非居住住宅利活用促進税:空き家税は別荘やセカンドハウスにも実態に即して適用
京都市では、市街化区域内で利用されていない空き家や別荘、セカンドハウスなどについて、「非居住住宅」=居住実態がないことを条件として家屋の固定資産税評価額の0.7%を課税する条例(加えて土地についても別途規定が設けられている※)を2022年3月に可決・成立、2023年3月に松本総務大臣の同意を得たことにより、2026年から導入されることがほぼ決まった。なお、導入後5年間は相続税評価額が100万円未満の住宅は課税対象外となっている(5年経過後は20万円未満に変更)。導入されれば、空き家などに課税する全国初の試みとなる。
京都市は空き家税導入の背景として、この「非居住住宅」の存在が新たな住宅供給の可能性を狭めていて、主に若年層・子育て層の定住人口が伸び悩んでいることを挙げており、この法定外税の創設によって住宅供給・定住の促進、空き家増加の抑制、将来にわたる社会的コストの低減が可能になるとしている。つまり、空き家に課税することにより、それを避けたい所有者が住宅の売却や賃貸活用などに向かう契機となり、京都市内での住宅供給が増加して定住促進につながるとの目論見だ。
京都市によれば、市内の空き家は約10.6万戸あり、別荘・セカンドハウスも約2,200戸確認されている。このうち上記の条件で課税対象となり得る住宅の戸数は約1.5万戸とされており、空き家税で見込まれる税収は10億円弱と試算される。対象住戸1戸当たり毎年6万~7万円が課税される計算になる(別途課税のためのコストも2億円かかる)。
そもそも居住実態の別を問わず、住宅を所有していれば固定資産税が課せられ、京都市のように市街化区域が設定されていれば都市計画税も課税される。したがって、この空き家税は都市圏での住宅所有について三重に課税するものとなる。ただ、住宅のある200平米以下の小規模宅地は固定資産税が1/6に、都市計画税も1/3に減額される特例があるので、更地で所有するよりも空き家があったほうが税制上都合がよいため、これまで空き家が減らない要因とされてきた。折しも「空き家対策特措法」の改正案が閣議決定され、「特定空き家」だけでなく放置されると特定空き家になる「管理不全空き家」についても固定資産税の軽減対象から除外する方針が示されているから、京都市で空き家を所有していると、今後固定資産税の減免も受けられないうえに別途空き家税も課税されることになり、一義的には税制変更による非居住住宅の活用促進が期待されよう。
しかし京都市のように罰金規定のある景観条例を制定している自治体は決して多くなく、高さ制限などから新規の住宅供給が困難な地域は限られる、新たな住宅供給が難しい地域だからこその空き家税条例制定ともいえるだろう。
空き家の減少や利活用について税制での対応は有効なのか、また京都市の試みは他の自治体にも波及する可能性はあるのか、空き家問題や地方創生、住宅流通に詳しい専門家に意見を聞いた。
※ 課税標準700万円未満は0.15%、700~900万円未満は0.3%、900万円以上は0.6%
京都発の空き家対策から見えるもの ~ 谷崎憲一氏
公益社団法人 東京共同住宅協会会長 谷崎 憲一:昭和44年の創立以来、民間賃貸住宅経営者・入居者を支援しつづけている内閣府所管の公益団体東京共同住宅協会にて会長を務める。円滑な賃貸市場構築の為、賃貸経営者が抱える様々な問題の解決機関として、相談会やセミナーなど積極的な公益活動に携わっている。他、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会副会長、NPO法人賃貸経営110番顧問を務める京都らしい条例ができた。空き家など居住実態がない家屋に対する課税強化は、放置された老朽家屋問題解決の切り口となり、この条例に異議を唱える人は少ない。
特に、京都は観光都市として、街の景観や整備に力を入れている背景もあり、朽ち果てた家屋はマイナスイメージとなるため、どの都市よりも敏感である。
新型コロナの感染状況も落ち着き、京都や大阪、東京など、全国的にインバウンドが急速に戻ってきており、ホテルや旅館、民泊までも活況を呈している。これからはコロナ前の宿泊費の高額化も問題になってくるため、課税を契機とした空き家の活用は、今後も各方面で大きな期待を秘めている。
各自治体も京都市の動きを注目しており、空き家に対する課税強化の流れは確実に大都市を中心に他の自治体にも波及する。
