住宅ローンの固定金利に直接影響する長期金利の動向は重要な景気指標

足元で長期金利の上昇が顕著になっている。長期金利の指標となる10年もの日本国債の利回りが2025年12月初旬には1.8%台を突破して1.939%となった。長期金利が最後に1.9%台を記録したのは2007年7月のことだから、実に18年5か月ぶりということになる。2007年当時は1990年代から続く長期的な資産デフレの真只中であり、さらにその後2013年に就任した黒田日銀総裁の“異次元の金融緩和政策”開始によって、2016年から2020年まで長期金利はマイナス水準にまで誘導されている。マイナス金利を脱した2020年から約5年をかけて徐々に長期金利の水準を戻してきたことがわかる。

異次元の金融緩和政策が終了したのは植田総裁就任後の2024年3月に開催された金融政策決定会合でのことだから、ここから金利が上がるというプンクト(点)が打たれたのは僅か1年9か月前で、確かに金利の上昇はやや急速な印象は否めない。だが実は、中長期的な長期金利の上昇は5年前から始まっている(金利が極端に低かったために上がっても気付いていない人は少なくない)。

では、長期金利が上昇する要因および局面とは主に何か。直近の経済・財政に関する環境変化の可能性に即して考えると、
(1)植田総裁の発言要旨などから窺うことができる利上げの可能性 
(2)消費者物価指数の長期的上昇の抑制(インフレ対策) 
(3)主要諸国(主にアメリカとヨーロッパ)の金利上昇対策(過度な円安水準の是正)
(4)2025年10月に発足した高市連立政権の“責任ある積極財政”政策の表明による財政悪化懸念(減税の実施と政策拡大による国債の増発を懸念) 
(5)日銀の国債保有残高の圧縮(ただし利払いは増加)
など主なものだけでこれだけあり、特に直接的な要因としては、プライマリーバランスを先送りし続ける=巨額赤字体質の日本の財政状況が、さらに悪化するのではないかと懸念する国内外の機関投資家が、国債を売却することによって金利上昇という構図になる。

長期金利の歴史と今後について

10年もの国債が初めて発行されたのは1986年7月のことで、従前は9年ものが償還期間としては最長だったが、経済成長を確実に継続するという方針のもと、償還期間のより長い国債が発行され、国家予算の一部として使用され続けている。

長期金利の歴史と今後について

グラフの平成2年(1990年)前後に長期金利が8%台まで上昇しているのは、当時のバブル経済の過熱を抑制するために日銀が金融引き締めを実施し、短期間で強力に利上げを繰り返し行ったことによるものだ。
中長期的にみると、2014年以降の異次元の金融緩和政策がバブル経済を引き起こしても不思議ではないくらいの市中にお金を溢れさせる財政出動であったことを鑑みれば、その後の金融引き締めは当然のことと考えることもできるだろう。

日銀の利上げ観測は、確かに変動金利で住宅ローンを借り入れている者、もしくはこれから借り入れようとする者にとって懸念材料となり得るが、植田総裁の直近の発言には“特に(アメリカ・トランプ政権の)関税政策によって景気が後退しないか否かを慎重に見極める”との論旨で一貫しており、その関税政策の影響が比較的軽度で、景気が緩やかに回復しているとの認識を基に、これ以上の円安と輸入品の価格上昇などによる物価上昇を金融政策の変更=利上げによって対応するとのことだから、今後も年1回程度、多くても2回くらいの利上げが実施されることを織り込んでおくべきだろう(※2025年12月1日 植田日銀総裁 記者会見要旨)。ちなみに、実際に日銀が利上げを実施すると、市場はその水準を織り込んで安定することは歴史が証明している。

変動金利で住宅ローンを借り入れるのは不安だから、固定金利で借り入れるというのも1つの方法ではあるものの、金利水準に目をつぶって金利が変わらない安心だけを得ようとすると、高い金利で借り入れるというやや経済合理性を欠いた判断に辿り着くことになる。現状でも敢えて“変動金利で借り入れて&その代わり手元資金に余裕があるときには繰り上げ返済を怠らない”という戦略が、金利上昇期には最も有効であることを認識されたい。

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