投資用マンションやアパート経営で多発するサブリース契約への規制強化が目的だが

2021年6月に賃貸住宅管理業法が全面施行されて2年。
サブリース契約に関するトラブルについて識者に見解を聞いた2021年6月に賃貸住宅管理業法が全面施行されて2年。 サブリース契約に関するトラブルについて識者に見解を聞いた

今から2年ほど前の2021年6月、主にワンルームマンションやアパートの販売および転貸を業とする不動産会社と、それらの物件を購入しサブリース契約を結んだ不動産オーナーとのトラブル防止および購入者側の利益保護を目的として、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」通称:賃貸住宅管理業法が全面施行された。

サブリース契約とは、ワンルームマンションやアパートなどの賃貸用住宅を販売し、その購入者から一括して借り受けてユーザーに貸すという賃貸管理を含めた“転貸借”を意味する言葉だ。これに対して購入者(オーナー)と不動産会社が一括借り上げを結ぶ契約はマスターリース契約と言われる。

このサブリース契約およびマスターリース契約の最大の問題点は、不動産投資に詳しくない購入者に対して賃貸住宅経営のメリットばかりを強調し、具体的に発生するコスト、および得られるリターンについても説明を尽くさずに物件購入を(極めて強引に)訴求する不動産会社が少なくなかったことだ。物件の販売価格が、想定されるリターン(月額賃料)に対して不当に高いケースや、高額な管理手数料が設定されるケース、空室リスクに対する説明や家賃保証額が安価に設定されるケースなど、賃貸物件を購入して“大家さん”になることが具体的にどのような契約上の義務や責任を負うことになるか説明せず、もしくは購入者に認識させずに契約することでトラブルが後を絶たず、国民生活センターに寄せられる相談件数が年々増加するという状況を招いていた。また、サブリース契約およびマスターリース契約を終了した場合に地位の継承に関する取り決めがなく、賃貸ユーザーが物件から退去しなければならなくなることもあり、これもこの方式での賃貸借契約を不安定なものにする一因となっている。

これらのトラブルを未然に防ぎ、賃貸物件の購入者の利益と権利を保護すること、さらには賃貸住宅管理業者の登録制度を創設し、悪質な事業者を可能な限り排除すること、を主たる目的として賃貸住宅管理業法が施行されたのだが、以降も国民生活センターに寄せられる相談件数はそれほど減少していない。すなわち、サブリース業者に重要事項説明書の交付を義務付けたところで対象物件の竣工後にマスターリース契約を翻意することは困難だから、建築受注時に説明すべき重要事項としなければ不十分だし、行為規制違反で締結された契約の取消し・解除・無効を認めたり、勧誘者に連帯責任を負わせる等の規定がなく、現実に発生した被害の事後的救済について対応が不十分と言わざるを得ないからだ。

法の完全施行から2年余り、サブリース業者からの“被害”を食い止めるためには今後何が必要なのか、規制強化の具体的な方向性などを含めて、関係者の見解を聞いた。

サブリース新法がもたらした正しい姿 ~ 谷崎憲一氏

<b>公益社団法人 東京共同住宅協会会長 谷崎 憲一</b>:昭和44年の創立以来、民間賃貸住宅経営者・入居者を支援しつづけている内閣府所管の公益団体東京共同住宅協会にて会長を務める。円滑な賃貸市場構築の為、賃貸経営者が抱える様々な問題の解決機関として、相談会やセミナーなど積極的な公益活動に携わっている。他、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会副会長、NPO法人賃貸経営110番顧問を務める公益社団法人 東京共同住宅協会会長 谷崎 憲一:昭和44年の創立以来、民間賃貸住宅経営者・入居者を支援しつづけている内閣府所管の公益団体東京共同住宅協会にて会長を務める。円滑な賃貸市場構築の為、賃貸経営者が抱える様々な問題の解決機関として、相談会やセミナーなど積極的な公益活動に携わっている。他、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会副会長、NPO法人賃貸経営110番顧問を務める

賃貸住宅管理業法の完全施行から 2 年が経過したが、導入当時は管理業界では、「登録制になり、罰則もできるらしい。」「わが社には、賃貸不動産経営管理士は何人いるだろう?」など、ネガティブに捉える事業者が多かった。

ことの発端は、かぼちゃの馬車事件である。不動産業界では特に知られてもいなかった、株式会社スマートデイズという会社が不動産投資家に対して家賃収入を保証していたにもかかわらず支払いが滞り、社会問題にまで大きく広がった事件で、多くの投資家が被害に遭ったため。サブリースのスタイルそのものに厳しい糾弾が起こった。

この問題に、国土交通省が立ち向かい、施行されたのが賃貸住宅管理業法、通称、サブリース新法である。これによって、サブリース業者に対する厳しい規制がなされることになったが、一方の目線では、「この新法により、健全なサブリーススタイルは守られた。」と考える。