空き家活用は、全国的なブームにもなってきており、カフェや宿泊施設、シェアハウスやアートスペース、そのほかさまざまなコンバージョンを提案する企業やNPO法人などが出てきている。当協会の最近の空き家相談、解決事例として、日本家屋を民泊に転用した事例もあるが、自治体によっては民泊締め出し条例のような厳しい規制をかけているところもあり、建築基準法なども含めて弾力的な活用ができる規制緩和もさらなる空き家問題の解決につながる。
また、課税強化だけでは解決できない空き家問題もある。京都や大都市であれば、ヒト・モノ・カネが活発に動いているので、空き家のコンバージョンニーズがあり、立地に恵まれていれば、初期投資を回収できるシミュレーションが成り立つが、立地によってはニーズが乏しく、固定資産税の回収すらできない空き家も多々ある。そのような空き家は、課税強化してもなすすべがなく、売却するにも家屋の解体費のほうが高くつき、マイナスになってしまう地域もある。今後は、各自治体がもう少し踏み込んで活用を促すための助成金制度などの整備も望まれる。
空き家問題を、住宅のセーフティーネット強化につなげようとする動きも出てきており、例えば、高齢者や障がい者、生活困窮者など住宅弱者に提供できる仕組みを国も真剣に取り組み始めている。今後は空き家の有効活用ではさまざまなメニューも出てくるが、安易に踏み込んでしまうと、家賃滞納や立ち退き問題(占有)などトラブルも頻発する恐れもあり、より健全で安心できる窓口の選定も重要になる。東京であれば、東京共同住宅協会の相談コーナーもあるが、立地の厳しい郊外は活用より売却しか手立てがないケースもある。
動かなくなった不動産を「動かすことができるか」に注目したい ~ 矢部智仁氏
矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中固定資産税の趣旨の確認と現実的な負担から考える有効性
総務省によれば、固定資産税は「固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて、所有者に対し課税する財産税」(総務省HPより)とある。こうした原則論的な見方から、例えば観光産業に立脚した京都という土地柄、景観保全や交通ネットワーク整備など他地域に比べて行政サービスの提供コストが高いとか未利用不動産に起因する近隣への外部不経済事象への対応など新たな費用発生があるなど、税負担の必然性が明確でかつそれが「正しく」伝わるのであれば、今回の非居住住宅利活用促進税は「受け入れざるを得ないもの」として捉えられ、効果を発揮するのではという期待もありそうに見える。
ただし、現実的には現在も「使わないのに税負担できる」不動産保有者からすれば、新制度で設定された税率は軽微な負荷と受けとられる可能性が高そうで、税制を使った未利用不動産解消策としての実効性は高いとは言いきれないのではないか。
普及のための「インセンティブとペナルティ」という発想はないか?
今回のような税制による施策は保有者に「気づき」を与える効果がある一方で、保有し続けてもにわかに大きな不都合が生じない保有者が行動を起こす期待は低いとしたとき、彼らに行動を促すにはどうしたらよいのか。
今般の空家特措法の改正で不動産保有者の責務として従来の適切な管理の努力義務に加え国、自治体の施策に協力する努力義務が示されたことや、「特定空家」になるおそれのある空き家を「管理不全空家」として管理指針に即した措置の指導・勧告(市区町村長から)が可能になったことを起点にして、例えば、一定期間ごとに「活用計画の有無」を問い、活用計画なし案件には一定期間内の売却における売却益課税を低減するなどのインセンティブ提示や、活用計画あり案件には定期的モニタリングを行って活用計画を実行していない場合にペナルティとして負担金条例による別途負担を求めるなど、非居住住宅利活用促進税を一律的な課税だけでなく、いわば「アメとムチ的な制度運用」で実効性を高め「動かす」ための制度として運用することも考えた方がよいのではないだろうか。
他の自治体への波及可能性はあるか
冒頭にも書いたように、固定資産税は「行政サービスによる受益に対する応益原則」をもって負担するという原則論に則れば、行政サービスコストが高い(例えば過疎地域で生活道路の安全確保や上下水道施設などインフラ保全に高コストを負担しているなど)自治体では「同じ考え方」を用いる根拠にはなる気はする。しかし受益者サイドからすると、過疎地域では行政サービスの品質も低下しているとの指摘を受け、実は今も払いすぎという理屈も成り立ちかねない。そう考えると原則論だけで同様の施策をもってことに当たる自治体が増える可能性は高くはなさそうだ。
