コロナ禍の「買って&借りて住みたい街ランキング」は首都圏で大きく変化

2021年2月、LIFULL HOME'Sの「住みたい街ランキング」が首都圏など4圏域同時に発表された。
このランキングは住みたい街をイメージでユーザーに聞くアンケート調査ではなく、実際の物件検索・問合せ数を最寄駅ごとに集計したもの。憧れの街というより「実際に住むことを想定して探している人が多い街」のランキングであり、世相がより反映されやすい調査だといえる。

その結果は、首都圏で大きな変化があった。
「借りて住みたい街ランキング」では、1位が前回4位から上昇した「本厚木」、2位が「大宮」、3位が「葛西」となり、前回まで4年連続1位と不動だった「池袋」が5位に沈んだのである。以下、「荻窪」「三軒茶屋」「吉祥寺」などこれまで上位を占めていた都心・近郊の人気の街はことごとくランクを下げ、代わって「八王子」「千葉」など準近郊・郊外のベッドタウンが上位に登場している。

これまで賃貸ユーザーは職住近接で利便性最優先の物件選択をする傾向が強いとされてきたが、それがコロナで大きく変化し、明らかに郊外化したと見ることができる。これはコロナ感染リスクを避けるというよりも、テレワークやオンライン授業の定着によって利便性最優先での選択=当然賃料水準も高いエリアを選択するメリットが薄れたこと、コロナ禍で今後の収入について不安があり、固定費である賃料を削減したいという希望が増えたこと、などによるものと考えられる。

「買って住みたい街ランキング」は1位が2年連続で「勝どき」、2位は前回19位から急上昇した「白金高輪」、3位は賃貸1位の「本厚木」という結果となった。
購入ユーザーは現在話題となっている大型物件が販売されているエリアに注目することが多く、それはコロナ禍でも変わりがないことが明らかだ。ただし、3位の「本厚木」をはじめ7位「柏」、11位「橋本」、14位「平塚」など、こちらも首都圏準近郊・郊外のベッドタウンが上位に進出しており、首都圏の購入ユーザーの意向はこれまでの都心一極集中から、都心エリアと郊外エリアに二極化している。これもコロナの影響と見ることができるだろう。

このように首都圏はコロナ禍で前回と大きく異なる結果となったのだが、対照的に近畿圏、中部圏、福岡県では市街地中心部への集中傾向に変化がなかった。これは都市圏の規模が違い、近畿圏、中部圏、福岡県では電車で1時間程度郊外方面に転居すると生活圏が変わってしまうため、そもそもコロナ禍で住む場所を変えるという意向は限られること、市街地中心部と郊外方面では物件賃料および価格に首都圏ほどの大きな開差がないこと、などに起因するものと考えられる。

これらの結果・分析を踏まえ、コロナ禍で住む場所を探すということはどういうことなのか、またコロナ後も見据えた住居選択や生活様式の変化について有識者の意見を聞いた。

首都圏版 2021年 LIFULL HOME’S 借りて住みたい街ランキング(※LIFULL HOME'S 調べ)首都圏版 2021年 LIFULL HOME’S 借りて住みたい街ランキング(※LIFULL HOME'S 調べ)
首都圏版 2021年 LIFULL HOME’S 借りて住みたい街ランキング(※LIFULL HOME'S 調べ)赤は対昨年比でランクがアップした地域、青は対昨年比でランクがダウンした地域

ほどよい距離感のソーシャル”グッド”ディスタンスもひとつの要素 ~ 指出 一正氏

<b>指出 一正</b>:株式会社sotokoto online代表取締役</br>雑誌『ソトコト』編集長
指出 一正:株式会社sotokoto online代表取締役
雑誌『ソトコト』編集長

今回の「住みたい街ランキング2021」から見てとれるのは、コロナ禍でのさまざまな制限を受けて、誰もがよい意味で暮らしを振り返り、沈思黙考する機会を得られたのではないかということだ。