この事件だけでなく、情報弱者の大家さんに対して、借地借家法を盾にサブリースを一方的に会社側に有利な契約に仕立て上げ、契約解除を求める大家さんに対して居座るという事業者も出現し、かぼちゃの馬車事件の以前からくすぶる問題になっていた。

空室や滞納を恐れて賃貸経営に踏み込むことができなかった大家さんに、安心していただく仕組みの真っ当なビジョンのサブリースが、まるで恐ろしい契約スタイルという流れになってしまっていた。即ち、サブリース業者はすべて「悪徳業者」的な方向に向かっていたところでの、業界の健全化を狙った法律である。

この法律により、賃貸管理業界に勤める従業員の多くは、宅地建物取引士ばかりでなく、賃貸不動産経営管理士の資格を取得するために勉強することになる。賃貸不動産経営管理士のテキストは膨大であり、非常に中味が濃い内容である。賃貸経営を案内するプロとしての基本的な知識を修得することによって合格できるので、当然に業界のレベルが上がる効果につながる。この制度の普及により、業界の健全化が図られ、信頼を取り戻すと同時に、賃貸管理に関する的確な知識・技術・技能・倫理観を持った専門家の育成にまで寄与している。規制緩和の流れに逆行するように見える新法の創設ではあったが、サブリース法は時代の要請に合致しているため、業界団体も賃貸経営者側の団体も素直に受け入れている。

東京共同住宅協会でも、毎年寄せられるサブリース契約に関する相談件数は確実に減ってきている。

法律ができてもトラブルは完全に回避できない。家主は自分の身は自分で守るための正しい知識が必要 ~ 永井ゆかり氏

<b>永井ゆかり</b>:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。 全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母。趣味はバスケットボール、パン作り永井ゆかり:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。 全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母。趣味はバスケットボール、パン作り

サブリースに関するトラブルが後を絶たない。「特定賃貸借契約の適正化のための措置等(以下、サブリース新法)」の施行後も、トラブルが起きている。

サブリースはどうしてこうもトラブルが多いのだろうか。最大の原因は、サブリース事業者がサブリースおよびマスターリースに関する知識が乏しいオーナーに、メリットばかりを強調してデメリットを伝えていないことにある。

改めてサブリース物件の特性について挙げると次のような内容になる。まず、サブリース物件を購入するメリットは、空室リスクがなくなること。それにより、家賃収入が安定し、収支計画を立てやすくなる。また、入居者と直接賃貸借契約を結ぶのはサブリース事業者であるため、入居者が何か問題を起こしてもサブリース事業者が対応する。一方、デメリットは冒頭のトラブルのようにサブリース事業者にサブリース賃料の支払い能力がなくなった場合、多額の損害を受けるリスクがある。そして、最も留意しておくべき点は、サブリース事業者の方が家主よりも立場が強いこと。オーナーがサブリース事業者と結ぶマスターリース契約は賃貸借契約であるため、基本的にはオーナー側から解約することは難しいのだ。サブリース事業者は企業で、オーナーは個人であることから、個人のオーナーの立場が弱そうだが、借地借家法では賃借人の立場が強くなる。現状、サブリース事業者が作成する契約書には、オーナーにとって不利な項目も散見される。素人では簡単に見分けがつかないため、契約後に大変な目に遭うケースがあるのだ。

デメリットにあるリスクは新法によって回避することはできない。新法はあくまでもサブリース事業者とオーナーが結ぶ契約の内容において誤認を防止するためのものだからだ。新法では、重要事項説明を必ず行うことや、誇大広告、不当な勧誘、事実と異なる宣伝を禁止することにとどまる。

サブリース事業者は信用できる会社であることが重要となる。どこのサブリース事業者と契約するのかが賃貸経営を大きく左右するのだ。そのことを理解して、不動産を購入しないとトラブルに巻き込まれる可能性がある。

私が一つ驚いたのは、かつて社会問題にもなった投資用シェアハウス「カカボチャの馬車」を購入して大変な目に遭ったオーナーの属性。彼らには、ビジネスマンとしてそれなりの地位にあって、所得の高い人が多いことだった。実際、カボチャの馬車のオーナーで上場企業に勤務していた部長に会ったが、事業者の話を丸ごと信用していた。警戒心はほとんどなかった。

知識不足であるにもかかわらず、不動産という高額なものを購入してしまうこと自体がリスクだ。サブリースがからむ不動産投資トラブルを耳にするたびに、不動産をなめてはいけない、と声を大にして言いたい。不動産投資が資産運用の一つとして認識され始めているからこそ、改めて正しい知識を身に付けて、メリットもデメリットもオーナー側が理解することがトラブル防止に有効だと思う。