ここでも気づきを与えるだけではなく、動かなくなった不動産を「動かす」ための先ほどのアメとムチ的な取り組みを考えるような自治体の出現を期待したいところだ。
市町村の個別課題の解決へ向けた前例に~ 高橋正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など2026年(令和8年)から課税される見通しとなった京都市の「空き家新税」(正規名称は「非居住住宅利活用促進税」)は、多くの自治体から注目される新たな課税制度だ。住民票の有無に関係なく、居住実態のない家には課税するということで、空き家所有者は当然のこと、別荘やセカンドハウス所有者にとっても気になる内容だろう。ポイントは、この新税が果たして他の自治体に波及していくのか?ということであるが、筆者は少し懐疑的な立場である。
それは、この新税は京都市固有の問題が多すぎるからである。京都市は、景観を重要視する目的で建築物の高さを規制していることは有名だが、さらにはホテル開発や昨今の地価上昇に伴い、居住用建物が不足しているという問題があった。そして、近畿圏全体としても、いわゆる若者(20代〜30代前半)の転出が深刻化している。そうした背景から、利活用されていない家を動かすことで居住用建物を増やす狙いがあったのだろうが、まずこの新税の対象となる居住実態のない古い建物には、いわゆる京町家(約5万戸弱)は含まれておらず、固定資産税評価額100万円未満の建物も5年間は除外される(その後は20万円未満が除外対象になる)ため、本当に動かしたい古い建物が対象から外れているなど、実質的に対象となる空き家は市内にある空き家約11万戸の1割程度とされている。
また、新税に伴い見込まれる税収は9億円前後とされるが、そのためにかかるシステム開発が数億円、徴収コストに至っては年間2億円以上だという。これは、空き家一軒一軒を現地調査するために、膨大な人件費を要するためで、非常にコストのかかる税収だといえるだろう。
しかし、制度的な課題はあるものの、実際に所有している方から見ると、特に地価の上昇した昨今では、おおむね現在支払っている固定資産税税額の半分程度を新たに支払う必要がある内容であり、土地の大きい別荘や築浅で広めのマンションなどは、かなりの負担増ともなるが、富裕層が保有している可能性も高く、果たしてこの新税による追加負担で手放すか? と言われれば、期待どおりにはいかないと考える。
また、この新税の効果で課税開始前の、これから3年間に仮に売却が進んだとしても、昨今の地価高騰の状況では、購入者も限られる。市が課題としている「若者・子育て層を中心に定住人口が伸び悩んでいる」(実際には減っているが)という問題の解決に至るのは難しいのではないだろうか。
さて、今回の新税の基となったのが、熱海市で1976(昭和51)年から課税されている「別荘等所有税」だともいわれている。こちらの税制による税収は年間約5億円強であり、それに対する徴収コストは年間約1,700万円と報告されていることから、税収とコストが見合うことは重要である。
筆者は、先ほどこの「空き家新税」が他の自治体に波及することについて懐疑的であるとしたが、それでも熱海市の「別荘等所有税」をアレンジしこの「空き家新税」が生まれたように、前例の踏襲ではなく各市町村が個別の課題を解決するための「法定外普通税」が今後活用されていくことは間違いなく、そのいいキッカケとなることは期待したい。
空き家を意識して、猶予期間とも捉えられる今のうちに、まずは相談を~ 伊藤陽平氏
空き家の注目度が上昇している。関心が集まる理由は、言うまでもなく京都市の26年度以降の「空き家税」の導入を筆頭とするべきだが、空き家特措法の改正による「管理不全空き家」という位置づけが新たに生まれてくることなど、税制や法制度の面から、行政が積極的な空き家対策に乗り出していることが影響している。つまり、現在の日本で社会問題の1つと捉えられるようになったのだ。そもそも、支払う税額の軽減措置について踏み込んだ「空き家特措法」の施行から、まだ10年が経っていない(だからこそ、今が見直し時期なのだが)。言い換えれば、行政が空き家に対して、強制性も含む規制措置を取れるような対策を強めてから、まだ10年が経過していないということだ。
