「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が設立した背景
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案(以下、賃貸住宅管理業法という)」が令和2年6月12日に成立し、同月19日に公示された。
この法律は、サブリース業者とオーナーとの間の賃貸借契約の適正化のための措置を講じるとともに、賃貸住宅管理業者の登録制度を設けることで、賃貸管理業務の適正な運営の確保と借主と貸主の利益保護を図るという狙いがある。
この法律が必要となった背景には、オーナーの高齢化や相続によって兼業するオーナーが増えたことから、管理業者に管理を委託するオーナーが増加していることや、賃貸経営を管理業者に一任できる“サブリース方式”が増加している一方で、管理業務をめぐり管理業者とオーナーや入居者とのトラブルが増加し、特にサブリース業者については、“かぼちゃの馬車事件”等、家賃保証等の契約条件の誤認を原因とするトラブルが社会問題化し、対応が求められていたという点が挙げられる。
サブリース業者への規制の規定と賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設
この法律は2つの柱で構成されている。1つめは「特定転貸事業者(サブリース業者)と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置」。これは、すべてのサブリース業者に対し、①不当な勧誘行為を禁止し、②特定賃貸借契約(マスターリース契約)締結前にオーナーに対し、重要事項説明を求めるというものだ。
さらに、その規制の対象はサブリース業者のみならず、サブリース業者と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者も規制の対象になり、違反者に対しては業務停止命令や罰金等が課すことでその実効性を担保している。但し、あくまで規制であり、サブリース業を行うに際して登録を要するものではない。
2つ目は「賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設」。賃貸住宅管理業者の登録制度は平成23年12月に施行された国土交通省の告示による制度が既にあるが、今回新たに法律で登録制度が創設される。具体的には、①賃貸住宅管理業者について国土交通大臣の登録を義務付け(*管理戸数が一定規模未満の者は対象外)、②賃貸住宅管理業者の業務に、a)事業者毎に業務管理者の配置、b)管理受託契約締結前の重要事項の説明、c)財産の分別管理、d)定期報告、が義務付けられた。
法律はサブリース業者に関する規制の規定が今年12月15日に施行され、登録制度の規定については来年の6月に施行される予定で、具体的な運用に関する議論が既に始まっている。
「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」における3つのポイント
10月16日には法律の解釈・運用の考え方が策定され、「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」が公表された。その中でいくつかのポイントになる部分をおさえておきたい。
まず、①規制の対象になる“勧誘者”が明確化された点。ガイドラインでは、勧誘者とは“サブリース業者がマスターリース契約の締結について勧誘を行わせる者であり、特定のサブリース業者と特定の関係を有する者で、当該サブリース業者のマスターリースの契約の提携に向けて勧誘を行う者”とされている。例えば、保有する土地に賃貸住宅を建てようとしているオーナーに対し、建設業者がその受注のためにサブリース業者が作成した資料等を使って事業計画を説明し、その業者とマスターリース契約をするように勧めた場合、その建設業者は“勧誘者”となる。
次に、②禁止される誇大広告や不当行為が明確化された点。この法律では、すべてのサブリース業者及びその業者と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者に対し、勧誘時において故意に事実を告げず、又は不実を告げる等の不当な行為が禁止された。誇大広告の禁止については、家賃保証や空室保証などを約束する旨の表示を行う場合、定期的な家賃の見直しがある場合はその旨や、また、借地借家法の規定により家賃が減額される可能性もあることを表示しなくてはならず、広告の表示の際も文字の大きさ等についてオーナーが一体として認識できるよう留意しなくてはならないとしている。
さらに、マスターリース契約を選択するにあたり、重要な要素について“打消し表示”をする場合についても留意するよう具体例が示された。そして、不当行為については、例えば、サブリース業者による借上げを前提に土地を買って賃貸住宅を建てようとするオーナーに対し、マスターリース契約の勧誘にあたっては、建設会社や不動産会社が建築請負契約や土地の購入契約をする前に、マスターリース契約のリスクを十分に認識できるよう説明する必要があることが示された。
マスターリース契約の締結前に重要事項説明が必要になる
また、③オーナーに説明すべき事項(家賃の減額リスク等)が明確化された。サブリース業者は、マスターリース契約締結前にオーナーに対して書面を交付し、重要事項説明をすることが定められた。
説明すべき事項においては、借地借家法第32条1項(借賃増減請求権)が適用されるために、家賃減額請求権はサブリース業者が保有していることや、逆に一定の要件に該当しない場合は同条に基づく減額請求はできないことを記載し、説明することとしている。また、同法28条(更新拒絶等の要件)が適用されるため、正当事由が認められないとオーナーからサブリース業者に対して更新の拒絶ができない旨も説明しなくてはならない。そして、重要事項説明にあたっては、オーナーが契約内容やリスク事項を十分に理解できるよう、契約締結までに1週間程度の期間を置くことが望ましいとされ、オーナーの承諾が得られればオンラインでの説明も可能としている。
さらに、契約締結前の書面交付に関して、重要事項説明の作成にあたり留意点が示されている。例えば、書面の内容を十分に読むべき旨を太枠の中に太字波下線で、かつ12ポイント以上の大きさで記載すること、などである。詳しくは、ガイドラインの中に記載例と共に示されているので十分に確認してほしい。
賃貸管理業が業として社会で認識されるための大きなチャンス
サブリースという賃貸借の方式は、本来オーナーと入居者の間にプロのサブリース業者が入ることで賃貸経営が安定的で持続的になることから、オーナーにとっては非常に有効な方法であるはずだ。
しかし、建築や不動産の受注を優先するあまり、オーナーに対してサブリース方式での賃貸経営に係る潜在的なリスクが十分説明されないまま、マスターリース契約を締結したためにトラブルが多発するという事態が発生してしまった。
消費者の賃貸住宅志向の高まりもあり賃貸住宅の重要性が今後ますます大きくなるなか、賃貸住宅管理業法の成立によって賃貸管理業務が適正に遂行されるようになれば、賃貸管理業が業として社会のなかで正しく認識され、賃貸管理業者がオーナーや入居者からの信頼を獲得する大きな契機になると思われる。
「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」に関する国土交通省の資料
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の概要等
https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000200.html
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の一部の施行(サブリース関係)にあたってのガイドライン等
https://www.zentaku.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/10/1021001.pdf
賃貸住宅管理業法の施行に向けたオンライン説明会(サブリース関係)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk3_000001_00003.html
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