自分にとってほんとうに大切なものを、ふと思う。それは趣味の時間や家族と過ごすひとときかもしれない。リモートワークや時差出勤、オンライン授業などが進み、「可処分時間」が長くなったことも、街を選ぶ心の変化につながった。特に首都圏の「借りて住みたい街ランキング」の準近郊・郊外化がそれだ。自分らしさを加味した暮らしを、経済的にも環境的にも考え、両立させたいという気持ちが結果に現れた。

さらにつぶさに観察していくと、首都圏の「買って&借りて住みたい街ランキング」の上位にランクインした「柏」「八王子」「三鷹」「本厚木」といった街のある地域とその近隣は、人と人とがつながるソーシャル系大学(民間主体の学びの場)やローカルプロジェクト、コミュニティデザインに優れた施設、進行中の地域通貨によるまちづくりなどが目立って存在している。まちづくりが盛んな地域や、その萌芽が見られる地域、そこに暮らす人の息づかいが聞こえてくる街が選ばれていることも特徴だろう。ここにもコロナ禍の中で気づかされた、顔の見える安心の原理がさりげなく働いている。

農村政策を考えるうえで大事なキーワードに「就村」という言葉がある。初めに、その村のことが好きになって移り住み、次第にその村で農業などの仕事を見つけていく。都市での利便性を優先した街選びから、「就村」のような感覚としての街を見つけ、街に関わる「就街」が、これから表れる可能性もありそうだ。暮らしやコミュニティを楽しくつくっていく街の関係人口が増えることも期待したい。

また、首都圏の「住みたい街ランキング2021」が準近郊・郊外化し、人々の拠点や活動の円が広がることで、群馬や栃木、茨城にも波及効果があるのではないだろうか。休日に少し足を延ばせば、以前よりも心理的にも近く、生活観光を通して、これら北関東の地域の魅力や人にも触れる機会が増えていく。さらなる移住のきっかけや選択肢にもなりうる。

都市の「過密」に対して、中山間地域の「過疎」という言葉が生まれたが、ソーシャルディスタンスを意識する社会となったいま、新たに構築すべきは街の全体性としての「適疎」や「開疎」の感覚だろう。ソーシャルディスタンスというよりも、ほどよい距離感であるソーシャル”グッド”ディスタンスだ。これも住みたい街に求められている要素に通じている。

時代をあらわす「住みたい街ランキング」~坂根 康裕 氏

<b>坂根康裕</b>:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」坂根康裕:「住宅情報スタイル首都圏版」(現「SUUMO新築マンション」)「都心に住む」元編集長。不動産市況解説サイト「Fact Stock(ファクトストック)」を運営。日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書「理想のマンションを選べない本当の理由」「住み替えやリフォームの参考にしたいマンションの間取り」

コロナ禍でテレワークを余儀なくされ、首都圏のマンション需要は確実に変化した。ひと言で言えば、求める立地が都心一極集中から、その一部が郊外へ拡散したのである。LIFULL HOME'Sの集計結果にもそれがあらわれているようだ。YouTubeチャンネル「Fact stock」にて月次のマンション市況を解説している。ご興味のある方は是非ご覧いただければと思う。

さて、問題は「郊外へ拡散した理由をどう捉えるか」。順を追って解説したい。
ひとつは「環境の良い、気晴らしのできる空間が近くにある所に移りたい」という需要。例えば、湘南地区は中古マンション成約件数が増え、在庫が他地区に比べても激減したのだが、理由はこれで説明がつきそうだ。「いつかは海の近くに住んでみたい」思いをテレワークが後押しした。
もうひとつは「広い家に住みたい(または、移らざるを得ない)から」。

近年、共働き世帯が増え、通勤利便性の良い立地を求める傾向が強まり「駅近」「職住近接」がマンション市場では合言葉のようになった。そこに、アベノミクスが不動産価格を押し上げ「資産形成にも有利」となって拍車がかかる。だが、テレワークで職場に近いという立地条件が必ずしも合理的でなくなった人が出始めた。相場が高く狭いマイホームを選択する理由が薄れたわけだ。それよりも、テレワークでもストレスのない空間が最適解。そんな住み替え需要が創出した結果、広さを優先して郊外でのマイホーム購入が増加した。
ここで気を付けたいのは、都心人気が完全にスイッチ(転換)したわけではないこと。個人的な感覚では、「やや希薄化した程度」か。根拠は23区人口動態の変化の最大の理由は外国人が大きく減少したから。引き続き今後の動向に注目したい。