この間に、さまざまな事情も変わった。2030年代には国内の空き家率が30%に達するという危機的な予測がされたのも、その予測よりは空き家率の上昇ペースが鈍化しているということも、空き家の流通促進に向けたさまざまな税制優遇が定められたのもこの10年の間に起きたことだ。この10年で、社会全体が空き家問題に向き合う姿勢に傾いてきた、くらいの希望的観測なら持っていいと私は思っている。
京都市の条例による「空き家税」は、実際の導入まで約3年はある。しかし、新税という負担を感じる政策を提示されたことで、反響は既に大きいと聞いている。本来は、高さや景観の規制などが厳しい分、新築住宅の供給がそもそも難しく、既存不適格な建物であっても改修による利用価値が高い場合が少なくない京都という都市の事情に合わせて、空き家の活用や再流通が増えることを望んだ政策だと考えられる。が、現在までの反響は、更地の売買が増えていて、本来の趣旨とは違う反応が多いという。空き家の所有者が処分を考える状況に向かうのはこの先のようだ。
京都市のような新税の創設は、現時点では先行的な事例で、すぐに他の自治体が導入するにはハードルがあると捉えられるだろう。行政の立場を考えると、税制措置で状況の変化を促すことは、取り組みやすい政策の1つだ。しかし空き家政策の場合、税負担を重くすることで流通を促して空き家を減らすという間接的な効果を得るには、土地や建物に価値が必要となる。所有者が手放した後も継続した利用者がいなければ、結局は空き家のままになってしまう。空き家率の高い地方自治体では、そもそも空き家となってしまった土地・建物に価値を見いだしにくかったから(所有者は都市へ移り住んだ)、という事例は多いはずだ。そのような場合、税負担を重くしたからといっても、売りたくても売る相手がいない、活用する方法がないなどの事態になり、結局は空き家が継続してしまう可能性は十分にある。また、京都市は財政的に厳しい自治体で、歳入を増やすために税を検討する必要性が高かったことも初めて導入した自治体となった理由の1つだろう。だから、京都市ほど土地の価値がなく、京都市よりは財政が逼迫してない自治体も含めて、全国で同様の制度が次々と導入されていくという事態は考えにくい。とはいえ、「空き家に対して地方自治体が課税する」という今まで取られなかった手法が認められた影響は大きいと捉えるべきで、今後は税負担を強いることも視野に入れながら、地方自治体が積極的な空き家対策に乗り出してくることが見込まれる。
今後は、空き家を持っていると所有者に対する負担が重くなってくる可能性が高い。とはいえ、そう重苦しく捉えなくてもいいともいえる。先述したように、社会問題として意識されることが多くなってきたからだ。自治体に相談窓口を設置する事例が増えてきているし、街で宅建業を営むいわゆる「不動産屋さん」でも法や税制などでさまざまな知識を持っている場合が多い。空き家の利活用をウェブから気軽に相談できるサービスも増えてきた。空き家の利活用サービス「アキサポ」事業に取り組むジェクトワンでは、大河幹男代表取締役が「アキサポ事業で利活用につなげられる空き家は、相談で持ち込まれたうちの4割程度しかない」と話す。空き家について、地域の人々にとって付加価値があり、長く利用される施設へと再生する企画を立案することは、それほど難しいといえる。それでも、大河氏は「アキサポでの利活用はできなくても、相談された空き家は、単なる空き家から変わる」と言う。将来の売却に向けた親族との話し合いを始める、とか、建物を取り壊す決断をするといった、何らかの解決手段を意識するようになるから、変わってくるというのだ。
空き家を持っている人たち、あるいは近い将来に空き家を抱えてしまうことが見込まれている人たちは、今は考えを整理する猶予期間があると思っていいだろう。京都市の新税が実施される頃になれば、各地の自治体も税負担を強いることも検討しながら、空き家への対応を促してくるような社会の機運が高まるのではないだろうか。土地、建物を所有したまま、誰かに賃貸することができるのか、店舗などを運営して利用される場所として生まれ変われるのか、建物を取り除いて土地として流通させるのか。それまでの土地、建物に対する思い入れや縁も加味しながら、出口をじっくりと探ってみるべき時期が訪れているといえるだろう。
伊藤 陽平:株式会社不動産経済研究所 編集部門通信ユニット所属 「日刊不動産経済通信」記者。不動産仲介業に携わる企業や団体、不動産テック系の企業などを主に担当している。これまで、鉄道系・商社系などのデベロッパーに加え、マンション・デベロッパーや分譲マンション管理会社などを担当してきた
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