リスクも含めた説明を充分に納得できる事業者選びが必要 ~ 伊藤 陽平氏

筆者は、賃貸住宅管理業法とはどういう法かという部分から論じるべきだと思っている。基調原稿にもある通り、いわゆる、サブリース契約に関するトラブルが多かったことに起因する規制法だという部分は大きな柱の1つだ。ただ同時に、そもそも「業」として明確化がされてこなかった「賃貸住宅の管理業」という部分について、初めてフォーカスが当たったということをもう1つの柱に置くことがとても重要だと感じている。

21年6月に全面施行された賃貸住宅管理業法の中でも、いわゆる「サブリース規制」といわれる部分については、20年12月に先行で施行されている。オーナーに対して損害を生むような不正も絡むサブリース事業が横行して社会問題化したため、それに対する措置という側面が強かった。不動産投資という、ある種の自己責任が必要な領域において、被害者の救済に力点を置く必要があったような極めて異例な、詐欺的な投資勧誘が無視できない量で発生したと考えてよいだろう。

しかし、そもそもサブリース契約という概念は、不動産投資の中でも(特に個人が参画するには)一般的ではなかった分野なのではないかと思う。その本質として、企業を経営する場合に、起業をすると大体は所有と経営が一致してしまう場合が多いのに対して、サブリースだと起業時点から所有と経営が分離する、という契約といえる側面があるからだ。つまり、経営執行を請け負う賃貸管理事業者が、リスク負担を所有者と分け合う代わりに、事業の見直しも行いやすいという条件を加えている場合が多いからだ。

粗雑な物言いをすれば、サブリースを受託して運用する事業者は、建築などの初期段階からリスクを負担して所有者と並走する代わりに、一般的に賃料の10%以上といわれ、賃貸管理業者の倍といわれる水準の手数料を受け取る場合が多い。所有者であるオーナーが大家として請け負う手間について、サブリース事業者が余計に負担する場合が多く、その手間からオーナーを解放するという側面が強いからだ。一方で、事業に深く参画している分、事業そのものが危うい時に解放されやすいというのも、いわばトレードオフな関係に思える部分がある。ただ、事業から離脱する場合だとしても、不動産事業などに詳しい事業者と一般のオーナーでは、情報の非対称性が激しい。そうした部分を是正するためにきちんとした説明で、サブリース事業者がオーナーの理解を得ることが必要だ、と改めて位置付けたような面が、賃貸住宅管理業法にはある。

こうした観点から、サブリース事業者からの勧誘についてどのように対応すべきかという基本に立ち返ってみる。まずは、賃貸住宅管理業法にも規定されたように、事業者から充分な説明がなされるかということだ。得られる想定賃料やその持続性の見通しなどに加えて、維持・管理コスト、また想定賃料では空室が埋まらない場合のリスクや、サブリース契約の条件変更、オーナー側からの解除の条件など、賃貸住宅を経営するというメリットとデメリット、これを徹底的に突き詰める必要がある。賃貸住宅のオーナーは、いわば小さな会社の経営者という視点を持つ必要があるということだ。サブリース事業者は、オーナーにとって経営のコンサルタントやアドバイザーといった欠かせないパートナーとなる位置付けの人間なので、ここに最も力を入れなければならない。

リスクも含めて説明に納得できる事業者かという点と同じく、賃貸住宅管理業法に基づく登録事業者だということを確認することも重要だろう。サブリース事業を営むには、管理する戸数とは関係なく、登録事業者であることが法で必要とされている。昨今の賃貸管理事業者による団体の話を聞いても、この業法によって、自分たちが取り組む事業の社会的地位の向上を強く目指している。賃貸管理業界の他社にとっても不適切な説明で一般のオーナーをだますような事業者は認められない存在であり、業界としては健全化を目指すというコメントが並ぶ。また、サブリース事業を継続的に営める事業者は、一般に賃貸管理事業者として小規模では難しく、一定以上の規模が必要になる場合が多い。その事業者がどのような規模で事業を営んでいるかという点も、副次的な判断材料にはなりうるのではないか。

専門的な話では、賃貸管理事業者にとっても、サブリース事業の報酬を「賃貸住宅管理」の中でどう位置付けるかは難しいともいわれる。住宅を管理するからもらえる報酬、というには一般の賃貸管理とは異なるからだ。こうした性質を持つサブリース事業は、一般の消費者にとって必ずしも理解しやすいとはいえないシステムではある。一方で、手間のかからない大家業としての側面は一般に向けてメリットもある。業界としても、まだまだ議論の余地がある事業なだけに、サブリースでの賃貸住宅経営を行う判断は、計画に対する充分な納得と理解に基づかなければならないという基本に立ち返ってほしい。



伊藤 陽平:株式会社不動産経済研究所 編集部門通信ユニット所属 「日刊不動産経済通信」記者。不動産仲介業に携わる企業や団体、不動産テック系の企業などを主に担当している。これまで、鉄道系・商社系などのデベロッパーに加え、マンション・デベロッパーや分譲マンション管理会社などを担当してきた

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