生産緑地法および地方税法の改正は、住宅市場にどのような影響を与えたのか

1991年の生産緑地法および地方税法の改正は、住宅市場にどのような影響を与えたのであろうか。この効果を無視しては、2022年問題を考えることはできない。当時の効果を分析した筆者の研究では、3つの効果に分類して理解しないといけない。

まず、①従来の市街化区域内農地所有者の意思決定行動による効果である。
この効果は、生産緑地法改正に至るまでの市街化区域内農地所有者が置かれた状況であり、土地保有課税の農地並課税といった特典を享受しつつ、農地法3、4条に基づき自分の意思で土地利用の転換を容易に行うことが可能であった。
そのような状況下では、農業的土地利用と都市的な土地利用を選択することができた。当時の農地所有者は、農地を宅地に転換する権利を常に持ち合わせており、土地保有税負担・不動産市場の動向・地域的な開発需要の動向などに応じて、土地利用の変更および売却といった行動をとってきた。

1991年の生産緑地法および地方税法の改正前は、農地を宅地に転換する権利をもっており、</br>農業的土地利用と都市的な土地利用を選択することができた1991年の生産緑地法および地方税法の改正前は、農地を宅地に転換する権利をもっており、
農業的土地利用と都市的な土地利用を選択することができた

それぞれの段階の市街化区域内農地所有者の意思決定行動

続いて、②1991年の法改正時における市街化区域内農地所有者の意思決定行動である。
三大都市圏特定市の市街化区域内農地所有者は、1991年における生産緑地法改正に伴い、1991年から1992年にかけて、今後30年間の土地利用の選択を迫られた。つまり、当時所有していた市街化区域内農地を宅地化農地とし土地利用転換の権利を獲得するか、30年間にわたり生産緑地として農業的土地利用を継続するか、もしくは都市計画との整合性が担保される範囲で市街化調整区域への逆線引きを受けるかといった選択をおこなった。
この段階において、30年といった将来期に至る個別的事情・地域特性などを見通したいくつかの基準によって、意思決定が行われた。

さらに、③宅地化を選択した後の農家の意思決定行動の理解である。
宅地化を選択した農地所有者は、固定資産税・都市計画税の宅地並課税の対象となるため、保有コストに見合った適正な土地利用(都市的な土地利用)への転換が積極的に実施することとなった。この段階が、宅地化を選択した農地所有者が直面した状況であり、住宅市場に直接に与えた影響となる。
具体的には、Ⅰ)売却する、またはⅡ)自らが利用する、Ⅲ)賃貸するといった選択肢に始まり、利用する場合においてもa)駐車場として利用する、b)当面農業を継続するといった暫定的利用からc)都市公園用地として市に貸与する、d)市民農園として貸与するといった公共的利用、さらにはe)賃貸住宅を建設するなどといった選択が、当時の主要な選択行動であった。

宅地化を決めた要因

宅地化農地の利用については、その所有者に意思決定が委ねられていたことで無秩序な開発が進んだ宅地化農地の利用については、その所有者に意思決定が委ねられていたことで無秩序な開発が進んだ

生産緑地および宅地化農地は、従来の土地利用との調整を図りながら、良好な都市空間を形成していくべきであるという議論がなされていた。

しかし、宅地化農地の利用については、その所有者に意思決定が委ねられていたために、無秩序な開発が進んでしまった。自治体は、そのような個別の土地利用意向を、地域全体としての最適な土地利用形態へとどのように転換させていくかといった大きな問題を解決することが求められたものの、何ら強制力を持った施策を持ち合わせていなかったために、十分な誘導ができなかったのである。それでは、農地所有者はどのように意思決定をしたのであろうか。

生産緑地法改正に伴う農地所有者行動は、農地所有者の個別的事情とともに、所有土地の属性によって決定された。当時の効果を理解するために、1995年当時に、千葉県千葉市、柏市、愛知県名古屋、奈良県奈良市において調査をおこなった。それらの調査を整理すると、農地所有者の意思決定の背後には、次のような行動基準があることが理解された。

農地所有者の意思決定の5つの行動基準

まず、①農業特性である。
農地所有者は、農業労働力・農業経営・農地利用活性度・公共助成に大別される農業的土地利用の状況および農家の個別的属性に関する基準に基づき行動が変化した。つまり、その地域において、また個人において、生活の中で農業をどの程度重視した(例えば生計を立てている)行動をとっており、また、意思決定後の30年間を展望した場合、そのような生活を維持することが可能であるのか、さらに、地域として(または国として)農業の振興にどの程度の活動を実施しているのか、といった基準に基づいて意思決定が変化した。

続いて、②土地保有コスト負担の状況である。宅地並み課税の実施によって、宅地化を選択した場合と、農業的な土地利用の存続を選択した場合においては、固定資産税および都市計画税の負担が異なる。当該地域の土地保有コストは、土地利用の意思決定を規定する要因となった。土地利用(資産)選択において、コスト面での基準となる。

さらに、③市街化度である。農業的土地利用から都市的な土地利用への転換を実施する場合において、市街化の程度によって、行動が異なった。

また、④都市の集中度も重要な要素となった。都市的な土地利用へと転換を選択した場合は、自己利用には限界があり、売却・他への賃貸などといった行動が予想された。売却行動をとる場合においても、賃貸行動をとる場合においても、当該地域への集中の程度によって、意思決定が分かれた。つまり、宅地に対する需要の大小による差である。

もちろん、⑤地域の経済活性度は、長期的な視野のもとで宅地市場を予測しなければならないために重要な要素であった。このような5つの要素が、農地所有者の意思決定を大きく作用していたのである。

それぞれの地域での供給行動を考えていくことが必要

このような意思決定を行った当時の農地所有者は、多くの世帯で寿命を迎え、相続によって新しい所有者へと権利が移転されている。また、上記の5つの状況も大きく変化した。そのような中で、各農地所有者は、どのような意思決定を行うのであろうか。

しかし、いくら地域または経済環境が変化したとしても、農地所有者の意思決定行動に普遍性があるとすれば、上記の5つの基準によって、それぞれの農地、地域での選択が行われるであろう。住宅市場に与える効果を検討するうえでは、上記の5つの基準に照らしながら、それぞれの地域での供給行動を考えていくことが必要であるものと考える。

今後、各農地所有者は、どのような意思決定を行うのであろうか今後、各農地所有者は、どのような意思決定を行うのであろうか

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