人はどこに住みたいか。その変わり様は、その時々の価値観の一端を表しているようだ。
マンション居住が最終的な一戸建てへのステップアップの過程と捉えられていた時代。サラリーマン持家の人気の街として挙がっていたのは、例えば「小田急線の新百合ヶ丘」や「東急田園都市線の中央林間」、「西武池袋線の松が丘」など区画整理された安全で美しい街並みのある地域ではなかったか。無論今でも人気であることに変わりはないのだが、少子高齢化の進行で、郊外の経済圏は思いのほか、勢いを失っているようにも映る。

阪急グループの祖、小林一三氏が実践した鉄道関連事業(都心始発駅にデパートを、郊外に娯楽施設を設け、沿線住民の生活を丸ごと受け持つ)にならって首都圏の私鉄沿線は開発された。それが今、変化の過渡期にあることは紛れもない事実だろう。しかしながら、高度経済成長期に推進されたニュータウンも含め、先に挙げた私鉄沿線の人気の街も「街区割り」や「整備された道路」など、社会のストックであることに異論はないはずだ。
テレワークがさらに浸透し、無人自動運転車が普及する頃には、「住みたい街」は今では想像もつかない順位になっている可能性は少なからずあると思っている。

都心マンションの購入人気は変わらず、一部が働き方の変化で郊外へ~伊集院 悟 氏

LIFULL HOME’Sの2021年「住みたい街ランキング」では、首都圏の購入で「勝どき」が2年連続で1位になったほか、「本厚木」や「柏」「橋本」「千葉」「平塚」などの準郊外エリアが昨年より順位を大きく上げて上位に入り、都心と準郊外ベッドタウンにニーズが二極化したと分析している。調査は同サイトに掲載された、購入・賃貸物件で問合せの多かった駅を集計したもので、憧れやイメージだけで答える調査とは一線を画す。ただし、購入確度の高さまでは測れない部分もあるのではないか。

一時、「都心から郊外へ」という大仰な見出しの報道を見かけることがあったが、実際に賃貸ではそのような動きもあるようだが、購入では大きな変化は起きていない。日々顧客と接する不動産流通会社に聞くと、売買における都心から郊外への流れは一部の人だけで、都心の中古マンションの人気は変わらず高いという見方が多い。ニーズが強く、成約件数も落ちていないため、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降も価格は上がり続けている。

東日本不動産流通機構がまとめた中古マンションの成約価格をみると、千代田区、中央区、港区の都心3区ではコロナ禍の昨年2~5月は前月比で下落したが、6月以降は概ね上昇基調で推移している。今年1月の平均成約価格は8003万円となり、昨年1月の6840万円から1200万円近くも上昇した。東京カンテイの調査でも東京23区の中古マンションの売り希望価格は今年1月まで7カ月連続で前月比上昇を続けている。一部には徒歩や自転車での通勤などコロナ禍だからこその「職住近接」を求める動きもある。

住宅購入は人生の大きな買い物となるため、家選びは慎重に判断することが多く、賃貸と比べて足元の不透明な事象に影響されにくい面がある。変化があるとすれば、同一隣接エリア内で、部屋数や広さを重視するために駅距離などの条件を緩めるなど、選択肢の幅が少し広がっていることぐらいではないか。流通会社によると、テレワーク需要で部屋数や広さを求め、都心だけに固執せずエリアを少し広げたり、駅近だけでなく少し距離のある物件も選択肢として視野に入れたりする人は増えているという。

ただしこれらも、選択肢に入れている人が増えたという程度で、実際の成約など全体的に見るとやはり都心人気が強いことに変わりはない。これらの細かな変化も今後テレワークが定着するかどうかで変わるので不透明な部分が多い。コロナ禍の非接触期間やコミュニケーションのオンライン化を経て、リアルの大切さが再び見直されている。コロナが収束に向かえば、テレワークは一部に留まり、多くの企業では再び出社率を増やしていくのではないか。そうすると住宅選びは大方が元に戻っていくことが予想される。

伊集院悟:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。観光業界専門紙記者などを経て、15年末に不動産経済研究所に入社。「日刊不動産経済通信」で行政担当を経て、19年2月から流通業界を担当。仲介業を中心にリノベーション、賃貸住宅管理、不動産テックなどの分野を取材している。1980年生まれ。

その街「ならでは」の特徴が、その街本来の魅力の向上に~深谷 信介 氏

<b>深谷 信介:</b>ノートルダム清心女子大学人間生活学部教授、名古屋大学未来社会創造機構特任教授。メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシー・広告会社などを経て現職。マーケティング・ブランディング・コンサルティング・デザイン・クリエイティブを手法知領域としつつ、くらしまるごと全分野に向き合い、超学際的実践/研究を行う深谷 信介:ノートルダム清心女子大学人間生活学部教授、名古屋大学未来社会創造機構特任教授。メーカー・シンクタンク・外資系エージェンシー・広告会社などを経て現職。マーケティング・ブランディング・コンサルティング・デザイン・クリエイティブを手法知領域としつつ、くらしまるごと全分野に向き合い、超学際的実践/研究を行う

思ったり感じたりしても、なかなか行動には移せないのが私たち。こと住まいになるとより一層だ。
「住みたい街ランキング」は、実際の問合せや検索など一人ひとりの実行動データに基づいて集計分析されていることが特徴であり、人々の動きの具体的なひとつの先行指標として注目している。

行動制限を余儀なくされた今回のcovid-19は、今一度私たちの暮らしに目を向けるチャンスでもあった。自宅待機を支えたのはテレワーク技術・サービスである。私は少し前から慣れ親しんでいたが、広く普及はしていなかった。”接続が手間、映像がカクカク・音声も途切れ途切れ、そして通信が切れる”などなど、テレビ会議システムなどの導入初期のトラウマだろうか。それが一転「なんだ、会社に行かなくても、随分しごとできるじゃないか!」という発見、多くの方々が在宅ワークや会議、講義などの便利さを実感することに。

そこで芽生えたのが「しごと断捨離」。特に首都圏域の住まい選び=通勤や通学の利便性を軸に検討=の常識からの解放である。働くという意識と実行動を少し減らし自分の暮らしを真ん中におくと、本来想い描いていた暮らしぶりが拓けてくる。商店街での賑わいからコミュニティが生まれたり、ご近所との程よい関係性が生まれたり、住まいから数十分にある手付かずの自然を堪能したり。ワークからライフへ、自分らしい暮らしを創り出す愉しみ。しかも、会社や学校に出やすい都心へ一本でいける郊外鉄道駅に人気が分散、加えて始発駅のまちが多いことも賢い生活者像が見えてくる。

いち早く転居した方々は、新たな暮らしぶりにかなり手応えを感じておられるようだ。郊外の街の充実した生活諸機能に今更ながら驚き、かつ街としての成長化過程に自分がなんらか関わっていける余白まで存在することを感じている。それは、”室内・敷地内”ではなく”地域に広がって暮らす”という「まち暮らし」への気づきとワクワクを手にしはじめている。

郊外の街は、今こそ都心に倣うのではなく、その街「ならでは」の特徴を見出し、磨いていくことが、その街本来の魅力を益々向上させる近道である。そして私たち生活者は、自分の暮らし方に合う街を選びその街に関わるという、暮らし本来の楽しみを謳歌できる時代に入ったのかもしれない。

公衆衛生は、都市に住む我々にとってなくてはならない生活基盤の1つ。産官学をはじめとしあらゆるステークホルダーが連携し、多角的に社会/生活インフラを強化・整備し、その基盤の上で住民主導の多彩なアクティビティが繰り広げられる。その街ならではをそれぞれの街で磨き合うことが、日本が真に元気になる確かな術であることを、住民の方々は声にせずとも感じ知っていた、ということが滲み出している調査結果なのかもしれない。

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