコミットできる仕組みで、まちづくり参加型クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」を通じて、事業オーナーとして関われる。
今回のクラウドファンディングは、「投資型」になっていて、宿の収益の⼀部をリターンとして⾦銭で受け取ることができ、また元本部分である出資⾦の返還も受けられる。これまでの寄付型・購⼊型クラウドファンディングと⼤きく異なっている。
この投資型クラウドファンディングを開発したのは、エンジョイワークス⾃⾝で、国⼟交通省による「⼩規模不動産特定共同事業者」の登録を全国で初めて完了(2018年5⽉7⽇付)した。「蔵の宿プロジェクト」はその第1号案件だったのだ。代表の福⽥⽒は、⾦融業界からの転⾝ということもあり、資⾦をいかに調達するかが、空き家再⽣プロジェクトを実現するためのファクターとして重要であると考えていた。
ところで、この投資型クラウドファンディングを「ハロー︕RENOVATION」で6⽉1⽇に発表したところ、⽬標の600万円が、わずか1⽇で満額を達成した。想定以上だったと濱⼝⽒は当時を振り返る。
宿の運営状況が投資家にも共有され、ジブンゴトとして関わる
濱⼝⽒は、「今回の投資型クラウドファンディングには思わぬ副産物もあった」と⼿ごたえを感じていた。それは、この投資に賛同してくれた⽅々は、「次は⾃分の空き家をリノベーションしたい」など、今後への潜在需要者だったのだ。つまり、今回の投資家が次回の事業者になりえることに気付いたという。
またエンジョイワークスでは、「The Bath & Bed Hayama」の開業段階に留まらず、運営段階にも出資者に積極的に参加してもらえる機会提供を予定している。例えば、季節毎の稼働状況、各種キャンペーンによる効果等、開業段階以上に、運営段階の生の情報を定期的に共有していく。それが、上記のように今後自分で事業をしたい方には、参考になるだろう。さらにコミュニティ「ハロー!RENOVATIONクラブ」を設立し、横のつながりを継続していく場も設ける予定だ。
誰もが何らかの形で関われる、共創をテーマにしたリノベーション。ますます広がりを見せそうだ。ちなみに現在募集中のプロジェクトは、3年前から稼働している「桜山シェアアトリエ」があり、最近オーナーチェンジとなったことから、エンジョイワークスでは小口の出資者を募り、同じように投資という形でジブンゴトとして参加できる仕組みを展開している。
◆ハロー!RENOVATION
https://hello-renovation.jp/
公開日:







